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『Links』 ―第17話 蘇る風景、罪の意識― 前編

 

【登場キャラクター】

 

(♂)ゼノン・ランディール/25歳
    ゴアス帝国南部司令官のココレットとともに、ライン研究の手伝いをしている傭兵の男。
    本人は殆ど口にしないが、今は亡きランディール王国の王レヴィンの弟。
    幼い頃に国が滅び、傭兵としてラインと戦ってきたため、立派な体躯をしており、
    ついでに性格も荒くなった。

 

(♀)アリス・ポルテ/17歳
    リィと同じ学園に通う少女。
    物腰は低く、明るい少女だが、その正体はウンディーネの「ライン」。
    重要人物の暗殺を見届ける使命を帯び、人間の姿となり、人間社会の中に潜伏していた。
    その際にリィと仲良くなり、また憎むべき人間の存在に疑問を持ち始める。

 

(♀)エストリア・シーラー/12歳
    かつては現ゴアス軍南部司令官のココレットが経営していた、帝国南部にある孤児院に住んでいた少女。
    今は孤児院を出て一人旅をしている。孤児院で過ごしてきたせいか、気が強くお転婆な性格。

 

(♂)アラン・シーラー/28歳
    ラインを倒す事を目的とする組織「壊れた時計」の一員。
    基本的には冷静で寡黙。組織に加入して10年分時が止まっており、実年齢は38歳。
    かつてはランディール王国の宰相を務めており、国王レヴィンの親友であり、片腕として働いていた。

 

(♀)リシリア・シーラー/28歳
    故人。かつてはゼノン第二王子の付き人兼教育係をしていた女性。その際にアランと知り合う。
    27歳に時に娘をもうけるも、翌年ランディール王国がラインによって襲撃され、命を落とす。

 

(♂)ワイゼル・シーラー/48歳
    故人。ランディール王国の将軍。厳しいが、兵士たちからは慕われている。武人肌。
    人望も厚く、武人としても優れた彼だが、その最期は人間の姿をしたラインによって殺されたという。

 

(♂)レヴィン・ランディール/28歳
    故人。ゼノンの兄。ランディール王国滅亡時の国王で享年28歳。ゼノンとは正反対な性格で穏やかな好青年。
    燃え盛る城の中で、大型のラインと打ち合い致命傷を負い、弟を親友に託して絶命。

 

(♀)ウェイミー
    幻術を操るライン。見た目年齢20代。嗜虐的で快楽主義な女性。
    今回の騒動の張本人。
   
(♂)グラハム
    無数の腕を持つ巨人、ヘケトンケイルのライン。見た目年齢30代。
    口数は少なく、さらに言えばウェイミーの事も余り信用していない。
    一度戦いになると熱が入る性格。

 

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【役配分】

 

(♂)ゼノン  
(♀)アリス
(♀)エストリア
(♂)アラン + ラインA 
(♂)ワイゼル + 男
(♂)レヴィン + 兵士B

(♀)リシリア + 少年
(♀)ウェイミー
(♂)グラハム + 兵士A

 

♂5 ♀4 計9名

――――――――――――――――
【あらすじ】

 

未知なる怪物「ライン」の襲撃によって両親を失った少女リィ・ティアスは、失踪した兄のセイルを探すために旅に出た。
最初は両親の親友を頼りに大国ゴアス帝国へと向かうが、次第に多くの国を駆け巡るようになる。
そして彼女たちは旅の途中で、人間とラインが共に暮らす島へと辿り着いた。
そこでは、ただの凶暴な獣だと信じられてきたラインは、人間と同じように人の言葉を話し、誰かを想う心を持って暮らしていた。
しかし、人がラインを狩り、またラインが人間を狩る世は変わらない。
さらに影で動く者達の存在――
人を憎み、数多のラインを扇動して人間をこの世から滅殺しようと企む「バフォメット」のライン。
そして、ラインによって大切なモノを奪われ、復讐を誓った人間の組織「壊れた時計」 。
複雑に絡まる因縁、そして旅で出会った多くの仲間――
影で動く者達の計画を止めるべく、リィたちは旅をする。 

―――――――――――――――――――
【用語】

 

ライン:つまるところ怪物。モンスター。おとぎ話、伝説と呼ばれた生物のことを指す。
    現在、そのラインが世界各国に出没し、人間に害を与えている。


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『シーン1:事の始まり』


   <場面説明――何処の国にも属さぬとある平原。そこで若い女が兵士たちに剣を向けられている。
          辺りには血まみれで事切れている兵士たち。
          どうやら兵士が女を襲っているのではなく、女が兵士を襲っているようだ。>


兵士A:ぐ、あぁ……。馬鹿な、この人数相手にたった一人で……。

 


兵士B:化け物か……。っ!? ぐぁああああ!

 


ウェイミー:はい終了、あはっ。

 


兵士A:ひ、ひぃぃ……!


 

ウェイミー:逃げるならどうぞご自由に。


 

兵士A:うわぁあああ!


 

ウェイミー:ま、逃がさないんだけどね。


 

兵士A:うぎっ!


 

ウェイミー:あーあ、つまんない。つまんない、つまんない、つまんない!
      人間の兵士なんて所詮武装した猿じゃないか。殺し飽きちゃったよぉ。
      本当にこんなのがボクたち「ライン」の敵になるのかなぁ。――おや?

 


   (ラインを殲滅する組織「壊れた時計」のアラン達が他のラインと戦いながら現れる。)


 

男:くそっ! 倒しても倒してもキリがない! どうする……アラン!


 

アラン:落ち着け。ここは一体ずつ数を減らしていくしかない。


 

ウェイミー:ふぅん、結構やるね、あの人たち。あれが噂に聞いてる組織「壊れた時計」かな。
      普通の人間じゃないって聞くけど、どれほどだろうね。折角だし試させてもらおうかな。(指を弾く)


 

男:なっ!? ……ラインが次から次へと……。仲間を呼んだのか!?


 

アラン:なるほど、本格的に殺しにかかってきたか。厄介だな。だが――数を増やしただけで俺たちを倒せると思うな!
    はぁぁああああああ!!!(槍を振るう)

 


ウェイミー:あはは、やるねぇ人間。いや、人間を辞めた者たちと言ったほうがいいのかな?


 

アラン:おい! こそこそ隠れてないで出てきたらどうだ!


