『Links』 第18話 ― ゴアス防衛戦1・全ては友のために ―
【登場人物】
〇リィ・ティアス(♀) 17歳
「ライン」と呼ばれる怪物によって両親は殺され、
その数年後、唯一の肉親である兄が失踪したため、今は一人で暮らしている。
本来は素直で明るい性格だったが、過酷な環境と一人で生きてきたため気が強い性格になってしまった。
〇レイジス・アルヴィエル(♂) 17歳
リィと同じ学園に通う生徒。学園内ではいつもリィとアリスと一緒にいる。
性格は穏やか。明るくノリは軽い。心優しい性格だからこそ、相手を傷つけないように言葉を選ぶため、
ヘタレのレッテルを張られている。
〇ゼノン・ランディール(♂) 25歳
ゴアス帝国南部司令官のココレットのライン研究の手伝いをしている傭兵の男。
本人は殆ど口にしないが、今は亡きランディール王国の王レヴィンの弟。
幼い頃に国が滅び、傭兵としてラインと戦ってきたため、立派な体躯をしており、
ついでに性格も荒くなった。
〇エストリア(♀) 12歳
かつては現ゴアス軍南部司令官のココレットが経営していた帝国南部にある孤児院に住んでいた少女。
今は孤児院を出て一人旅をしている。孤児院で過ごしてきたせいか、気が強くお転婆な性格。
〇ココレット・フランチェスカ(♀) 30歳
ゴアス帝国軍南部司令官。かつては有力貴族として名を馳せたフランチェスカ家の娘。
貴族社会に嫌気がさし、屋敷を孤児院にして、
ランディール王国の滅亡によって流入してきた孤児たちを預かっていた。
当時のゴアス帝国は各国で戦争をしていたが、ラインの脅威に気付き司令官になった。
誠実で心優しい性格のためか、若いながらも帝国の重役から信頼されている。
〇シェリル・メレディス(♀) 10代後半(見た目年齢)
9時の少女。ランディール王国が崩壊した際、難民としてゴアス帝国に流入する。
当時孤児院を営んでいたココレットに拾われ、生きながらえる。
過酷な環境で生きていたにも関わらず、性格は明るく、
空気を読めない程の元気さがあるのは、一重にココレットに拾われたからのものである。
〇バリウス(♂) 見た目年齢
3時の男。元ゴアス帝国軍総司令官。かつてゴアス帝国がラインに襲われ、大規模な被害を出した。
ラインの脅威と己の無力さを知り、絶望していた所、組織「壊れた時計」の存在を知り、組織に加わる。
豪胆な性格で、人類だけの平和な世界を望む故に、ラインに対しては絶対的な敵視をしている。
〇グラン(♂) 50代(見た目年齢)
ゴアス帝国東部地域を担当する司令官。その正体は首なしの鎧騎士「デュラハン」
根っからの武人気質。不愛想で寡黙。
何故ラインの彼が東部司令官をしているのかは不明。
〇ヴェルギオス(♂) 20代後半(見た目年齢)
かつては少女アリスと共に行動していた吸血鬼のライン。戦闘能力はラインの中でも屈指。
自信家。仲間意識が強いせいか、アリスが抜けた事に対して酷く執着している。
○クロックマスター(♂) 70代(見た目年齢)
組織「壊れた時計」を作った男。今はクロックマスターと名乗っている。
かつては主人公リィの父親と共にラインに対する研究をしていたが、
家族がラインに殺されて以来、復讐心に憑りつかれる。この世からラインを消し、人間だけの世界を望む。
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【役配分】
(♀)リィ
(♂)レイジス
(♂)ゼノン + バリウス
(♀)エストリア
(♀)ココレット
(♀)シェリル
(♂)ヴェルギオス + クロックマスター
(♂)グラン + 副司令官 + 兵士
計♂4 ♀4
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【用語】
ライン:つまるところ怪物。モンスター。おとぎ話、伝説と呼ばれた生物のことを指す。
現在、そのラインが世界各国に出没し、人間に害を与えている。
イントネーションはフルーツの「パイン」と同じ。
魔鉱石:特殊なエネルギーを含んだ鉱物。この世界では照明器具の光や暖房 器具の熱などを作るために、この石を埋め込み、
その力を媒介としている。
また、魔鉱石の純度によっては強大な力を含んでいるが、扱うには体にとてつもなく負荷がかかる。
――――――――――――――――
【シーン1】
(ゴアス共同墓地にて、兄の墓に花を供えるココレット)
ココレット:……兄さん。暫く来れなくてすみませんでした。お元気でしたか? 私は元気でやっています。
あなたが反対していた軍の司令官も……まだ続けています。
兄さん。エスト、また身長伸びたんですよ。やんちゃなのは変わりませんけど、元気にしています。
あともう一人……「あの子」 はまだ見つかっていません。どこにいるのか、どこで生活しているのかすら、
生きているのか死んでいるのかさえ分かりません。そっちに来ていませんか?
もしそっちにいるなら叱ってやってください。私が心配していたって。
兵士:ココレット司令官、お時間です。
ココレット:はい。(間・3秒。空を見上げながら呟くココレット)
あなたは今どこにいるんですか? ……「シェリー」。
――――――――――――――――
【シーン2】
(場所は変わり、組織「壊れた時計」のアジト。3時の男バリウスと、9時の少女シェリルは、
クロックマスターの指示を受けている)
バリウス:なんだと!?
クロックマスター:人間に扮していたゴアス帝国軍東部司令官が大量のラインを引き連れ反乱。残念ながら事実だ。
バリウス:東部……グランか。あの男がラインだっただと? あやつは俺がゴアスにいた時からずっと――
くそっ! 何故今まで気付かなかったのだ!
シェリル:その司令官さん、今どこまで来てんの?
