『Links』 第23話 ―踏み出す明日―
【登場人物】
〇リィ・ティアス(♀)
〇レイジス・アルヴィエル(♂)
〇ゼノン・ランディール(♂)
〇アリス・ポルテ(♀)
〇サネル・ランバート(♂)
〇オズィギス(♂)
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【役配分】
(♀)リィ
(♂)レイジス
(♂)ゼノン
(♀)アリス
(♂)サネル
(♂)オズィギス + ゴアス皇帝
計 ♂4 ♀2
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【用語】
ライン:つまるところ怪物。モンスター。おとぎ話、伝説と呼ばれた生物のことを指す。
現在、そのラインが世界各国に出没し、人間に害を与えている。
イントネーションはフルーツの「パイン」と同じ。
魔鉱石:特殊なエネルギーを含んだ鉱物。この世界では照明器具の光や暖房 器具の熱などを作るために、この石を埋め込み、
その力を媒介としている。
また、魔鉱石の純度によっては強大な力を含んでいるが、扱うには体にとてつもなく負荷がかかる。
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【シーン1】
サネル:本当に……いいんだな?
ゼノン:……えぇ。このまま廃墟のままにしておくのもなんですし。それに――
サネル:それに?
ゼノン:確かに故郷ではありますけど、「俺」の国じゃないんで……。
サネル:そうか。でも、思い入れがあるんじゃないか?
ゼノン:……無いって言ったら嘘になりますけど、俺の気持ちなんかより、皆が住める土地の方が大事でしょう?
サネル:ありがとうな、ゼノン。あと、もう一つの件なんだが――
ゼノン:分かってますって。こうなりゃもう全部引き受けてやりますよ。
サネル:すまないな。
ゼノン:その代わり、こっちの約束も守ってくれるんすよね。
サネル:あぁ、分かってる。
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【シーン2】
リィM:ゴアス帝国の東部司令官、グランの反乱は、人間とラインの協力という形で収束した。
ラインたちの協力によって、荒廃したゴアス帝国は当初の計画よりも早く復興していった。
これによって人間はラインも自分たち人間と変わらない事を知り、
ラインもまた、人間と触れ合うことで人間に対する認識を変えていった。
(ゴアス城客室。正装に着替えているゼノンと今まさに着付けられているレイジス)
レイジス:痛たたたた! ゼノン! 強く引っ張りすぎ!
ゼノン:だぁあ! じっとしてろレイジス!
レイジス:別に髪の毛なんてそのままでいいだろ!
ゼノン:お前なぁ、国のパーティに出席するってことを忘れるなよ。身嗜みを整えなきゃ恥ずかしいだろうが。
レイジス:国のパーティなんて俺、初めてだから分からないっての。
ゼノン:取りあえず、俺が保護者扱いされてんだから恥を欠かせんなってこと。
――前髪を後ろに流して、髪油(かみあぶら)できっちり整えてっと、よし出来上がり!
おらレイジス、こっち向けこっち。
レイジス:あ、あぁ。
ゼノン:ちょっとネクタイ曲がってんな。よしオッケー。
レイジス:なんか、落ち着かないな。……な、なぁゼノン。これ、変じゃないかな?
ゼノン:なに言ってんだ。ばっちり決まってるぜ。流石俺。それにしてもあれだな。キチッとすると少しは賢そうに見えるな。
レイジス:え、ホントか!?
ゼノン:喋ったらやっぱりレイジスなんだよなぁ。
レイジス:ひっでぇ!
リィ:あ、着付け終わったんだ。
ゼノン:おうリィちゃん。ちょうど今――うっほ。
リィ:えへへ、じゃーん!
ゼノン:いいとこのお嬢様って感じだな。いやーいいもの見た。でも、着付け大変だったろう?
アリス:サネルさんから紹介してもらった着付け師のお姉さんに、髪とお化粧までしてもらっちゃいました。
ふふ、どうです? ゼノンさん。
ゼノン:んー、いいんじゃねえの? お遊戯会っぽくて。
アリス:この扱いの差ですよ、全く。ふんだ。
(ノック。サネル入室)
サネル:おーう、入るぞー。
リィ:サネルおじさん。
サネル:お、準備が出来たみたいだな。皆似合ってるぞ、良かった良かった。
まあそんな堅苦しいモンじゃねえから気楽にしていいからな。
レイジス:で、でもゴアスの皇帝サマも参加するんですよね?