 

   (ウェイミー、アラン達の前に姿を現す。)


 

ウェイミー:ふふふ、こんにちは。正直数で押せば倒せると思ってたけど、ボクの見立てが甘かったよ。
      じゃあ、これならどうかな? ふふっ。

 


アラン:……何をする気だ!?

 


ウェイミー:さあさあ! 夢の世界へご招待! ――自身を縛る過去の中で苦しむがいいよ。ふふふ。


 

男:なんだこれは……霧か!? 


 

アラン:くっ……意識が……。(倒れる)


 

男:アラン!? おい、どこに行った!? 返事をしろ!!!
  

 

ウェイミー:残念ながら君は選ばれなかった。選ばれたのは彼、アランだけ。君はそのまま一人で探し回ってるといいよ。
      うふふ。だけど、これじゃあ役者が足りない。主役だけじゃ舞台は面白くならないからね。
      だからボクがとっておきの役者を用意してあげる。
      それまで暫しの休憩時間。お客様は彼らが演じる劇をとくとお待ちください――なんてね。
      あはっ、あははははは!
     

 

   <場面転換――「人間」と「ライン」が共生できる世界を作るために旅をする主人公たち。
          この日は、主人公の仲間、ゼノン、アリス、そしてエストリアは三人で別行動をしている。
          彼らは先ほどのアランたちがいた所とは別の場所でラインと戦っている。>


 

ゼノン:エスト! そっちに行ったぞ!


 

エストリア:まっかせて! やぁッ!(魔鉱石を組み込んだ銃を乱射)

 


ラインA:ぐぁあああ!? くそっ、こんな小僧共に……。せめて一人でも道連れにしてやる!


 

アリス:やー、それは怖いですねぇ。よっと!(水の刃を射出)


 

ラインA:ぬぅ……、く、くそぉ……。(気絶)


 

アリス:ふう……。皆さん、お怪我はないですか?


 

エストリア:ふふん、とーぜん!


 

ゼノン:俺も大丈夫だ。今日は俺ら三人で行動だからな。この程度で怪我してたら話にならねぇよ。


 

エストリア:お、頼もしいじゃん。ゼノンのくせに。


 

ゼノン:ありがとよ、生意気幼女。


 

アリス:ふふ、なんか兄妹みたいですねぇ。口の悪さが特に。


 

ゼノン:だってよ。良かったなエスト。ほーらお兄ちゃんだぞー。


 

エストリア:えー!!! ゼノンにお兄ちゃんとかヤダ! 暑苦しい!


 

アリス:ならお父さんとかどうですか?


 

エストリア:もっとやだ! あたしのお父さんはきっと優しくてかっこいいんだから。
      こんなやさぐれ男がお父さんとか死んでもイヤ!

 


ゼノン:……さっきから酷い言われようだな、俺。
    ま、俺は心が広いから許してやるがな。(エストリアの頬をつねる)

 


エストリア:うぎゅぎゅー。


 

アリス:ゼノンさん、心の狭さが漏れてますよ。


 

ゼノン:ぬははは、悪い悪い。


 

エストリア:……でも、本当のお父さんとお母さん……一度でいいから会ってみたかったな。


 

ゼノン:なぁエスト、お前は死んだって決めつけてるけどよ、もしかしたらどっかで生きてんじゃねえの?


 

エストリア:たとえ生きててもお互い顔も分からないよ……。あたしが孤児院に来たのってまだ1歳の時だったし。
      ま、もし会えたら一発ガツンと殴ってやるわ! こんな可愛い娘を一人にさせるなんてさ。


 

ゼノン:親もこんなお転婆娘に育ったとは思ってもいないだろうな……。

 


エストリア:なにをー! ゼノンのくせに!

 


ゼノン:あだだだだ、やめろって! お、おい、結構本気で殴ってるなお前!? おいアリス、助けろ!


 

アリス:え? 見てて面白いので普通に嫌ですけど?


 

ゼノン:なんて奴だ! てかそろそろ殴るの止めろエストォ!!!


 

   (間・5秒。ゼノンたちが気づれないように監視するライン、ウェイミーとグラハム)

 


ウェイミー:ほーら、見つけた。素敵な素敵な役者さん。グラハム、君も見てよ。

 


グラハム:……この子供たちが?

 


ウェイミー:そう。だけど彼らをただの子供たちと思っちゃあいけない。
      彼らはボクたちラインを何度も退けてきた歴戦の猛者だ。


 

グラハム:なるほど。


 

ウェイミー:今日は君も舞台に立ってもらうよ。グラハム。巨人ヘカトンケイルの力、ボクに見せておくれよ。


 

グラハム:つまらん芝居だったら、すぐに終わらせてやるからな。


 

ウェイミー:そんなことにはならないさ。ふふふ、さあ待ちに待った開演時間だ。――そぉれ!

 


   (ウェイミーが合図をすると、ゼノンたちがいる一帯に霧が立ち込める。)


 

アリス:っ!? こ、これは――


 

ゼノン:なんだこの霧!? ラインの仕業か!?


 

エストリア:わわわわわ!? みんなー! どこー!?


 

ウェイミー:クスクスクス……。舞台は私が用意してあげるよぉ。舞台はそう! 今は亡き王国、ランディール。
      守るべき王と家族を失った家臣に、亡き王の唯一の弟。
      そして国を滅ぼしたラインの少女。最っっ高のキャストじゃあないか。
      このボク、ウェイミーが演出する一日限りの豪華な公演、お楽しみくださいませ。クスクスクス……。

 

 

 

―――――――――――――――――
【シーン2:今は亡き王国】


   <場面説明――活気のある街。ゼノンが目が覚めると、彼の視界に入ったのは、
          十数年前にラインによって滅ぼされたランディール王国の街並だった。>


 

アリス:ゼノンさん! 起きてください! 一大事です!


 

ゼノン:んあ?

 


アリス:うわっ……なんてだらしない顔……。ほら、しっかりしてください!(顔面ぺちぺち)

 


ゼノン:あいててて! 分かった! 分かったからそんなに叩くな! ――ったく、何が一大事なんだ……よ? よよよ?
    俺たち、いつ街に戻ったんだ?

 


男:お! 気が付いたかい、あんちゃん。道端で寝てちゃ風邪引くぜ?


 

ゼノン:……ご忠告どうも。そんで、ここはどこだ?


 

男:おいおい、記憶喪失って奴か?


 

ゼノン:……いや、そう言う訳じゃねえけどよ。なんだ……その……。
    旅してたら迷ったんだわ。そう、行き倒れってやつ。

 


男:旅ねぇ。でも今や大陸一の国家、ランディール王国を知らねえなんて、ちと世間知らずじゃねえか?


