『Links』 第17.5話 ―幕間・譲れぬ想い―
【登場人物】
〇リィ・ティアス(♀) 17歳
「ライン」と呼ばれる怪物によって両親は殺され、
その数年後、唯一の肉親である兄が失踪したため、今は一人で暮らしている。
本来は素直で明るい性格だったが、過酷な環境と一人で生きてきたため気が強い性格になってしまった。
〇レイジス・アルヴィエル(♂) 17歳
リィと同じ学園に通う生徒。学園内ではいつもリィとアリスと一緒にいる。
性格は穏やか。明るくノリは軽い。心優しい性格だからこそ、相手を傷つけないように言葉を選ぶため、
ヘタレのレッテルを張られている。
〇ゼノン・ランディール(♂) 25歳
ゴアス帝国南部司令官のココレットのライン研究の手伝いをしている傭兵の男。
本人は殆ど口にしないが、今は亡きランディール王国の王レヴィンの弟。
幼い頃に国が滅び、傭兵としてラインと戦ってきたため、立派な体躯をしており、
ついでに性格も荒くなった。
〇アリス・ポルテ(♀) 17歳(見た目年齢)
リィと同じ学園に通う少女。物腰は低く、明るい少女だが、その正体はウンディーネの「ライン」。
重要人物の暗殺を見届ける使命を帯び、人間の姿となり、人間社会の中に潜伏していた。
その際にリィと仲良くなり、また憎むべき人間の存在に疑問を持ち始める。
〇エストリア・シーラー(♀) 12歳
かつては現ゴアス軍南部司令官のココレットが経営していた帝国南部にある孤児院に住んでいた少女。
今は孤児院を出て一人旅をしている。孤児院で過ごしてきたせいか、気が強くお転婆な性格。
〇オズィギス(♂) 40代後半(見た目年齢)
主人公リィの両親、またゴアス帝国軍最高司令官のサネルと交友関係を持つ男。
その正体は悪魔と呼ばれた「バフォメット」で、人間を滅ぼし、ラインの世界を作るべく画策しているが……。
性格は残忍で狡猾。野心を秘めた男。
〇ヴェルギオス(♂) 20代後半(見た目年齢)
かつては少女アリスと共に行動していた吸血鬼のライン。戦闘能力はラインの中でも屈指。
自信家。仲間意識が強いせいか、アリスが抜けた事に対して酷く執着している。
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【役配分】
(♀)リィ
(♂)レイジス
(♂)ゼノン
(♀)アリス
(♀)エストリア
(♂)オズィギス
(♂)ヴェルギオス
♂4 ♀3
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【用語】
ライン:つまるところ怪物。モンスター。おとぎ話、伝説と呼ばれた生物のことを指す。
現在、そのラインが世界各国に出没し、人間に害を与えている。
イントネーションはフルーツの「パイン」と同じ。
魔鉱石:特殊なエネルギーを含んだ鉱物。この世界では照明器具の光や暖房 器具の熱などを作るために、この石を埋め込み、
その力を媒介としている。
また、魔鉱石の純度によっては強大な力を含んでいるが、扱うには体にとてつもなく負荷がかかる。
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【シーン1】
リィM:ジェナ・リースト共和国で「メリュジーヌ」のライン、メリアを倒したあたしたちはゴアス帝国に戻る前に、
別行動をしていたゼノンたちと偶然合流し、ジェナ国とゴアス帝国の中間地点にある宿屋で一泊することにした。
(宿屋にて。レイジスとゼノンは女性陣が泊まってる部屋の扉をノックする)
レイジス:俺ー、レイジスだけどー。
リィ:はーい。どうぞー。
レイジス:入るぞー。
ゼノン:失礼するぜー。おほっ、いい匂い。
リィ:レイ、ドア閉めて。今すぐに。
レイジス:分かった。
(レイジス、ゼノンをドアに挟む)
ゼノン:あだだだだだだだだ!!!! 痛い痛い痛い痛い痛い!!!
ちょっとレイジスやめろぁあああああああ!!!!
アリス:リィちゃん、あんまり虐めちゃ可哀想ですって。ぷふっ。
ゼノン:匂いくらいいいじゃねえか……。危うくお兄さん、ちぎれて二人に分かれるところだったぜ。
リィ:それは困るわね。うん、嫌。
ゼノン:即答かー……つらいぜ。
リィ:まあ冗談は置いといて……全員揃ったわね。なんか、皆揃うのも久しぶり。
エストリア:おねーちゃんもひっさしぶりー!
