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『Links』 第22話 ~再び進む時計の針~

 

【登場人物】

 

〇セイル(♂) 20代前半(見た目年齢)
  12時の男。リィの兄。妹を守るためと、両親の死の真相を知るために組織「壊れた時計」に入る。
  彼の能力は武器の生成。あらゆる種類、強度、切れ味の武器を精製出来るが、

  質が良ければ良いほどエネルギーを消耗する。口には出さないが、妹想いで優しい青年。

 

〇ラッセル(♂) 20代前半(見た目年齢)
  10時の男。組織に入る前はランディール王国、王立楽団員だった。

  戦闘集団に属している割には、温和で、戦いを好まない性格をしている。

  生き残った楽団員を守るために、「壊れた時計」の契約を交わした。
 

〇ギルティア(♂) 30代前半(見た目年齢)
  7時の男。組織に属する前はゴアス海域を荒らしまわる海賊だった。

  性格は豪快で自由奔放、喧嘩好き。小柄で素早い動きで敵を翻弄する戦い方が得意。
 

〇ヴェクタ(♂) 30代後半(見た目年齢)
  5時の男。かつては有力な科学者だった。性格は高圧的で、高飛車。

  ちなみに彼の能力や彼自身、前線向きでは無い。

〇シェリル(♀) 10代後半(見た目年齢)
  9時の少女。ランディール王国が崩壊した際、難民としてゴアス帝国に流入する。

  当時孤児院を営んでいたココレットに拾われ、生きながらえる。

  過酷な環境で生きていたにも関わらず、性格は明るく、空気を読めない程の元気さがあるのは、

  一重にココレットに拾われたからのものである。
 

〇パプリ(♀) 21歳
  オルテア小国に住む元・楽士の女。
  いなくなった恋人の帰りを待っている。

〇ザクシム(♂) 29歳
  オルテア小国に住む元・楽士の男。
  今は商人として生計を立てている。

 

―――――――――――――――――
【役配分】

 

(♂)ラッセル
(♂)セイル + 住民
(♂)ギルティア + ラインの男
(♂)ヴェクタ + ザクシム
(♀)シェリル
(♀)パプリ

 

―――――――――――――――――
【用語】

 

ライン:つまるところ怪物。モンスター。おとぎ話、伝説と呼ばれた生物のことを指す。
    現在、そのラインが世界各国に出没し、人間に害を与えている。
    イントネーションはフルーツの「パイン」と同じ。

 

魔鉱石:特殊なエネルギーを含んだ鉱物。この世界では照明器具の光や暖房 器具の熱などを作るために、この石を埋め込み、
    その力を媒介としている。
    また、魔鉱石の純度によっては強大な力を含んでいるが、扱うには体にとてつもなく負荷がかかる。

 

――――――――――――――――
【シーン1】

      (とある森の中。
      バフォメットのライン、オズィギスの手から命辛々逃げ延びた、組織「壊れた時計」のセイルとアラン。
      他の「壊れ時計」のメンバーはボロボロになった二人を見つける)


 

セイル:くっ……うっ……。

 


シェリル:あ、セイル君。目が覚めたんやな!


 

ラッセル:まだ傷は痛むかい?


 

セイル:いや、大丈夫だ。……そうか、俺たちなんとか逃げ切れて……そうだ、アランは!?

 


ラッセル:……まだ意識が戻らない。傷が深すぎる。正直生きているのが不思議なくらいだ。

 


セイル:……。


 

ギルティア:んで、何があったんだよセイル。


 

セイル:……クロックマスターがオズィギスに殺された。


 

ヴェクタ:なんですと!?


 

セイル:俺が来た時にはクロックマスターとアランは既にやられていた……。
    オズィギスはクロックマスターの力を吸収してさらに強くなり、
    もはや俺一人じゃ、奴に傷一つ付けることすら出来なかった。……すまない。

 


シェリル:気にせんでええよ。生きて帰れただけでも十分やわ。


 

ヴェクタ:な、何が十分ですか!!! 今や我ら「壊れた時計」は半分が死に、
     さらにはクロックマスターまで失ったのですよ!?


