『Links』 ―第5話 戦うべき相手―
【登場人物】
○リィ・ティアス(♀)
ジェナ・リースト共和国に住む17歳の女の子。両親は幼い頃にラインに殺され、その後兄のセイルは失踪。
それ以降悲しみに暮れながらもなんとか立ち直ることができた強い心を持つ。両親の遺産で今も一人で暮らしている。
性格はしっかりしており、学園内でも優秀な生徒として評価されているが、少し口が悪い。
○レイジス・アルヴィエル(♂)
リィと同じく同国に住む17歳の青年。明るく元気な男。リィとは学園で知り合った仲。
よく一緒にいるためにリィとその友人アリスに振り回される苦労人。ひょんなことでリィと共に旅に出ることになる。
〇ゼノン・ランディール(♂)
ゴアス帝国南部司令官のココレットの手伝いで旧ランディール王国でラインの研究活動をしていた男。
小さい頃から傭兵で暮らしていたため、腕っぷしは強く、性格、口調も荒い。
○アリス・ポルテ(♀)
学園の生徒。基本的にリィとつるんでいる。言葉遣いは丁寧だが、腹に一物抱えているタイプ。
その正体は水を司る精霊と伝えられるライン『ウンディーネ』。人の姿に変わり、人の世に溶け込んでいた。
〇ヴェクタ(♂)
組織「壊れた時計」5時の男。30代、細身。どことなく科学者のような雰囲気を漂わせる。
奇妙な笑い方が特徴。
〇ギルティア(♂)
組織「壊れた時計」7時の男。30代前半。年齢の割には落ち着きがなく、ノリが軽い。
〇アラン(♂)
組織「壊れた時計」2時の男。20代後半。あまり感情を表に出さない。冷徹。
〇イシュア(♀)
ラインと人間両方から迫害された者たちが住む島の、村長の娘。
〇村長(♂)
ラインと人間両方から迫害された者たちが住む島の、村長。
〇男(♂)
孤島に住む住民の一人。
――――――――――――――――
【用語】
ライン:つまるところ怪物。モンスター。おとぎ話、伝説と呼ばれた生物のことを指す。
現在、そのラインが世界各国に出没し、人間に害を与えている。
イントネーションはフルーツの「パイン」と同じ。
魔鉱石:特殊なエネルギーを含んだ鉱物。この世界では照明器具の光や暖房器具の熱などを作るために、この石を埋め込み、
その力を媒介としている。
また、魔鉱石の純度によっては強大な力を含んでいるが、扱うには体にとてつもなく負荷がかかる。
――――――――――――――――
【役配分】
●被り無
(♀)リィ
(♂)レイジス
(♂)ゼノン
(♀)アリス
(♂)ギルティア
(♂)ヴェクタ
(♂)アラン
(♀)イシュア
(♂)村長
(♂)男
計10人
●被り有
(♀)リィ
(♂)レイジス
(♂)ゼノン+アラン
(♀)アリス
(♂)ギルティア+村長
(♂)ヴェクタ+男
(♀)イシュア
計7人
―――――――――――――――――
≪シーン1 壊れた時計、島へ上陸≫
ギルティア:なぁ、おい。
(間)
ギルティア:おーい。ヴェクター。
ヴェクタ:なんですか。
ギルティア:なぁんで、このメンツなんだよ。
ヴェクタ:そうでしょうか? 我々の実力が評価された上での人員配置なのでしょう。私は妥当だと思いますがねぇ。
ギルティア:こんな小さい島にいるラインの殲滅なんて、一人でも何とかなるだろ。
ヴェクタ:油断は禁物ですよ、ギルティア。たとえ小さい島でも強いラインがいるかもしれません。
あなたを負かした鬼のラインみたいに。
ギルティア:なんだ、嫌味なら受け付けねえぞ。……てか第一負けてねえし。
ヴェクタ:ところで、件のラインはこの森の奥で見かけられたらしいですね。
ギルティア:らしいな。
ヴェクタ:任務内容は島にいるラインの殲滅。また、話せるラインがいれば捕まえて情報を聞き出すこと。
そして用が済めば殺してよし。分かりましたね、ギルティア。
ギルティア:なんで念を押すんだよ。忘れちゃいねえよ。
ヴェクタ:ククッ、忘れてなくて何よりです。では、行きましょうか。
――――――――――――――――
<シーン2 越えられぬ種族の壁>
≪場面説明:同級生の少女もといライン「ウンディーネ」の少女、アリスに連れてこられたところとは、
ラインと人間が共存する村がある島だった。
ただの凶暴な獣だと思っていたラインは人間と同じく知能や感情を持つ生物だったのだ。
ラインを嫌うゼノンは、ラインと人間が共存する島に来て真実を知り、一人浜辺で考え事をしていた。≫
ゼノン:……はぁ。くそっ、駄目だ! 考えれば考える程わけが分かんなくなっちまう!
