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『Links』 ―第17話 蘇る風景、罪の意識― 後編

 

【登場キャラクター】
 

(♂)ゼノン・ランディール/25歳
    ゴアス帝国南部司令官のココレットとともに、ライン研究の手伝いをしている傭兵の男。
    本人は殆ど口にしないが、実は今は亡きランディール王国の王、レヴィンの弟。
    幼い頃に国が滅び、傭兵としてラインと戦ってきたため、今や立派な体躯をしており、
    ついでに性格も荒くなった。

 

(♀)アリス・ポルテ/17歳
    主人公リィと同じ学園に通う少女。
    物腰は低く、明るい少女だが、その正体はライン「ウンディーネ」。
    重要人物の暗殺を見届ける使命を帯び、人間の姿となり、人間社会の中に潜伏していた。
    その際にリィと仲良くなり、また憎むべき人間の存在に疑問を持ち始めた。
    今では人間とラインが共に暮らせる世界を望んでいる。

 

(♀)エストリア・シーラー/12歳
    かつては現ゴアス軍南部司令官のココレットが経営していた、帝国南部にある孤児院に住んでいた少女。
    今は孤児院を出て一人旅をしている。孤児院で過ごしてきたせいか、気が強くお転婆な性格。

 

(♂)アラン・シーラー/28歳
    ラインを倒す事を目的とする組織「壊れた時計」の一員。
    基本的には冷静で寡黙。組織に加入して10年分時が止まっており、実年齢は38歳。
    かつてはランディール王国の宰相を務めており、国王レヴィンの親友であり、片腕として働いていた。

 

(♀)リシリア・シーラー/28歳
    故人。かつてはゼノン第二王子の付き人兼教育係をしていた女性。その際にアランと知り合う。
    27歳に時に娘をもうけるも、翌年ランディール王国がラインによって襲撃され、命を落とす。

 

(♂)ワイゼル・シーラー/48歳
    故人。ランディール王国の将軍。厳しいが、兵士たちからは慕われている。武人肌。
    人望も厚く、武人としても優れた彼だが、その最期は人間の姿をしたラインによって殺されたという。

 

(♂)レヴィン・ランディール/18歳
    故人。ゼノンの兄。ランディール王国滅亡時の国王で享年28歳。ゼノンとは正反対な性格で穏やかな好青年。
    燃え盛る城の中で、大型のラインと打ち合い致命傷を負い、弟を親友に託して絶命。

 

(♀)ウェイミー
    幻術を操るライン。見た目年齢20代。嗜虐的で快楽主義な女性。
    今回の騒動の張本人。
   
(♂)グラハム
    無数の腕を持つ巨人、ヘカトンケイルのライン。見た目年齢30代。
    口数は少なく、さらに言えばウェイミーの事も余り信用していない。
    一度戦いになると熱が入る性格。

 

―――――――――――――――――――
【役配分】

(♂)ゼノン  
(♀)アリス
(♀)エストリア
(♂)アラン
(♂)ワイゼル + グラハム
(♂)レヴィン + 男
(♀)リシリア
(♀)ウェイミー + 少女

 

♂4 ♀4 計8名

――――――――――――――――
【今までのあらすじ】

 

未知なる怪物「ライン」の襲撃によって両親を失った少女リィ・ティアスは、失踪した兄のセイルを探すために旅に出た。
最初は両親の親友を頼りにゴアス帝国へと向かうが、次第に色んな国を駆け巡るようになる。
そして彼女たちは旅の途中で、人間とラインが共に暮らす島へと辿り着いた。
そこで、ただの凶暴な獣だと信じてきたラインは人間と同じように人の言葉を話し、誰かを想う心を持っていることを知る。
しかし、人がラインを狩り、またラインが人間を狩る世は変わらない。
さらに影で動く者達の存在――
人を憎み、数多のラインを扇動して人間をこの世から滅殺しようと企む「バフォメット」のライン。
そして、ラインによって大切なモノを奪われ、復讐を誓った人間の組織「壊れた時計」 。
複雑に絡まる因縁、そして旅で出会った多くの仲間――
影で動く者達の計画を止めるべく、リィたちは旅をする。 

 

――――――――――――――――――

【用語】

ライン:つまるところ怪物。モンスター。おとぎ話、伝説と呼ばれた生物のことを指す。
    現在、そのラインが世界各国に出没し、人間に害を与えている。


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【シーン8:対峙】

 

前編のあらすじ――「幻想を操るライン」ウェイミーによって、
          十数年前に滅んだ王国ランディールの幻想世界に送りこまれたゼノン、アリス、エストリア。
          そしてラインを倒す事を目的とする組織「壊れた時計」のアラン。
          ゼノンとアリスは、その幻想の世界で過去の自分と――そして今は亡き兄のレヴィンと遭遇。
          しかし、自分の正体がバレそうになったゼノンは城から逃げ出す結果となった。そして思わず
          アリスに向かって心にもない言葉を吐き、口論となり、ついには別行動をすることなってしまう。
          一方、ゼノンたちと逸れたエストリアはアランと共に行動をする。
          偶然ラインに襲われていたランディール王国の将軍ワイゼルを助け、この一連の騒動を解決するために
          情報収集をする。しかし、歴史を辿るように、死地に赴くワイゼルを止めることが出来ず、
          さらにはウェイミーによってそれぞれ別の空間に飛ばされるアランとエストリア。
          飛ばされた空間で、一足先にアランはウェイミーと対峙することとなった……。


   <場面説明――先ほどまでランディール王国にいたアランだが、気が付くと見知らぬ広い空間にいた。
          飾り気の無い空間の奥にはウェイミーが豪華な椅子に座って紅茶を飲んでいる。>

 


アラン:……ここは? 王国……じゃないな。

 


ウェイミー:いらっしゃいアラン。ようこそ、このボクウェイミーの部屋へ。何もない部屋だけどゆっくりしていってよ。

 


アラン:貴様はッ……!(槍を構える)

 


ウェイミー:そんないきなり武器を構えちゃって……。ふふ、せっかちだなぁ。

 


アラン:御託はいい、全てお前の仕業か。

 


ウェイミー:うん、そうだよ? 楽しんでくれたかな?