 

ギルティア:ギャーギャーうるせぇよ、ヴェクタ。


 

ヴェクタ:ふん! 海賊風情には今の状況が分からないでしょうな!


 

ギルティア:んだと?


 

ヴェクタ:(独り言を呟くように)
     あぁ、ワタシはこれから一体……。クロックマスター、ワタシは貴方の理想に共感し、

     貴方の言われるがままに研究を重ね、やっとの思いで例の物を完成させたと言うのに……。
     ……あぁ、あぁああ、あぁあああああ!!!(錯乱状態)

 


セイル:研究? 何のことだ、ヴェクタ。


 

ヴェクタ:ひっ! し、しまった!?


 

ギルティア:そう言えばサタンを追ってランディールで戦った時も、テメェはいなかったな。どこにいたんだ?


 

ヴェクタ:お、おおおお前たちには関係の無い話だ!


 

シェリル:まさか裏切るつもりなんてないやろな?


 

ヴェクタ:わわわわ私はラインをこの世から消し去るためにぃいい……。
     クロックマスター、クロックマスター、クロックマスタぁぁああああ! あひぇぇええええええ!!!


 

   (ヴェクタ、森の奥に消える)

 


シェリル:あ、逃げた。どうする?

 


ギルティア:ほっとけ。時間の無駄だ。どの道、肝が小せぇあの野郎の事だ。何も出来やしねぇさ。
      戦闘が不得意な上に前線向きな能力じゃねえしな。


 

シェリル:なんか良からん事考えてそうやけど……大丈夫かな。


 

セイル:それより、これからどうするかだな。今残ってるのは――


 

シェリル:アランを除いたら、ウチとセイル君、ラッセルとギルティア、それにヴェクタやな。
     

 

セイル:あと「6時の男」もだな。


 

ギルティア:あのイカレ野郎か。あの野郎はクロックマスターが死んでも、お構いなしって感じだろうな。
 

      

セイル:取りあえず、クロックマスターが死んでも俺たちは「壊れた時計」の能力を失わずに生きている。
    だから……まだ戦える。


 

シェリル:……でも勝てるんか?


セイル:それじゃあ逃げるか? オズィギスはクロックマスターの力を吸収したんだ。
    クロックマスターは俺たちの魂を管理していたんだ。
    今、俺たちは生きていると言っても、まだ俺たちの命が握られている可能性はあるんだ。


 

シェリル:うぇえ……。

 


セイル:戦うしかないさ。……たとえ勝ち目が無くても。
    とは言っても、満身創痍な今の状態でオズィギスに挑んでも、戦いにならないだろう。
    少しだけ傷を癒す時間が俺たちには必要だ。アランの傷の治療もあるしな。


 

シェリル:せやな。ここから一番近いのは――オルテア小国やな。
     んー、あそこのお魚、美味しいから好きやなぁ。


 

ギルティア:おいおい、遊びに行くんじゃねえんだぞ、シェリル。


 

シェリル:ぶー、分かっとるわ!

 


セイル:いや、少し気を抜くのも必要だ。……来るべき戦いに備えてな。


 

シェリル:それじゃー、オルテア小国にしゅっぱーつ!

 


ギルティア:……んで、誰がアランを運ぶんだよ。

 


シェリル:え、ギルティアちゃうん?

 


ギルティア:こいつデケェんだよ。


 

シェリル:え、それってギルティアが単に小さ――

 


ギルティア:シェリル、テメェそれ以上言ってみろ。ぶっとばす。


 

シェリル:な、なんも言ってへんよ!