クロックマスター:既に北部は陥落、各地域――特に中央を牽制しつつ、兵力の大半は西部へ進行している。
西部を攻略すれば南部を占領し、ゴアス皇帝や最高司令官のサネル率いる中央を包囲するつもりだろう。
シェリル:南部……。
クロックマスター:このままゴアスが陥落するのも時間の問題だ。
ただの人間とはいえ、今ゴアスの兵力を失うのはこちらとしても大損害なのは皆も承知だろう。
早急にラインの殲滅に向かって欲しい。
バリウス:こちらのメンバーは?
クロックマスター:……各地域で大規模のラインの襲撃が続いていてな。2時と6時は東の島「トーア国」へ。
7時と11時は「オルテア小国」へ。10時と12時は「ジェナ・リースト共和国」へ向かっている。
バリウス:……まさか。
クロックマスター:あぁ。こちらから「壊れた時計」のメンバーを差し向けざるをえない状況を作り、
敵の――「バフォメット」オズィギスの思惑通り、戦力を分断されてしまった。
シェリル:今おるメンバーはウチと……バリウスのおっちゃん?
クロックマスター:あぁ。3時のバリウス、9時のシェリル。お前たちにはゴアス帝国に向かい、
ゴアス軍東部司令官もといライン、グランを討伐せよ。
バリウス:承知し――
シェリル:はよいくで、おっちゃん!
バリウス:お、おい、待て!
(間)
バリウス:シェリル、何を焦っている。
シェリル:あ、焦ってなんかない!
バリウス:……ふざけるなよ、小娘!
シェリル:ひゃっ!? なんや、いきなり……。そんなに怒らんでもええやろ……。
バリウス:お前が何を焦っているかは知らんが、焦りは隙を生む。
エレアードやナガレのようになりたくなければ気をつけることだ。
シェリル:……うん。ごめん。
バリウス:謝る必要はない。お前が死んでしまったらまた戦力が減るからな。ただでさえ数が少ないのだ。
シェリル:……せやな。
バリウス:先ずは西部から侵入しラインを撃退、その後俺は北から、
お前は南からラインを打ち倒しながら東部、グランを目指せ。
シェリル:分かった。あいつらの好きにはさせへんで!
バリウス:あぁ。ラインは須(すべか)らくこの世から消してくれる。
――――――――――――――――
【シーン3】
(一方、東部司令官のグランたち。東部軍前線基地にて。)
グラン:大陸一の軍事国家とは言え、所詮は人間が作る軍団か。我らラインの軍勢に対して余りにも無力。
……既に北部は我が東部軍の手に落ちた。そして西部は陥落寸前。残るは中央と南部のみ。
さて、どうするサネル、どうする人間共。
ヴェルギオス:随分と楽しそうじゃねえか。
グラン:ヴェルギオスか。……いやなに、武人の血が騒いだのだ。
それはそうと、お前はオルテア小国を襲いに行ったのではないのか。
ヴェルギオス:そんなのとっくの昔に終わったよ。
荒らしまわって、オルテアの軍と、出しゃばってきた「壊れた時計」の奴らを痛めつけて来た。
……メリアが死んで、あんたまで死んだら困るんでな。加勢に来てやったんだよ。
グラン:ふっ、それは助かる。兵は一人でも多い方が良い。
ヴェルギオス:それで、あんたの頭の中じゃどういう風に事が運ぶ予定なんだ、司令官さんよ。
グラン:今、我ら東部軍は北部を占領し、西部も手中に収めかけている。
このままいけば中央と南部に兵力を分担することになるが……ヴェルギオス、サネルたちはどう動くと思う?
ヴェルギオス:面倒な言い回しをするんじゃねえよ。
グラン:中央は帝国の要。さらにはあのサネルが指揮をする軍だ。そう易々と突破出来んだろう。
だが、言い換えればそこさえ突破すればこちらの勝利は必至。おそらく奴もそれを警戒しているはずだ。
――だが。
ヴェルギオス:何かいい策でもあるのか?
グラン:中央を攻めている内に、外側から南部が攻められるとは彼奴らは思うまい。
ヴェルギオス:中央を攻撃すると見せかけて本命は南部か。だが南部に移動している間に敵に気付かれるんじゃねえのか。
グラン:大軍であれば、な。少数精鋭で機動力を上げ、尚且つ大回りすれば敵に見つかることはない。
なに、南部の兵力など取るに足らん。軍を指揮するのも女だしな。
そうだな……ヴェルギオス、南部の攻略は私の副司令官に任せているが、お前も同行するか?
ヴェルギオス:おいおい、俺はオルテアを攻めたばかりだぜ? 人遣いが荒くないか?
グラン:歴戦の猛者のお主ならば、兵の士気も上がる。使える人材は使わんとな。
ヴェルギオス:そうかよ。まあいい、もうひと暴れしてきてやるよ。
グラン:頼んだぞ。私は西部を攻略し、中央軍に総攻撃をするように見せかける。
その間にお主は南部を落とし、中央を我らラインの軍隊で包囲するのだ。
いくら中央が精鋭部隊でも、囲まれれば一溜りも無かろう。
必ず勝つぞ、ヴェルギオス。
ヴェルギオス:あぁ。勝つのは俺たちラインだ。人間なんかに好きにさせねえよ。
――――――――――――――――
【シーン4】
リィM:平原にある宿屋で一泊したあたしたちはゴアス帝国に戻る。
泊まった宿からゴアスの中央、帝都に向かうには北部の国境門を潜るのが一番近い。
だけどその日、北部の門は固く閉ざされ、多くの兵士によって厳重に封鎖されていた。
あたしたちは仕方なく、迂回して東部に向かったが、東部もまた北と同じ様に閉鎖されいて、入れる様子ではなかった。
門番をしている兵士に理由を聞いても何も答えてくれず、エストリアの提案により南部に行ってみることにした。
南部も他の地域と同様に兵士によって厳戒態勢が取られていたが、
南部司令官のココレットさんと知り合いであったのが幸いして、なんとか中に入ることを許してもらえた。
……普段はこんなに厳重に警備されていないのに、何が起きてるのだろう。
(間・3秒。南部軍事基地。司令官執務室)
エストリア:ただいま! ココ!