 


アラン:……不愉快だ。

 


ウェイミー:ボクは楽しかったよぉ。……過去に翻弄される君たちを見ていて、お腹が捩れる程笑っちゃった。

 


アラン:下衆が。さっさと貴様を殺して、全てを元に戻させてもらう。

 


ウェイミー:そう言うと思ったよ、アラン・シーラー。
      でも、君は役者だ。終演するまで舞台からは降りられないよ。


 

   (ウェイミーが指を弾くと、彼女の後ろから見覚えのある姿が剣を片手に現れる。)


 

アラン:っ!? ……ば、馬鹿な。


 

リシリア:久しぶりね。


 

レヴィン:ふふ、元気そうだね、アラン。


 

ウェイミー:ボクと戦う前に、この二人と戦ってみせてよアラン。強い君なら出来るはずだ。


 

アラン:き、貴様ぁああああ!!!


 

ウェイミー:なんだい、そんなに怒って。あ、そうか、敵の名前を教えてなかったから怒ってるんだね?
      男の方はレヴィン・ランディール。かつては栄華を誇った王国の王サマさ。
      そして女の方はリシリア・シーラー。とある宰相の奥さん。
      ……そう、どっちも君が守れなかった大切な人だ。

 


アラン:ふざけるな! 殺してやる……! 絶対に殺してやるぞ!


 

ウェイミー:おぉ、怖い怖い。その怒り、この二人にぶつけてみなよ。
      大切な人をもう一度……しかも今度は自分の手で殺す覚悟があるならね?
      あははははははははははははははははははははは!!!!!

 

 

 

――――――――――――――――――
【シーン9:真実】


 

   (エストリアが目を覚ますと、先ほどアランやワイゼルと共にいた訓練所ではなく、ランディール城城内にいた。
    城内は燃え、至る所に事切れている兵士たちが横たわっている)


 

エストリア:ん……ここは……? な、なにこれ? お城? でもなんで……燃えてるの?


 

男:あぁ……誰か……助けて……。


 

エストリア:ひっ!


 

男:化け物が……ラインがぁ……。


 

エストリア:ラインが襲ってきたの!?


 

男:うぅ……ぁ。(絶命)


 

エストリア:何が起き――


 

   (エストリア、遠くでアランを発見するが、何か様子が違う。)


 

アラン:くそっ! なんで……なんでこんなことに!!?


 

エストリア:あれは……アランのにーちゃん? あ、ちょっと待ってよ!


 

   (間・5秒。エストリア、アランを追う。アランが向かった先は、とある部屋。
        しかしこの部屋も例外ではなく、炎に包まれ、何者かによって荒らされた跡がある。)

 


アラン:ここもか……。くそっ!


 

エストリア:はぁ……はぁ……、あんた足早すぎ……。待ってくれても……いいじゃない……。


 

アラン:どこだ……二人とも……!


 

エストリア:さっきから無視しないでよ! ちょっと話聞いて――え?(触れようとするが触れない)
      な、なんで触れないのよ……?

 


ウェイミー:ふふ、知りたい?(エストリアの背後からヌッと顔を出す。)

 


エストリア:あ、あんたはさっきの!

 


ウェイミー:君が見ているのはさっきの世界とは違う。完璧な彼の記憶……そう思い出だからね。


 

エストリア:彼? アランのにーちゃんのこと?


 

ウェイミー:ふふふ。演出家は舞台には上がらないんだ。失礼。(ウェイミー、姿を消す)


 

エストリア:ちょ、ちょっと!


 

アラン:返事をしてくれ……頼む。お願いだから……!


 

リシリア:あなた……。


 

エストリア:っ!?


 

   (アランは部屋の片隅で倒れているリシリアを見つける。彼女の胸から腹にかけて深く獣の爪痕が刻まれており、
    傷跡からは恐ろしいまでに血が溢れだしている。)

 


アラン:リシリア! 大丈夫か!? ッ酷い傷だ……待ってろ、今――

 


リシリア:あなた……どこにいるの?

 


アラン:見えていないのか……? 大丈夫だ! 俺はここにいる!

 


   (アラン、瀕死のリシリアを抱きかかえる。)

 


リシリア:暖かい……あなた……そこにいるのね? エストは……無事?

 


エストリア:え……?

 


アラン:エストは…………無事だよ。もう……避難させた。

 


リシリア:よかった……。ねぇあなた。私のことは……もういいの。

 


アラン:そんなこと言うなよ! 絶対助けてやるから……俺たちの幸せは終わらせないッ!
    ――クソッ! 血が止まらない……傷が、深すぎる!

 


リシリア:ねぇあなた。結婚してそんなに長くはいられなかったけど、ゼノン様の付き人だったころからあなたの傍にいれて、
     そして娘をもうけることができて幸せでした。最後まで一緒にいれなくて……ごめんね?


 

アラン:……俺も、幸せだったよ。一緒にいてくれてありがとう、リシリア。


 

リシリア:えぇ。あなたは陛下のもとに……行ってあげ……て? あなたはここでもたもたしてる場合ではないわ。


 

アラン:ッ……! 分かった。俺、陛下の下にいくよ。リシリア……また会おう。


 

リシリア:えぇ、また、ね。


 

   (間・5秒。一人取り残されたエストリア。リシリアの亡骸を見つめる)


 

エストリア:エストって……あたし? 偶然一緒の名前……? お姉さんは……誰?

 


   (エストリア、リシリアの亡骸に近づく)

 


エストリア:あ……この指輪……あたしも持ってる。ごめんなさい、お姉さん。見せてもらうね。
      ……「リシリア・シーラー」。……そっか、そうだったんだ。
      お姉さんはあたしの……。それじゃあの人は……?

 


   (間・5秒。一瞬にして闇に覆われる)


 

エストリア:えっ!? なにこれ……真っ暗。こ、今度はなんだって言うのよ!!!
      取りあえず出口……出口を探さなきゃ。あいつに……アランに会わないと……。


 

   (間・3秒。出口を探してみるが手がかりすら見つからない。)


 

エストリア:はぁ……はぁ……。出口、見つからないや。あたし……帰れるのかな。


 

   (間・3秒。いくら歩き回っても出口はおろか、光すらも見当たらない)


 

エストリア:やだ……暗いよ……寂しいよ……。誰か……助けて……。


 

リシリア:エスト……。(声のみ)

 


エストリア:……え?

 


リシリア:エスト……エストリア……。


 

エストリア:声が……聞こえる?


 

リシリア:ほら、涙を拭いて。立ち上がって。


 

エストリア:誰!? どこにいるの!?


 

リシリア:自分を信じて、そのまま真っ直ぐ進むの。


 

エストリア:う、うん……。


 

   (間・5秒。遠くの方で光が漏れている)


 

エストリア:あ……光!