取りあえず、ずっとここにいても状況は変わらないってか……? しょうがない、村に戻るとするか。
アリス:あら、戻られますか?
ゼノン:……何故まだいる。
アリス:いえいえ、森の外に出てしまったら村に戻るのに迷いやすいですし、時間がかかっちゃいからね。
ゼノンさんが無事に村に戻れるようにと、待っていました。
ゼノン:余計なお世話だ。……自分で来たんだ。帰り道くらい分かる。
アリス:あ、待ってください!
(暫く間。ゼノンとアリス、浜辺を去り、村へ戻るために森の中に入る)
ゼノン:……ん? ここは……。
アリス:さっきも通りましたねぇ、この道。
ゼノン:くっ……。
アリス:ほら、言った通りでしょう?
ゼノン:笑いたければ笑え。
アリス:まぁまぁ。さ、こっちです。
(間)そう言えばゼノンさん。
ゼノン:……なんだ。
アリス:ここに来る前にリィちゃんとレイジス君と話してたんですけど、
二人ともラインと人間が共生できる世界を作るって言ってたんですよ!
えへへ、嬉しいですねぇ。
ゼノン:たった二人で世界を変えるつもりか?
アリス:いえ、3人です。でも、なんででしょう。限りなく無理と分かっていても、信じてみたくなるんです。
ゼノンさんも信じてみませんか?
ゼノン:……無理と分かってしまったら苦しいだけだ。
アリス:そんなこと、無理だって分かった時に考えましょうよ。
ゼノン:……ふん。
アリス:あ、待ってください!
(間)
男:おい、止まれ。
ゼノン:……なんだ、あんたら?
男:島に来た人間ってのは君たちのことだな?
ゼノン:……それがどうした。
男:……すまないが、私たちのために死んでもらえないだろうか?
ゼノン:何を言うかと思えば……はい分かりましたとでも言うと思ってんのか?
男:そうだな、ならば……力づくでも!
(男、斬りかかるが、ゼノン、咄嗟に剣で防ぐ)
ゼノン:くっ……!
アリス:ゼノンさん!
ゼノン:黙ってろ! ……お兄さんよ、理由も言わずに斬りかかるとは、卑怯じゃないか?
俺たちはこの村に入る時、互いに攻撃しないことを約束したんだが……まさか、あんたたちの方から破ってくるとはな。
男:……この島は我々がやっと手に入れた平和な土地なんだ。
村長やイシュアたちは君たちを信用しているみたいだが、皆が皆、彼らと同意見じゃない。
(ゼノン、剣を弾く)
ゼノン:なるほど、俺たちが島を出たらこの村の存在をバラすだろうって疑ってるんだな。
男:そこまで分かってるならこれ以上話す必要はないな。潔く死んでくれないか……。
断るのであれば……容赦はしない。我々は自分の平和を守るためなら手荒な手段でも躊躇わずに取るつもりだ。
ゼノン:できねえ相談だな。俺だって自分の命が惜しい。あんたらが殺しに来るつもりなら、俺も容赦はしねえぞ。
(ゼノン、剣を構えるが、目の前に立ちはだかるアリス)
アリス:ゼノンさん……。
ゼノン:どけ、アリス。
アリス:どきません!
