top of page

『Links』 第15話 ―半分の血―

 

【登場人物】

 

〇イシュア(♀)
  父はライン(ワイバーン)、母は人間から生まれた女性。見た目年齢は20代前半。

  両種族の迫害に耐え切れず、人知れぬ島に移り住んだ。
  その際にアリスの協力を得ている。リィたちが島に来た際に「壊れた時計」の襲撃に会い、
  父を亡くすが、しっかりと現実を見据え、村の再建に努める。

 

〇ブロウ(♂)
  鬼のライン。見た目年齢は30代前半。

  性格は豪快で好戦的。人間と戦う理由はただ単に自分の強さ、ラインの強さを誇示するため。
  オズィギスの人間を滅ぼす計画にも興味は示していない。

 

○メリア(♀)
  オズィギスと共に人間を滅ぼそうとするラインの一人。見た目年齢は20代~30代。

  正体は腰から下が蛇の「メリュジーヌ」。
  お嬢様口調で気が強い話し方をするのが特徴。ヒステリック気味。

 

〇ヤマガミ・スイ(♂)
  東にある小さな島に住む、天狗のライン。見た目年齢は20代~30代。

  ブロウの旧友。飄々とした話し方をするのが特徴。
  主人公たちの活躍を聞いて、ラインもそろそろ人間と共に歩むべきかもしれないと考えている。

 

〇フジワラノ・ナガレ(♂)
  ラインを滅ぼすことを目的とする組織「壊れた時計」の8時の男。見た目年齢は30代後半。
  その正体は謎に包まれているが、ただラインに対する敵対心は確か。
  独特な名前とカタナと呼ばれる武器を駆使して戦う。与えられた能力は、物に生命を与え、自在に動かす「傀儡」。


―――――――――――――――――
【役配分】

 

(♂)ブロウ
(♂)スイ + 男
(♂)ナガレ + ラインA
(♀)イシュア
(♀)メリア + ラインB

 

♂3 ♀2 合計5名

 

―――――――――――――――――
【用語】

 

ライン:つまるところ怪物。モンスター。おとぎ話、伝説と呼ばれた生物のことを指す。
    現在、そのラインが世界各国に出没し、人間に害を与えている。
    イントネーションはフルーツの「パイン」と同じ。

 

魔鉱石:特殊なエネルギーを含んだ鉱物。この世界では照明器具の光や暖房器具の熱などを作るために、この石を埋め込み、
    その力を媒介としている。
    また、魔鉱石の純度によっては強大な力を含んでいるが、扱うには体にとてつもなく負荷がかかる。

 

 

――――――――――――――――
『シーン1:彼女の道』

 

  <あらすじ:主人公リィは兄のセイルを探す旅の途中、単なる怪物だと信じられてきた「ライン」が、
        両種族のハーフであるイシュアとの出会いを通じて、

        ラインが人間と同じように心や知能を持った生物であることを知る。
        その後兄と再会したリィは両種族が共生を望み、旅を続けることを決心する。
        そして背後で動くオズィギス率いるラインの軍勢と、ラインを滅ぼそうとする組織「壊れた時計」。
        理想の世界と、まだ明かされぬ真実を求め、彼女たちは旅をする。
        そして彼女たちに影響を与えたラインと人間から生まれた娘イシュアもまた、
        リィたちの活躍を耳にして動き始めようとしていた。>

 


   (大陸から離れた孤島。森に囲まれた村にて。旅支度を済ませたイシュアと、村の男が話している。)

 


男:イシュア……本気なのか?

 


イシュア:はい。

 


男:子供が言ったことを信じるのか。


 

イシュア:……普通の子供なら信じなかったかもしれません。
     だけど、彼女たちは危険をおかしてまでこの島を訪れ、
     私たちの存在に偏見を持たずに接してくれました。それだけでも信じる価値はあります。


 

男:そうか……決意は固いようなら止めはしない。俺たちに出来ることがあれば何でも言ってくれ。


 

イシュア:ありがとうございます。暫くこの村をお願いします。では、行ってきます。


 

男:あぁ、気を付けてな、イシュア……。

  
 

   (イシュア、ラインの姿(ワイバーン)となって島を飛び立つ。)


 

イシュアM:私はあの子たちと出会い、ただ平和になる事を待っているだけでは駄目だと……
      自分たちが望む世界は、自分たちの力で掴まなければいけないことに気付かされた。
      だから私は旅に出た。父から受け継いだこの翼と、母から受け継いだ強い意志を持って。
      全てから隔絶された村から、外の世界へと飛び出した。

 

 

 

―――――――――――――――――
『シーン2:旧王国に巣食う鬼』


   (旧ランディール王国。かつては繁栄を極めていた巨大国家は今では瓦礫によって埋め尽くされている。
    そこに人間の姿は無く、代わりに一人の鬼のラインが手下を率いて占拠していた。その鬼のラインの名前はブロウ。
    彼は今、メリアという女に呼ばれ、仲間たちと離れた場所で話をしていた。)


 

メリア:今……なんと言いました?