 

リシリア:そう、この先が出口よ。やっと会えたわね、エスト。


 

エストリア:お姉さんは……。そっか、あたしを呼び掛けてたの……お姉さんだったんだね。


 

リシリア:そうよ。本当に届いてよかった……。


 

エストリア:でも、お姉さん、誰? 暗くて顔が見えないよ。

 


リシリア:……見えなくていいの。

 


エストリア:でもお姉さんが良い人だってことはあたしには分かるよ。


 

リシリア:……エスト。


 

エストリア:そう言えばなんであたしの名前――わぷっ!(リシリア、エストを抱きしめる)


 

リシリア:あぁ、エスト……可愛い可愛いエスト。こんなに大きくなって……。
     こんなに強い子に育って……!


 

エストリア:……。


 

リシリア:もう一度あなたを抱きしめることが出来て、私は幸せよ。


 

エストリア:……お姉さん?


 

リシリア:もっと貴女を肌で感じていたいけど……時間が無いわ。
     エストは急いでここから抜け出して。そして、あの人を救ってあげて?


 

エストリア:……あの人?


 

リシリア:そう。あの人を、過去の想いから解き放ってあげて欲しいの。私にはもうそれが出来ないから……。


 

エストリア:過去の想いから……。


 

リシリア:大丈夫、強くなった貴女なら出来るわ。だって……。


 

エストリア:だって?


 

   (突如、地鳴りと共に空間が歪みだす)


 

リシリア:っ!? いけない、空間が崩れるわ! エスト、急いで脱出しなさい!


 

エストリア:お姉さんも一緒に行こうよ!


 

リシリア:私は大丈夫。貴女がこの先無事であれば、きっとまた会えるから……。


 

エストリア:でも……。


 

リシリア:急いで!


 

エストリア:っ!(走る)


 

リシリア:貴女なら絶対出来る。だって――私たちの子供なんですから。

 

 

 

――――――――――――――――――
【シーン10:対決過去の自分】


 

   (場所はランディール王国郊外。ラインの軍勢と戦っていた将軍ワイゼル率いる部隊は、
    人間の姿をしたラインの少女に圧倒されていた。)


 

ワイゼル:はぁ……、はぁ……。くそっ!!!
     ……まさかラインが人間に化けれるとは……。
     早く……陛下に伝えなければ――っ!?(少女が作り出した氷の矢がワイゼルを襲う。)
     ぐぉあああああああ!!?


 

少女:ふふふ、ラインが人間に姿を変えれる事を知らない方が王国を攻め落とし易いので、
   おじさんには死んでもらわないと困ります。
  


ワイゼル:く、国を攻め落とす……だと!? ぐぐぐ……そのようなことは……させん!!!

 


少女:満身創痍の体で私と戦うおつもりですか?


 

ワイゼル:……確かに貴様に勝てるなぞ思ってはおらん。だが、意地でも俺は国に帰らねばならんのだ!


 

少女:ふふ、立っているのも苦しいはずなのに頑張りますね。……分かりました。その苦しみから解き放って差し上げましょう!
   さぁ、水たちよ、この勇敢な将軍さんを楽にしてあげてください!


 

   (水の膜がワイゼルを包み、逃げ場を無くす。)


 

ワイゼル:……くっ! ここまでか!


 

少女:ゆっくりと休んで下さいな。……さようなら、ふふふ。


 

アリス:させるものですか!!! やぁあああ!!!


 

  (アリス、水弾を少女に向けて放つ。)


 

少女:っ!? あ、貴女は……。


 

ワイゼル:な、なんだ? 同じ姿の少女が……二人? 俺は夢でも見ているのか?


 

少女:あらら……折角捉えたのに、逃がしちゃいましたか。
   まあいいです。瀕死の人間を捕まえるなんて簡単ですし……。

 


アリス:……すっかり悪者ですね。
    将軍さん! ここは私に任せて、貴方は安全な場所に隠れるか、国に戻ってください!

 


ワイゼル:だ、だが――


 

アリス:早くッ!


 

ワイゼル:わ、分かった。――全軍! 撤退しろぉ!!!(ワイゼル、撤退)


 

   (間・3秒)


 

少女:ふふ、まさか貴女が現れるとは……。随分と人間に絆されてしまったようですね。


 

アリス:何も知らない赤子のような貴女に言われたくないですよ。


 

少女:それで、何しに来たんですか?


 

アリス:貴女を倒しに。


 

少女:ふふ、過去の自分と決別しようという事ですか。やれるものなら――やってみてください!!!


 

アリス:くっ……、速い!


 

少女:せめてもの情けです。一撃で仕留めてあげますよ!!!


 

アリス:そんなの――お断りです!(水の障壁を作り、少女の攻撃を防ぐ)


 

少女:へぇ、水の膜で私の攻撃を……。


 

アリス:あなたの攻撃なんてお見通しですよ。


 

少女:あら、そうなんですか? ふふふ……あははははは!


 

   (アリスの背後から水の刃が襲う)


 

アリス:ぁがっ!!?


 

少女:私も水を操れる事を忘れてませんか? なんたって私は……貴女自身なんですから。


 

アリス:……くぅ。


 

少女:ほら! 痛がっている暇はありませんよ!!!(過去のアリス、水を操り怒涛の様に攻める)

 


アリス:ぁ……ぐ……。

 


少女:あはははは! 颯爽と駆け付けた割にはこんなものですか!?

 


アリス:くっ……。

 


少女:人間と関わるうちに弱くなりましたね。我ながら情けないですよ。

 


アリス:……そんなことは……ありません! やぁああ!

 


   (水の弾を発射。過去アリスに直撃)

 


少女:ぅぐっ!? まだ力を残してましたか……。ごほっ。

 


アリス:感情に任せて暴れまわるなんて……獣以下です。

 


少女:ふ、ふふ。言ってくれますね、自分のことなのに。

 


   (追いつくゼノン)

 


ゼノン:アリスッ!

 


アリス:ぜ、ゼノンさん!? なんで……。

 


ゼノン:なんでってお前を追ってきたんだよ! それにしても……やっぱり一人で突っ走ってやがったか。

 


アリス:……。

 


ゼノン:おら、さっさと倒して終わらすぞ。待ってろ今そっちに――

 


アリス:……ごめんなさい。


 

   (巨大な氷の壁がゼノンを遮る)


 

ゼノン:――うぉっ!? て、テメェ、何しやがる!? この壁をどうにかしやがれ!


 

アリス:……すみません、ゼノンさん。これだけは……この戦いだけは私一人で戦わせてください。


 

ゼノン:ふざけてんじゃねえぞ! そんな我儘――

 


アリス:えぇ! どうしようもなく我儘で、どうしようもなく身勝手なお願いだってことは分かってます。
    だけど、お願いします。必ず勝ちますから。


 

ゼノン:……。

 


アリス:私を……信じてくれませんか?