ゼノン:こいつらは俺を殺そうとしてるんだぞ。俺に死ねと言うのか? やっぱりお前は――
アリス:見くびらないで下さい! ……私が説得します。だから貴方は武器を収めてください。
ゼノン:……。
アリス:私を……信用してもらえませんか。
ゼノン:(舌打ち)……これで最後だ。
アリス:ありがとうございます。
ということで……私たちは貴方たちがいくら武器を構えても戦うつもりはありません。
男:……ほう。
アリス:私たちは人間にも、ラインにも肩を持ちません。
互いに認め合い、手を取り合えるような世界を作るために尽力するつもりです。
男:例えそうであっても、君たちは子供だ。子供がラインと人間の種族問題を解消できるとは到底思えない。
これは現実、絵本や御伽噺じゃないんだ。ヒーローごっこなら自分の家でやってくれ。
アリス:……確かに私たちは子供ですが、ゴアス帝国の司令官と繋がりを持っています。
ですので、真実を伝えればゴアス帝国を味方につけることも出来なくはないはずです。
男:どうやってコネを手に入れた。
アリス:……この島に来たもう一人の女の子の両親は、その司令官と交友関係を持っていました。
女の子の両親はもう亡くなってしまいましたが、その司令官は彼女に困ったことがあったら頼っていいと言っています。
疑っているのであれば、彼女に言ってみてください。
彼女の頼みであれば、職務で忙しい司令官に簡単に面会をさせてくれるはずです。
男:……なるほど、どうやら嘘ではないらしいな。
アリス:では剣を――
男:だが――
(男、アリスに袈裟斬り)
アリス:え……(倒れる)
男:その男は人間、そして君は……ラインだ。
両方の血を持つ私たちの気持ちなど、分かるはずもない。
ゼノン:アリスッ!!!!
男:次は君だ。覚悟を決めたまえ。
アリス:ゼ……ノン……さん……ごほっ! ごほっ!
ゼノン:馬鹿野郎が、格好つけた割には全然説得出来てねえじゃねえか……。
アリス:……すみ……ま……せん……ごぼっ!
ゼノン:喋んじゃねえ! おい、テメェら……。庇ってくれた相手を斬るとは、酷いんじゃねえか?
男:その女が勝手にしたことだ。それに言ったはずだ、我々は容赦なく武力行使に訴える、と。
ゼノン:へっ……、そうかよ。それじゃあお望み通り……ぶっ殺してやるよ!!!
アリス:だ……駄目……ゼノ……さん……。戦っちゃ……。
ゼノン:ッ!
(暫く間)
男:何を躊躇う! 来ないならこっちから行くぞ、死ねっ!
(男の攻撃を防ぐ)
ゼノン:……あー、くそっ! くそぉっ!!! 分かったよ!
(ゼノン、アリスを抱えて逃げる)
男:逃げたぞ! 追えっ! 追えぇ!!!
(逃げている最中、イシュアと出会う)
ゼノン:はぁっ……はぁっ……、あ、あんたは……!
イシュア:あなたは……ゼノンさん。――ってアリスさんッ!? ど、どうしたんですかその傷!?
ゼノン:話は……後だ! アリスを……こいつを……安全な所に……。それで……治療を……。
イシュア:わ、分かりました!
ゼノン:頼んだぜ……。さて……。
男:追い詰めたぞ。……馬鹿め、わざわざ村の外れに出たか。誰も助けに来ないぞ。
ゼノン:そうだな、だが、これで遠慮なく戦える……。
男:逃がさないように囲んで殺すぞ。
ゼノン:ふー……、いよいよ絶体絶命だな。だが、簡単には死んでやらねえぞ!
(暫く間。すると壊れた時計、ギルティアの声が響く。)
ギルティア:なんだなんだぁ、先客かぁ?