 


ブロウ:だから断るって言ったんだ。メリアさんよ。俺はあんたたちの仲間にはならねえ。

 


メリア:では、人間たちの味方をするおつもりですか?

 


ブロウ:そんなつもりもねえよ。俺は俺の好きなようにするだけだ。
    誰かの下で働くなんて面倒な事はしたくねえんだよ。
    誰にも縛られず、好き勝手生きる。そんで気に食わねえ奴らがいたらぶっ飛ばす、それだけだ。


 

メリア:誇り高き鬼と聞いて期待しておりましたが、会ってみるとそこらのゴロツキと大差ない。
    ……誠に残念ですわ。

 


ブロウ:期待に沿えず悪かったな。あばよ。

 


メリア:……鬼のブロウ。心して聞きなさい。


 

ブロウ:あ?


 

メリア:貴方は私たちの提案を断った。それは人間とライン、どちらが優れた種族か決める戦争に参加しないということ。
    つまりは我らラインに敵対したも同然。どうなるか分かっておいででしょう?


 

ブロウ:へっ、今度は脅しかよ。喧嘩なら受けて立つぜ。


 

メリア:減らず口を……。次お会いするときは敵同士ですわね。
    同族に手を掛けるのは心が痛みますが、仕方ないことです。……ふふふ。
    では、御機嫌よう。

 


ブロウ:……はぁ、やれやれ。面倒くせえのに絡まれちまったな。


 

   (間・5秒。ブロウ、手下たちの所に戻る。)


 

ラインA:おい、聞いたか例の子供達。

 


ラインB:あぁ、「壊れた時計」の奴らと、バフォメットたちラインを差し置いて、あの凶悪なサタンを倒しちまったんだってね。

 


ラインA:すっげぇよなぁ……。俺には到底できねぇぜ。人間もやるなぁ。

 


ブロウ:……またガキ共の話かよ。飽きねえな。

 


ラインA:あっ、ブロウの旦那! おかえりなさい。

 


ブロウ:どいつもこいつも詰めが甘いんだよ。俺なら誰よりも早くサタンを倒してるぜ。

 


ラインB:さっすが旦那。

 


ラインA:よっ! かっこいい! お酒注ぎますぜ!

 


ブロウ:おーう。

 


ラインB:ところで、さっきのメリアって女と何話してたんですか?


 

ブロウ:あぁ。人間や「壊れた時計」の奴等を殺すために仲間になれってよ。

 


ラインA:それで……返事は?


 

ブロウ:決まってんだろ、断ったよ。


 

ラインA:そうっすよね。誰かの言いなりなんて旦那らしくねえっす!

 


ラインB:で、でも誘いを断ったってことは協力しない私たちを殺しに来るんじゃないんですか?


 

ブロウ:そりゃそうだろ。あの老獪なバフォメットが率いる集団だ。少しでも敵になる可能性があれば潰しにかかるだろうよ。


 

ラインA:ど、どうするんですか?


 

ブロウ:決まってんだろ、力ずくでお帰り願うんだよ。お前らも金魚のクソみたいに俺に付いてきてる訳じゃねえだろ。


 

ラインA:はぁ……。


 

スイ:なんだい、面白そうな話をしてるじゃぁないか。


 

ラインA:誰だぁ、あんた?


 

ブロウ:また珍しい奴が来たな。てっきり故郷に引きこもってると思ったぜ。久しぶりだな、スイ。

 


スイ:どうも引き篭もってる訳にゃぁいかないみたいでねぇ。あ、どもども。アタシゃ天狗のスイ。
   ヤマガミ・スイって言うんだ。あんたらの親分の旧友さね。よろしくどうぞ、お仲間さんたち。


 

ラインA:ヤマガミ……スイ……?


 

スイ:独特な名前だろ? 君らの親分も本当はアタシと似たような名前なんだよ。今は……えっと……なんて名乗ってるんだっけ?