 

   (間・5秒)


 

ゼノンM:ランディール王国。十数年前に滅んだ巨大国家で、ランディール王家……俺の親父や兄貴が治めてた国だ。
     国はラインの襲撃によってあっけなく滅び、現在は瓦礫しか残っていない。
     今は仲間として一緒に旅をしているが、隣にいるアリスは国を襲撃したラインの一人だ。
     ……この景色は俺にとっても、アリスにとってもいい気分ではないだろう。

 


   (間・5秒)

 


男:どうしたんだよ、ぼーっとして。


 

ゼノン:ら、ランディールって……。ちょっと待てよ、なんで滅んだ国が――


 

アリス:(遮るように)あぁ、すみません! ちょっと私たち、田舎から出て来たもので! それじゃあ失礼します!
    行きましょう、ゼノンさん!

 


ゼノン:うぉっ!? お、おいアリス! 引っ張んなって!


 

男:お? ……なんだったんだ、一体。


 

   <場面転換――人気のない路地裏>

 


アリス:……ここなら大丈夫でしょう。

 


ゼノン:まずは状況整理だ。何が起こっている?

 


アリス:分かりません。ですが確実なことは一つ――

 


ゼノン:滅んだ国が蘇ることはないってか?

 


アリス:……はい。

 


ゼノン:……と言うことは、大体検討はつくな。過去に飛ばされたか、もしくは幻影。
    まあそんなことをするのはラインか「壊れた時計」の奴らだろうな。
    最も、俺らは両方から目を付けられてるから、どっちの仕業かは分からねえがな。

 

   
アリス:どちらにしろ、建物や人、全てを再現してるみたいです。下手なことを言って荒波を立てないようにしましょう。


 

ゼノン:……あぁ、そうだな。ところでエストは?


 

アリス:エストならそこに――


 

ゼノン:……いねぇぞ。


 

アリス:ありゃ?


 

ゼノン:……マジかよ。

 

 

 

―――――――――――――――――――
【シーン3:とある男と少女】


 

   (一方、「壊れた時計」のアランは一人、思考しながらランディール王国の中を彷徨う。)


 

アラン:あの建物も、この店も、見覚えがある。ここは……ランディール王国か? 馬鹿な……一体なぜ……。
    いや、決まっている。あの女の仕業だろう。こんな特異な事が出来るのは……ラインだろうな。


 

アラン:ふむ……仲間の姿も無い……。逸れたのか? それとも俺だけが連れて来られたのか?


 

アラン:それにしても、ただ国を再現しただけだろうか? それともこの空間を作り出した者の意思によって動いてるのか?
    ……何にせよ、下手な行動は出来んな。


 

男:うわぁあ、ラインだぁあああ!!!


 

アラン:っ!?


 

   (男は獣のラインに追いかけられ、こちらへ向かっている。)


 

男:ひっ、ひぃいいいいいい!


 

アラン:退け。俺がやる。あんたは逃げろ。


 

男:あ、ありがてぇ!


 

アラン:真相はどうであれ、二度も俺の国を滅ぼそうとするか……。失せろ!


 

   (アラン、槍を一閃。ラインは弾き飛ばされ、動かなくなる。)


 

アラン:……この空間にあいつらもいたりするのだろうか?

 


エストリア:きゃぁああああああ!!!

 


アラン:ちっ! またラインか!?

 


   (ラインに追われるエストリア)

 


エストリア:わぁああああああ、なんなのよこれぇえぇえええええ!!!


 

アラン:お、お前は……!? エストリア!?


 

エストリア:あ!!! アランのにーちゃん! た、たすけてぇ!


 

アラン:伏せろ! はぁああああああ!


 

   (間・3秒。アラン、一撃で沈める)


 

エストリア:た、助かっ……ってないぃいいいぃ。また来たぁあああああ!!!


 

アラン:くっ、話は後だ! お前は隠れてろ。


 

エストリア:あ、あたしだって準備が出来てたら戦えるわよ! こ、今度は油断しないんだから!(二丁の銃を構える)


 

アラン:……くそ。(小さく呟く)


 

   (間・5秒。戦闘終了)


 

エストリア:ふっへぇー、やっとひと段落ね。あんがと、おかげで助かったわ。


 

アラン:……なぜ、お前がここにいる?


 

エストリア:何でって、あたしだって分からないわよ。皆とは逸れちゃったし。


 

アラン:……そうか。


 

エストリア:それで、ここは何なの? さっきまで平原にいたのに……なんで急に街にいるのよ。


 

アラン:ここは……ランディール王国。十数年前にラインによって滅ぼされた国だ。
    幻術か仮想空間……おそらく誰かの記憶をもとにつくられたモノだろう。


 

エストリア:ランディール王国……でもあたし、この国に住んでた憶えなんてないよ?


 

アラン:……おそらくこれは俺の記憶だ。それに巻き込まれたのかもしれないな。
    大方ラインの仕業か……。何にせよ、面倒なことになった。

 


エストリア:ちょ、ちょっと! それじゃああたし、とばっちりじゃない! あー、もう最悪!      

 


アラン:取り敢えず、ここを出るしかないな。


 

エストリア:あ、ちょっと待ってよぉー!


 

   (間・5秒。一人先行くアラン)


 

アラン:……くそっ! 寄りにもよって何であいつがここに……。


 

エストリア:ちょっと! 女の子を一人にさせるなんてヒドイじゃない!


 

アラン:(溜息)


 

エストリア:何が何でもついていくからね!


 

アラン:……好きにしろ。――ん? あれは?


 

エストリア:ごっついおっちゃんがラインに囲まれてる!? あの人も巻き込まれたのかな?


 

アラン:あれは……まさか……。くっ!!!(走り出す)


 

エストリア:な、なんで焦ってんのよ? ――あ!? 待ってー!


 

   (一人ラインに囲まれ奮闘している将軍ワイゼル・シーラー。)


 

ワイゼル:まさかラインが国内に侵入しているとは……。ええい! 警備は何をやっている!
     取りあえずここにいるラインをどうにかしなければ……。


 

アラン:はぁああああ!(ワイゼルとラインの間に割って入る)


 

ワイゼル:ぬ、助っ人か。助かる!


 

アラン:礼は後だ。取り敢えず、先に奴らを片付けるぞ。


 

ワイゼル:承知した、見知らぬ御仁よ。うぉおおおお!(ラインに斬りかかる)


 

アラン:見知らぬ……御仁、か。


 

ワイゼル:おい、そっちに行ったぞ! 気を付けろ!