男:だ、誰だ!? ――な、津波!? なんで森の中で……う、うわぁあああああ!?(ギルティアが放つ流水が男たちを流す)
ギルティア:はい、終了。大したことねえな。
ゼノン:あんたは……ランディールで鬼のラインと戦っていたな。確か……ギルティアって名前だったか……。
ギルティア:あ? なんで知ってんだ?
ゼノン:……あの時あんたがラインと戦ってるのを仲間と隠れて見ていた。
ギルティア:なんだ、そうだったのか。まあ賢明な判断だな。
あんな奴、普通の人間じゃあ太刀打ちできねえ。
ゼノン:壊れた時計……と言うことは、この村を潰しに来たのか?
ギルティア:名前まで知ってんだな。あまり知られちゃいけねえんだが……まあいいや。
その通りだ。ラインが住んでるって情報を得たんでな、潰しに来た。
ゼノン:そうか……。この村の奴なんて死んだっていいんだが……今は通すわけにはいかないな。
ギルティア:なんだ? お前、実はラインか何かだったりするのか?
ゼノン:別に。ただ、お前を通したら…………知り合いを見殺しにすることになる。
ギルティア:なんだ、てことは敵かお前。……はぁ、仕方ねえ。強引に通させてもらうぜ。
ゼノン:やってみやがれ!
(間)
アリス:う、うぅ……ここは……?
リィ:アリス!
アリス:わわっ、リィちゃん!? あいたたたた。
レイジス:リィ、アリス痛がってるって。
リィ:あ、ごめん……。でも本当にもう駄目かと思ってた……。
イシュア:気が付いたようですね。
アリス:イシュアさん……。
イシュア:応急処置はしましたが……やはりこの島にあるものだけじゃ、完全に治療とまではできないですね。
あなたたちの国に戻って早急にちゃんとした治療を受けたほうがいいです。
アリス:そうですか……。あ! それどころじゃないんです! ゼノンさんが! うっく……。
リィ:ちょっとアリス! 傷が開いちゃうから落ち着いて!
アリス:はぁ……はぁ……ゼノンさんが……。
レイジス:ゼノンがどうかしたのか?
アリス:はい……。ゼノンさんと私は森の中で……村の人たちに襲われて……。
イシュア:なんですって!? ……ゼノンさんが急いでた理由はそのせいだったんですね。
リィ:どういうことですか?
イシュア:私、村の外の森でゼノンさんと会ったんです。彼は怪我をしたアリスさんを私に託して、姿を晦ました。
まさかそれがこの村の人に襲われて逃げていたなんて……
アリス:はやく……助けに行かないと……
リィ:アリスはここにいて。あたしたちが行くから。
アリス:……すみません。
レイジス:詳しい場所は分かりますか?
イシュア:私が彼と会ったのは海岸付近だったので、おそらくその近辺かと……。案内します!
男:ひぃいいぃいい!?
イシュア:どうしました!?
男:変な服を着た男が、この村を、住民を――!
レイジス:変な服? まさか……
リィ:壊れた時計! レイ、行こう!
レイジス:うん!
(間)
アリス:……すみません、皆さん。私は――
――――――――――――――――
≪シーン3 集落防衛戦≫
リィM:あたしたちが外に出ると、そこには地面に伏したこの村の人たち、そしてそれを眺める一人の男。
服装からして「壊れた時計」だろう。その男は細身でニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべている。
リィ:なによ、これ……。
村長:これは……そんな……一体何が!?
イシュア:お父さん! 体は大丈夫なんですか?
村長:外が騒がしくて寝るに寝れなくてね。……それより、皆さんは彼らをご存じなんですか?
レイジス:「壊れた時計」っていう組織で、ラインを倒すことを目的とする組織なんです。
どうやってこの場所を……。いや、それより、イシュアさんたちは村の人たちを避難させてください!
俺たちは――
イシュア:いえ、お二人はゼノンさんを探してください。
リィ:でも彼らは普通の人間じゃないんです!
イシュア:それは私たちもです。人間の様に武器も扱えますし、ラインのように強い肉体を持っています。
だからあなたたちは安心してゼノンさんを追ってください。
リィ:……わかりました。行こうレイ。
レイジス:あぁ!