 

ブロウ:……ブロウだ。


 

スイ:そうそう、ブロウ! なぁんで名前を変えたのかねぇ。


 

ブロウ:そんなことより、ここに来た理由はなんだよ。


 

スイ:せっかちだねぇ。まぁいいや。……アタシんところにも勧誘が来たのさぁ。


 

ブロウ:……。


 

スイ:なんて答えたか気になるって顔だねぇ?
   暫く考えさせて欲しいって保留にしてもらったよ。勿論、そんな長い期間じゃないけどね。
   だから君と話に来たんだ。実力ある鬼様ならきっと同じ状況だってねぇ。


 

ブロウ:誘いなら断ったぞ。


 

スイ:へぇ。てっきり暴れるために仲間になると思ってたよ。それじゃあ、どうするのさね?
   人間とでもつるむつもりかい?


 

ブロウ:へっ、まさか!

 


スイ:アタシゃそれもありかと思ってるけどね。

 


ブロウ:なんだよ、お前人間どもの味方をするのか。

 


スイ:そうは言わないさ。ただ、そろそろ変わらなければならないんじゃあないかい?
   アタシらラインは空想の生物でも、魔物でも、ましてや崇められる神でもなんでもない。
   少し形は違えど人間たちと変わらない。どっちが上とか、どっちが下とかじゃあ無いんじゃないかなぁ?


 

ブロウ:……。

 


スイ:どの道ブロウ、君は奴らの誘いを断ったんだ。そこでアタシが奴らの仲間になって君の敵になるのは嫌だねぇ。

 


ブロウ:……俺は。

 


ラインA:ブロウの旦那!

 


ブロウ:……どうしたんだよ。

 


ラインA:それが旦那に会いたいって言うガキが来まして……。

 


ブロウ:ガキ? 今日は随分と客が多いな?

 


スイ:ふむ、アタシもご同行させてもらおうかね。

 


ブロウ:好きにしろ。

 

 

 

――――――――――――
『シーン3:接触』

 


イシュア:初めまして。私イシュアと申します。鬼のライン、ブロウさんですね?

 


ブロウ:あぁ。

 


イシュア:えっと貴方は……。

 


スイ:この男の友達さ。ヤマガミ・スイ。天狗のラインだ。

 


イシュア:よ、よろしくお願いします。

 


ブロウ:挨拶はいい。俺に何のようだ。

 


イシュア:……。

 


ブロウ:勧誘か? 全くどいつもこいつも……。

 


イシュア:え? ……他にもいたのですか?

 


スイ:本格的に人間を滅ぼそうとするラインの集団から誘いを受けたんだ。まあブロウは断ったけどね。

 


ブロウ:スイ、余計な事を言うんじゃねえ。

 


スイ:はいはーい。

 


ブロウ:それで、改めて用件を聞こうか。

 


イシュア:……私はラインと人間から生まれました。
     ラインと結婚し、両種族を血を受け継いだ私を生んだ母は、同じ人間に殺されました。

 


ブロウ:……人間に仕返しするために力を貸せってか?

 


イシュア:いいえ。……人間とライン、両種族から迫害され、居場所を失った私と父は、同じ境遇の者たちを連れて、
     人知れぬ島に逃れ、小さな村を作りました。

 


スイ:……へぇ。

 


イシュア:誰にも脅かされない平和を手に入れたと思っていました。……ですが。

 


ブロウ:長くは持たなかった、と。

 


イシュア:はい。「壊れた時計」の襲撃に合い、父や多くの仲間が殺されてしまいました。


 

ブロウ:あぁ、めんどくせえ! お前は俺に何を求めている?

 


イシュア:私に協力して下さい。人とラインが暮らせる世の中を作るために……。

 


スイ:……へへへ。どうやらアタシが思ってた以上に変わってきてるみたいだねぇ。

 


ブロウ:口を挟むんじゃねえよ。……それで、イシュアさんよ。
    大層な話だが、たとえ俺が協力するにしても、二人でどうにかなる話じゃねえだろ。
    それともなんだ、他にも仲間がいるのか?


 

イシュア:仲間は確かにいません。強いて言えば生き残った村の人たちくらいです。
     ……でも。

 


ブロウ:でも?

 


イシュア:……貴方も知っているはずです。
     つい先日、旧ランディール領で多くのラインと「壊れた時計」のメンバーを差し置いて、
     サタンと戦い、そして打ち勝った女の子の話を。

 


ブロウ:知ってるが……そいつらと何の関わりがある?