 


ゼノン:……くそっ! ……死ぬんじゃねえぞ。


 

アリス:えぇ。勿論です。


 

少女:頼みの綱を自らの手で切りましたか。愚かですね。せめて二人で掛かって来れば勝算もあったでしょうに。


 

アリス:貴女は私の手で倒します。誰の手も借りず、この手で決着を付けます!

 


少女:過去の自分に決着を着ける、と。人間は滅ぼすべき敵ではなく、共に生きる仲間だと?

 


アリス:そうです。だからまず、貴女の凶行を止めます。
    二度もランディールの人々の未来を奪わせてたまるものですか!


 

少女:一度はこの国を追い詰めたくせによく言えますね。たぁあああ!!!(ナイフを振るう)


 

アリス:くっ! そうです、私はランディール王国を滅ぼした原因の一人です。
    多くの命を奪い! 多くの幸せを奪った! 死んでも許されない罪です!


 

少女:そう! 貴女は何百、何千もの命をその手で毟り取ったんです!
   生き残った者はさぞかし貴女を恨んでいることでしょうね!


 

アリス:……っ!


 

少女:ほぅら、動揺している。(膝蹴り)


 

アリス:あぐっ……!


 

少女:私だったら、どんな言葉を向けられても油断しません。動揺しません。


 

アリス:ごほっ……ごほっ……。それは……何も知らなかったから……です!


 

少女:ふぅん。
   一丁前に人間の姿に化けて……。私たちはライン。本当の姿は水の精霊と呼ばれるウンディーネ。
   だから――足なんて必要ないですよね? うふふ――それっ!


 

   (指くらいの大きさの氷柱がアリスの足を貫く)


 

アリス:きゃぁあああぁああ!!


 

少女:ゆっくり、じっくりと切り落としてあげますよ。
   まずはその足の傷口を広げるように引き裂きましょうか。それっ!


 

アリス:ぃぎっ……ぁああああぁあああああああああああ! 


 

少女:自分を嬲るなんて、思ってもみなかったですが……なるほど、悪くありません。


 

アリス:ぜぇ……ぜぇ……。


 

ゼノン:アリスッ!!!!


 

アリス:来ないで……下さい。


 

ゼノン:もう限界だろうが! 待ってろ今――


 

アリス:信じて……くれないんですか? 私は……大丈夫。


 

ゼノン:……。


 

少女:そんなに死に急ぎたいのであれば……分かりました。直ぐに殺して差し上げます。
   ……さようなら、私。さようなら、アリス・ポルテ。はぁあああ!


 

アリス:……。


 

   (過去のアリスがナイフを振り上げた瞬間、鋭い水の刃が彼女の腕が斬り飛ばす。)


 

少女:うぐっ!? ……な、何が起こったのですか。なんで……私の腕が……?


 

アリス:……もういいでしょう。


 

少女:っ!? これは――霧?


 

アリス:貴女と……戦っている間に……霧を生み出し、貴女の視界の外……で……漂わせていました。
    後は……ご覧の通り。


 

少女:霧を集めて水にして、反撃する機会を狙っていた、と。……ふふ、してやられました。


 

アリス:準備するのに随分と時間が掛かりましたが……ぐっ……。

 


少女:ですがまだ負けた訳じゃ――ぅぐっ!?(過去アリスの体に水が纏わりつき、動きを抑制する)


 

アリス:貴女は私の水に囲まれているんです。もう……貴女に勝ち目はありません。
            これでおしまいです。さようなら、過去の私……。


 

          (氷の剣を召喚し、過去のアリスを斬り伏せる)


 

少女:くっ、そんな……そんなぁあああ!(過去のアリス、消滅)


 

アリス:……ふぅ。ぐっ、無茶をし過ぎましたかね……でも、なんとか倒せました。えへへ……ほら、ゼノンさん、言った通りでしょう?


 

ゼノン:……全く、何が言った通りだよ。ボロボロじゃねえか。
          余計な心配させやがって。おら、もういいだろ? この氷の壁を消してくれ。


 

アリス:あ、そういえばそうでしたね……。待っててください今――


 

グラハム:ふむ、なるほど。ウェイミーが言った通り並々ならぬ力だ。(アリスの後ろにグラハムが立っている)


 

ゼノン:っ!!? アリス!!!


 

アリス:え――


 

グラハム:よくやった。アリス・ポルテ。まあ過去の自分を乗り越えてもらわないとこちらとしても面白くないからな。


 

アリス:……貴方は?


 

グラハム:我が名はグラハム。貴様と同じラインで、この下らん舞台の役者だ。
     ご苦労。これにて舞台は――終幕だ!

 


アリス:くっ、足が――


 

ゼノン:くそっ!  うぉおおああああああああああ!(氷の壁を派手にブチ破る)


 

グラハム:ぬぅっ!?


 

ゼノン:うっへぇええ、手がすげえ痛てぇ!!!


 

アリス:ぜ、ゼノンさん……。


 

ゼノン:……はぁ。このオッサンの言う通りだ。昔の自分との決着は着いたんだろ?
    ならお前の出番は終わりだ。後は俺に任せろ。


 

アリス:私だって……まだ、戦えます!

 


ゼノン:足に風穴開けた奴がほざいてんじゃねえよ。一人でいいって言ってるんだ。


 

グラハム:ほう、一人で相手するというのか。二人ですらハンデがあるというのに。


 

ゼノン:あ?


 

グラハム:なぜなら俺は――うぉおおおおおおぉおお!(グラハム、変身。巨人ヘカトンケイルへ姿を変える。)


 

ゼノン:うぉ……これは――


 

グラハム:ふしゅぅうううううう……。巨人ヘカトンケイル。その名を耳にした事くらいあるだろう?
     この百の腕を相手にするんだ。何人で来ようが俺にとってはハンデだ。ぬぁははははははは――っはぁ!!!


 

   (グラハム、ゼノン目がけて百の腕を振り下ろす。)


 

ゼノン:うわっと!? こいつぁまずいな……。一旦隠れるぞ!


 

アリス:え……で、でも!


 

ゼノン:何がでもだ!


 

アリス:足が……。


 

ゼノン:……あ。


 

アリス:……すみません。


 

ゼノン:くそっ! 世話の焼ける!(アリスを抱き上げる)


 

アリス:きゃっ!?


 

ゼノン:しっかり掴まっとけよ! うぉおおおおおおお!