ヴェクタ:どこへ行こうというのですか?
レイジス:うわっ! な、なんだ!?
リィ:何これ……見えない……壁?
ヴェクタ:ひひひひひ! 逃げられたら困りますからねぇ。
この村から出られないように細工をさせていただきましたよ。
ふむ、それにしてもラインが村を作り生活しているとは思いませんでした。
これはラインに対して再考する必要がありますねぇ。
イシュア:この壁を消してください! あなたたちの狙いはラインだけでしょう?
この子たちは人間です!
ヴェクタ:はて、人間? なぜただの人間がこんなところにいるのですか?
リィ:……この村をあんたたち壊れた時計から守るためよ。
ヴェクタ:ほほう、人間がラインに肩入れするとは……。
ひひっ! ひひひひ! 我々の仕事の邪魔をするのであれば、排除しなければなりませんねぇ?
イシュア:リィさん! レイジスさん! くぅ……こ、ここにも壁が……、出れない!
ヴェクタ:まずはそこにいるラインに組する小僧共を始末します。あなたたちはそこで待ってなさい。
レイジス:くっ……どうやら戦わないといけないみたいだな。
こいつを倒して壁を無くさないと、ゼノンを助けに行けない。
リィ:そうね。相手は見えない壁を自由に作れる力を持ってる……。
分断されない限り、互いにフォローしながら戦うわよ。
ヴェクタ:あまつさえこんな小僧に我々の存在が知られてしまっているのに、
我々と戦って勝とうと思うとは……くくくくっ!!!
いいでしょう、その考え、後悔させてあげますよ!
レイジス:えやあぁあああ!(攻撃)
ヴェクタ:ほうほう。子供にしては中々の剣筋。大口を叩くだけはある。
レイジス;あんただって、そのひょろひょろの腕で戦えるのかよ!
ヴェクタ:確かに、私は前線で戦うタイプではないですねぇ。
ですが、少なくともあなたよりは強いですよ!(剣を払う)
レイジス:くっ……。
ヴェクタ:ほらほらほらぁ! これは学校の訓練とは違うんですよ!(連撃)
リィ:レイ! 横に逃げて! てぁあああ!
ヴェクタ:ぐっ、なんだこれは――炎!? くぁぁあっ……
レイジス:さっすがリィ!(ハイタッチ)
リィ:ふふん。相手が悪かったわね、おじさん。
ヴェクタ:なるほど、その力、魔鉱石によるものですか。
希少価値のある高純度の魔鉱石を何故あなたのような子供が?
レイジス:そんなこと、どうだっていいだろ!
ヴェクタ:ひひひひひ。それほどの魔鉱石ならば、本来厳重に管理されるべきもの。
つまり、ある程度の地位を持つ者から譲り受けた。これくらいが妥当な推測でしょうか。
リィ:……。
ヴェクタ:おやおや、どうやら図星なようですね。言葉に出さずとも表情で分かりますよ。
全く、子供は素直ですねぇ、ひひひひひひ!
さて、先ほどは油断しましたが、次は食らいませんよ!
――――――――――――――――
<シーン4 ゼノンVS壊れた時計>
ギルティア:全く、手こずらせやがって。
ゼノン:……ぐっ。
ギルティア:普通の人間が俺たちを相手にするのは無理だって言っただろ――って聞こえてねえか。
まあこれだけ耐えたら大したもんか。あくまで人間の範囲内だがな。
さて、すっかり遅れちまったな。
ゼノン:……待ち……やがれ……。
ギルティア:おいおい、まだ意識があるのかよ、タフな野郎だぜ。
そこまでしてラインを守りたいのかよ。
ゼノン:……お前には……関係ないことだ。
ギルティア:そーかよ。ならくたばりやがれ!
ゼノンM:俺は……何をしてるんだ……?
ゼノン:ぐぉっ……。
ギルティア:へっ、もう避けることすらできねぇってか? (ギルティアのナイフがゼノンの腹に刺さる)
ゼノン:く……おぁあああああああっ! そんな攻撃……きかねえぇんだよ!