 


イシュア:彼女には共に戦う仲間がいます。でも、その人数は決して多くはありません。
     彼女らはたった5人で理想の世界を築くために戦っているんです。


 

ブロウ:……。

 


イシュア:私は今まで逃げてばかりで、誰かが救ってくれる事を待っていました。     
     だけど、本当に望むなら、待ってるだけじゃ駄目だって、彼女たちの活躍を聞くたびに思い知らされました。


 

スイ:なるほどねぇ。どうするんだい、ブロウ? お嬢さん、本気だよ。

 


イシュア:改めてお願いします。ブロウさん、どうか私の力になって下さい。

 


   (間・5秒)


 

ブロウ:……分かった。あんたに協力しよう。


 

イシュア:あ、ありがとうございます!

 


スイ:へぇ、どういう心境の変化だい?

 


ブロウ:気まぐれだ気まぐれ。……だが条件がある。

 


イシュア:条件……ですか?

 


ブロウ:……この俺と戦え。

 


イシュア:えっ!?

 


ブロウ:口でならなんとでも言える。だが、テメェが望む世界は力無しじゃ叶えられねえ。
    だから俺と戦って証明してくれ。あんたが困難に立ち向かう勇気と、それに打ち勝つ力があることをな。

 


スイ:ちょっとブロウ。いくら何でも女の子相手に無茶じゃあないかいね?

 


ブロウ:関係ねえよ。俺はイシュアを一人の戦士として見てるんだ。

 


スイ:ふぅん、君なりの考えがあるなら止めやしないけどね。イシュアちゃん、ブロウは歴戦の猛者だ。
   大怪我をしたくないなら、ここで諦めるのも手だと思うがね。

 


イシュア:いえ、戦います。

 


ブロウ:へっ、よく言った。それじゃあ行くぞイシュア!!!

 


イシュア:はい! よろしくお願いし――

 


ラインB:ぎゃぁああああああああ!!!

 


ブロウ:っ!? な、なんだぁ!?


 

スイ:……どうやら仲間がいる方からだねぇ。

 

 

 

――――――――――――
『シーン3:対決八時の男』


ナガレ:……姿が見えぬと思うたが、まさかここにいるとはな。

 


ブロウ:……テメェ、人の縄張りにずけずけと入ってくるたぁ、いい度胸だなぁ?

 


ナガレ:人の縄張り、か。魔物風情が……言葉を弁えよ。

 


ブロウ:なんだと?

 


イシュア:ブロウさん、待って下さい。……その姿、「壊れた時計」ですね。

 


ナガレ:……いかにも。我は貴様ら害獣共を滅ぼす者。「壊れた時計」八の刻、藤原流(フジワラノナガレ)なり!

 


スイ:フジワラノナガレ……。なんだ、同郷の者じゃあないか。同郷のよしみで一丁仲良く――


 

ナガレ:かぁああああ!!!(近づくスイに刀を振るう)


 

スイ:おわっと、危ない!


 

ナガレ:天狗風情が……妖に語る言葉など無し!


 

スイ:ツレないねぇ。


 

ブロウ:やるしかねぇな。おいイシュア、テメェとの戦いは後だ。今は――


 

イシュア:待って下さい。


 

ブロウ:あ?


 

イシュア:ここは私に任せて下さい。もし私が彼を退けたなら、力を認め、協力してくれませんか。


 

ブロウ:なんだって?


 

スイ:くすくすくす、交渉上手なお嬢さんだ。アタシゃ好きだねぇ。それでどうするのかい、ブロウ。


 

ブロウ:……分かった。認めてやるよ。


 

イシュア:ありがとうございます、ブロウさん。さて、ナガレさん、私が相手です。


 

ナガレ:報告で受けている。ラインと人間の半端者だな。そのような者に――


 

イシュア:はぁああっ!!!


 

ナガレ:っ!?


 

   (イシュア、ナガレの懐に入り込み、短刀を振るう。しかし、間一髪の所で回避される。)


 

イシュア:そのような者に……なんですか? 私だって戦えるんです!


 

ナガレ:……ただの小娘だと思い油断しておったわ。面白い。藤原 流、いざ参る!


 

   (ナガレ、間合いを詰めて持っている刀で一閃。なんとか回避するイシュア)


 

イシュア:くっ! 思ってたより……速い! ――でも!


 

ナガレ:ほう、見切るか。


 

イシュア:まだ……躱せる。


 

ナガレ:ならば、これはどうだ。目覚めよ我が力! 立ち上がれ、魂宿いし瓦礫の武士たちよ!
    かあああぁああ!!!