 

グラハム:待て、逃げる気かぁ!!!


 

   (間・5秒。大きな瓦礫に身を潜める二人)


 

ゼノン:ぜぇ……はぁ……。


 

アリス:だ、大丈夫ですか?


 

ゼノン:はぁ……はぁ……大丈夫……な、訳……ねえだろうが……。もっと……痩せろ。


 

アリス:なっ……。女の子に対して痩せろとは酷くないですか!?


 

ゼノン:痛てぇっ! 叩くなって! 


 

アリス:ふん! もう知らないです!


 

ゼノン:はぁ……。ともかく、その傷、放っておいたら危険だろ。
    止血だけでもしねえとミイラになっちまうぞ。ほら、足見せろ。


 

アリス:じ、自分で出来ます。


 

ゼノン:いいから黙っとけ。応急処置の道具とか持ってきてねえから適当な布で勘弁な。


 

アリス:それ、貴方の服……。ん、痛っ……。ゼノンさん……雑……。


 

ゼノン:そんな細けぇ事気にすんな。


 

   (間・3秒)


 

アリス:……怒ってないんですか?


 

ゼノン:……何の事だ?


 

アリス:私、ゼノンさんに酷い事いいました。


 

ゼノン:……俺も無神経だった。すまん。


 

アリス:いえ、元はと言えば私が――


 

ゼノン:おっと、手が滑った。


 

アリス:いったたたたたた!? ちょっと! 今ワザとやりましたね!?


 

ゼノン:さーて何の事やら。


 

アリス:……もう。


 

ゼノン:……知ってんだよ。


 

アリス:え?


 

ゼノン:あんたがどんだけ昔の事を悔やんで、未来のために必死で変わろうとしてたことくらい。
    今のあんたがいなかったら救われなかった奴らだっている。


 

アリス;でも……それでも失ったものは帰ってこない。


 

ゼノン:……そうだな。その気持ち、忘れないでやってくれ。
    その気持ちと、今頑張って生きるあんたがいれば、死んだ奴らも幾分かは救われるだろうよ。

 


アリス:……。

 


グラハム:うぉおおあおお、どこに隠れおったぁあああ! 臆したか! 出てこいぃいいいい!


 

ゼノン:ちっ、隠れて時間を潰すのも時間の問題か。出るしかねぇか……。

 


アリス:何か策はあるんですか?


 

ゼノン:ある訳ねえだろ。真っ向からブチ当たるつもりだ。


 

アリス:相変わらずの脳筋っぷりですね。


 

ゼノン:仕方ねえだろ。……でもまあ、お前は一人で戦い抜いたんだ。次は俺の番だろ。


 

アリス:……ゼノンさん。


 

ゼノン:んじゃ、ちゃちゃっと行って来るわ。


 

アリス:格好つけてるところ悪いですが、靴ひも解けてますよ。


 

ゼノン:ん? あぁ、本当だ。――よっこいっしょっと。


 

アリス:……ゼノンさん。


 

ゼノン:あ?


 

アリス:(ゼノンの額にキス)


 

ゼノン:っ!? ……なんのつもりだ。


 

アリス:所詮は伝説ですが、水の精霊のおまじないです。効果は期待しないでください。


 

ゼノン:……どうせなら美人なねーちゃんからデコチューされたかったぜ。


 

アリス:む、このタイミングで言いますか。そういうのは運命の人とでもしてください。


 

ゼノン:ま、ありがたく受け取らせてもらうぜ、水の精霊サマ。んじゃ、行ってくる。


 

アリス:えぇ、お気をつけて……。


 

   (間・5秒)


 

グラハム:人間は小さくて敵わんな。探すのに一苦労だ。


 

ゼノン:よう、待たせたな。


 

グラハム:……臆して逃げたかと思ったぞ。


 

ゼノン:へっ、誰が。


 

グラハム:出て来たということは、死ぬ覚悟は出来たみたいだな。


 

ゼノン:生憎、あんたを倒す覚悟しかしてねぇや。


 

グラハム:減らず口を……。ふんっ!!!(大量の腕を振りまわす)


 

ゼノン:くっ!?


 

グラハム:がはははは! その小さい体では避けるのが精一杯だろう!?


 

ゼノン:そうだな。だが――よっと。


 

   (巨人となったグラハムの体に飛び乗る)


 

グラハム:ぬぅ!?


 

ゼノン:そういうアンタは図体だけのノロマだな。取りあえず、一本だ!(腕を一本切り落とす)


 

グラハム:うごぉおおお! 人間の分際で俺の腕を!!! だが――
     うぉおああらあああ!

 


  (グラハムは無数の腕を振り回し、ゼノンを振り落とす)


 

ゼノン:ぐぁっ!!


 

グラハム:ぐふふふ、この百本の腕を一つずつ切り落とすつもりか?
     それもよかろう。それまでお前の命が持っていたらの話だがな!!!

 


ゼノン:くっ……やってやらぁ!!!


 

グラハム:そう簡単に近づかせんわぁああああああ!!!


 

ゼノン:ちっくしょ……邪魔くせぇ……!!!


 

グラハム:どうしたどうしたぁ!? さっきより動きが鈍くなってるぞ!?


 

ゼノン:へ……へへ、そいつぁ……気のせいだ!!! うらぁあ!!!(間合いを詰めて攻撃)


 

グラハム:ぐぐ……。だが、強がっているのが分かるぞ! そらっ!


 

   (グラハム、疲労と怪我で隙が生じているゼノンを捕える。)


 

ゼノン:しまっ――


 

グラハム:ぐふふふふ、捕まえたぁぁああ。このまま握りつぶしてやるわ!(握りしめる)


 

ゼノン:があぁあああああああああ!!!!!


 

グラハム:ぐわはははははははははっはは!


 

ゼノン:ごふっ……。ちくしょ……こんなところで……。


 

グラハム:貴様を殺したら次はウンディーネの少女だな。なに、直ぐに後を追わせてやる。
     そうだな、人間に組するとこうなるのだと、他のラインに見せしめとして殺してやる。
     四肢をもいで、ハラワタを引きずり出し……目を抉りだす。これで裏切る者はいなくなろう。


 

ゼノン:ふざ……けんじゃ……ねぇ……。


 

グラハム:なんだ、声が小さくて聞こえんなぁ?


 

ゼノン:ふざけんじゃねえぞ!!!


 

   (ゼノンが叫んだ瞬間、グラハムに強烈な冷気が襲い掛かる。するとたちまちその巨体を氷漬けにし、動きを封じる。)


 

グラハム:ぬぉっ!? こ、これは……氷!? くそっ! 身動きが取れん!!?