ギルティア:マジかよ……。どこにそんな力が残ってるんだよ……
ゼノン:うらぁ!!!(投げ飛ばす)
ギルティア:ぐっ……。
ゼノンM:ラインは俺の敵だ。壊れた時計のこいつをこのまま通せば、きっとこの村にいるラインを全員皆殺しにしてくれるだろう。
それが人間にとっても、俺にとっても一番なんだ。一番なはずなのに……なぜ。
ギルティア:おいおいおい、なんかイライラしてねぇか? 剣筋が怒りで鈍ってやがる。
(溜息)第一、イライラするのは俺の方だっての。早く奥にいかなきゃなんねえのに。
ゼノン:なら、さっきみたいに水を操ってねじ伏せればいいだろうが。
ギルティア:あのなぁ、あれって結構体力使うんだぜ?
ゼノン:知らねぇよ。
ギルティア:へへっ、そりゃそうだよなぁ!
(ギルティア、短刀で攻撃。防ぐゼノン)
ゼノン:くっ……うっ……。
ギルティア:粘るねぇ。俺に楯突くわ、ラインを庇う理由を教えねぇわ……
にーさん、気でも狂っちまったのか?
ゼノンM:気が狂う……確かにこの男の言う通りかもしれない。一体どうしてこうなってしまったんだ。
そうだ、あの女だ。あの女が俺たちをこんな所に連れてこなければ……。
連れてこなければ? 真実を知らないままで良かったとでも言うのか俺は。
ギルティア:それともラインに会うのは初めてなのか? テメェは奴らに大切な何かを奪われたことがないのか!?
ゼノンM:大切な物。嫌という程奪われた。それはあいつらも……。リィちゃんだって両親をラインに。
だが、あの娘はここに来てラインについて真剣に考えてる。大切な両親を奪われたってのに……。
……じゃあ俺は? 俺はこのままでいいのか?
ギルティア:あー、もう知らねえ! 人間だから殺さねぇようにしてたが、限界だ! 死にやがれ!
ゼノン:死んでたまるかよっ!(ギルティアの攻撃を払い、剣を振るう)
ギルティア:何っ――ぐぁっ!?
ゼノン:あー、吹っ切れたぜ。
ラインは仇だ。だがな、俺はラインについて何も知らなかった。言葉を話すのも、人に化けれるのも、
それに、人と同じように心があるのもな……。俺はこの村に来て、人間とラインが共に暮らしているのを見て混乱してたんだ。
ギルティア:……。
ゼノン:俺はまだまだ知らなきゃならねえ。それまであいつらと共に行こうと思うんだ。
だから――
ギルティア:だから何だってんだ!
ゼノン:だからアンタを通すわけにはいかねえんだよ!!!(攻撃)
ギルティア:うっぐ……。(間合いを取る)
へ、へへへ、分かったよ。そこまで死にたいって言うならお望み通り殺してやるぜ!
集まりやがれ、水たち!
ゼノン:くっ……本気ってわけかよ?
ギルティア:海の藻屑にでもなってろ!
(しかし、突如ギルティアの下に氷の矢が襲い掛かる)
――ぐっ!? な、なんだ……これは……氷でできた……矢?
アリス:やぁやぁゼノンさん。随分とボロボロじゃないですか。
ゼノン:アリス!? 何でここに! 怪我は大丈夫なのか!?
アリス:ふふ、ラインは体力だけが取り柄なんですよ。
あと、私だけ暢気に寝てるわけにもいかないですからね。
ギルティア:このガキ、やってくれるぜ……。
アリス:あら、壊れた時計さん。そんな体で私と張り合うんですか?
本気を出した私は……強いですよ?
(人魚姿に変身するアリス)
ギルティア:その姿は……。そうか、お前がエレアードと戦ったアリスって奴か。
あいつはお前と戦って勝ったとは言ってたが、お前さんは人間姿で戦ったんだろう?
アリス:それがなにか?