サネル:まあ、人間とライン両種族の交流、親睦のためもそうだが、
新たな種族を加えた今、陛下は今後のゴアス帝国の政策の方針を話さなきゃならんからな。
レイジス:うへぇ、やっぱり堅苦しいじゃんか!
サネル:固いのはそれくらいだよ。それ以外の時間は誰かと話すか、飯でも食ってろ。
それにイシュアやブロウ、ココレットも参加してるから少しは緊張も紛れるだろ。
レイジス:そ、それなら……。
サネル:さて……そろそろ時間だな。おい野郎ども、しっかり女の子をエスコートしてやれよ。
レイジス:え?
サネル:言葉通り会場まで送り届けてやるのさ。手を引いてな。
レイジス:手を引いて……。
サネル:ほら、もう始まるから急げ。俺は先に言ってるからな~!(ニヤニヤしながら)
レイジス:サネルさん、絶対楽しんでる……。あ、それより、リィ……てて手を。
リィ:あのさ、そんなに緊張されたらあたしも緊張してくるんだけど?
レイジス:お、おう。
リィ:もー、しょーがないなぁ。
レイジス:うわっと。
リィ:ほら、さっさと行くわよ!
レイジス:ちょ、ちょっと待って! 歩くの早いってぇええ……。
(間・3秒。二人を見送るゼノンとアリス)
ゼノン:あいつ、あれでいいのか?
アリス:でもそれでこそあの二人って感じですよね。
さ、ゼノンさん、私たちも行きましょうか。しっかりエスコートしてくださいね?
ゼノン:仕方ねえなぁ。ほらよ、お嬢ちゃん。
アリス:お嬢ちゃんって……私、あなたの倍は生きてるんですけどね?
ゼノン:あーはいはいすんませんしたー。ほら、手を出せ、「おばあちゃん」。
アリス:絶対に許しません。
ゼノン:うぉ!? ひ、ヒールで踏むな!
アリス:知りません。
ゼノン:いててててて!!! そんなことやってたら体勢が――
アリス:きゃっ!?
ゼノン:おっと!
アリス:あ、ありがとうございます……。
ゼノン:……ったく。――ごほん。それではアリスお嬢様、行きましょうか?
アリス:あ、やっぱり普通でいいです。チェンジで。
ゼノン:どうしろって言うんだ。あー、馬鹿やってたらこんな時間じゃねえか。おら、行くぞー。
アリス:はいはい。
――――――――――
【シーン3】
(ゴアス城大広間。人間とラインで賑わっており、テーブルにはお酒や豪華な食事で敷き詰められている。)
レイジス:うわ……すごい……。皆綺麗な恰好してる。
アリス:レイジス君、ネクタイずれてますよ。
レイジス:え、うそ!?
アリス:嘘です。うふふ。
レイジス:な、なんだよ、もう!
アリス:でも少しは緊張がほぐれたんじゃないですか?
レイジス:あ……確かにそうかも……。ありがとう、アリス。
リィ:あれ、そういえばゼノンは?
アリス:え? ……ありゃ? さっきまでそこにいたんですけどね。
レイジス:あ、サネルさんだ。
(ステージにサネルと豪華な服を着た恰幅の良い老人――ゴアス皇帝が現れる)
サネル:えー、おほん。皆様、ご静粛にお願いします!
只今より、我らがゴアス皇帝陛下よりお言葉がございます!
(間・3秒。会場は段々と静かになっていく。)
ゴアス皇帝:長い、長い年月もの間……我々人類は、ラインを倒すべき敵と思い込み、
そしてラインもまた、人類は滅ぼすべき野蛮な種族であると認識していた。
しかし! それは大きな間違いであった!
ラインはただの獣ではなく、また人間は残虐な蛮族ではなかった!
我々には知能があり、通わす心を持ち合わせている!