 

ラッセル:それじゃあ僕が背負うよ。皆も怪我して大変だろうからね。

 


シェリル:ラッセルも怪我してるやんか。


 

ラッセル:皆と比べたら僕の傷なんか大したことないよ。ほら、早く行こう。


 

セイル:そうだな……。

 

 

 

―――――――――――――――――――
【シーン2】

 

   (オルテア小国にて。名物ペチ魚の塩焼きを食べながら歩くシェリル)


シェリル:おっさかな―。おっさかなー。


 

ギルティア:そのまま串、喉に刺さって死なねぇかな。

 


シェリル:もごもご、さっきから、もごもご、ひどいな! ふがっ。


 

ギルティア:人の言葉で話せ。


 

シェリル:大体付いてこなくてもええやんか。


 

ギルティア:いつオズィギスの刺客が襲ってくるか分からねえだろ。

 


ラッセル:文句は言ってるけど、ちゃんとシェリルの事を考えてくれてるからね、ギルは。

 


シェリル:なんや素直やないなー。ウチ優しいから、残りの魚ギルティアにやるわ。

 


ギルティア:……ふん。(魚を食べる)


 

シェリル:やーい、間接キスー。


 

ギルティア:よしぶっ殺す。


 

ラッセル:ま、まぁまぁ……。


 

セイル:はぁ、前途多難だな。


 

    (ラッセル、紙袋を抱えた女、パプリとぶつかる)


 

パプリ:きゃっ!?


 

ラッセル:うわっと! ごめん、余所見をして……え?


 

パプリ:……ラッセル君?


 

ラッセル:き、君は……。っ!(逃げようとする)


 

パプリ:ま、待って!


 

ラッセル:……。


 

パプリ:えっと、その……。いきなり過ぎて何て言えばいいんだろ……。


 

シェリル:え、なになになに? 彼女さん?


 

セイル:俺に聞くな。


 

シェリル:めっちゃ気まずそうやで?


 

ギルティア:恋人すっぽかしてこの組織にいりゃぁ、そら気まずくなるわな。……魚うめぇ。

 


シェリル:呑気に魚食うてる場合やないで!(ギルティアの背中を叩く)


ギルティア:ぐほっ! げほっ、ごほっ! シェリル……テメェ……うげ……。


 

ザクシム:どうしたパプリ……ってお前、ラッセルか!?


 

ラッセル:……ザクシム。

 


ザクシム:生きてるなら手紙くらい送れ。……でもまぁ、なんだ。取り敢えず生きてて良かった。


ラッセル:……あぁ。


 

ザクシム:それで……まだ帰れないのか?


 

ラッセル:うん……ごめん。

 


ザクシム:……そうか。


 

シェリル:これウチら居ない方がええんちゃう?

 


ギルティア:部外者だしな。

 


パプリ:ね、ねぇ。


 

ラッセル:な、何かな。


 

パプリ:少し……話せるかな?


 

ラッセル:……。


 

パプリ:……話したい。


 

ラッセル:僕は……。


 

ギルティア:あいつ、あんなにヘタレだったか? すっげえイライラするぜ。


 

シェリル:ん、突撃を許可する。


 

パプリ:ダメ……かな?


 

ラッセル:僕には……任務が――痛い!!?


 

ギルティア:おいおい、おいおいおい!!!(バシバシとラッセルの背中を叩く)


 

ラッセル:いたっ! 痛いってば、何するんだ、ギル!!


 

ギルティア:テメェそんなに甲斐性の無ぇ男だったか!?
      こんな可愛い嬢ちゃんが話したいって言ってんだ。断る理由なんて無いだろうが! ほら、行ってこい!

 


ラッセル:でも――

 


ギルティア:うるせえ!


 

セイル:大切な人なんだろ? 行ってこい、ラッセル。


 

シェリル:ラインが襲ってきたらウチらがどうにかしたるからなー!


 

ラッセル:皆……ありがとう。……パプリ、行こう。


 

パプリ:う、うん!


 

ギルティア:やれやれ、世話の焼ける野郎だぜ。


 

ザクシム:あんたたち、ラッセルの仲間か?


 

セイル:……あぁ。貴方は?


 

ザクシム:ザクシムだ。ザクシム・アンドレオ。今は商人として暮らしているが、ラッセルとは音楽仲間だった。

 


ギルティア:音楽仲間だぁ?