 

ゼノン:ごほっ……、ごほっ……。水の精霊の加護、か。あの野郎、やってくれるぜ。


 

グラハム:くぅうう! 腕が駄目なら……踏みつぶしてくれるぅうぅう!


 

ゼノン:遅ぇんだよ!(袈裟斬り)


 

グラハム:がはっ!?


 

ゼノン:けっ、散々手こずらせやがって。


 

グラハム:ま、待て!


 

ゼノン:待たねえよ。俺たちだって急いでんだ!
    じゃあな、巨人のおっさん!!! うぉらああああ!(縦に一閃。グラハムを斬り捨てる)

 


グラハム:ぐぉおおあおああああああああああ!!?
     ば、馬鹿な……この……この俺がぁあああああああ!!!
     くそっ! くそっ! 認めん! 認めんぞおおお!!!

 


   (間・5秒。戦闘終了後、アリスの下に戻るゼノン。)


 

アリス:……おかえりなさい、ゼノンさん。ボロボロですね。


 

ゼノン:危うく潰されそうだったからな。死ぬよかマシだろ。


 

アリス:ふふ、そうですね。

 


ゼノン:ま、水の精霊サマのご加護のお陰で助かったわ。


 

アリス:え? いや……その……。えへへ、真顔で言われると照れますねぇ。


 

ゼノン:てか、あんな効果あるなら最初から言ってくれよ。危うく死ぬところだったんだぜ。


 

アリス:え?


 

ゼノン:あ?


 

   (間・3秒)


 

ゼノン:……まさか、本当に何も知らないのかよ。急に氷が出てきて、巨人の動きを止めたんだよ。


 

アリス:ははぁ、そんな効果が……。


 

ゼノン:……マジかよ。


 

アリス:だから言ったじゃないですか、おまじない程度の効果って……。


 

ゼノン:まぁ結果的に生き残ったからいいけどよ――っ!?


 

アリス:こ、これは……空間が歪んでる……?


 

ゼノン:巨人の野郎をぶっ倒したからか? くそっ、アリス! しっかり掴まってろ!


 

アリス:は、はい!


 

ゼノン:う、うわぁあああああ!!?

 

 

 

―――――――――――――――――――
『シーン11 悲しき再会』

 

   (敵となったレヴィン、リシリアと剣を交えるアラン。そして高みの見物をするウェイミー)


 

アラン:ぐぁっ!(肩を斬られる)


 

ウェイミー:ほらほらどうしたんだいアラン!!! 傷だらけじゃないか!
      君の強さはそんなもんじゃないだろう!?


 

アラン:だ、黙れ……。


 

ウェイミー:つまんないなぁ……防戦一方じゃないか。


 

アラン:リシリア! レヴィン! 剣を収めてくれ! 俺はお前たちと戦いたくない!!!


 

ウェイミー:ふふ、無駄だよ。彼らはボクの思い通りに動く玩具なんだから。


 

レヴィン:僕たちを見殺しにしたくせに、よく言うね。これは復讐なんだ。


 

リシリア:貴方が来なくて……寂しかったんだから。


 

アラン:っ……。


 

レヴィン:ほら、楽に逝かせてあげるよ。それっ!


 

   (レヴィンの剣がアランの腹を貫く)


 

アラン:ぐぁああああああああ!!!


 

リシリア:今度こそ一緒に行きましょう?


 

アラン:くぅ!!! 俺はここで死ぬわけには……。


 

ウェイミー:粘るねぇ。……どう思う? 二人とも。


 

レヴィン:守るべき王も、家族も、国も……全てを捨てて逃げた裏切り者。


 

リシリア:愛する人と共に逝く事すら出来ない臆病者。


 

アラン:っ! お、俺は……。


 

ウェイミー:あはははははは!!! 戸惑ってるねぇ!? 傷ついてるねぇ!?
      もっともっとその表情をボクに見せておくれよ!

 


アラン:……そうだ。俺は何も守れずに……。


 

   (エスト、どこからともなく颯爽と登場)


 

エストリア:アラン! 幻想なんかに惑わされないで!


 

アラン:俺は……俺はぁ!!!


 

ウェイミー:君は……。まさかあの空間から戻って来るとは思わなかったけど……。
      ふふふ、もう遅いよ。彼の心は壊れちゃった。


 

アラン:あ……あああああああああああああ!!!


 

エストリア:あぁ、もう! 手間のかかるオッサンだよ!


 

  (幼女ビンタ)


 

アラン:ぐっ!?


 

エストリア:目が覚めた? こんなんで戸惑うなんてアランらしくないよ。……もっとゲンジツを見て。……お父さん。
      あの二人はもう……いないんだから。


 

アラン:っ!? ……お、お前……見た……のか?


 

エストリア:……うん。

 


レヴィン:ほら、隙だらけだよ、アラン!

 


   (レヴィンの剣がアランを切り裂く)


 

アラン:ぐっ……。


 

エストリア:アラン!


 

アラン:ごほっ……。あ、安心しろ……。……もう……大丈夫だ。


 

エストリア:でも……。


 

リシリア:私たちより、そんな子の方が大事なの? 随分変わってしまったのね。


 

アラン:……そんな子だと? ふ、ふふ……はははは!


 

レヴィン:何がおかしいんだい?


 

アラン:ふふ、はっはっはっは! おかげで目が覚めたよ。――はぁぁあッ!!!


 

   (アランの一撃、リシリアを貫通)


 

リシリア:かはっ……、あなた、どう……して……。


 

アラン:……君はこの娘を見て何も思わないのか。


 

リシリア:え……。


 

アラン:エストリア……。俺たちが愛した娘を目の前に、お前は何も思わないのかと言っているんだ!


 

エストリア:……アラン。


 

リシリア:ぞ……ぞんな……。あ゛なだ……(消滅)


 

ウェイミー:馬鹿な……。ふ、ふふ……やるね。それじゃあこっちはどうだい?
      さあ王子様! 傷だらけの彼を楽にしてあげてよ!


 

レヴィン:はぁああああああ!


 

エストリア:やらせないよッ!!!(銃を連射)


 

レヴィン:何っ!? ぐぁあああああ!!!(消滅)


 

アラン:次はお前だ。ウェイミー。ふんっ!!!(槍を薙ぐ)


 

ウェイミー:くっ! ふ、ふふ……危ないなぁ。
      ボクは戦い向きじゃないんだ。一旦引かせて――っ!?