 

アラン:いらん心配だ。ライン共よ、「壊れた時計」の力、しかと目に焼き付けるがいい! たぁああああ!


 

   (間・5秒。戦闘終了)


 

ワイゼル:ふんっ!(斬撃) ふー、これで全部か。それにしても強いな。おかげで助かった。


 

アラン:……。


 

ワイゼル:まだ名乗っていなかったな。俺はワイゼル・シー――


 

アラン:(遮るように)大国ランディールの軍を指揮するワイゼル将軍だろう。


 

ワイゼル:ぬ……。


 

アラン:世界各国の情報はある程度頭に入っている。……俺はアランと言う。


 

ワイゼル:アラン……奇遇だな、俺の息子も同じ名前だ。


 

アラン:そうか。……いくつだ?


 

ワイゼル:今年で18歳だったか。


 

アラン:まだ子供だな。……だが、それならこんなところで死ぬわけにはいかないだろう。


 

ワイゼル:ふっ、そうだな。あいつにはまだまだ鍛えてやらんといかん。


 

アラン:……そうか。


 

エストリア:かっこいいフンイキの所悪いけど、あたしのことも忘れないでよね!


 

ワイゼル:そちらのお嬢さんは?


 

エストリア:あたしはエス――


 

アラン:(食い気味で)この生意気な小娘はエストリア。訳あって行動をともにしている。


 

エストリア:なによ、名乗らせてくれたっていいじゃない! てか生意気ってなによぉ! このっ! このっ!


 

アラン:こいつも多少ラインとの戦闘経験がある。子供だからといって心配はしなくていい。


 

ワイゼル:そうか、それは頼もしいな。先ほどの戦いといい、我が軍の兵士に負けずとも劣らない……いや、それ以上の働きだった。
     ぜひ、我が軍に入ってもらいたい程だ。

 


アラン:……すまない、旅を止めるつもりはないんだ。


 

ワイゼル:だろうな。まぁ冗談として受け取ってくれ。だが、若いのに大した腕前だ。歳はいくつだ?


 

アラン:……28だ。


 

ワイゼル:その若さで……。息子もこれくらいに成長してほしいものだ。


 

アラン:……。


 

エストリア:どうしたのアランのにーちゃん。凄いしかめっ面だよ。


 

アラン:……気のせいだ。さて、行くぞ。エストリア。


 

エストリア:えー、少し休もうよー。


 

ワイゼル:行く当てはあるのか?


 

アラン:特に行く当ては無いが……。そうだな、強いて言えばラインの情報を探しに行こうと思う。


 

ワイゼル:それなら城に来てみてはどうだ? 城の図書室になら何かしら参考になる物があるかもしれん。


 

アラン:いや、それは――


 

エストリア:いーじゃん! 行こうよ! あたしお城見たい!


 

アラン:そう言いながら休みたいだけだろう。


 

エストリア:あ、ばれた? ……ダメ?(甘える感じで)


 

アラン:……はぁ。分かった。ワイゼル殿。少し、立ち寄らせてもらってもいいか。


 

ワイゼル:何かすまないな。さぁ、こっちだ。

 

 

 

――――――――――――――
【シーン4:兄と弟】


   (所変わってゼノンとアリス。ゼノンの幼い記憶の元に街を散策している。)

 


ゼノン:それにしても幻影とは言え……懐かしいな。完璧に再現してやがる。お、あの広場懐かしいなぁ!

 


アリス:……。

 


ゼノン:なぁに暗い顔してんだよ!(背中を軽く叩く)

 


アリス:ひゃっ!?


 

ゼノン:色々思うところはあるんだろうが、お前は変わったんだ。一々過去に振り回されてんじゃねえよ。


 

アリス:す、すみません……。


 

ゼノン:ほーらそのツラだ。もっと笑え! ほら、こうやってよぉ(頬を引っ張ったりする)


 

アリス:ひゃ、ひゃにひゅるんでひゅか(※な、何するんですか)


 

ゼノン:いいぞー、面白い顔だ。ぶははははは!


 

アリス:やめてくだ――さい! てかこれゼノンさんが楽しんでるだけでしょう!?


 

ゼノン:おうバレたか。


 

アリス:もう! ほんっとうにゼノンさんは――


 

ゼノン:ははは! あ? げ、あれは……っ!? やべっ!?


 

アリス:え? どうしたんですか? ――あいたっ!?(人にぶつかる)


 

少年:あ、ごめんなさい! お姉さん。


 

アリス:え、子供? ……ふふ、大丈夫です。でも、街中で走り回ってると危ないですよ?

 


少年:ごめんなさい……。折角お外に出たから楽しくてつい……。


 

アリス:外の空気は気持ちいですからね。その気持ち、分かりますよ。


 

少年:ね、ね! お姉さんは今一人なのですか?


 

アリス:え? えと、その……


 

ゼノン:一人一人(小声)


 

アリス:そ、そう。一人でちょっと散歩してたところなんです。


 

少年:そうなんですね! もしよかったら――


 

レヴィン:こら! 見つけたよ!


 

少年:ぎくっ!


 

ゼノン:ぎくっ!


 

レヴィン:いないと思ったらやっぱり城を抜け出してたんだね!


 

少年:あはは……。


 

レヴィン:あはは、じゃない! あれ程一人では行っちゃ駄目だと言ったのに。
     昔は僕も勝手に抜けて出してたから言える立場ではないけどね、外に出たいならせめて僕かアランに言って欲しかったな。


 

少年:ご、ごめんなさい。


 

レヴィン:……君が弟を見つけてくれたのかい? ありがとう。迷惑を掛けちゃったね。

 


アリス:い、いえ、私は特に。

 


レヴィン:それじゃあ、僕たちは失礼するよ。ほら、帰るよ、ゼノン。


 

アリス:え?


 

少年:はーい、お兄様。


 

   (間・5秒。レヴィンたち、去る)

 


ゼノン:……行ったか?

 


アリス:は、はい。まさか今の子供って……。

 


ゼノン:はぁ……隠しても無駄だろうな。あぁ、そうだよ。昔の俺だ。……んで、さっきのは兄貴。

 


アリス:あれが子供の時のゼノンさん……。ふぅん。ふふふ(楽しそうに)

 


ゼノン:なんだよ。


 

アリス:いいえー? なにもー? うふふ。


 

ゼノン:言いたいことがあるなら言えって。


 

アリス:あーんなに可愛かったのに、こんなにもスレちゃって……。お姉さんは悲しいですよ。


 

ゼノン:誰がお姉さんだ。てか余計なお世話だ、ほっとけ。


 

アリス:なんで、お兄さんに声を掛けなかったんですか?