ココレット:エストっ!? それにリィさんたちも……。
リィ:お久しぶりです、ココさん。……あの、一体何が起きてるんですか?
ゼノン:街も武装した兵士たちが彷徨いていて……まるで戦争でもするような雰囲気でした。
先生、教えてください。
ココレット:……そうですね、あなたたちには言っても大丈夫でしょう。
実は……ゴアス東部軍のグラン・ゴードン司令官が反乱を起こしました。
兵士たちの厳戒態勢も全て、彼らの襲撃を備えてのことです。
ゼノン:なんだって!?
ココレット:彼らはラインを従えて北部を占領し、各地域に兵を差し向けているようです。
レイジス:ライン……。
ゼノン:南部は大丈夫なんですか?
ココレット:兵力の大半を西部攻略に費やしているせいか、南部にはまだ大規模な戦闘が起きていません。
ですが、西部が彼らの手に渡れば、近いうちに南部にも攻めてくることでしょう。
リィ:どうするんですか?
ココレット:大規模な戦闘は無いと言っても、国境付近では小さな戦闘が繰り返されています。
他の地域も援軍を送るほど各地域も余裕はないのが現実です。それは他の地域も同じこと。
もし敵方が襲ってくれば、全力を挙げて東部軍の侵略を死守する他ありません。
レイジス:それにしてもどうしていきなり反乱なんて……。
ココレット:ラインを兵士として従えているということから、おそらくはグラン司令官自身がラインか、
それとも裏でラインと繋がっている可能性が高いと思われます。
レイジス:裏でライン……まさか、オズィギスか!?
ココレット:とにかく今は東部軍を倒さなければ、ゴアス帝国はラインによって占領されてしまいます。
ゼノン:大陸一の軍事力を持つゴアスが潰されれば、実質人間がオズィギスたちラインに対抗する力が無くなると言ってもいい。
これはまずいな……。
リィ:サネルおじさん……大丈夫かな。
ココレット:今はまだ。ですが、グランはきっと総司令官を狙うはず。総司令官が倒れれば、ゴアス全軍の士気に関わります。
それだけは絶対に防がなければなりません。
エストリア:ココ、あたしたちも手伝うよ!
ココレット:ありがとう、エスト。……そう言えば皆さん。
リィ:どうしたんですか?
ココレット:こんな時に聞くのも変ですが、旅の途中でシェリルという女の子に会いませんでしたか?
エストリア:……ココ。
リィ:え? いえ……多分会っていないと思います。お知り合いですか?
ココレット:えぇ。私の友人……いえ、家族と言ってもいいくらいです。
彼女は……昔経営していた孤児院がラインに襲われ、怪我をした私を診療所に運んだ後、
行方が分からないままになっているんです。
リィ:……そうなんですか。
エストリア:まだ、諦めてなかったんだね……。
レイジス:エストもその人知ってるんだ?
エストリア:あたしも孤児院で過ごしてきたからね。シェリルはココと一緒にあたしたち子供たちの面倒みてくれたんだ。
面白い喋り方で、元気一杯で……ココと仲良しだった。
ココレット:私はまだあの子が生きていると思っています。
何故か分からないけど……そんな気がするんです。
レイジス:ココレットさん……。
ココレット:もしかしたらあの子は――
(突如、執務室に兵士が入ってくる。酷く焦った様子。)
兵士:司令官!!! ラインが……東部軍が南部国境門より侵入してきました!!!
ココレット:なんですって!? 東部軍は西部に兵を割いているのではないのですか!?
兵士:わ、分かりません! ですが確かにあの旗は……東部軍です!
ココレット:数は?
兵士:数はおよそ百人程度、現在国境の警備にあたる兵士たちと交戦中です!
ココレット:……なるほど、少数で機動力を上げ、見つからないように大きく迂回してきた、と言ったところでしょうか。
兵士:如何いたしましょうか!?
ココレット:こちらは東部と南部の境目に大多数の兵を割いていて兵力に余裕はない……。
だからと言って南部の住民を危険に晒すわけにはいかない。
苦しい戦いになりますが、住民避難に多少人数を割いてください。
そして残った兵士で迎え撃ちます。……私も出ましょう。
兵士:はっ!(兵士、去る)
リィ:あたしたちも手伝います!
ココレット:すみません、ありがとうございます。頼りにしていますよ。
(間・5秒。南部国境門に向かうリィたち。そこでは東部軍の副司令官が先陣を切って南部兵と戦っていた。)
副司令官:ふっはははははは! 脆い脆すぎるぞ、所詮は女が指揮する軍団か!
ココレット:貴方は……東部のムトー副司令官。
副司令官:ココレット・フランチェスカ……。いいのか、大将自ら前線に出て?
ココレット:今は一人でも戦力が必要なのです。だから私も戦います。
副司令官:ふっははははは! 所詮は女か! 戦を知らぬ。軍を指揮する司令官がそう安々と前に出れば――
ココレット:っ!?
副司令官:こうなるのだぁああ!!!
(副司令官、一瞬にして間合いを詰めて大斧を振り下ろすが、レイジスとゼノンが攻撃を防ぐ)
副司令官:ぬぅ!?
レイジス:そうならないための俺たちだっての!
ゼノン:悪いな、副司令官さんよ。あんたらの好きにはさせねぇよ。
副司令官:我の攻撃を止めた、だと? 貴様ら、何者だ。
レイジス:俺たちは――
ゼノン:こいつの名前はヘタレ。俺の名前は――
レイジス:ヤサグレ王子だ!
ゼノン:……レイジスぅ、いい度胸じゃねえか。
レイジス:お前が最初だからな、ゼノン。
ゼノン:よぅし、お兄さんがオシオキしてやろう。
リィ:二人共、なにやってんのよ。
副司令官:ふぅんんんんぬうううう!!!(大斧で地面を叩き割る)
ゼノン:おわっ!?