 

   (エストリア、発砲)


 

エストリア:逃がすと思ってんの?


 

ウェイミー:……うっ。


 

アラン:そう言うことだ。覚悟しろ! はぁああああああ!


 

   (全てを込めた一撃がウェイミーを襲う)


 

ウェイミー:かふっ……。嘘だ……、ボクの演出通りにならない……なんて……。


 

アラン:終りだな。あぁ、最後に一言言わせてもらうか。
    ……俺の妻を……俺の主を侮辱するな!(ウェイミーの心臓を貫く)


 

ウェイミー:ぐぁあああああああああああ!


 

アラン:これにて終演だ。


 

エストリア:へへん、アンコールはないよ!


 

ウェイミー:嫌だ……嫌だ……死にたくない……。くそっ……許さないよ、壊れた時計……。
      アラン……。ゆる……さ……ない……。うぐ……、ぐあぁあああああああ!!!


 

   (間・5秒。ウェイミー消滅)


 

アラン:……終わったか。


 

エストリア:そうだね。


 

   (ゼノンたち、現れる)


 

ゼノン:お? なんか広間に出たぞ――ってあれ?


 

アリス:エスト! 


 

エストリア:アリス! ゼノン! 


 

ゼノン:……アラン? お前もここに迷い込んでいたのか? とにかくエスト、無事で良かった。


 

エストリア:ふふん、このエスト様がやられる訳ないじゃない!
      ラインなんてバシバシーって倒しちゃったよ。


 

ゼノン:いや、お前、武器銃だよな?


 

エストリア:細かいことはいいの!


 

   (ウェイミーが消滅したことにより、空間の消滅が近づく)


 

アラン:む……空間が崩れていく。あのラインを倒したからか?


 

ゼノン:やーっとこの世界ともお別れか。ん? お、おいアラン!!!


 

   (遠くからレヴィン、そしてリシリアが現れる。先ほどの幻影とは違うようだ)


 

アラン:ん? あれは……レヴィン……それに、リシリア……。


 

エストリア:え!?


 

レヴィン:……久しぶりだね、アラン。


 

アラン:本物……なのか?


 

レヴィン:ううん、幻だよ。直に消える。でも、この意識は正真正銘僕のものだ。


 

アラン:……そうか。


 

レヴィン:アラン、あの時……国が滅びる時、弟を連れ出してくれてありがとう。


 

アラン:……お前の頼み……だったからな。


 

レヴィン:ふふ、ありがとう。さて――(ゼノンの方へ歩み寄る)


 

ゼノン:あ、兄貴……。


 

レヴィン:ゼノン。また会えて嬉しいよ。元気でやってるみたいだね。


 

ゼノン:あ、あぁ……。


 

レヴィン:背もこんなに高くなって。僕より大きい。


 

ゼノン:な、撫でるなよ……。俺だって……もう、子供じゃない……。


 

レヴィン:ふふ、そうだね。もう立派な大人だもんね。
     ……昔はずっと僕の背中を追っていたから心配だったんだ。


 

ゼノン:……いつの話だよ、それ。


 

レヴィン:僕が心配するまでもなかったね。これで、安心して僕は行けるよ。


 

ゼノン:え……。


 

アラン:もう行くのか。

 


レヴィン:うん。元々ここにいるのも奇跡なくらいだ。長くはいられない。


 

アラン:そうか。


 

レヴィン:それじゃあ――


 

ゼノン:あ、兄貴!!!


 

レヴィン:……。どうしたんだい、ゼノン。


 

ゼノン:い、行かないでくれ! 俺、もっとあんたと話したいんだ!
    一人で旅をしてきた時の事とか! 仲間と出会った時の事とか!
    もっともっと伝えたいことがあるんだ!


 

アリス:ゼノンさん……。


 

ゼノン:だから……行かないでくれ……頼む……。


 

レヴィン:あはは……。どんなに大きくなっても、やっぱり君は僕の弟だね。
     甘えんぼのゼノン。大切な大切な……僕の弟。


 

ゼノン:……。


 

レヴィン:だけど、ごめんね。これだけはどうしようもないんだ。
     僕だってゼノンと話したい。どんな人と出会って、どんな旅をしたか聞きたいよ。


 

ゼノン:っ!


 

レヴィン:あぁ、やっぱり安心して行けないなぁ。心配になっちゃうじゃないか。


 

アリス:お兄さん。ゼノンさんは大丈夫です。


 

レヴィン:君は……。


 

アリス:ゼノンさんは今、多くの仲間と一緒に旅をしています。
    私もその一人です。ゼノンさんに何度も救われ、色んな事を教えてもらいました。
    だから今度は、私が……私たちがゼノンさんを支えます。


 

ゼノン:アリス……。


 

レヴィン:……。(アリスを見つめる)


 

アリス:……っ。(目を逸らさず、しっかりと見返す)


 

レヴィン:やっぱり僕の目は間違っていなかった。ラインは……人間と同じ心を持った生き物だった。
     君みたいに優しい人もいれば、悪い人もいる。……それは人間も同じ。


 

アリス:……。


 

レヴィン:いいお友達に恵まれたんだね。よかった。


 

ゼノン:……あぁ。


 

レヴィン:アリスさんと言ったね。


 

アリス:は、はい。


 

レヴィン:人間とかラインとか……そんなのは関係ない。どうか……弟と仲良くしてやってほしい。
     

 

アリス:(無言で深く頭を下げる)


 

ゼノン:兄貴……。心配しなくていい。俺は……大丈夫。仲間がいるから。
    あんたは笑って……行ってくれ。


 

レヴィン:……ありがとう。


 

   (間・5秒)


 

アラン:……行ったか。


 

リシリア:あなた。


 

アラン:リシリア……。


 

ゼノン:……行くぞ、アリス。俺の一服に付き合え。


 

アリス:え?


 

ゼノン:俺たちがここにいるのは野暮だろ(耳打ち)


 

アリス:え、えぇ……。

 


   (間・5秒)


 

リシリア:あなた……会いたかった!!!
     ずっとずっと会いたかった! あなたの温もりをこの手で感じたかった!


 

アラン:……俺もだ。すまなかった、リシリア。お前一人残して……。


 

リシリア:ううん、言わないで。


 

エストリア:……やっぱり、お母さんだったんだね。


 

リシリア:エスト!(抱きしめる)
     あぁ、エスト! 私たちの大切な……。


 

エストリア:……お母さん。


 

リシリア:ごめんなさい、先に逝ってしまって……。


 

エストリア:いいよ……。寂しいけど。仕方ないもん。お母さんにも会えたし。

 


リシリア:……思ってたのと違った?