 

ゼノン:俺が成長した弟ですーとか言えねえだろ。


 

アリス:まぁ、こんなスレて成長してしまった弟を見たら倒れてしまいそうですからねぇ、ふふふ。


 

ゼノン:言ってくれるじゃねえか。おらおら。(頭をわしゃわしゃする)


 

アリス:あいたたたた、女の子に手を上げるなんて最低ですよ!


 

ゼノン:こんなの手を上げる内に入らねっての。ほーれ。


 

アリス:いたい! いたいですって!


 

ゼノン:……話したら、心が揺らいじまいそうでな。


 

アリス:そう……ですか。


 

ゼノン:無駄話はここまでだ。情報収集するぞ。


 

アリス:あ、待ってください!


 

男:うわあああああ!


 

ゼノン:っ!? 悲鳴!?


 

アリス:お兄さんが向かった先です!


 

ゼノン:くそっ! 行くぞアリス!


 

アリス:はい!


 

   (間・5秒。襲い掛かるライン。)


 

兵士A:れ、レヴィン様! 早くお逃げ下さい!


 

レヴィン:僕の事は心配しなくていい。それより街の皆を……後、弟を安全な場所に避難させてあげて欲しい。


 

兵士A:はっ。すぐに……すぐに援軍を呼んでまいります!


 

レヴィン:うん、ありがとう。


 

少年:お兄様! 僕も戦います!


 

レヴィン:ふふ、気持ちだけ受け取っておくよ。さ、お行き。


 

少年:お兄様!!!


 

兵士A:さぁゼノン様、こちらへ――


 

レヴィン:……さて、どうするか。兵士たちが来るまで時間稼ぎが出来るかどうか。


 

ゼノン:おいおい、一人でこの数を相手にするなんて無茶し過ぎだろ。

 


アリス:私たちもお手伝いします。

 


レヴィン:君たちは……さっきの。いや、駄目だ。危険すぎる!


 

ゼノン:あんた一人で無茶させる方が危険すぎるっての。
    俺たちはあんたより場数踏んでんだ。余計な心配なんてせずに、ちゃちゃっと倒そうぜ。


 

レヴィン:ふふ、頼もしい限りだね。分かった。君たちを頼らせてもらうよ。


 

ゼノン:へっ、言われなくても。てぁあああ!

 


レヴィン:……凄いな、圧倒される。どうやら場数を踏んでるのは本当みたいだね。

 


ゼノン:だから最初から――そう言ってんだろっ!

 


アリス:ゼノンさん、貴方も無茶は禁物ですよ。(耳打ち)

 


ゼノン:あぁ、分かってるって――おらぁっ! アリス! そっち行ったぞ!

 


アリス:え……? 

 


レヴィン:……あ。


 

ゼノン:お、おい、冗談じゃねぇぞ――兄貴!!!


 

レヴィン:くっ! 僕だって城で何もしなかった訳じゃないんだ! やぁああああ!(ラインを斬り捨てる)

 


ゼノン:……俺の方が余計な心配だったか。なんだよ、意外といい腕してんじゃねぇの。


 

レヴィン:ふふ。そう言えば言ってなかったね。僕はこの国の王子だ。ラインに対抗する護身術位弁えてるさ。


 

ゼノン:そいつぁ何よりだ。


 

アリス:あ、ラインたちが逃げて行きました。


 

兵士A:レヴィン王子! お待たせしました。


 

レヴィン:こっちは大丈夫だよ。君たちは逃げたラインを追ってもらってもいいかな?


 

兵士A:はっ! では、失礼します!


 

レヴィン:……後は兵士たちが何とかしてくれるだろう。ありがとう、助かったよ。えっと――


 

ゼノン:えぇっと……名前は……。


 

アリス:私は、アリス・ポルテと言います。隣は一緒に旅をしてるゼノールです。


 

ゼノン:ゼノール……。
    

 

レヴィン:よろしく、アリス君、それにゼノール君。……そう言えばゼノール君、さっき僕の事を兄と言ったかい?


 

ゼノン:え? あ、あぁ……えぇっと……。あんた、俺の兄貴に似ててつい叫んじまったんだ。


 

レヴィン:なんだ、そうだったんだね。君がこんなに強いんだ。君のお兄さんはさぞかし強いんだろうね。


 

ゼノン:……さぁ、どうだっけな。


 

少年:お兄様!

 


レヴィン:ゼノン! よかった、無事だったんだね。

 


少年:うん!


 

アリス:ふふ、よかったですね。よしよし。


 

少年:えへへー。


 

レヴィン:とにかく、こんな所で立ち話もなんだ。落ち着いた場所で話さないかい?


 

ゼノン:……そうだな。


 

レヴィン:喜んで歓迎するよ。さぁ、こっちだ。


 

   (間・5秒。レヴィンたちの後ろを歩くゼノンとアリス。)


 

ゼノン:おい、アリス。


 

アリス:なんですかゼノンさん? あぁ、お礼なんて結構ですよ。
    いやー、ナイスなフォローでしたね、私。これは美味しいお菓子屋さんを紹介してもらってもいいくらいです。


 

ゼノン:お前、名付けのセンス無いだろ?


 

アリス:んな!? し、失礼な! 頑張って考えたんですからね!?


 

ゼノン:へっ、どうだか。


 

アリス:あの時ゼノンさんも固まってたから優しくて素敵な私が手を差し伸べてあげたのに……酷いです!


 

ゼノン:ハイハイ、アリガトウゴザイマス。

 

 

 

――――――――――――――――――
【シーン5:劇場外】


 

ウェイミー:ラインを嗾(けしか)けるだけじゃ、やっぱり駄目か。


 

グラハム:どうする、ウェイミー?


 

ウェイミー:まあまあ、グラハム。これは単なる前座。役者を引き立てるには大事なことだよ。


 

グラハム:負け惜しみにしか聞こえんな。


 

ウェイミー:まあどう解釈してもらっても構わないよ。何故彼らを選んだのか……君は分かるかい?