だからこそ今、偏見と憎しみの壁を越えて我々は手を取り合うことができた。
まずはそのきっかけをくれた、人とラインの血を汲むイシュア殿に厚くお礼を述べたい。
……本当にありがとう。
(会場、拍手)
ゴアス皇帝:今日という日を境に、我々両種族は新たな歴史の導(しるべ)を辿る事となった!
ラインと人間、争わず傷つけず、共に歩む歴史を!
我々はもう互いに血を流す必要などない! 手を取り合い、互いの繁栄のために生きることが出来るのだ!
(会場、拍手)
ゴアス皇帝:これからゴアス帝国は共存する意思を持つラインを受け入れようと思う。
しかし、無計画に受け入れれば彼らの住む土地が足りなくなってしまう。それではいけない。では、どうするか。
土地ならあるではないか! ……そう、大陸の北に。
レイジス:……北?
ゴアス皇帝:かつて隆盛を誇った大国、ランディール。今では瓦礫しか残ってはいないが、
我々はそこに新たに国を建てようと考えた。ゴアス帝国以外に、人間とラインが共に暮らせる国を!
(間・3秒。会場は少しざわつく)
ゴアス皇帝:好ましいのは国民自らが国政に参加出来る民主制ではあるが、現段階では難しいだろう。
したがって、最初は王制を敷き、段階的に民主制へと移していこうと思う。
人間とラインが本当に信頼し合えたその時、国の舵取りを国民に委ねようと思う。
そして一時的ではあるが、その国の王を務める者は――
レイジス:誰だろ……サネルさんかな?
リィ:ココさんだったり?
ゴアス皇帝:ゼノン……ゼノン・ランディール殿に任せようと思う!
リィ+レイジス+アリス:えぇええ!!?
レイジス:ど、どういうことだよ、リィ!?
リィ:あ、あたしに聞かれても分からないわよ!
ゴアス皇帝:さぁ、ゼノン殿……こちらに。
ゼノン:はい。
ゴアス皇帝:彼はその名の通り、ランディール王族の血を継ぐ者だ。
幼少の頃より兄君、レヴィン殿と共に政治の仕方を学んでおり、その知識は豊富だ。
いや、政治知識だけではない。
何よりも、彼自身、両種族の共存を望むからこそ、私は彼を国王に推薦したい。
ではゼノン殿、どうぞ。
ゼノン:はっ。(間・3秒)
皇帝陛下よりご紹介に預かりました、ゼノン・ランディールと申します。
……ご存知の通り、我が祖国ランディールはラインの襲撃によって滅びました。
祖国を滅ぼされ、復讐に憑りつかれた私は、国の仇を取るために剣を取り、戦う技術を磨いて生きてきました。
「ラインは人に害を為す獣」。ずっと……そう思って戦って生きてきました。
ゼノン:ですが、私は多くの仲間たちと旅をして、様々な事を教えられました。
ラインが人と同じ言葉を話し、心を持つという事を。
種族という括りがあるだけで、人間もラインも何も変わらないと……そう教えられました。
アリス:ゼノンさん……。
ゼノン:ラインによって大切なものを奪われた人間は沢山いるでしょう!
でもそれは、ラインも同じです! ラインも人間に沢山大切なものを奪われているのです!
奪われた辛さや悲しさを忘れろとは言いません。でも、だからと言ってそれを繰り返してはいけない!
これ以上奪われる悲しみを増やしてはいけないのです!
ゼノン:共に生きる……。言葉にするのは簡単ですが、とても難しい事だと思います。
きっとこれから多くの衝突が起こるでしょう。ですが、それはきっと解決すると思います。
何故なら、私たちは一度とはいえ、こうして手を取り合えたのだから。
ラインと人間が共に笑って暮らせるなら、私は喜んで全てを捧げましょう!
ですのでどうか! 人間とラインが真に信頼出来る日まで!
私に国王という役職を任せて下さい!
(会場内の人間・ライン両種族拍手)
ゴアス皇帝:どうやら、人もラインの皆も、貴殿が王に相応しいと見なしてくれたようだ。
……本当に良かった。
ゼノン:ありがとうございます。
ゴアス皇帝:では、両種族の繁栄と、新たな国王の誕生を祝って再度乾杯をしようではないか!