ザクシム:俺やラッセル、そしてパプリはランディール王国で楽団を組んでいた。
     まぁ、王国が滅んだ今となっては昔話にしかならんがな。


 

セイル:ランディールの……。

 


ザクシム:パプリは、あいつの……ラッセルの帰りをずっと待っていた。
     いつも無理して笑ってたが、久しぶりに目に光が戻った感じだったよ。


 

セイル:……。

 


ザクシム:なあ、ラッセルはいつ帰って来るんだ? あんたたちは何時あいつを解放してくれるんだ?


 

セイル:解放は……できない。

 


ザクシム:なんでだよ。


 

セイル:戦うのは、彼自身の意思だからだ。


 

ザクシム:あいつの性格は戦いに向かない。一緒に戦ってるならそれくらい分かるだろ。
     戦いに向いている奴は他にもいるはずだろ!


 

ギルティア:テメェなぁ、さっきから聞いてりゃ好き勝手言いやがって!
      誰がテメェらをラインから守っ――


 

セイル:ギルティア。


 

ギルティア:ちっ!

 


セイル:確かにラッセルは戦いには向かない性格だ。だが、彼には戦いのセンスがある。
    ……きっと大切な人を守りたいと言う気持ちから来てるんだろうな。
    仲間の俺たちや、本当に守るべき人たち……貴方たちをラインの手から守れるように。


 

ザクシム:……。


 

セイル:すまない。もう少し彼を……ラッセルを貸してほしい。彼は……大事な戦力なんだ。

 

 

 

――――――――――――――――――
【シーン3】

 
   (セイルたちとは大分離れた公園にて。ベンチに腰掛けるラッセルとパプリ)


 

パプリ:久しぶり……だね?


 

ラッセル:……うん。久しぶり。


 

パプリ:げ……元気だった?


 

ラッセル:……うん。


 

パプリ:……そっか。良かった。


 

   (間・3秒)


 

パプリ&ラッセル:あの……。


 

パプリ:あ……。


 

ラッセル:先、いいよ。


 

パプリ:……話したいことがいっぱいあるのに、いざ会ったら何から話せば良いか分からないや。


 

ラッセル:何から話してもいいよ。全部聞く。


 

パプリ:えへへ、それじゃ遠慮なく。すぅーはぁー、すぅーはぁー。会いたかった! です!


 

ラッセル:……(キョトン)

 


パプリ:さらにドーン!(急な抱き着き)


ラッセル:うわわっ!?


 

パプリ:な、何か言ってよ。私だけはしゃいでて恥ずかしいよ。


 

ラッセル:……いきなりで驚いちゃったよ。


 

パプリ:……ごめん。


 

ラッセル:パプリが謝ることじゃないよ。……僕も会いたかった。


 

パプリ:うん……うん!


 

ラッセル:パプリたちは……今何をしてるんだい?


 

パプリ:ラッセル君がいなくなった後、私とザクさん、残ったメンバーでオルテアの街で暮らしてるんだ。

 


ラッセル:そうなんだ……。音楽は?


パプリ:音楽は……ラッセル君が帰ってきたらって皆で決めたんだ。


 

ラッセル:……ごめん。


 

パプリ:ううん。皆で決めたことだから。それにラッセル君がいないと何を演奏してもつまんないもん。


 

ラッセル:……。


 

パプリ:髪、伸びたね。


 

ラッセル:……切る時間がなかったからね。


 

パプリ:ラッセル君、ただでさえ女の子みたいな顔してるんだから、髪伸ばしたら余計に女の子に見えるよ。
    ……そうだ、私が整えてあげる。ほら、後ろ向いて。


 

ラッセル:う、うん。


 

   (間・3秒)

 


パプリ:はぁ~、あれから3年かぁ。変わらないね。
    再会したら私の知らないラッセル君になってたらどうしようかなって思ってた。


 

ラッセル:あはは、そんなに変わってないかなぁ……。

 

 

 

パプリ:変わってないよ。この声も、この匂いも、昔と変わらない。私の大好きなラッセル君だ。えへへ。

 


ラッセル:ありがとう。

 


パプリ:そうだ! ラッセル君は何してるの? 