 


グラハム:面倒な言い回しは好かん。簡単に言え。

 


ウェイミー:ただの思い出巡りじゃボクたちが詰まらない。彼らの中で燻っている想いに火を点けるのさ。
      故郷を想う心、家族への愛、友の絆。そして仇への憎しみ。

 


グラハム:……ふん。

 


ウェイミー:人の心は強くない。些細なきっかけで揺らぎ、脆く崩れ去る。グラハム、君が武器を取るのはまだ早い。
      紅茶でも飲みながらゆっくり観劇しようじゃないか。


 

 

―――――――――――――――――――
【シーン6:貴方の背を越えるために】


   (ランディール城城内、図書室にて。過去の幻影に迷い込み、
        現状を打破するために資料を漁るアランと、手持無沙汰のエストリア)


 

エストリア:うー。ひーまー。

 


アラン:……違う、この資料では古すぎる。


 

エストリア:本ばっかり読んでないでかまってよー。


 

アラン:……いや待て、むしろ伝承に纏わる資料の方がいいのか。


 

エストリア:てやっ!(背中に飛びつく)


 

アラン:……それにしても参考になる資料が少ないな。


 

エストリア:飛び乗ったってのに、ちょっとは動じなさいよぉ……。
      ――てか、あんた見た目に寄らずガッシリしてんのね。

 


アラン:あぁ、そうか……まだこの時はラインの存在が殆ど知られていない時代か。道理で情報が少ない訳だ。


 

エストリア:ふぅん。でもあんた、ここに住んでたんでしょ? 思い出せないの?


 

アラン:……十年以上前の事を事細かに覚えていると思うのか?


 

エストリア:アランのにーちゃんなら覚えてそう。なんか無駄に几帳面っぽいし。


 

アラン:余計なお世話だ。


 

   (ワイゼル、図書室に入室)


 

ワイゼル:――調べ物は捗っているか?


 

アラン:……いや。


 

ワイゼル:すまないな。ここなら何かしら情報が得れると思っていたのだが……。

 


アラン:いや、あんたは何も悪くない。……さて、どうしたものか。

 


ワイゼル:煮詰まっているようだな。


 

アラン:あぁ、手詰まりだ。(間・3秒) ……そうだ。ワイゼル殿。


 

ワイゼル:どうした?


 

アラン:俺と手合わせしてくれないか? 体を動かして気分転換をしたい。


 

ワイゼル:……ほう。


 

   (図書室にいる兵士たちが騒めく)


 

兵士B:え……。あの男、将軍と試合をするつもりか? どれだけ自分の力に自信が……。
    いや、それよりも! 将軍! そんな男とより私と稽古を付けてください!


 

ワイゼル:……ここで話す話題では無かったな。いいだろう。外の訓練所に向かうとするか。


 

アラン:あ、あぁ……。それにしても、随分と兵士たちから信頼を得ているようだな。


 

ワイゼル:俺はそのつもりは無いんだがな。もっと訓練を厳しくしてもいいかもしれん……。


 

兵士B:う、なんか物騒な話が聞こえた……。


 

ワイゼル:余り話が広まらない内に、行くぞ。

 


   (間・5秒。場所は外の訓練所。多くの兵士が観客としている中、その中心でアランとワイゼルは模擬刀を携えている)


 

エストリア:なーんて言ってたけどさ……凄い人だかりなんだけど?


 

兵士A:あの男か? 将軍と手合わせするって言った命知らずは……。


 

ワイゼル:仮にも俺は一国の軍を仕切る将だ。そう簡単に負けてやらんぞ。


 

アラン:……よろしく頼む。


 

兵士A:えーおほん。それでは僭越ながら私が――試合、始め!


 

アラン:先手必勝! うおおぉおおおおおお!


 

ワイゼル:早いな……しかし!


 

アラン:……ぐっ!(鍔迫り合いに持ち込む)


 

ワイゼル:ほう、力比べか。……若造が!


 

アラン:くぅ……、なんという怪力……。ふっ、変わらないな……(小さく)
    だが――


 

   (アラン、ワイゼルの剣を捌いて隙を作る)


 

ワイゼル:ぬっ!?


 

アラン:力で勝てないなら、違う方法で攻撃を当てる!(懐に重い蹴りを一発)


 

ワイゼル:ぬぉっ!


 

兵士A:おぉ! あの男! 将軍の攻撃を捌いて蹴りを入れたぞ!


 

アラン:……タフだな。力を抜いたつもりはないんだがな。


 

ワイゼル:ふっ、伊達に前線で戦っていないからな。鍛え方が違う。


 

アラン:なら、もう一度入れてやる!


 

ワイゼル:何度も同じ手を喰らうか!(間合いを詰める)


 

アラン:うっ!


 

ワイゼル:そら、捕まえ――たぁ!(アランを掴み、手掴みで投げる)


 

アラン:がっ……!


 

ワイゼル:ふ、まだまだだな。


 

アラン:そうだな……まだまだ――だッ!!!(仕返しで巴投げ)


 

ワイゼル:むん!!? ぐっふ!


 

アラン:ごほっ……。俺だって……強くなってるんだ。負けっぱなしなんて……ごめんだ。

 


ワイゼル:負けっぱなし……? 

 


アラン:ワイゼル殿、続きをしよう。

 


ワイゼル:……あぁ。行くぞ、アラン!
     そしてお前たちもしかと見ていろ! このワイゼルの、そしてアランという戦士の強さを!

 


兵士A:は、はい!


 

二人:うぉおおおおおおおおああああ!

 


エストリア:……なーんか、楽しそう。ふふ。

 


兵士B:わ、ワイゼル将軍!


 

アラン:……ん?(間合いを取って構えを解く)


 

ワイゼル:……何事だ。


 

兵士B:国境警備隊からの連絡です。国境付近でラインが現れた模様です!


 

ワイゼル:そうか。規模は如何程だ。


 

兵士B:数はそこまで多くないという事ですが……いかがいたしましょうか。


 

ワイゼル:少ないからといって油断は出来ん。全力で迎え撃つ。お前は警備隊にそう伝えておいてくれ。
     俺は陛下に報告した後、軍を編成して直ちに向かう。

 


兵士B:はっ! 失礼します。


 

アラン:ラインか……。


 

ワイゼル:あぁ。すまんな。決着は着けられそうにない。


 

アラン:気にしなくていい。……そうだ、俺も加勢させてくれないか?

 


ワイゼル:……これは俺たちの国の問題だ。いくらお前が強くても、そこまでしてもらうと俺たち軍の立場が無い。

 


アラン:そんなことを気にしている場合では――

 


ワイゼル:失礼する。(去る)

 


アラン:……くっ!

