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『Links』 ―幕間 第6.5話 我らは影に潜む―

 

【登場人物】

 

○ヴェクタ(♂)
 組織「壊れた時計」の5時の男。30代。壊れた時計に所属する前は研究者をしていた。
 結界を張る能力を持っているが、戦闘は不向き。

 

〇クロックマスター(♂)
 「壊れた時計」を作り出した老人。60代。一見普通の老人だが、異常なまでにラインを憎む。

 

〇オズィギス(♂)
 ゴアス帝国総司令官であるサネルの友人でもあり、リィの両親の友人でもある。
 年齢はサネルより少し年下。見た目年齢は35歳。旅が好きで世界各国をふらふらと巡っている。
 
〇グラン(♂)
 ゴアス帝国軍東部司令官。50代。サネルが総司令官の地位に就く前から東部司令官を務めている。
 かつては「無情の戦鬼グラン」と呼ばれた程の戦士であり、その巨大な体にはいくつもの傷が残っている。

 

〇メリア(♀)
 オズィギスと共に現れた謎の女性。20代後半。
 肝が据わった性格。お嬢様口調。

 

――――――――――――――――
【用語】

ライン:つまるところ怪物。モンスター。おとぎ話、伝説と呼ばれた生物のことを指す。
    現在、そのラインが世界各国に出没し、人間に害を与えている。
    イントネーションはフルーツの「パイン」と同じ。

 

魔鉱石:特殊なエネルギーを含んだ鉱物。この世界では照明器具の光や暖房器具の熱などを作るために、この石を埋め込み、
    その力を媒介としている。
    また、魔鉱石の純度によっては強大な力を含んでいるが、扱うには体にとてつもなく負荷がかかる。

――――――――――――――――

【役配分】

 

●被り無
(♂)ヴェクタ
(♂)クロックマスター
(♂)オズィギス
(♂)グラン
(♀)メリア

 

―――――――――――――――――

 【シーン1:作り手と5時の男】

 

  ≪場面説明:ここは誰も知らぬ人里離れた古びた屋敷。ラインを倒すことを目的とする組織「壊れた時計」のアジトだ。
        科学者風の男ヴェクタは、ラインと人間が住む島での任務から帰還し、上司に報告しにいく。≫

 


ヴェクタ:……壊れた時計五の刻、ヴェクタ参りました。

 


クロックマスター:おぉ、来てくれたかヴェクタ。2時の男から聴いたが、体の方は大丈夫かね?

 


ヴェクタ:……えぇ。

 


クロックマスター:まさか君が敗北して戻ってくるとは思わなかったよ。

 


ヴェクタ:も、申し訳ありません。


 

クロックマスター:君の能力は確かに前線向きではないが、子供ごときに負けるほどではないはずだが……。

 


ヴェクタ:くっ……。

 


クロックマスター:いや、別に私は君を責めている訳ではなのだよ。それでヴェクタ、子供たちについて情報を仕入れてくれたかね?

 


ヴェクタ:はい、先ほど情報は取らせました。これが例の子供たちの写真です。

 


クロックマスター:説明を。

 


ヴェクタ:はっ。一人はアリス・ポルテ。彼女はウンディーネのラインです。

     この娘は以前にオルテア小国で我が組織、4時のエレアードと戦っていますね。
     戦闘能力はおそらく子供たちの中で一番かと。

 


クロックマスター:ふむ。


 

ヴェクタ:次に7時の男ギルティアと戦闘を行ったゼノンと呼ばれる男。
     この男の素性は得られませんでしたが、どうやら傭兵として各国を渡っているようです。
     そして、どのように知り合ったかは知り得ませんが、アリス・ポルテらとともに件の島に来ることになったみたいですな。

 


クロックマスター:……ヴェクタ。

 


ヴェクタ:は、なんでしょう?


 

クロックマスター:君はこの男を本当に知らないのかね?

 


ヴェクタ:え? ……すみません。私にはさっぱり。


 

クロックマスター:そうか。私は君たちよりも随分と長く生きているからね。
         私にはゼノンという男の正体が分かるよ。

         長い傭兵暮らしで大分性格が荒んでしまったようだが、なるほど、彼によく似ている。

 


ヴェクタ:彼に?

 


クロックマスター:いやいや、なんでもないよ。彼については……

         亡国に囚われた幽霊とでも言っておこうか。そうだね、2時の男に聞いてみたらどうかね。
         ……確かに、彼の素性を考えると戦闘技術があるのも分かる。それで、次は?