さあ、皆さんグラスを手に――乾杯!!!
(間・5秒。皇帝の話が終わり賑わう会場)
レイジス:ゼノン! ゼノンゼノンゼノン!!!
一体どういうことだよこれ!
ゼノン:どういうことも何も、言った通りだろ。話聞いてなかったのか?
リィ:そうじゃなくて王様になるって話よ! いつの間にそんなことに……。
ゼノン:ちょっと前から。サネルさんとな。
リィ:少しくらい相談してくれたっていいじゃない……。
ゼノン:まっ、大人の話だからな。難しい話してもつまんねぇだろ?
リィ:こんな時に子供扱いして……。あたしたち、仲間じゃない。
ゼノン:んー、俺自身のケジメってこともあるからな。てか何だ、気にかけてくれてんのかぁ? お兄さん嬉しいぜー。
レイジス:わっ、やめろって! てかケジメって何の!?
ゼノン:ぬははは! さぁなー。
リィ:でも、旅はどうするの?
ゼノン:国を立てるためには瓦礫だらけランディール領の整地から始めなきゃなんねぇ。
土地を整えて資材集めて家を建てる。整うまで相当時間が掛かる。大体1年くらいだとサネルさんの考えだ。
とはいえ、人間もラインも動員して急ごしらえで建てても今じゃ街くらいの規模が限界だろうけどな。
レイジス:……って事はそれまでに決着を付けるってことだな。
ゼノン:そういうこと。――さってと!
リィ:どこいくのよ?
ゼノン:小便だよ小便。なんだ、リィちゃん一緒にするかー?
リィ:馬鹿。さっさと行ってきなさい!
ゼノン:へいへーい。
リィ:全く、さっきの真面目さはどこいったのよ!
レイジス:……あれ、アリスは?
リィ:え? 知り合いのラインでもいたのしかしら。
レイジス:それともイシュアさんと話してるのかな。
サネル:ようお前ら! 楽しんでるか?
レイジス:サネルさん。
リィ:サネルおじさんもずるい。ゼノンの事、教えてくれたっていいじゃないですか。
サネル:あいつから黙っててくれって言われてたんだよ。
あまりお前たちに気を負わせたくなかったんだろうよ。
レイジス:……カッコつけやがって。もっと俺たちを信用してくれよ。
サネル:違うな。信用してるからこそ、だろ。……それで、あいつは?
レイジス:トイレだそうです。
サネル:なんだ。これからのためにも色々紹介しておきたい人がいるんだがな。
レイジス:……お見合い?
サネル:ぶっはっは! お見合いか! それも面白そうだがな。
残念ながらレイジス、お前が嫌いな堅苦しい話だ。
レイジス:うげ……。
サネル:まあそれはそうと、ココレットやイシュアたちと話したか?
あいつら、お前たちを探してたぞ。
リィ:え!? そうなんですか!? レイ、行こう!
レイジス:あ、あぁ!
サネル:人にぶつからないようになぁー!
……やれやれ、慌ただしくて見ててハラハラするぜ。
――――――――――
【シーン4】
(ゴアス城外。人気のない所で一人夜風に当たってるゼノンは煙草を吹かしている)
ゼノン:……あー、胃が痛てぇ。全く、こんな緊張久しぶりだぜ。
今思えば兄貴の奴、よく国王出来たよなぁ……。いてて。
(間・3秒。後ろからアリス登場)
アリス:やあ、お兄さん。パーティ楽しんでますかー?
ゼノン:アリス……。
アリス:はいグラス。
ゼノン:あ?
アリス:はい乾杯。
ゼノン:……乾杯。
(間・5秒。無言でグラスを傾けチビチビ飲んでる)
アリス:……ゼノンさん。
ゼノン:……ん?
アリス:ありがとうございます。
ゼノン:そりゃどうも。
アリス:無理してませんか?
ゼノン:別に。故郷にまた国を建てるのは昔から考えてたことだしな。……それに。
アリス:それに?