 


エストリア:アランのにーちゃん、どうするの?

 


   (突如どこからともなく現れるウェイミー)

 


ウェイミー:あははははは! どうするも何も、分かってるんじゃあないのかい?

 


アラン:っ!? 

 


ウェイミー:歴史は変えられない。これで分かっただろう? アラン。
      君も知っている通り、英雄ワイゼル将軍は、この戦いで命を落とすことになる。

 


エストリア:あ、あんた、一体どこから……。

 


アラン:貴様……! はぁッ!(攻撃)

 


ウェイミー:あはは、無駄だよ。ここにいるボクは実体を持たない幻影。いくら攻撃しても消えはしない。

 


アラン:……ちっ。

 


ウェイミー:そう睨まないで欲しいな。死に行く彼を助けに行けないその怒り、その悔しさ、ボクには分かるよ!
      だから――とっておきの舞台を用意してあげたんだ。それ!

 


アラン:な――(違う空間に消える)

 


エストリア:え!? いなくなった!!? ちょ、ちょっとあんた! アランのにーちゃんを何処にやったのよ!

 


ウェイミー:そしてお嬢さん、君には特別席を用意してあげよう。(指ぱっちん)

 


エストリア:え……うわ……な、なにこれ!? きゃぁあああああああ!?(アランとは別の空間に消える)

 


ウェイミー:思い出話はこれでお終い。後は君たちをじっくり心と体をいたぶってあげるよ。ふふ、あははははははははは!

 

 


――――――――――――――――――
【シーン7:離れる心】

 


   (ランディール城、応接間。紅茶を飲みながらゼノンたちはレヴィンと話している)


 

レヴィン:――そうなんだ。君たちは世界を巡る旅をしているんだね。


 

ゼノン:まぁ、そういう事だ。


 

レヴィン:世界は突如現れたラインという怪物によって騒がれているのに、大変だろう?
     あぁ、でもさっきの戦いを見る限り、心配は無さそうかな。


 

ゼノン:……この国は……大丈夫なのか?


 

レヴィン:……。


 

ゼノン:あ……、あぁすまん。別にあんたの国を詮索してる訳じゃねえんだ。


 

レヴィン:いや、疑ってるわけじゃないよ。……ここ最近、ラインによる侵攻が激しくなってきていてね。
     今のところ軍が追い払ってはいるけど……。


 

アリス:……けど?


 

レヴィン:日に日に強くなっているんだ。まるでこちらの戦力を図るかのように……。


 

アリス:そ、そうですか……(挙動不審)


 

ゼノン:……。そうだ、弟はどうした?


 

レヴィン:ゼノンのことかい? 城を抜け出して疲れたのか、部屋でぐっすりと寝ているよ。

 


ゼノン:……迷惑だったか?

 


レヴィン:え? ははっ、そんなまさか。昔は僕も付き人のアランを連れて城を抜け出していたからね。
     城の外に興味を持つのも分かる。抜け出したゼノンを追うことを口実に、僕も外に出られるし、なんてね。
     勿論、一人で抜け出すのはいただけないけど。


 

ゼノン:そうだな。もし悪い奴らに掴まったりでもしたら、王家の身分を盾にして好き勝手要求してきそうだしな。


 

レヴィン:んー、ゼノール君。本当にそう思うかい?


 

ゼノン:え?


 

レヴィン:捕まってリスクがどうのってのは確かにその通りなんだけど……。
           もしかしたら道に迷ってないか、もしかしたら転んで怪我でもしてないか。僕は単純に心配なんだ。
     僕たちは王族である前に兄弟なんだから。


 

ゼノン:……。


 

レヴィン:どうしたんだい? 僕、変なことを言ったかな?


 

ゼノン:あ、いや……。弟想いなんだな。

 


レヴィン:あぁ、まだ幼いのに色んな事に興味を持っていて、人の気配りもできる。自慢の弟さ。少しヤンチャだけどね。


 

ゼノン:……そんなに想われてる弟は、さぞかし幸せだろうな。

 


レヴィン:あはは、よしてくれ、照れちゃうよ。


 

   (過去のアラン、部屋のドアをノックする)

 


アラン:レヴィン、いるか?


 

レヴィン:あぁ、アランか。入っていいよ。


 

アラン:失礼する。……ん?

 


レヴィン:あぁ、彼らは僕とゼノンがラインに襲われているところを助けてくれたんだ。


 

アラン:ラインに……そうだったのか。私はアラン・シーラー。レヴィン王子の付き人をしている。
    先は我が主を救っていただき感謝する。


 

ゼノン:あ、あぁ。俺は……ゼノールだ。


 

アリス:私はアリスです。よろしくお願いします。


 

アラン:あぁ、よろしく……ん? ちょっと待て。

 


レヴィン:どうかしたのかい? アラン。

 


アラン:ゼノールと言ったか。その耳のピアス……。


 

ゼノン:え? ――あ。

 


アラン:ランディール王家のデザインだな。何故、お前のような者が身に着けている?


 

ゼノン:あ……これは……。


 

アラン:……盗んだのか? 返答次第では……この場で切り捨てる。


 

ゼノン:いや……その……あれだ! 似せて作ってもらったんだよ! か、格好良かったからさ!


 

アラン:贋作としてはえらく精巧な作りだな。まるで本物のようだ。
    それに、王家の物を似せて作るとは……王家に対する侮辱として捉えることもできる。さあ、真実を答えろ!


 

ゼノン:くっ……。


 

アラン:客人とは言え……致し方ない。はぁああ!


 

レヴィン:待てアラン!


 

ゼノン:ぐっ……! くそっ! おい、アリス! 逃げるぞ!


 

アリス:は、はい!(共に逃げる)


 

アラン:おい、待て!!! ――くっ、見失ったか。レヴィン、どうする? 追っ手を仕向けるか?

 


レヴィン:……いや、放っておこう。

 


アラン:だが……いや、いいのか? もしかしたらお前に言い寄って盗みを働く賊かもしれないんだぞ。

 


レヴィン:僕の勘だけど……彼らはそんなんじゃないと思うんだ。言葉は乱暴だけど、きっと悪い人たちじゃない。

 


アラン:……。


 

レヴィン:信じてくれないかい? アラン。


 

アラン:……お前がそういうのであれば。


 

レヴィン:ありがとう。


 

   (間・7秒。人気のない路地裏に身を潜めるゼノンとアリス)


 

ゼノン:ああああ! くそっ! なんでだよ!!! なんでこうなるんだよ!