副司令官:馬鹿な小僧共には大人の怖さを身をもって教えてやらんとなぁ……。ふっ、ふはははは!
んんぬううううおおおおおおぁあああ!!!!
(副司令官が雄叫びを上げるとラインの姿「巨人キュクロプス」へ変わる。)
レイジス:うっわ、でっけぇ……。
副司令官:東部副司令官とは仮の姿!
我が名はムトー・エルムン・ガタイ、単眼巨人「キュクロプス」であぁあある!!!
ゼノン:また巨人かよ……。
リィ:こりゃ苦戦しそうね……。
ゼノン:だが、皆でやりゃいけるだろ。
レイジス:そうだな。今まで色んな奴らと戦ってきたんだ! こんなところでやられるもんか!
ゼノン:その意気だぜレイジス!
ココレット:皆さん、行きますよ!!!
副司令官:ぐふふ、敵が我だけと思うなよ?
ココレット:なんですって!?
(突如別の方向から兵士たちの阿鼻叫喚が聞こえる)
兵士:うわぁあああ!!! なんだコイツは!!! つ、強すぎるぅううう!?
レイジス:な、なんだ、向こうにもいるのか!?
エストリア:ど、どうしよう……。
ゼノン:ここは俺とレイジスに任せろ。リィちゃんたちは向こうを助けに行ってやってくれ。
リィ:うん、分かったわ!
ココレット:私はここに残りましょう。この男には聞かなければならないことがたくさんあります。
ゼノン:分かりました。
エストリア:それじゃああたしはおねーちゃんと一緒に行くよ!
リィ:うん。お願いねエスト!
エストリア:うん!!!
レイジス:さっさと倒してリィたちに加勢しよう!
――――――――――――――――――――
【シーン5】
(ムトーとは別の場所にて。ゴアス南部兵とヴェルギオスが戦闘をしている。)
兵士:ひぃいいいいい!!! ぐぎゃ!?(逃げる最中、背中を剣で貫かれる。)
ヴェルギオス:……つまらねえ。よくその強さで兵士をしてるな。
兵士:うぅ……あぁ……。なんで……お前……人間じゃ……。
ヴェルギオス:なんだ、まだ俺たちを人間だと思ってやがんのか。
てっきりもうバレてると思ってたぜ。……いや、あの「ガキ共」がおかしいのか。
冥土の土産に教えてやるよ。俺は「吸血鬼」。テメェらがよく知ってる、ラインだ。
兵士:ライ……ンだと……。
ヴェルギオス:じゃあな、勇敢な兵士さんよ。
兵士:ひぃっ――
シェリル:てやぁあああ!!!(ヴェルギオスの背後からシェリルが現れ、奇襲を仕掛ける)
ヴェルギオス:っ!? ……背後からたぁ、随分といい趣味してんじゃねえか。
シェリル:ふー、間一髪やったなぁ、兵士さん。さ、早よ逃げや。
兵士:た、助かる……。(兵士、逃げる)
ヴェルギオス:……誰だテメェ。
シェリル:誰やって? ふふん、聞いて驚け! ラインと戦う熱きハートの可憐美少女! その名もシェリルちゃんやで!
ヴェルギオス:……「壊れた時計」か。
シェリル:知ってるんなら誰って聞くなや。恥ずかしいわ。
ヴェルギオス:テメェもオルテア小国にいた「壊れた時計」みたいに殺してやるよ。
シェリル:……なんやウチの仲間殺したんか。そんなら仇、とらへんとあかんなぁ。
ヴェルギオス:仇なんて取る必要ねえさ。
どうせ、お前も――そっちに行くんだからよ!!!(一瞬で間合いを詰めるヴェルギオス)
シェリル:うわ、速――
ヴェルギオス:死ねぇえええああ!!!(突如姿を消すシェリル)
っ!? 消えた!?
シェリル:ふふん。こっちやで、お兄さん。
ヴェルギオス:テメェ、いつの間に……。
シェリル:かわいい女の子やからって舐めたらあかんで?
ヴェルギオス:強い奴は嫌いじゃない。――行くぜ!!!
(攻撃を当てようとした瞬間、シェリルは姿を消す)
っ!? くそ、またか!
シェリル:はいハズレ~。んふふ、なら次はこっちの番や!
ヴェルギオス:……正面から来るか。
シェリル:まっ、後ろからやけどな。ほいさ!(シェリルの細身の剣がヴェルギオスの背中を切り裂く)
ヴェルギオス:ぐっ!? くそっ、なめんじゃ……ねぇえええ!!!
(ヴェルギオス反撃するも、シェリルは瞬間移動して回避)
シェリル:うわっと! ひゃー危ない危ない。反撃にも注意せんとなぁ。
ヴェルギオス:……瞬間移動。「壊れた時計」の能力……だろうな。
無限に出来る……なんて都合の良い訳はねえだろうな。だとすると、短距離間の移動か。
シェリル:さて、どうやろか。
ヴェルギオス:タネが分かればどうってことはねえ。子供騙しは二度も通じねえぞ。
シェリル:なら、試してみよか? 行くで!!!
ヴェルギオス:正面……からの後ろ――
シェリル:へへっ。(ヴェルギオスの後ろに瞬間移動)
ヴェルギオス:と見せかけて前だろうな。――ふんっ!
(ヴェルギオスの剣がシェリルの肩を掠める)
シェリル:くっ!?
ヴェルギオス:どうやらひねくれ者じゃないみたいだな。考え方が単純過ぎる。
シェリル:……。
ヴェルギオス:もうテメェの攻撃は食らってやらねえぞ。
シェリル:こっちも食らわんけどな!!!
――――――――――――――――――
【シーン6】
(一方、副司令官と戦うレイジス、ゼノン、ココレット)
副司令官:どわははははは! 呼吸が乱れてるぞ!
我を倒すと言ったのは口だけか!? さぁ、早く攻撃を仕掛けてこい!