 


   (ナガレの周りに瓦礫で出来た人間が無数に作り出される。)


 

イシュア:こ、これは……。


 

ブロウ:瓦礫の人形!?


 

スイ:なーるほど、この男は物質を操る能力を持ってるのかい。


 

ナガレ:行け。我が傀儡よ。この少女を殺せ。(瓦礫人形、イシュアに襲い掛かる)


 

イシュア:くっ……。


 

ナガレ:我もいることを忘れるな。ほら、後ろががら空きだ。はぁああ!!(刀がイシュアの肩を掠る)


 

イシュア:あぐっ……。


 

ナガレ:……相手にならんな。


 

ブロウ:おい、イシュア。助けが必要か?(冷たく言い放つ)


 

イシュア:……いえ、大丈夫です。


 

ナガレ:なおも強がるか。よかろう、ならばその強がり、どこまで続くか見せてもらおう!


 

イシュア:瓦礫で出来た人形なら……壊してしまえばいい! てやぁああああ!!!(蹴りで傀儡の一体を破壊)


 

ナガレ:っ! 傀儡が……。


 

イシュア:次は……貴方の番です。


 

ナガレ:ふふふ、等と言うと思うたか? 出てこい。(新たに生まれる瓦礫の兵隊)


 

イシュア:そ、そんな……。


 

ナガレ:ここには瓦礫は腐るほどある。貴様がどんなに倒そうが、我が瓦礫の傀儡は無限に生まれ続けるぞ。


 

イシュア:……そうですか。


 

ナガレ:そこの鬼の言う通り、助けを請いた方がいいのではないか?


 

イシュア:やはりこうするしかないのですね……。


 

ナガレ:まだ何か手があるのか?


 

イシュア:はぁああああああああああ!!!(ワイバーンの姿へ)

 


ナガレ:っ!? まさか、半端者もラインの姿に変化出来るというのか。

 


イシュア:ブロウさん、スイさん! 離れてください!
     瓦礫もろとも吹き飛ばします! おぉおおああああああ!!!

 


ナガレ:くっ! 火炎弾か……。なるほど、ここにいる傀儡ではどうしようもないな。

 


イシュア:これで……終わりです!(激しい炎を吐く)

 


ナガレ:ぬぅう! 避けきれぬ……。ぐぁあああ! くそ! 我に傷をつけるとはいい度胸だな!
    ならばこちらも容赦はせぬ! 我が最大の力で相手をしてやろう!
    ここには瓦礫しか無いのが心許ないが……出でよ瓦礫の巨兵!!!
    うぉおおおおおおおおおおあああああ!!!

 


イシュア:瓦礫の……巨人……。なんてでかい……。

 


ナガレ:相手が巨大ならばこちらも巨大な物で対抗ということだ。さて、力比べと行こう。

 


イシュア:やぁああああああ! くっ、固い……。

 


   (ワイバーンになったイシュア、足の爪で破壊しようとするが、巨人に傷一つつけられない)

 


ナガレ:無駄だ。先とは比べものにならぬ程の瓦礫で作られているのだ。もはや貴様では破壊出来ぬ!

 


イシュア:そんな事……やってみないと分かりません! はぁあああああ!!!

 


ナガレ:またしても火炎弾か。だが――(瓦礫の巨人、イシュアの火炎弾を難なく防ぐ)

 


イシュア:嘘……。

 


ナガレ:そんなもの、取るに足らぬ。

 


イシュア:くっ……。

 


ナガレ:それにしても、空を飛ばれるのは厄介だな。我が傀儡よ、其奴を撃ち落とせ。

 


   (瓦礫の巨人、自分の腕を取り外し、イシュアに向けて投げつける)

 


イシュア:何を――がっ!!?

 


ナガレ:ここまでだな……。

 


イシュア:くっ、翼が……。

 


ナガレ:飛べぬ龍などただの蜥蜴と変わらんな。
    ……さて、せめて最期は我の手で葬ってやろう。

 


イシュア:くっ! はぁあああ!!!(咬撃)

 


ナガレ:ぐぬっ! どこまでも抵抗するか小娘!!!

 


イシュア:私は……負けない……負けられないんです!

 


ナガレ:くっ……いいだろう。そこまで言うのなら……。
    瓦礫の巨人よ! こやつを踏みつぶせ!

 


ブロウ:うぉらぁあああああああ!

 


   (ブロウ、金棒で巨人の足を粉砕)

 


ナガレ:なっ……瓦礫の巨人が……我が傀儡が!?