 

アリス:ゼノンさん! 落ち着いてください!


 

ゼノン:……へへ、せめて夢の中だけでも幸せになれると思ったんだけどな。
    酷い仕打ちだぜ。未来からやって来たあんたの弟だなんて口が裂けても言えるわけねえだろうが……。
    こんな俺が弟だなんて知ったら兄貴……悲しむに決まってんだろ、ちくしょう。


 

アリス:ゼノンさん……。


 

ゼノン:俺だって言いてぇよ。本当の事を言えたらどれだけ楽か……。

    でも出来ねえんだよ! 兄貴……あんな風に想っててくれたのか……。くそっ……。

 


アリス:……過ぎたことは仕方ありません。もしかしたら追手が来るかもしれません。場所を移しましょう。


 

ゼノン:過ぎたこと……か。へへ、誰のせいだよ……。


 

アリス:え……?


 

ゼノン:俺は小さい頃に全てを奪われたんだ。国も、家族も……全て……。
    あんなことが無かったら……ラインが襲ってこなかったらきっと、今みたいに笑って暮らせたんだろうよ。


 

アリス:そ、それは……。


 

ゼノン:……国を滅ぼしたあんたには分からねえだろうな。


 

アリス:っ! わ、私は……。


 

ゼノン:何も失ってないあんたには何も――(アリスの平手打ち)


 

アリス:ゼノンさん……貴方には私が好きで人を殺してるように見えていたんですね……。


 

ゼノン:……。


 

アリス:私だって! 私だって人を殺したくなかった! もっと人間の事を知っていれば! もっと自分自身考えて行動していれば!
    ……あの出来事を防げたかもしれないのに。ただ無知であったために私は……多くの人を……。

 


ゼノン:……あ。す、すまん。言いすぎた。(我に返る)


 

アリス:……ごめんなさい。――失礼します。(走り去る)


 

ゼノン:あ!? おい、アリス!!? あぁ、くそ……何やってんだ……俺は……。
    俺だって同じじゃねえか。憎しみに突き動かされてラインを手当たり次第殺しちまった。
    ラインにも家族がいるのに……。くっそ、どうしていつもいつも、こうなっちまうんだ。情けねえ。

 


   (間・5秒。一人で街を歩くアリス)


 

アリス:……私だって……。

 


   (アリス、リシリアとぶつかる。)

 


リシリア:きゃっ!?

 


アリス:あ……。す、すみません。


 

リシリア:い、いえ大丈夫ですよ。貴女こそ、大丈夫ですか?


 

アリス:私は大丈夫です……。すみません、失礼します。


 

リシリア:待って。

 


アリス:え――


 

リシリア:そんなに目を腫らして、大丈夫には見えないです。


 

アリス:あ……。


 

リシリア:貴女の気持ちが軽くなるなら、私で良ければ、話を聞きますよ?

 


アリス:……。


 

リシリア:ほら、ハンカチで涙を拭いて。腰を下ろせるところにでもいきましょうか。


 

アリス:あ……ちょっと……。


 

   (間・5秒。近場にある広場で落ち着く二人)


 

リシリア:はい、飲み物でもどうぞ。


 

アリス:あ……ありがとうございます。

 


リシリア:そう言えばまだお互いに名乗ってもいなかったですね。私はリシリア。あなたは?

 


アリス:……アリスといいます。

 


リシリア:アリスさん、素敵なお名前ですね。

 


アリス:……ありがとうございます。

 


リシリア:……誰かと喧嘩でもしたんですか?


 

アリス:……まぁ、そんな感じです。……ただ本当の事を言われて……つい……。


 

リシリア:……そうですか。


 

アリス:私は昔……大きな過ちを犯して、その人を傷つけてしまいました。いえ、その人だけじゃない。
    数えきれない程の人たちを不幸にしてしまいました。

 


リシリア:……。

 


アリス:自分は変わったと思っていましたが……、やっぱり過去は消せないものですね。

 


リシリア:……そうかもしれませんね。貴女が何をしたのかは知りませんが、多くの人を傷つけてしまったのなら、
     それは貴女の心、そして犠牲となった人たちの心に永遠に残るでしょう。
     消すことはきっと叶わないはずです。

 


アリス:そう……ですよね。

 


リシリア:貴女は自分の罪を償うために生きているんですか?


 

アリス:……え。


 

リシリア:そのつもりならおそらく貴女の罪が消える事は一生訪れることはないと思います。
     人を傷つけるとはそう言うものです。たとえ自分にとっては小さなものでも、相手にとっては大きな傷かもしれません。
     一時は笑って許してくれるかもしれませんが、本当は心の奥底で泣いているのかもしれません。


 

アリス:っ!

 


リシリア:アリスさん。貴女は今、何を望み、何をしようとしていますか? 

 


アリス:私は……。

 


リシリア:……。


 

アリス:私は……皆に私と同じ過ちを繰り返さないようにしてほしい。
    大切な人を傷つけてしまって、自分も相手も悲しい思いをしないでほしい。
    だから私は……そのような事を起こさせないためにも旅を続けているんです。


 

リシリア:そうですか。アリスさん。


 

アリス:……はい。


 

リシリア:貴女は今、しっかりと前を現実を見据え、素敵な顔をされています。


 

アリス:あ……。


 

リシリア:過去を忘れろとは言いません。自分がしてきたことも、

     奪ってきた幸せも全て抱え込んで、これから先を歩んで欲しいと、私は思います。

 


アリス:は、はい!


 

リシリア:ふふっ、元気が出たようでなによりですよ。


 

アリス:あ、ありがとうござ――


 

男:あ、あんたたち!

 


リシリア:どうかしたんですか?

 


男:この近くにラインが来てるらしい。危険だから早く家の中に隠れたほうがいいぞ!

 


アリス:ラインが……。そうだ!


 

リシリア:あっ! アリスさん!?


 

アリス:リシリアさん、話を聞いてくださってありがとうございます! 私、ちょっと用事を思い出しました!


 

リシリア:……心は決まったようですね。


 

アリス:えぇ。昔の自分に別れを告げてきます。


 

リシリア:そうですか。深くは聞きませんが、そんなに素敵な笑顔で言われると止めるなんて野暮なことは出来ませんね。
     ――いってらっしゃい、アリスさん。


 

アリス:はい。……いってきます。

 

 

 

後編へ続く

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