 


ヴェクタ:リィ・ティアスという少女です。

 


クロックマスター:ティアス? ということは。

 


ヴェクタ:えぇ、我らが組織「壊れた時計」の12時の妹です。

 


クロックマスター:なるほど、彼の。

           いや、それにしても組織メンバーの身内に邪魔されるとは……笑ってしまうよ。それで戦闘能力は?

 


ヴェクタ:入手経路は分かりませんが、リィ・ティアスは高純度の魔鉱石を操ります。


 

クロックマスター:高純度の魔鉱石……? 何故そんな希少な物を……。確かにそれがあればラインと戦うことはできるだろうが、
         それ相応に人体に負荷をかけるはず。言わば諸刃の剣だ。だが、戦力としては少し 注意すべきだな。

 


ヴェクタ:はい。

 


クロックマスター:以上かね?


 

ヴェクタ:いえ、最後に一人、レイジス・アルヴィエルという少年がいます。

 


クロックマスター:レイジス? はて、どこかで聞いたような名前だな。


 

ヴェクタ:彼はリィ・ティアス、アリス・ポルテとともにジェナ・リースト共和国の学園に通う生徒です。
     戦闘能力は他の3人と比べれば一番劣っています。ですが……。


 

クロックマスター:何かね?

 


ヴェクタ:同年代の人間と比べると彼の身体能力は異常です。彼はゼノンのように幼い頃から傭兵として生きてきた訳でもなく、
     リィ・ティアスのように魔鉱石を用いてもいない。ましてやラインでもないのです。
     いくら私が戦闘向きではないとはいえ、ただの学生が私と渡り合うのはおかしいかと。
     それに、信じがたいことですが……彼は私の結界を素手で破りました。


 

クロックマスター:それは君が負けた言い訳のように聞こえるが。

 


ヴェクタ:そうも聞き取れますが、私も人間だった頃は研究者の端くれ、分析にはプライドを持っています。

 


クロックマスター:そうかそうか。なるほど分かった。それにしても面白いメンツだ。

 


ヴェクタ:彼らについて如何しますか?

 


クロックマスター:まだ様子見と行こうではないか。

           そうだな……もし私たちの目的に差支えがあるのなら、容赦なく排除してもらって構わない。

 


ヴェクタ:はっ。

 


クロックマスター:報告ありがとう。ところで、ヴェクタ。


 

ヴェクタ:何でしょうか。

 


クロックマスター:君は「壊れた時計」の一員になる前は科学者をしていたそうだね。

 


ヴェクタ:……はい。

 


クロックマスター:君の論文、「魔鉱石の純度における能力の差異に関する考察」、あれは中々の出来だった。

 


ヴェクタ:……お褒めに預かり光栄です。


 

クロックマスター:私もね、ヴェクタ。かつてはそれなりに名のある研究者だったのだよ。それもライン対策の研究をね。

 


ヴェクタ:ラインの……対策ですか?


 

クロックマスター:そう。私はね、ラインに家族を殺されてから人生の全てをラインを滅ぼすための研究に費やすことにしたのだよ。
         もちろんそれは今も変わらない。


 

ヴェクタ:……。

 


クロックマスター:少し、昔話をしようか。
         今では大陸一の軍事力をもつというゴアス帝国。
         しかし、十数年前には領土はおろか軍事力すらゴアスを凌ぐ大国があった。どこだか分かるね?


 

ヴェクタ:えぇ、今や廃墟になってしまいましたが、ランディール王国ですな。

 


クロックマスター:その通り。ランディール王国はラインの襲撃によって一夜にして滅んでしまった。
         それ以前はあまり姿を現さなかったラインは、ランディール滅亡以降、頻繁に現れるようになり、
         我ら人間に脅威を及ぼすようになった。


 

  (間)

 

 

クロックマスター:ラインの力は強大だった。体の大きさも、身体能力も人間より遥かに勝っていた。
         人間は為すすべもなく奴らの餌食となっていった。
         ある者は故郷を、ある者は家族を……恋人、親友、守るべき者……
         大切な物は全てラインが奪っていった。ヴェクタ、お前もそうだろう?