 


ブロウ:ふぅううううううう……、鬼の力、舐めんじゃねえぞ。こんなモン、俺の前じゃガラクタ同然なんだよ!

 


イシュア:ど、どうして……。

 


ブロウ:イシュア、テメェの力と勇気、見せてもらった。……女のくせに大した奴だ。

 


ナガレ:とんだ邪魔が入ったか! 出でよ瓦礫の――

 


スイ:させる思ってんのかい? あーらよっと!

 


  (スイの放つカマイタチがナガレを襲う)

 


ナガレ:ぐぉっ!?

 


スイ:あんたがいくら逃げようがこの天狗の目からは逃れやしねぇ。

 


ブロウ:形成逆転だな、「壊れた時計」さんよ。

 


ナガレ:ぐぅううう……ならばせめて……ならばせめて一人でも道連れにしてくれる!!!

 


イシュア:させません!(ワイバーンの爪でナガレを切り裂く)

 


ナガレ:うごぁあ!!?

 


ブロウ:さて、今度こそ終いだな。

 


イシュア:さようなら……フジワラノナガレさん。
     はぁああああああ!!!

 


ナガレ:くそっ! この我が! 「壊れた時計」と契約し、力を得た我が負けるというのか!
    このような下等生物に! 野蛮な獣に! あが……ぐぉおおあああああああああああ!!!

 


   (ナガレ消滅。イシュア人間の姿に戻る)

 


イシュア:……倒した?

 


ブロウ:みてぇだな。全く、手こずらせやがって。

 


スイ:ところでこれからどうするのさね? 目出度く仲間が増えたのはいいけど……
   具体的にこれから何をするのかは考えてるのかい?

 


イシュア:今私たちがすべきことは、この考えに賛同してくれるラインたちを一人でも多く見つけること。
     だから当分旅をしながらラインたちと交渉という事になりますね。

 


ブロウ:人間たちや「壊れた時計」はどうする?

 


イシュア:人間の方はきっとあの子たちが何とかしてくれるはずです。「壊れた時計」は襲ってきた時に応戦するだけで、
     こちらからは追うつもりはありません。

 


スイ:なるほど……。反人間のラインたちの勢力拡大を阻止するつもりかい。大胆な事を考えるねぇ。

 


   (間・3秒。現れるメリア)

 


メリア:なるほど、そういう考えでしたか。

 


スイ:ありゃ、お前さんは――

 


ブロウ:……メリア。

 


メリア:丁度良かった。ブロウさんにスイさんもいらっしゃるのですね。
    探す手間が省けましたわ。これで楽に……殺すことが出来る。
    はぁああああああああああ!!!

 


   (メリア、蛇の体でスイを捕獲する)

 


スイ:しまった――ぐぁぁああああっ!?

 


メリア:おほほほほほほほほほほ! 「壊れた時計」の退治、感謝致します。
    お礼に皆まとめて絞め殺して差し上げますわ!

 


イシュア:スイさん!!!

 


スイ:ぐ……がふっ……。

 


メリア:こうなることはある程度予見しておりました。
    ですので災いの種は目が出る前に刈り取ることにさせていただきますわ。

 


ブロウ:スイ!!! 待ってろ今――

 


スイ:早く……行きな……げほっ……げひっ……。

 


メリア:あら、本気で締め上げてるのにまだ喋れるのですね。
    うふふふふ、あははははははは!!!

 


スイ:がぁああああああああ!!?

 


イシュア:スイさん!!!

 


スイ:イシュ……仲間を連れて……はや……ぐ……。

 


イシュア:でも!!!

 


スイ:……時間が……な……い……。

 


イシュア:……くっ! ブロウさん……行きましょう。

 


ブロウ:行くったって何処に!

 


イシュア:私たちが住んでた村です。あそこなら簡単には近づけません。……行きましょう!

 


メリア:行かせるとお思いですか!?

 


スイ:させ……ない!!! うぉおおおおおああああああ!

 


メリア:くっ! 風の結界!? 邪魔するなぁあああああ!!!

 


スイ:ぐが……げふ……ぁ……。

 


メリア:やっと力尽きましたか。
    ――おや? ……見失いましたわね。まあいいですわ。取りあえず一人、裏切り者を排除出来たということで。
    次は貴方たちです、鬼のブロウ。そして人とラインの血を継ぐ娘、イシュア。
    私たちの邪魔する奴らは皆、殺して差し上げます。
    絶対に、執拗に……。
    ふふ、あはっははははははははははははは!!!

 

 


to be continued...

bottom of page