 

ラッセル:僕は……ごめん、言えない。


 

パプリ:……戦ってるの?


 

ラッセル:え?


 

パプリ:傷、増えてた。さっき抱きついた時、見ちゃった。


 

ラッセル:……うん。


 

パプリ:私――

 


ラインの男:こんにちは、お嬢さん。(突如パプリの背後に鳥型のラインの男が現れる)


 

パプリ:な、何!? ――もごっ!?


 

ラッセル:パプリ!!! くっ、空からか!?


 

ラインの男:んふふ、なぁに? このカワイコちゃん、貴方の恋人? ねぇ――「壊れた時計」さん?


 

ラッセル:オズィギスの刺客か!


 

ラインの男:知った所でどうするつもり?
      そうねぇ、散々仲間を殺された仕返しに、貴方の大事な物でも奪ってあげようかしら。


 

パプリ:ラッセル……君……。


 

ラッセル:……パプリ、すぐに助ける!

 


ラインの男:ノッポのお兄さん、そのヒョロッヒョロの腕でアタシとやり合うつもりかしら?


 

ラッセル:……人を見た目で判断しないほうがいい。


 

ラインの男:あら怖い。でも、この子を人質にしてる今、アタシに攻撃しようとしたらどうなるか分かるわよねぇ。


 

ラッセル:……すまない。


 

ラインの男:きゃはははは! 可愛い顔して薄情な人ね!


 

ラッセル:パプリに言ったんじゃない。君に言ったんだ。


 

ラインの男:なに? ――ぐぎゃ!?


 

    (石の拳が地面から生え、ラインに追突する。ラインの手から離れたパプリはラッセルによって抱きとめられる)


 

ラッセル:大丈夫かい、パプリ。ごめん、怖い思いをさせてしまったね。


 

パプリ:う、ううん、大丈夫……。少し怖かったけど。
    ラッセル君が助けてくれたから、平気だよ。


 

ラッセル:……パプリ、少し目を閉じてて欲しい。君には見せたくない。


 

パプリ:ん……。


 

ラインの男:く、くぅうう! やってくれたわネ!! ならこっちも容赦しな――え? ぎゃぁああああ!!!?


 

ラッセル:命までは取らない。早く僕たちの前から消えろ。


 

ラインの男:ふ、ふざけんじゃないわよ! 消えるのはアンタの方よおぉおお!!!


 

ラッセル:そうか……残念だ。――土よ、この男の動きを封じろ。


 

ラインの男:え!? な、なによ! なんなのよこれ!?


 

ラッセル:暫くこの石の牢で大人しくしてるといい。優しい人間がいたら助けてくれるかもね。
     本当は助けてやりたいけど、生憎、恋人をこんな目に合わせた人を許せるほど、僕は優しくないんだ。
     

 

ラインの男:こんな物! こんな物ぉおおおおおお!!!


 

ラッセル:行こう、パプリ。


 

パプリ:う、うん。
 

 

ラインの男:ちくしょおぉおおおおおお!!!!

 

 

―――――――――――――――――
【シーン4】


セイル:話は済んだようだな。

 


ラッセル:あぁ。途中ラインに襲われたけどね。

 


ギルティア:なんだって!?

 


セイル:その様子を見ると、無事なようだな。……よかった。


 

ラッセル:……あぁ。


 

ザクシム:パプリ、怪我は無いか?