ゼノン:昔の自分とそろそろお分かれしなきゃなって思ってな。
アリス:昔の自分……。
ゼノン:あぁ。さっき皆の前で話した言葉に嘘偽りなんて一つもない。
今は……お前らと同じで心の底から人間とラインが暮らせたらいいなって思ってる。
アリス:……。
ゼノン:あぁ……そうだ……なぁ、アリス……その……。
アリス:うん? どうしたんです?
ゼノン:いやさ……初めて会った時によ……酷い事言ってすまん。
アリス:……。(ぽかん)
ゼノン:……。
アリス:ぷっ、あははは! ほんっとうに今更ですねぇ。そんなこと、全然気にしてませんよ。
私だって失礼な事を言いましたし、それに……。
でもまぁ、折角なので許してあげましょう!
時にゼノンさん、オルテア国に「潮風パフェ」って人気のスイーツがありましてですね?
ゼノン:……連れていけってことかよ。はいはい、分かったよ。
アリス:うふふ。
ゼノン:はぁぁあ……、それにしても俺が王サマねぇ。
アリス:案外似合ってるんじゃないですか?
ゼノン:案外ってなんだよ案外って!
アリス:あはは、冗談ですって! しっかり似合ってますよ!
ゼノン:へっ、それでいいんだよ。
アリス:……。
ゼノン:……なぁ。
アリス:なんです?
ゼノン:俺、考えてることがあるんだ。聞いてくれるか?
アリス:……はい。
ゼノン:俺は人間だ。王になってもそれは変わらない。
出来る限り二つの種族が満足のいく政治を行うつもりだが、百パーセントラインの気持ちなんて分からないと思う。
弱気の言葉じゃなくて、俺が人間である限りこれだけはどうしようもならねぇんだ。
アリス:……。
ゼノン:だから俺は信用できる人間とラインを俺の補佐役になってもらおうと思ってる。
人間の方はエストの親父、アランだな。あいつは兄貴の宰相務めてたし、政治知識も技術もある。
けど問題のラインは――
アリス:……もしかして、私ですか?
ゼノン:いや、お前じゃ駄目なんだ。お前だったら俺の意見に寄ってしまう可能性があるからな。
……たとえお前がその気じゃなくても周りにはそう見えるんだ。
アリス:そう……ですね。
ゼノン:俺に必要なのは俺のことを嫌いってくらいに靡(なび)かず、ラインのことを真剣に考えられるやつだ。
アリス:それって――
ゼノン:……ヴェルギオス。
アリス:っ!
ゼノン:簡単に説得出来ねえだろうが、俺はあいつが適任だと思ってる。
アリス:ゼノンさん……。
ゼノン:ついでにあいつを殺さなくていいんだからお前も満足だろ。
アリス:……ずるい人ですね、あなたは。
ゼノン:あん?
アリス:言葉は乱暴で、話し掛ければぶっきらぼうなのに……
心の奥底ではちゃんと人の事を考えてくれている。
本当に……ずるい。
ゼノン:それ、褒められてんのか?
アリス:ふふ、どうでしょう。……でも、それが私が知ってるゼノンさんです。
ゼノン:……。
アリス:そうだゼノンさん、私の話も聞いてくれませんか?
今までずっと話せなかった事……今までずっと、話したかった事があるんです。
(暗転)
―――――――――――――
【シーン5】
(パーティーは終わり、総司令官執務室にて。ソファーで寝転がるレイジス)
レイジス:ぐへぇ……肩痛い。
サネル:はっはっは! お疲れさん、よく頑張ったな。
レイジス:スーツは息苦しいし、ずっと立ちっぱなしだし、色んな人と話さなきゃならなかったし……
つ・か・れ・たぁぁ!!!
サネル:だが、メシは美味かったろ。
レイジス:……とっても。
サネル:はっはっは! 素直でよろしい。
(ノック)
リィ:サネルおじさん、リィです。
サネル:おう、入っていいぞー。
リィ:し、失礼しまーす……。(そろりそろりと入室するリィ)
(間・3秒)
サネル:……うん? リィ、具合でも悪いのか?
リィ:へ? い、いや……ぜ、全然! ななななんでもないです……よ?
レイジス:なんか歩き方変だけど、どうしたのさ?
リィ:あっ、馬鹿! 押さないで! ひゃぅう……。(足を押さえてしゃがみ込む)
レイジス:え……何!?