リィ:エストもね。元気だった?
エストリア:へへっ! ばっちし!
ゼノン:そうだな。レイジスが家出したり、リィちゃんがぶっ倒れたりで大変だったからな。
聞けばゴアスを脱走してジェナ国までレイジスと新婚旅行だって? まーったく無茶しやがって。ほーらよしよし。
リィ:なんでそうなるのよ。――あぁもう! 鬱陶しい! 撫でないで!
ゼノン:リィちゃんの髪さらっさら。たまらんたまらん――痛ってぇ!?(腹パン)
アリス:調子乗るからそうなるんですよ。全く、これだからゼノンさんは。
ゼノン:うぐぐ……リィちゃんは分かるが、何故お前まで殴るんだ、アリス。
アリス:あら? これは失礼しました。うふふ。
レイジス:……はぁ。
ゼノン:んお? なんだレイジス。もじもじしやがって! 男ならシャキッとしやがれ!
レイジス:痛い!? お、おいゼノンやめ、ろ! 痛い、痛いってば!
ゼノン:ぬははは、さっきの仕返しだ。……何考えてっか分からねえけどよ、それだけ大声出たら十分だな。
レイジス:うぅ、なんかゼノンの思う壺でムカつく。……でも、おかげで元気が出た。ありがとう、ゼノン。
ゼノン:おーう。
アリス:取り敢えず、これまでの情報を整理していきませんか? 色んなことがありましたし。
リィ:そうね、これからの事も考えなきゃならないし……。
レイジス:俺、今まで自分の事で精一杯だったけど、オズィギスは俺の中にいるサタンを狙ってるんだよな?
リィ:うん。サタンの力を利用して何か企んでるみたい。
……でも、サタンの強さを考えたら、オズィギスがサタンを狙う理由が分かるかも。
エストリア:でもおねーちゃん、サタンをやっつけたんでしょ?
リィ:それは……あの時、レイがサタンの中で暴れてくれたからなんとか勝てただけよ。
あいつが万全だったらあたし一人じゃ太刀打ち出来なかったと思う。
ゼノン:なるほどな。それじゃあ、オズィギスはまだレイジスを狙って襲ってくる可能性があるわけだ。
アリス:そうみたいですね。……おそらくは今まで以上に多くの刺客を放ってくるかと思われます。
レイジス:サタンだって……今は力を貸してくれてるけど、いつ身体を奪いにくるか分からないし……。
ゼノン:はぁ、問題が山積みって訳か……。ん? 力を貸してくれてるって?
レイジス:俺とリィがジェナ国に行ってる時に、セイルさんと一緒にメリアってラインと戦ったんだ。
その時に……なんて言うか……目覚めた?
ゼノン:メリア……。あの蛇女か。
レイジス:それ以来、少しの間だけ、サタンの力を使えるようになったんだ。
……けどサタンは、力を貸せば乗っ取りやすくなるって言ってた。
アリス:諸刃の剣……ですね。前向きに考えれば戦力アップと考えたいところですが――
ゼノン:そんな生易しいもんじゃねえだろうな。なんにせよ、多様はしないことだな。
また暴れられたら止めれる自信はねぇぞ。
レイジス:分かってる。……サタンに体を乗っ取られた時以来、力を使わなくても体が思ってる以上に動くから、
いざって時にしか使わないつもり。
リィ:あら頼もしいわね。ヘタレは卒業かな?
エストリア:えー、ヘタレイジスじゃなくなるの!?
アリス:か弱い女の子たちをしっかり守ってくださいね?
レイジス:ま、まま、任せてくれよ!
リィ:そこで動揺するところがもう……。
ゼノン:残念ながらヘタレは留年だそうだ。
エストリア:ヘタレイジス! いぇーい!
レイジス:ちゃ、茶化すなって……うぅ、くそぅ……。
(間・3秒)
リィ:そう言えば、「壊れた時計」を作った人が分かったわ。
彼は……あたしのパパと一緒にラインに対抗する研究をしていた人で――
レイジス:俺を作った人……なんだよな。
ゼノン:……名前は?