 

パプリ:うん、ラッセル君が助けてくれたよ。


 

ザクシム:そうか。ありがとな、ラッセル。


 

ラッセル:大切な人だからね。パプリも……ザクシムも。
     二人だけじゃない、セイルとシェリル、ギルだって、皆仲間だ。


 

ギルティア:へっ。


 

シェリル:なんかむず痒いなぁ。


 

ラッセル:僕はこれ以上仲間を失いたくない。皆にも同じ気持ちを味わわせたくないんだ。
     ……だから、僕は戦うよ。大切な人を守るために。

 


ザクシム:……そうか。それがお前の意思なんだな。


ラッセル:うん。


 

ザクシム:早く終わらせて帰ってこい。帰ってきてまた皆で楽団組むぞ。
     また皆で音楽演奏して、会場を拍手で湧かせるんだ。

 


ラッセル:はは、忙しいなぁ。


 

ザクシム:そうだ、忙しいんだ。俺たちは時間がある時に各国に散った団員を探してるんだからな、全く。
     だから……お前もやることやってこい。

 


ラッセル:あぁ!


 

セイル:さて、そろそろ行くか。


 

ラッセル:うん、そうだね。


 

ザクシム:お、おい!


 

ギルティア:まだ何かあるのかよ。


 

ザクシム:お前らも生きて帰ってこいよ! そして俺たちの演奏を聴きに来い!
     だから……死ぬんじゃねえぞ。


 

ギルティア:はっ、誰に向かって言ってやがる! へへ、いらねえ心配すんなよな。


 

ザクシム:ふふ、頼もしいな。……武運を祈る!


 

セイル:ありがとう。絶対に生きて帰って、聴きに行かせてもらうよ。皆で、な。


 

パプリ:ラッセル君!


 

ラッセル:ん?


 

パプリ:(キスをする)


 

ギルティア:ぶはっ!


 

シェリル:ひゃー!


 

パプリ:早く帰ってきてね?


 

ラッセル:……うん。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――
【シーン5】


 

   (パプリ、ザクシムたちと別れ、オルテアの宿までの帰り道にて)


 

シェリル:早く帰ってきてね?


 

ギルティア:……うん。(裏声)


 

シェリル:やってさ! うひゃぁああ、熱い熱い!

 


ギルティア:ぶはは! まさかラッセルに彼女がいるとは思わなかったぜ!


 

ラッセル:……二人とも、もう勘弁してくれよ。

 


セイル:必ず……。

 


シェリル:え?


 

セイル:必ず、生きて帰らないとな。皆大切な人を待たせてる。


 

シェリル:せやな。大事な人待たせたまま死ぬなんて出来へんよ!


 

ギルティア:……本当に戦うんだな?


 

セイル:あぁ……オズィギスを倒す。


 

ギルティア:でもよ、サタンはどうするんだよ。


 

セイル:クロックマスターはサタンに固執していたが、俺は放っておいていいと思ってる。 


 

ギルティア:おいおい本気か?


 

セイル:前にジェナ国でサタンの器であるレイジスと一緒にメリュジーヌのラインを倒した。
    ……レイジスは自分の意思でサタンの力を使えるようになっていた。

 


シェリル:そんな事が……。

 


セイル:俺はレイジスを……彼の仲間たちを信じてみようと思う。
    ラインと人間が暮らせる世界についても、な。
    聞くところによると、デュラハンの反乱によって荒廃したゴアスでは、
    人間とラインが協力して復興作業をしているようだ。

 


シェリル:妹ちゃんたちが頑張ったおかげやね!


 

セイル:あぁ。ラインと人間が望む世界……あいつらなら作れると信じている。
    この戦いが終わった後の事は、あいつらに委ねてみようかと思うんだ。
    だから、俺たちに出来る事は――


 

ラッセル:オズィギスを倒す事、だね。


 

セイル:あぁ。だからこの先、リィやレイジス、オズィギスに敵対するラインと共に共闘もするかもしれない。


 

ギルティア:……。


 

セイル:この先の戦いは自分の意思だ。クロックマスターの意思に従う必要もない。
    だから、何をするのも自由だ。戦いを止めて静かな場所で暮らしてもいい、
    今まで通りラインを滅ぼすために戦ってもいい。


 

シェリル:自由……。


 

セイル:俺たちは自由だ……だけどオズィギスは待ってくれない。
    オズィギスを倒さない限り、俺たちに安息は訪れない。


 

ラッセル:……そうだね。

 

 

 