サネル:ぶはははは! なるほどな! 流石のリィもハイヒールは履き慣れてなかったか! はっはっは!
リィ:わ、笑わないで下さいよ! うっ、痛たた……ひぅん……。
レイジス:ご、ごめん。
リィ:馬鹿……最低!(涙目)
レイジス:うぐっ……。と、取りあえず立ち上がるの手伝うよ。ほら。
サネル:はっはっは! ……まぁレイジスと言い、リィと言い、いい経験になったろう。
学生さんには滅多にない経験だ。これから先、大人になる上できっと役に立つだろうよ。
レイジス:大人に……。
サネル:あぁ、そうだ。今は目の前にある事で精一杯だろうが、誰しもいつかは大人になるんだ。
リィ:……どんな大人になるのかな、あたしたち。
サネル:さあな。だが、今日の経験や今までの旅はきっと、お前たちの成長の糧になるだろう。
きっと……お前らの両親も喜んでると思うぞ。
リィ:そうかな……そうだといいな。
サネル:あぁ、きっと――
オズィギス:残念ながら、君たちが大人になることは叶わないだろう。
リィ:え――
サネル:オズィギス……。よくもまあ抜け抜けと俺の前に現れたな!?
オズィギス:くくっ! サネルか、久しいな。
貴様とは長い間の付き合いだったが、私をラインだと気づかず、普通に接してくる様子は滑稽だったぞ。
サネル:テメェ……!
オズィギス:それはそうと……。(リィとレイジスを見る)
レイジス:な、なんだよ! やろうってのかよ!
オズィギス:まあまあ、落ち着きなさい。今日は君たちと戦うつもりなどないよ。……今日は、ね。ふふふふ。
リィ:それなら何しに来たのよ!
オズィギス:いや、なんてことはない。世話になった君たちにちょっと挨拶をと思ってね。
リィ:……。
オズィギス:君たちのおかげでメリア、グラン、そしてヴェルギオスまでもがやられ、
ゴアス帝国を奪取する作戦までもが失敗に終わった。
ただの小僧共と思っていたが……本当にやってくれたよ。
リィ:なによいきなり。泣いて謝ったって、許すつもりなんかないんだから。
オズィギス:まさか。許してもらおうとも、命乞いをするつもりなど無い。
……何故なら、私の計画は順調に進んでいるのだからな。
レイジス:さっき仲間がやられたって言ってたのに何が順調だよ!
オズィギス:順調だとも。奴らは所詮、君たち人間と「壊れた時計」の戦力を削り落とす、いわば囮のようなもの。
成功すればよし、失敗してもほら、ゴアス帝国を見てみるといい。
今の彼らは私に楯突く力など残ってはいない程消耗している。
リィ:でも、人間とラインが手を結んだ。もう二つの種族が争うことはないわ!
オズィギス:あぁ知っているとも。両種族の混血児の娘イシュアによって、
人間とラインは種族の壁を越え、新たな一歩を踏み出した。
レイジス:もうあんたに味方する人はいないんだ。大人しく諦めろ!
オズィギス:味方とは信用信頼によってつくるもの。私に味方などいない。いるのは……忠実な駒だ。
私が望むままに動き、望むがままに命を擲つ駒だ。
私の下の集ったラインは皆、人間の排除を志し、ラインだけの世界を望み、そして戦った。
我ながら実に簡単に操れたと思っているよ。
レイジス:お前……!
オズィギス:そして今、組織「壊れた時計」を創り、レイジスを作った男クロックマスター……いや、
バーネット・アゼライトを吸収し、私は人間はおろかラインをも超越する存在となった。
リィ:バーネットを……。
オズィギス:折角だ、君たちに私の新たな力を見せてあげよう。
見るがいい! これが全てを越えた力だ!!!
(オズィギスが手を広げると、その瞬間轟音と共に地面が揺れる)
リィ:きゃっ!? す、凄い地震!!!
レイジス:り、リィ! 外! 外見て!!!
リィ:え!? 何あれ……塔?