 

ヴェクタ:……えぇ。

 


クロックマスター:私が研究に没頭している間に、家にいた妻と子……そして孫までもラインによって殺されてしまった。
         私が帰ってきた時には、食い散らかされた家族の体の一部だけが残されていたよ……。
         許せなかった。家族の墓前で必ず復讐すると誓った。


 

ヴェクタ:……。

 


クロックマスター:しかし、私には力がなかった。昔は兵士として戦争に参加したこともあったが、
         今は老いてしまって剣すら持てない。ではどうやって復讐する?
         そうだ――私にはこの頭があった。


 

クロックマスター:私は研究室に籠り、どうすればラインと対抗できるか研究に研究を重ねた。
         それから10年が経ち、私はある結論に至った。

 


ヴェクタ:それが私たち、壊れた時計ですか……。

 


クロックマスター:実は違うのだよ。

          壊れた時計は『肉体と魂を分離し、残った肉体をとある術で強化したものである』ことは君も知っているね。
          しかし、当時私が考えたものはラインの力をこちらの物とすることだった。
          人間がラインの強さを得れば、互角に戦えるのではないか。そう思ったのだ。

 


ヴェクタ:ラインの力を得る? ……配合ですか?

 


クロックマスター:それではただのラインと変わらないよ、ヴェクタ。
         配合ではない。融合だ。そしてその体に肉体強化の術を施すといったものだった。


 

ヴェクタ:人間とラインが融合!? そんなことが……。

 


クロックマスター:融合は理論上は可能だったのだよ。しかし、もともとライン自体が謎に包まれていたからね。
         だから、融合後どうなるかは分からなかった。
         ライン以上の力さえ手に入れれば実験としては一先ず成功だった。


 

ヴェクタ:それで……結果は?

 


クロックマスター:はっはっは、そう焦るな。実験に先立って問題があった。
         未知の実験の犠牲となる人間が必要だった。
         勿論自ら、実験体になるものなどいなかったよ。
         しかし、そんなことで私は復讐を諦めるつもりなかった。

 

 

  (間)

 


クロックマスター:私は……人間を捨てたよ。
         一人の孤児を薬で眠らせて連れて帰り、実験に使うことにした。
         ラインの方は軍人たちに金を払って生け捕りにしたものを使った。


 

ヴェクタ:……。

 


クロックマスター:人間を実験台として使うなんてそうそうできない。
         私は一度きりとなるだろうその実験に賭けていた。
         結果は……成功した。


 

ヴェクタ:……? その言い方ですと、何かしら問題があるみたいですね。

 


クロックマスター:あぁ、その通りだ。人間はおろか、ラインすら超えるであろう力を持った生命体が完成した。
         しかしその実験サンプルは、人間とライン、両方の魂を宿した不完全で危険なものだったのだ。
         暴走したサンプルは私の左腕を引きちぎった後、逃げてしまった。


 

ヴェクタ:左腕を? ではその腕は――

 


クロックマスター:もちろん義手だよ。今では普通の手のように扱えるがね。

 


ヴェクタ:そうですか……。

 


クロックマスター:実験翌日、この実験が周りに知られてしまい、私は非人道的な実験を行った罪を問われ、
         研究所から追放された。勿論、それで黙ってる私ではなかったがね。


 

ヴェクタ:私たち「壊れた時計」ができるまで、そんなことが……。

 


クロックマスター:あぁ。金ならいくらでもあった。
         住んでた家を引き払い、人目につかないところに屋敷を構え、研究機材を拵えた。
         そこがこの施設だよ。ここで私は人間の肉体強化を極めることだけを研究した。
         その結果生まれたのが君たち「壊れた時計」だよ。


 

ヴェクタ:わざわざご説明ありがとうございます。

 


クロックマスター:なに、ただの老人の昔話だよ。長話に付き合わせてすまなかったね、ヴェクタ。
         しっかり休んで、怪我を癒してくれ。

 


ヴェクタ:……はい。では、失礼します。

 


  (間)


 

クロックマスター:あぁ、そうだヴェクタ。

 


ヴェクタ:なんでしょうか。

 


クロックマスター:君はもう戦闘に参加しなくていい。
         その代わり、君の頭を私に貸してほしいのだが……

 


ヴェクタ:そういうことでしたら……お安い御用です。


 

クロックマスター:ありがとう。一応他のメンバーには内密に頼むよ。
         万が一言った場合、どうなるか分かっているね?