リィ:バーネット・アゼライト。「壊れた時計」は人間の体からタマシイを抜き取り、
残った身体に何か特別な術をかけるんだって。
アリス:タマシイを?
リィ:うん。そのタマシイはバーネットが管理しているらしいの。
だから「壊れた時計」は彼に逆らえない。もちろんセイルも……。
エストリア:逆らったら?
レイジス:タマシイを消される。どうなるかは分からないらしいけど、
タマシイを失くした人間が普通でいられるはずがないって言ってた。
エストリア:……くそオヤジ。
リィ:クソ親父?
エストリア:あたしのお父さん、「壊れた時計」のアランなんだ。
リィ+レイ:えぇ!?
エストリア:それじゃあアランのタマシイも管理されてるんだね。
レイジス:……そうだと思う。
エストリア:……。
リィ:大丈夫? エスト。
レイジス:……無理もないよ。自分のお父さんが――
エストリア:よーし! それじゃああたしがアランを助けてやるんだから! 待ってろよクソ親父ー!
ゼノン:流石イケメン幼女。
レイジス:逞しいなぁ……。でも元気でよかった。
リィ:……そう言えばさ、ゼノン、あんたはどうなの?
ゼノン:どうって何がだよ。
リィ:あんた、「壊れた時計」の力、使ってるんでしょ?
レイジス:え!?
ゼノン:あー、そう言えばそうだな。
リィ:そう言えばって……はぁ。
レイジス:ど、どういうことだよゼノン!?
ゼノン:いやぁ、レイジスがサタンになって色々大変だった時によ、アランと会って壊れた時計の契約をしたんだわ。
エストリア:なにやってんのよ二人とも……。
ゼノン:なんだかんだ言ってあいつとは腐れ縁だからなぁ……。
エストリア:ぶー。
ゼノン:あの時は確か、タマシイはアランが管理するって言ってたな。そんじゃ俺はあいつに命を握られてるわけだ。
そう言えばあいつ、そんな事言ってたな。今思い出したぜ、うはは。
レイジス:笑ってる場合じゃないだろ!
ゼノン:まあまあ、俺はあいつを信じてるからよ。
アリス:でも、アランさんが死んでしまったらゼノンさんもどうなるか分からないんじゃ……。
ゼノン:……あ。
レイジス:……。
ゼノン:エスト、絶対にアランを助けよう、な?
エストリア:ゼノン、足震えてるよ?
ゼノン:そ、そんなこたぁねえ!
リィ:……ねえ、アリス。
アリス:なんですか?
リィ:オズィギスは何を考えているの? 昔、会ったことあるんでしょ?
アリス:……人間を倒しラインだけの世界を作る。彼はそう言っていました。
リィ:それはメリアも言ってたわね。
アリス:おそらくヴェルギオスたちも同じ目的で戦っています。……ですが。
リィ:なに?
アリス:言葉ではそう言っていますが、何か隠しているように思えます。……憶測ではありますが。
リィ:オズィギスならやりかねないわね。……あたしやセイル、それにパパとママを騙してたんだから。
レイジス:それじゃあ……決まりだな。
リィ:うん。まず一つはオズィギスの計画を阻止すること。このままだとアリスたちと暮らせなくなるし、
なによりもレイがオズィギスに捕まっちゃうからね。
あいつをどうにかしないと、人とラインが暮らせる世界なんて夢のまた夢よ。
エストリア:もう一つは?
リィ:バーネットと話して「壊れた時計」を解放してもらう。セイルと……エストのお父さんを助けるの。
ゼノン:あと、俺もな。俺も一緒に助けてくれ。
リィ:ゼノンは……頑張って。応援してる。
アリス:残念な結果になっても、落ち込まないでくださいね?
エストリア:おなかすいた。
ゼノン:皆俺に対して冷たくないか?
レイジス:ようこそ、ゼノン。こちら側へ。
ゼノン:なんだよこちら側って! おい、そんな仲間が増えたみたいな目で俺を見るな!
(間・3秒)
リィ:明日にはゴアスに着くからサネルおじさんに話そうと思う。
レイジス:止められるんじゃない?