セイル:だから俺は一人でもオズィギスと戦うよ。リィたちやラインと協力してでも、あいつを倒す。
    「壊れた時計」としてではなく、セイル・ティアス個人として……俺はあいつと戦う。

 


ラッセル:僕も一緒に行くよ。君一人に背負わせる訳にはいかないし、
     何よりパプリたちを危険な目に合わせないためにね。


 

シェリル:ウチも! 生きて帰らへんと親友から怒られるからな。

 


ギルティア:……俺は。

 


セイル:ギルティア、お前は俺たちに合わせる必要はない。自分の意思で決めてくれ。

 


ギルティア:……いや、俺も行くぜ。どうせ戦いを止めても行く場所なんてねぇからな。


 

ラッセル:行く場所が無い、先の事も分からない。それなら皆で考えていこうよ。
     ギル、僕たちは仲間じゃないか。


 

ギルティア:仲間……。――はっ! 言ってて恥ずかしくねぇか?


 

ラッセル:あはは、酷いなぁ。

 


シェリル:そう言えば、アランはどうすんねん。


 

セイル:……あの傷だ。アランはこの先戦えないと思う。
    それなら、無理に連れて行って死なせてしまうより、残った方が安全だ。


シェリル:そっか。


 

セイル:明日の昼には出発するから、皆もしっかり休んで欲しい。


 

ラッセル:うん、分かった。


 

ギルティア:……わりぃ、俺一服してから戻るわ。先に戻っていてくれ。


 

セイル:そうか、早く帰ってこいよ。


 

ギルティア:それ、あの嬢ちゃんの真似してんのか?


 

セイル:ん? あ……ち、違う! そういうつもりじゃ……。


 

ラッセル:セイル、キミ……。


 

ギルティア:はっはっは! 冗談だっての!


 

セイル:全く! ……道草するんじゃないぞ!


 

ギルティア:へーへー。


 

   (間・5秒)

 


ギルティア:誰かのために戦う、ねぇ。俺が守りたいモンは……とっくに失くしちまってるんだよな。
      はー、やれやれ、なんか嫌な気分だな。モヤモヤすっぜ。

 


   (間・3秒 。煙草を吹かす。波の音が聞こえる)


 

ギルティア:波の音……。
      海……海かぁ。あの頃は楽しかったな。皆で好き放題暴れて、メシ食って、酒を飲んで……。
      俺にはアイツらが眩しすぎるぜ。
      ……見つからねえようにこっそりトンズラぶっこくかね。
      けど、どこに行けばいいんだ? 帰る場所なんてねぇし、何をして生きていくんだ?
      俺は……何がしたい?


 

ギルティア:これからの事を一緒に考えていく、か。
      ……仲間ねぇ。へへ、昔は嫌々組織に入ったのにな、変な感じだぜ。
      ――よっし! やっぱ俺も一緒に戦ってやるか!


 

ヴェクタ:それは困りますねぇ!


 

   (突如現れたヴェクタはギルティアを抑え込む)


 

ギルティア:なっ!? テメェ……ヴェクタ!? どうしてここに!? ――うぐっ!?


 

   (ヴェクタ、注射器をギルティアの首に打ち込む)

 


ヴェクタ:はぁ……、はぁ……、ふっふふふ、ふひゃひゃひゃひゃひゃ!!!


 

ギルティア:ぐ……テメェ……なに……しやがった!? 

 


ヴェクタ:私はクロックマスターの意志を継ぐ私はクロックマスターの意思を継ぐ私はクロックマスターの意思ををををををを……。
     そそそそそして、理想の世界を築くのです!!!


 

ギルティア:なんだよこれ……体が熱い……ぐ、ぐぁあああああああああ!!!!!?

 


ヴェクタ:ラインは全て排除する、それがクロックマスターの夢、それが我ら「壊れた時計」の存在理由!
     オズィギスたちラインに負けるはずがない! ひひ……ひゃひひ、
     ひーひっひっひっひっひ!!!

 

 

 

 

to be continued...

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