さぁ! さぁあああ!!!!
レイジス:はぁ……、はぁ……。二人とも、大丈夫か?
ココレット:はっ……、はっ……、私はまだ……大丈夫です。
ゼノン:兵士が倒せねえラインを俺たちが片付ける……。そんでもってコイツを相手にする……。流石にきついな。
俺や先生はともかく、レイジスたちは兵士たちがいるせいでラインの姿で戦えねぇ。
チクショウ、面倒臭ぇな……。
副司令官:そうか。思い出したぞ。貴様らがグランが言っていた小僧共だな。
レイジス:だからなんだってんだ!
副司令官:貴様らは必ず殺せとグランから言われている。
故に貴様らはここで死ぬことになる。この我、ムトー・エルムン・ガタイが討ち滅ぼしてくれようぞ!
ゼノン:こんな暑苦しい奴に殺されたくねぇな。
死ぬならムチムチのお姉さんの膝の上って決めてるんでね!
レイジス:俺はまだ俺自身の事を知らないんだ。
だからあんたみたいな奴に負けてられないんだ!!!
副司令官:がははははははは! 人間ごときが我らラインに敵うはずもなし! いざあああああ!
レイジス:皆、来るぞ!
ゼノン:はぁ……、余りここで消耗するつもりは無いんだがなぁ。
ここはお兄さんに任せとけ。先生とレイジスたちはサポートを頼むわ。
ココレット:ゼノン……何を考えているのですか?
ゼノン:ちょっと色々と。……まあ、死ぬつもりなんてありませんから安心してください。
ココレット:そうですか……無茶はしないで下さいね。
その代わりサポートは任せてください。
ゼノン:大丈夫です。こんなのはまだ無茶に入りませんよ。
副司令官:何をゴチャゴチャ喋っておるぅうううう!!!
ゼノン:おい、おっさん……後悔するんじゃねえぞ!?
うぉおおらぁああああああ!!!
――――――――――――――――――
【シーン7】
シェリル:はぁ……はぁ……。
ヴェルギオス:どうしたよ「壊れた時計」!!! 威勢が良かったのは最初だけかよ!!!
シェリル:くっ……!
(シェリルは瞬間移動をして攻撃しようとするが、動きを読まれ、ヴェルギオスの反撃を喰らう)
ヴェルギオス:テメェの考えは分かってんだ――よ!!!
シェリル:かはっ……。
ヴェルギオス:力勝負じゃ勝ち目はねえ。小細工も通用しねえ。手詰まりか?
シェリル:……。
ヴェルギオス:まあいい。これで終わりだ「壊れた時計」。……死ね。
リィ:リィ選手の第一投ぉおおお――投げたぁ! 氷のッ礫ぇえええ !!!
(リィが放った大量の氷の礫がヴェルギオスに襲いかかる)
ヴェルギオス:この技は!? ――ぐぅぉ!!?
リィ:久しぶりね、吸血鬼ヴェルギオス。
ヴェルギオス:テメェは……魔鉱石のガキか。
リィ:リィよ。
ヴェルギオス:名前なんて知るか――
エストリア:あー!!!!
ヴェルギオス:あ?
エストリア:あんた……まさかまさかまさか……シェリー!!?
リィ:シェリー?
シェリル:あんたは……エストか!? うっひゃー、ひっさしぶりやなー!
こんな大きいなって! (ヴェルギオス、攻撃)
――うわっと!
ヴェルギオス:なんだガキ、この女と知り合いか。
ならこいつがここで殺される所を指を加えて見てるんだな。
リィ:そうはさせないわよ。――炎の檻!
ヴェルギオス:……へぇ、こんなことも出来るのか。
シェリル:おー、助かったわ、ありがとな! キミ、あれやろ。セイル君の妹ちゃん。
ウチ、シェリル言うねん。よろしくな!
リィ:……よろしく。やっぱりそのカッコ、「壊れた時計」なのね。
色々聞きたい事があるけど、まずはコイツをどうにかしないとね!
シェリル:せやな!
ヴェルギオス:言っておくが、ガキだからって容赦はしねぇぞ。
リィ:容赦しなくて結構!
エストリア:負けて言い訳なんて聞かないからね!
シェリル:女の底力、見せたるでー!
ヴェルギオス:そうかよ。……ならまずはこの邪魔な炎を消すとするか。――ふんっ!!!
リィ:っ!?
エストリア:お姉ちゃんの炎が一瞬で……。
ヴェルギオス:さあ、見せてくれよ。人間様の本気をなぁあああ!!!!
シェリル:妹ちゃん、来るで!
リィ:3・2・1――今だ!!!
(リィが手を振り上げると、ヴェルギオスとの間に巨大な石壁が聳え立つ)
シェリル:おぉ! 石の壁が!!! すんごい!
リィ:壁とでもキスしてなさい。……誰があんたなんかに血を吸わせてやるかっての。べぇーだ!
ヴェルギオス:ちぃっ!!! こんな壁直ぐに壊して――
エストリア:おーい、こっちこっちー! 上みてうーえー。
ヴェルギオス:っ!?
エストリア:へへっ(壁の上から銃を構える) 今日の天気はー、晴れのち銃の雨!
ヴェルギオス:ぐぉっ……。
シェリル:ところによりナイフが降るでしょーってな。ほら!!!(いくつもの短刀をヴェルギオス目掛けて投げる)
ヴェルギオス:ぐぉっ……。調子に……乗るんじゃねえよ!!!
シェリル:おっと危ない。……いくら動きが読めるからって言っても、
こんなに色んなところから攻撃されたら、流石のあんたでも対応できひんやろ。
リィ:観念しなさいよ、ヴェルギオス。
ヴェルギオス:……くくっ。
シェリル:何笑うてんねん。
ヴェルギオス:そうだな、そうだよな。ガキとは言え、テメェらも死線を掻い潜ってきた戦士だ。
俺だけこんなカッコじゃあ、失礼だよなぁ……。
いいぜ、俺も本気を出してやるよ。(剣を捨てる)
――おぉおおおおぁあああああ!!!