リィ:うん。止められてもあたしの気持ちは変わらないよ。
それにサネルおじさんに話すのは心配はさせたくないから。
ゼノン:どちらにしろ心配するだろ。
レイジス:心配させないためにも俺たちがいるんだよ。そのために強くなったんだ。
ゼノン:へへっ、そうだな。
エストリア:……。
リィ:どうしたのよ、エスト。
エストリア:なーんか不覚にも頼もしいって思っちゃったよ。ヘタレイジスのくせに。
リィ:だってさ、レイ。
レイジス:そうだな、最後の言葉がなければ素直に喜んだと思う。うん。
リィ:ふふっ、でも、なんか今ならオズィギスにだって勝てそうな気がするわ。
皆で力を合わせればなんだって出来る気がする……。
レイジス:出来るよ、きっと。
リィ:うん。大好きな仲間と一緒にいれないなんて、そんなのは嫌だから……
だからあたしは、あたしたちは――
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【シーン2】
オズィギス:もうすぐだ……もうすぐで我が悲願が達成される。
リヴァン・ティアス。貴様は本当に優秀な科学者だったよ。貴様の研究のせいで多くの駒を失ってしまった。
そして死してなお、私の邪魔をする。
リィとセイル……正義感が強いのは親譲りとでも言いたいのか? 全く、虫唾が走る。
……だが、これまでだ。もうすぐ人間は我らラインによって滅ばされ、そして――くくっ! ふははははははは!
ヴェルギオス:こんなところにいたのか、オズィギス。
オズィギス:……ヴェルギオスか。オルテア小国の攻略は終わったのか?
ヴェルギオス:あぁ。あんたの命令通り、盛大に暴れてきてやったぜ。
これでオルテアの警備隊は暫くは機能しねぇだろうよ。
オズィギス:「壊れた時計」は現れたか?
ヴェルギオス:二人。一人は殺ったが、もう一人、水を操ってた奴には逃げられた。……だが深手を負わせてやったよ。
そいつも暫くは使いもんにならねぇはずだ。
オズィギス:そうか、ご苦労だったな。
ヴェルギオス:……メリアがやられたそうじゃねぇか。
オズィギス:あぁ。だが、しっかり役に立ってくれたよ。彼女はレイジスの中からサタンの力を表出させ、
そしてジェナ・リースト共和国の軍に打撃を与えてくれた。
ヴェルギオス:仲間が死んだってのに、随分な反応だな。
オズィギス:いや、悲しいさ。もうすぐ我らが望む世界が来るというのに……。
それを拝むことが出来ないメリアはさぞかし無念だろう。
ヴェルギオス:……。
オズィギス:何か言いたそうだな、ヴェルギオス。
ヴェルギオス:前の戦いでサタンを手に入れることが出来ず、今回の作戦でメリアまで死なせて……
この戦い、本当に勝ち目はあるのか?
オズィギス:勝ち目、か。ふふ……はーっはっはっは!!!
ヴェルギオス:あんたは一体何を考えている?
オズィギス:確かにサタンを手中に収めることが出来なかったが、奪い返せば問題は無い。
危険と判断すればレイジスの状態で殺せばいいだけのこと。それまで泳がせておくのだ。
それになにもサタンを手に入れる事だけが策ではない。我らの勝機はまだ十二分にある。
ヴェルギオス:教えろよ。
オズィギス:まあそう焦るな。くくっ、いずれ分かる。
近々、サタンと並ぶ……いや、サタンすらも超える戦力を我々は手にすることができる。
それで人間を駆逐するのだ。
ヴェルギオス:……その言葉、信じるからな。この土地は俺たちのモンなんだ。人間のじゃねえ。
絶対に取り返してやる。
オズィギス:……あぁ、そうだな。くくっ!
ヴェルギオス:オズィギス?
オズィギス:いや、すまない。我らの祈願が達成されると思うと、思わず笑いが出てしまった。
安心しろ、必ず我らが勝つ。……絶対にだ。
ヴェルギオス:……。
オズィギス:どこへ行く。
ヴェルギオス:ゴアス帝国。グランの野郎に加勢しに行く。いくら兵力があるとは言え、相手はゴアス帝国だ。
それに例のガキ共も来るはずだ。あまり調子付かせないようにここらで……潰す。(去る)
(間・5秒)
オズィギス:ふふ、それもよかろう。だが、お前にそれが出来るかな?
全ては私の計画の内。ふふ、ふははははははは!!!!
to be continued...