 

ヴェクタ:……はい。

 


クロックマスター:どの道、君たちの命……いや魂を握っているのは私だから、私を裏切るような愚行を犯すことはないだろうがね。

 

 

 

――――――――――――――――

≪シーン2:対抗する者≫


  ≪場面説明:ゴアス帝国東部軍、司令官執務室にて。歴戦の勇士グランは報告書を読んでいる≫

 


メリア:失礼致します。貴方がグラン司令官ですね。

 


グラン:……今日は面会の予定は入っていないはずだが。それにどうやって入った。名を名乗れ。

 


メリア:まさか噂のお方がゴアス帝国の東部司令官をしてるとは思ってもみなかったですわ。
    司令官の椅子というのは、そんなに座り心地が良いのかしら。


 

グラン:……礼儀を知らぬ小娘だな。このグランの剣の錆になりたいと見える。


 

メリア:あら、お言葉ですが、剣を向ける相手を間違えておいでではないですか?


 

グラン:……何が言いたい。


 

メリア:言葉通りの意味ですわ。貴方が同族に剣を向けるのですか? 

 


グラン:……まさかお前は。

 


メリア:お察しの通りですわ。

 

    
グラン:ふむ、お前たちの正体が何かは分かった。
    それでお前は誰だ? そして私に何用だ。


 

メリア:私はメリア。宜しくお願い致しますわグラン司令官様。それで、ここに来た目的なのですけれど。
    もう一人が来るまで待って下さらない?

 


グラン:なんだ、まだ誰か来るのか?

 


  (ノック)

 


オズィギス:グラン、失礼するよ。……なんだ、メリアも既に来ていたのか。


 

グラン:オズィギス……。お前だったか。

 


オズィギス:久しぶりだな。

 


グラン:これはお前の差し金か?

 


オズィギス:その通りだ。ここにいるメリア、そして邪魔者が入らないように見張りをさせてるヴェルギオスは私の同志だ。
      グラン、お前にも我々の仲間になってほしい。


 

グラン:ヴェルギオス? ……まだ仲間がいるのか。何を企んでいる。

 


オズィギス:なに、我々の使命を果たすだけだ。滅ぼすべき者を滅ぼす。単純だろう。

 


グラン:……なるほど、確かに単純だ。何か計画はあるのか?

 


メリア:えぇ。私たちを筆頭に、他の同志たちを率いて各国を暴れる。
    すると敵対する「壊れた時計」が分散して相手をしに来るはずですわ。
    まずはそこで壊れた時計を潰します。これが私たちの計画の第一段階。


 

グラン:なるほど。確かに奴らは目障りこの上ない。……それで?

 


オズィギス:取りあえず、第一段階を達成することが目標だ。
      第二段階は第一段階の計画が成功した時に説明する。


 

グラン:ふむ、何かしら策があると考えていいのだな。
    ……だが、何千、何万といる敵に我ら4人でどうにかなるものなのか。
    私も長年この機会を探していたのだが、一人では無謀だと思っていたからな。

 


オズィギス:壊れた時計さえ排除すれば、いかに武装していようが残りは雑兵……いや、虫けらにも劣る。
      それに我ら同胞も数はいる。一兵卒としてくらいなら役に立つだろう。


 

グラン:戦いを望まぬ者もいるだろう。


 

オズィギス:そうだな。しかし、これは種族の戦争。言わば聖戦なのだよ。
      参加は絶対だ。もし参加を拒むのであれば、我らの敵として死んでもらう。

 


グラン:……犠牲はつきもの、か。

 


オズィギス:その通りだ。それに力を持つ者は目星をつけている。
      ……彼らは独自で活動しているそうだ。私はいずれ彼らにも声をかけるつもりだ。

 


グラン:……ふむ。


 

オズィギス:我らの同胞は少しずつ反撃しているのだよ。いつまでもやられているばかりではない。
      さあグラン。私たちと着いてこい。


 

グラン:分かった。このグラン。お前たちの力になろう。
    それで私は、何をすればいい?

 


オズィギス:そうだな。お前の司令官という職、最大限に利用してもらおうか。

 


グラン:司令官の職を利用? まさか――


 

オズィギス:そうだ。ゴアス帝国で反乱を起こせ。

 


グラン:なるほど、派手なことを思いつくな。

 


メリア:何十年も司令官を務めたゴアス帝国の忠臣……。
    誰も裏切るとは思ってもみないでしょうね。

 


グラン:だろうな。ずっとこの時を待っていた……。
    誰も居なければ一人で反乱を起こして所だ。

 


メリア:あら、随分と乗り気なのですね。

 


オズィギス:折角乗り気なところ悪いが、すぐに決行という訳ではないのだよ。

 


グラン:なるほど、隙を伺えと言う事か。……いつだ?


 

オズィギス:それは――

 

      
to be continued……

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