シェリル:……こいつ、吸血鬼やったんか。
ヴェルギオス:あぁ、くそ。喉が渇いた……。血を……俺に血を寄越せぇええええ!!!
エストリア:うえっ、こっち来た!? でも、そんなんじゃ格好の的だよッ! たぁっ!(銃を撃つ)
ヴェルギオス:そんな攻撃、当たるかよぉ!!!
エストリア:うそっ! 銃を避けた!?
ヴェルギオス:シャァアアア!!!
リィ:危ないエスト! ――「かまいたち」ッ!
ヴェルギオス:ぐっ……、邪魔をするんじゃねぇぇえ!!!(鋭い爪でリィを切り裂く)
リィ:あぐっ……。
エストリア:お姉ちゃん!!! ――ぐぇっ!(ヴェルギオスに首を掴まれる)
ヴェルギオス:おいガキ、テメェは自分の心配をしたらどうだ!?
シェリル:させんで!
ヴェルギオス:雑魚は引っ込んでろ!!!(腕を振り、払い飛ばす)
シェリル:ぐっ! くっそ……。なんやねん、この強さ……。
ヴェルギオス:ほらほら、さっさとしねぇとこのガキの首が折れちまうぞ?
エストリア:あっ……く……。げほっ……。
シェリル:エスト!!!
リィ:……シェリル、危ないから下がってて。
シェリル:あんた……何考えてんの?
リィ:……少しは無茶しても大丈夫よね? ごめん、レイ。約束は守れそうにないかも。
ヴェルギオス:何をごちゃごちゃ言ってやがる!
リィ:持ってよ、あたしの体! いっけぇええええ!!!
(一瞬にして冷気を産み出し、ヴェルギオスの――エストリアを掴む腕以外を氷漬けにする)
ヴェルギオス:な……ぅぉおああああああ!!!!?
リィ:くっ……。(体力を消耗しよろける)
シェリル!!! 早くエストを!
シェリル:は、はいよ! ――大丈夫か、エスト。
エストリア:ごほっ、けほっ……。う、うん。ありがと、シェリー……。
シェリル:それにしても……こんだけの範囲を凍らすなんてすっごいなぁ……。
エストを掴んでる腕以外氷漬けやんか。
リィ:でも、範囲が広い分氷が薄くなっちゃったから――
ヴェルギオス:あ……が……。
こん……な……もん……食らうか……よぉおおおおおおおおお!!!(自力で氷を破壊して脱出)
リィ:まぁ……こんなんじゃ倒せないわよね。ぐっ……!(膝から崩れ落ちる)
エストリア:大丈夫お姉ちゃん!? あんまり無茶したら駄目だよ!
リィ:大丈夫……。大丈夫だから。それに……あいつは待ってくれない。
ヴェルギオス:いつもだ。いつもいつもいつも! 俺たちの邪魔をするのテメェらだ!
初めはゼノン……今度はテメェだ、リィ・ティアス!
もう生かしておけねぇ。――殺す。
エストリア:みんな! 来るよ!
―――――――――――――――――
【シーン8】
副司令官:ば……馬鹿な……。こんな小僧共に……女の司令官なんぞに……この我が……。
ゼノン:ぜぇ……ぜぇ……、だから言っただろ……後悔しても知らねえぜって。
副司令官:その力……まさかお前が「壊れた時計」だとはな。
ゼノン:俺だけの力じゃねえ。レイジスたちや先生のサポートもあったからだ。
……あんたが散々馬鹿にしてきた女子供にテメェはやられたんだよ。
ココレット:ムトー・エルムン・ガタイ副司令官。貴方に聞きたいことがあります。
副司令官:我は……何も答えんよ。
ゼノン:死んでもいいのか?
副司令官:戦いに負けたのだ。これ以上我らラインの不利になるような事を言うと思うか?
それならば我は死を選ぶ……。
ココレット:成程、ごもっともです。
(少々間)……では、お覚悟を。――やぁあ!!!(副司令官を切り伏せる)
副司令官:ぐぉおおあああああ!!! ふ、ふははは! 覚えておけ小僧共! 覚えておけココレット・フランチェスカ!
我を倒してもグランが! オズィギス様が人間を滅ぼす! 必ずだ!
それまで残りの命を楽しむ事だな! ふは……ふはは、ぬぐぅおおおおおおおおおお!!!!
ココレット:……。
レイジス:ココレットさん、大丈夫ですか?
ココレット:……慣れているとはいえ、やはり後味が悪いものです。
レイジス:そう……ですよね……。
ココレット:それよりリィさんとエストのところに行きましょう!
おそらく彼女たちはまだ戦っています!
レイジス:は、はい!
―――――――――――――――――
【シーン9】
ヴェルギオス:はぁああああああ!!!
リィ:くっ……! 氷の壁!!!
ヴェルギオス:……大した女だぜ。俺の攻撃を片っ端から防ぐか。そりゃそうだ。
食らっちまえばその体じゃ耐え切れないだろうからな。だが……魔鉱石の技を使うのもそろそろ限界だろ?
リィ:はぁ……、はぁ……。そんなこと……ない!
ヴェルギオス:そっちのチビも限界が来てるみたいだな。
銃を媒介にしてるが、その原動力は魔鉱石。無限に撃てる代物じゃねえ。
そんなにバカスカ撃ってると――
エストリア:やぁあああ!!(発砲)
ヴェルギオス:こうなる。……どこに撃ってやがる! 俺はここだぜ?
エストリア:うぅ、ダメ……目が霞む。
ヴェルギオス:まともに戦えるのはテメェだけだ、「壊れた時計」。
もっとも、俺に傷を付けられないテメェが戦えるとは言えるか知らねえがよ!
シェリル:……でも、この子たちを守るくらいはできるで。
ヴェルギオス:だがそれじゃあ俺を殺せない。体力勝負で俺に勝てると思ってんのか?