 

エストリア:ううん。思ってたよりずっと……素敵なお母さんだった。


 

リシリア:ふふ、ありがとう。お父さんは?


 

エストリア:……馬鹿親父。


 

アラン:ぐっ……。


 

エストリア:なんで黙ってたのよ……。孤児院で家出した時も、旅をしてる時も何度も会ってるのに!


 

アラン:……今更……父親面など……。
    それに……父を名乗るには、この手が血で穢れ過ぎてしまった。


 

エストリア:それでもあたしにとってはたった一人のお父さんなんだよ!


 

アラン:……すまない。


 

リシリア:エスト、あまりお父さんを責めないであげて?


 

エストリア:うぅ……それじゃあ……許す。


 

アラン:……そうか。


 

エストリア:ただし! 全てが終わったら、いなかった分償ってよね!

 


アラン:……分かった。

 


リシリア:ありがとう、エスト。


 

エストリア:全く! お母さんに感謝してよね!


 

アラン:……ありがとう、リシリア。


 

リシリア:ふふ、ランディール王国の宰相様も、娘にはかたなしね?


 

アラン:……それを言うな。


 

リシリア:エスト。


 

エストリア:なに、お母さん。


 

リシリア:お父さんはね、口には出さないけど、色んな事を考えているのよ。
     孤児院で沢山の仲間を得て、居場所を見つけたあなたの前に現れる事で、
     あなたが積み重ねてきた全てを奪ってしまうことを恐れていたんだと思うの。


 

エストリア:それは……。


 

リシリア:それに父と名乗る男が突然目の前に現れたら……あなたはきっと混乱してしまう。


 

エストリア:……っ。


 

アラン:俺が組織に入ってからもだ。俺は組織を抜けることが許されない。
    だからこんな状態で真実を告げれば……。必ず危険な目にあう。


 

リシリア:ほらね?


 

エストリア:……馬鹿。口に出してくれないと……分からないよ。(アランに抱き着く)


 

アラン:たとえ組織に入っても……お前たちのことを忘れたことは無かった。
    触れることは出来なくても……せめてその身の安全を……。


 

リシリア:ずっと……見守っていてくれたのね。


 

アラン:こんなんでも……父親だからな。


 

エストリア:うっ……うぅ……。おど……ざん……ずびっ。


 

アラン:せめて……血に塗れたこの手だが……。
    どうかこの時だけでいい、家族を抱く事を許してほしい……。


 

エストリア:お父さん……。


 

リシリア:……あなた、私、もう行かなきゃ。


 

エストリア:え!?

 


アラン:そうか……。


 

リシリア:最後にまた会う事が出来て嬉しかった。
     願わくば、ずっとこうしていたい……。
     でも、行かなきゃ……。

 


エストリア:そんな……やだ……。


 

リシリア:エスト……。


 

エストリア:やだやだやだ! 行っちゃやだ!!!
      あたし、もっとお母さんと話したい! お母さんとお父さんと皆でお話したいよ!

 


アラン:……エスト。


 

リシリア:大丈夫。私たちはずっといるわ。ずっと……あなたたちの心の中に……。


 

エストリア:……こころの……なか……。


 

リシリア:そう。姿は見えないけど、あなたたちが私を覚えている限り、ずっと……。
     だから……また、ね?


 

エストリア:……うん。


 

アラン:リシリア。最後に……伝えたいことがある。


 

リシリア:なぁに?


 

アラン:……なんだ……その……愛してる。今も……これからもこの気持ちは変わらない。

 


リシリア:(すこし驚いた顔をする) ……ふふ。私も愛してるわ。

 


アラン:(首肯)……さらばだ。リシリア。

 

 

  (間・5秒)

 

 

 

―――――――――――――――
『シーン12 終演』

 

   (場面説明――幻影空間から解き放たれた一行は平原を歩く)

 


エストリア:んー!(背伸び) やーっと戻ってこれたぁああああ!


 

ゼノン:へへっ。


 

エストリア:なによ、にやにやして。

 


ゼノン:さっきまであんなにベソかいてたのに、随分元気になってんじゃねえの。

 


エストリア:ずっと落ち込んでなんかいられないからね。あんたこそ大丈夫なの?

 


ゼノン:あ?

 


エストリア:ゼノンこそびーすか泣いてるんじゃないかなって。


 

アリス:あ、それは私も思いました。ね、甘えんぼのゼノンさん。ふふっ。


 

ゼノン:う、うるせえよ!


 

アリス:そう言えばエスト。子供の頃のゼノンさんはすっごく可愛かったですよ。


 

エストリア:え!? どんなんだったの!? あたしも見たかった!


 

アリス:ふふ、子供の頃のゼノンさんはですねぇ――


 

ゼノン:アリス、それ以上言ってみろ。手を放すからな。折角負ぶってやってんだからせめて口を閉じてろ。


 

アリス:あら、それは怖いですねぇ。昔はお兄様ーってお兄さんの後ろを追っかけまわしていたのに。


 

エストリア:あはははは! ゼノンかっわいいいいい!


 

ゼノン;てめぇ、こらアリス! 落とすぞ!


 

アリス:そこで手を離さないところが優しいですよね。


 

ゼノン:ぐぬ……。そ、そうだよ優しいんだよ! なんたって王子様だからな、だはははは!


 

エストリア:ほーら、すぐ調子に乗る。

 


ゼノン:どう答えろって言うんだコラ。


 

アラン:……さて。ここらで俺は失礼する。


 

ゼノン:……そうか。なぁ、アラン。いっそ俺たちと一緒に旅しないか?

 


アラン:馬鹿を言うな。俺は「壊れた時計」だ。上から命じらればお前らとも戦わなければならん。

 


ゼノン:そうか……残念だぜ。

 


アラン:……だが。

 


ゼノン:ん?

 


アラン:……もし可能なら……お前らが望む人間とラインが共に暮らす世界も悪くないのかもしれんな。

 


ゼノン:アラン……。

 


アラン:ふっ……。お前らと戦わないことを祈ってる。さらばだ。(アラン、消える)

 


エストリア:あ、お父さん! ――って行っちゃった。あんの馬鹿親父ぃ……。
      別れの言葉くらい言わせなさいよー!

 


ゼノン:察してやれよ、エスト。親父の気持ちをよ。

 


エストリア:……むぅ。

 


アリス:さーて、私たちも帰りましょうか。皆の所へ。そして……私たちが望む未来の為に!

 


ゼノン:あぁ! 


 

END...

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