オズィギス:そうだ。私に刃向う者たちを粛清する神の塔とでも言おうか。
いや、塔だけではない。中には私の最高傑作たちが待ち構えている。
レイジス:最高傑作……?
オズィギス:強制的に私の力とバーネットの「壊れた時計」の力を注入したラインたちだよ。
今まで君たちが戦ってきた駒共とは格が違う。
……もっとも過ぎた力によって異形と化し、自我は壊れてしまったがね。
何にせよ、君たちも楽しめるはずさ。
サネル:テメェ……人の命をなんだと思ってやがる!!!
オズィギス:レイジス、君はそこらにいる屑共とは違う!
今からでも遅くはない。私と共に来るのだ。
リィ:……レイ。
オズィギス:どうかね。新たに創造する世界、
敵など存在せず、争いとは無縁の理想郷。君もきっと気に入るだろう。
レイジス:人は……人間はどうなるんだよ。
オズィギス:人間など不要! いや、私に刃向う者は全て許されぬ。
それこそが真なる平和への近道だよ、レイジス君。
レイジス:そんなの……。
オズィギス:うん?
レイジス:そんなのごめんだ!
皆がいない世界なんて! 誰かが支配する世界なんて!
俺は嫌だ!!!
サネル:よく言った……レイジス!!!
オズィギス:それは残念だ。そうだな……争うつもりなど無いが、
一人くらい大事な人を失えば、絶望してサタンになるかもしれない。
……なぁ、リィ?
リィ:えっ――
オズィギス:消えるがいい。ふははははははは!!!!
リィ:くっ! 間に合わない――
ゼノン:ちょぉおおおっと待ったぁあああ!
オズィギス:む……? これは……氷か。
ゼノン:随分と楽しそうな事してるじゃねえの、オズィギスさんよ!
アリス:私たちも混ぜてくれませんか?
リィ:ゼノン、それにアリス……。
アリス:まさかオズィギスがここに来てるとは思ってませんでしたが……間に合ってよかったです。
オズィギス:成程、一同揃い踏みと言う事か。
レイジス:オズィギス、これでもやろうってのか!?
オズィギス:それも面白いが……今日の所は退散させてもらうとしようか。
リィ:ちょっと、逃げる気!?
オズィギス:そう急ぐな。君たちの自信に満ちた顔を歪めたくなった。
そうだな、このまま滅ぼすのは実につまらない。
三日後だ。三日後、太陽が昇り切った時に世界各国に我がライン共を襲わせる。
せいぜい残された時間を楽しむと良い。
レイジス:そんなことさせるもんか!
オズィギス:そしてレイジス、君もしっかり考えることだ。どちらに着くのが一番なのかを。
三日以内であれば我らは快く君を受け入れよう。
期限を越せば、そこらのゴミ同様、敵として君を処分する。
レイジス:っ!
オズィギス:せいぜい悩み苦しむがいい。ふふ、ふはははははははは!!!
(間・3秒)
ゼノン:消えた……か。冷や冷やさせやがって。外は変な塔が出てくるし……。
お前ら、大丈夫か?
リィ:う、うん……。
レイジス:なんとか……。
サネル:まずいな……。少し外を見てきたがゴアス内は突然現れた塔に混乱してる。
オズィギスの言う事が本当なら、早急に軍の編成をしなきゃならんだろうな。
三日じゃ他国と連携する暇は無さそうだ。俺は陛下の所に行ってくる。(サネル、退出)
リィ:オズィギス……バーネットを吸収したって言ってた。
レイジス:うん。
リィ:セイルは……「壊れた時計」はどうなったんだろ……。
レイジス:分からない。でも、オズィギスは消えたとは言ってなかった。
ゼノン:……消えてないだろ。俺が生きてるわけだからな。
レイジス:あ、そっか。ゼノンはエストのお父さんと契約してるから、ゼノンが生きてるってことは……。
ゼノン:そういう事。
アリス:でも、安心して良い状態ではないはずです。
少しでも敵になるのであれば、オズィギスは彼らを始末しに来るはずです。
リィ:そうね。それならやる事は決まってるわね。
決着を付けましょう……オズィギスと!
レイジス+ゼノン:おう!
アリス :はい!(同時が好ましい)
to be continued...