シェリル:くっ……。
リィ:ねぇ、一つ聞いてもいい?
ヴェルギオス:あ?
リィ:ヴェルギオス、あんたは何で戦うの?
ヴェルギオス:はっ、何を今更。
リィ:答えて!
ヴェルギオス:……人間みたいな数だけの種族が、この大陸を支配してるなんて馬鹿馬鹿しいだろ?
だから奪い返してやるんだよ。そして見せつけてやるんだ。
俺たちラインが人間より優れ、この土地を支配するのに相応しいってことを――なぁ!!!(リィに爪で攻撃)
リィ:くっ!!(石の壁で防ぐ)
ヴェルギオス:また壁か! だが、さっきより脆くなってきてるぜ!? うぉらぁあ!(壁を素手で粉砕する)
リィ:はぁ……、はぁ……。見せつけるってあたしたち人間に?
ヴェルギオス:それもそうだが、ガキみてぇな夢を見てる馬鹿野郎共にもだ。
俺たちが人間を滅ぼせば目を覚ますだろうよ。共に生きるだなんて甘ったりぃ事、出来るわけがねえってな。
リィ:それって……アリスのこと?
ヴェルギオス:あいつもその一人だ。テメェらが死ねば、あいつは……アリスは目を覚ます。
またあの頃みたいに人間と戦う立派な戦士に戻る……。
そうだ。テメェらのせいでアリスは俺たちラインを裏切った。
昔のあいつは情に流されるような奴じゃなかったんだ。なのにリィ・ティアス。
テメェらに会ってから変わっちまった!!!(急襲)
リィ:っ!?
シェリル:妹ちゃん危ない!!!
リィ:シェリル!!?
ヴェルギオス:雑魚が邪魔すんじゃねえ!!!
(咄嗟に庇うシェリルをヴェルギオスは勢いよく振り払う。)
シェリル:あぐっ……。
リィ:ちょっと! 大丈夫!?
シェリル:あてててて……。ウチは大丈夫。「壊れた時計」は丈夫やからなぁ……。
リィ:……違う。それは違うわ、ヴェルギオス。
ヴェルギオス:何が違うっていうんだ。
リィ:あの子はただ人間を知っただけ。人間があなたたちラインと同じだって気付いただけ。
……それはあたしたちも同じ。アリスのおかげでラインが人間と同じだって知ったの。
ヴェルギオス:……。
リィ:あなたの周りの仲間はそれに気づいたのよ。むしろ夢を見てるのはあんたなんじゃないの! 現実を見なさいよ!
ヴェルギオス:てめぇに何が分かる! 自分の周りから仲間が死んでいく寂しさを!
信頼していた仲間から裏切られる気持ちをよ!!!
リィ:あんたの気持ちなんて知らないわよ! だけどあたしだって! 皆だって!
あんたの仲間だってみんなみんな! この争いで多くのものを失ってるのよ!!!
なんでそれが分からないの!!!
ヴェルギオス:……。
リィ:もう止めましょう? お互いに謝って手を取り合えば済む話じゃない!
ヴェルギオス:それで済めばこんな事にはならねぇよ。
……互いに譲れねえからこうやって種族同士争ってるんだ。ガキには分からねえよ。
リィ:なによそれ……。
ヴェルギオス:話は終わりだ。テメェらがまだ夢を見たいって言うなら、強さで証明して見せろ。
――この俺に勝ってからなぁ!!!(コウモリの翼を広げ高く飛翔する)
リィ:やっぱり……そうなるのね……。
シェリル:……妹ちゃん。ちょっとええか?
リィ:……何?
シェリル:無理させるんは分かってんねんけど、でっかいの一発、いける?
リィ:出来るけど、こんなところで力を使い切ったら――
シェリル:大丈夫、ウチが仕留める。必ず。
リィ:出来なかったら化けて出るわよ。
シェリル:ならウチも化けて怒られにいくわ。
ヴェルギオス:何をごちゃごちゃ言ってやがる!
リィ:……信じるからね。
シェリル:任せときー。
ヴェルギオス:死ねぇえええええあああああ!!!
リィ:行くわよ! 特大の一発、食らえぇええええええ!(超火力の爆炎がヴェルギオスを襲う)
ヴェルギオス:く、避けきれねぇ……。ぐぉおおああ!!!
エストリア:た、倒した!?
(ヴェルギオス、飛翔して回避)
ヴェルギオス:おおぉおおおおおおおおああああ!!! こんな技……こんな技で倒せると思うんじゃねえぞ!
これさえ避ければテメェは――
シェリル:いいや、まだやで。――「フォトグラフ」!!!
ヴェルギオス:っ!?
シェリル:ばっちし、フレーム内や! ヴェルギオス、ウチの能力を見誤ったのが運のツキやで。
――でやぁあああ!!!(剣を素振りする)
(瞬間、距離なぞ無かったかのように振るった剣の先の物全てが切られていく。――勿論ヴェルギオスも)
ヴェルギオス:こんな遠くから何を――がぁっ!? ば、馬鹿な……何が……起こった……?(ヴェルギオス、落下)
(間・3秒)
シェリル:今、この目に写るものを、距離も硬さも関係無しに影響を与える。
まるで一枚の写真にハサミを入れるかのように。それがウチの「壊れた時計」の能力……「フォトグラフ」。
騙し討ちみたいで申し訳ないけどな、堪忍や。
――くっ……!(シェリル、倒れる)
エストリア:シェリー!?
シェリル:……せやけど……余りにも消耗が激しいから一日一回が……限界なんや。
ヴェルギオス:ごほっ……、それなら……あの瞬間移動は……一体なんだ……。
シェリル:それは……これや。(懐から針を取り出す)
ヴェルギオス:……針?
シェリル:魔鉱石のアイテムや。妹ちゃんが使うてるみたいな純度の高い魔鉱石から削り出した針や。
リィ:魔鉱石……。
シェリル:妹ちゃんのとちゃうのは魔鉱石の力。
ウチのは、飛ばした小針の場所へ、親針の持主を移動させる「転移の魔鉱石」。
つまるところあんたとは針を飛ばしながら戦ってた訳やな。
ヴェルギオス:……針を……飛ばして…… 戦ってただと……?
シェリル:見えへんかったやろ? ウチは昔から手グセが悪いからなぁ。
ヴェルギオス:くそっ……、まんまと騙されてた訳か……。
シェリル:これで終わりや、ヴェルギオス。
ヴェルギオス:ふざけんじゃ……ねぇ!!! こんな、こんな巫山戯た技で俺の負けだと!?
認めねえ! 認めねえぞ!!! うぉおおおああああああ!!!
(ヴェルギオス、大量の蝙蝠を召喚し、リィたちの視界を遮る)
リィ:くっ!? これは……蝙蝠!?
ヴェルギオス:……今回はしてやられたが……次あった時は必ず……息の根を止めてやる。
その血、一滴残らず搾り取ってやるよ……。
くく……はははははははははは!!!
(蝙蝠が消えると、そこにいたはずのヴェルギオスは姿を消していた)
リィ:消えた……。
エストリア:終わった……の?
シェリル:……ふひぃいい! もう駄目やと思ったぁ!
エストリア:おねーちゃん!!!
リィ:大丈夫だった? エスト。
エストリア:うん。おねーちゃんこそ無茶したでしょ!
リィ:大したことないわよ。それにエスト、あんたも後先考えずに銃を撃ってたでしょ。
お互い様よ。
シェリル:……エスト、仲良うやってるんやな。
(ココレット現れる)
ココレット:……シェリー?
シェリル:あ……ココ……。
ココレット:シェリー!!!(ココレット、シェリルを抱きしめる)
シェリル:わぷっ!
ココレット:生きてるなら手紙くらい送って下さい!
貴女が帰ってくるのをずっと……ずっと待っていたんですから……。
シェリル:……ごめんな。
ココレット:……生きていてよかった……。シェリー、顔をよくみせて下さい。
シェリル:……そっか、あれから大分経つんやな。大人になったなぁ、ココ。別嬪さんや。
ココレット:ちょっと待ってください……どうして貴方は昔の姿のままなんですか!?
シェリル:ウチは「壊れた時計」やからな。壊れた時計は体の成長も止まんねん。
リィ:え? ってことは、シェリルは……ココレットさんと……。
シェリル:ん? 同い年やで?
リィ:と、年上……。あれ? それじゃあセイルは?
シェリル:ウチと同じように体の時間は止まってる。けど、セイル君は組織に入ってから日が浅いから、そんなに影響ないと思うで。
リィ:……そうなんだ。
ココレット:それよりシェリー、どうして黙っていなくなったんですか?
シェリル:え? あぁ、それなぁ……。あ、そう言えばココ、ホンマに司令官になったんやな。……うん、似合ってるで。
ココレット:話を逸らさないで下さい!
シェリル:あだだだだ、ごめんって! そんなにほっぺた引っ張らんといてぇええ!!!
ココレット:少しは私の気持ちを考えてください。
シェリル:……孤児院がラインに襲われて、気を失ってるココを助けるためにウチは「壊れた時計」の契約をしたんや。
契約せんかったら多分ココたちを助けられんかったと思う。
ココレット:それでも別れの挨拶くらい……。
シェリル:そんなことしたらウチの決心が鈍るからな。後、きっと……泣く。……ってこんなこと言わせんなや、もう!
ココレット:……全てが終わったら、帰ってくるんですよね?
シェリル:モチロンや! あーあ、おかげで簡単に死ねんようになったわ。
ココレット:そうです。死んだら説教ですからね。
シェリル:うひぃ、厳しいなぁ。
リィ:エスト。
エストリア:なぁに。
リィ:みんなの為にも、「壊れた時計」の皆を解放しなきゃね。
エストリア:うん!
シェリル:さて、ウチはそろそろ行くわ。仲間を待たせてるし。それに、これ以上ラインたちの好きにさせたらあかんからな。
ココレット:そうですね。シェリー……また会いましょう。
シェリル:うん! そっちも頑張りや! 司令官さま!(シェリル、去る)
エストリア:……いっちゃったね、ココ。
ココレット:……はい。
(レイジスたちが現れる)
ゼノン:お、おい! そんなに引っ張るなってレイジス!
レイジス:リィたちが戦ってるんだ! 休んでなんかいられないだろ!?
ゼノン:そうは言ってもお前もボロボロだろうが!
レイジス:だけど! ――いてっ!(リィがレイジスの頭を叩く)
……あれ?
リィ:よっ!
レイジス:あー……、もしかしてそっち、終わった?
リィ:もしかしなくてもよ。……大分苦戦したけどね。
レイたちも終わったみたいね。
レイジス:うん。ゼノンのおかげでなんとかなったよ。
ゼノン:おうもっと褒めろもっと褒めろ。
レイジス:調子に乗んなっての!
ゼノン:ぬはははは。
リィ:ココさん、これからどうするんですか?
ココレット:私は軍備を整えた後、各地域の応援に向かいます。リィさんは……総司令官が気になるのでしょう?
リィ:……はい。
ココレット:本来、危険だから止めるつもりでしたが……今の貴方達ならば大丈夫でしょう。
どうか、総司令官をお願いします。
リィ:はい!
ゼノン:リィちゃん、俺は残るわ。
エストリア:あ! あたしも! あたしたちは残ってココのお手伝いするよ!
ゼノン:そういう事だ。人手が足りてない今、少しでも先生の力になりたい。
リィ:……うん、分かったわ。また後でね、二人とも!
ゼノン:あぁ!
エストリア:うん!(同時が好ましい)
ココレット:ありがとうございます、ゼノン、エスト。
さぁ皆さん、この国を守り切りましょう!
リィ:はい!
to be continued...