ギルティア:いやいや、何も。あいつも分かってねえなってよ。
全力を打ち破ってこそ勝ちだろうが、喧嘩はよ。
アリス:……それで、戦うのですか? 戦うんでしたら、手負いのあなたでも容赦はしませんよ。
同じ水を操る者同士、力比べといきましょうか?
(アリスの周りにいくつもの水球が生み出される)
ギルティア:待った待った。手負いって分かってるんなら見逃してくれねえか。
俺も体が限界だ。そこのにーさんが嫌に粘るんでバテちまった。
な、俺は引くからよ。
アリス:……分かりました。
ギルティア:話が分かるねぇ。んじゃぁな、ゼノンとやらよ、あんたの事気に入ったぜ。
また喧嘩しようや。
ゼノン:……二度とごめんだ。
ギルティア:ツレないねぇ。ま、いいや。俺ぁ、体が痛ぇから帰るわ。
あ、そうそう。俺は帰るが、他にも仲間がいるからどうにかしろよー。
(ギルティア消える。暫く間)
ゼノン:行ったか……。
アリス:……うぅ。
(アリス、倒れる)
ゼノン:アリスッ!? 馬鹿野郎! やっぱり無茶してたのか!
アリス:……えへへ、ほんの、ちょっとだけ……ですよ……。
でも、私がこなければあなたもタダじゃすまなかったはず……です。
ゼノン:く、それは……そうだが。そ、そうだ! あいつはまだ仲間がいるって言ってやがった! ……まさか!?
アリス:そうなんです……早く行かないと……。
ゼノン:お前は待ってろ。その怪我じゃまともに歩けんだろ。
アリス:誰のせいでこうなったと思うんですか。
ゼノン:あぁ……俺か。すまん。
アリス:そういうわけで、行きますよ、ゼノンさん。
ゼノン:お、おう……。
(暫く歩く)
アリス:ところでゼノンさん。
ゼノン:……なんだよ。
アリス:私が来たときに、とっさに怪我の心配してくれましたね。
ゼノン:……忘れた。
アリス:ありがとうございます。
ゼノン:おら、早く行くぞ。
アリス:えぇ。リィちゃんとレイジス君に加勢しに行きましょう!
ゼノン:あぁ。
――――――――――――――――
<シーン5 レイジスとヴェクタ>
ヴェクタ:ほらほら、どうしました? 私はまだまだピンピンしていますよ!
リィ:……はぁ……はぁ……。レイ……大丈夫……?
レイジス:くっそ……。どんなに攻撃しても、あの壁で防がれるんだよなぁ。
リィ:だけど守ってばっかりだから、こっちにも手が出せないのが救いね……。
攻撃するためには壁を無くさなきゃならないし……。
ヴェクタ:果たしてそうでしょうか?
レイジス:……なんだあの筒……?
ヴェクタ:君たちは銃という武器を知っていますかな? いや、知るはずもない。
これは歴史に埋もれた古代兵器とでも言いましょうか。この威力、身をもって味わいなさい!
それっ!(発砲)
レイジス:ぐぁあああああ!!?
リィ:レイッ!? な、何が起こったの!?
ヴェクタ:かつては鉛玉を飛ばしていたらしいですが……。いかんせんコストと弾を詰め替えるための時間が掛かってしまう。
そこで私は魔鉱石を埋め込む事によって、魔鉱石の力を射出するようにしたのです。
リィ:魔鉱石……。
ヴェクタ:そう! あなたのその指輪と同じ魔鉱石です。
鉛玉と違い貫通性はありませんが、それでも威力は十分。
リィ:くっ……! うぁあああああ!
ヴェクタ:っ!? おっと危ない危ない。炎の次は電気ですか。
リィ:まだまだあぁあああああ!!!
ヴェクタ:またしても炎。それも大がかりな……。
でも――
リィ:な、魔法が跳ね返って!? く、うああ……。
ヴェクタ:壁さえ作ればその炎は行き場を失う。
どうです? 自分の技に苦しめられるのは?
リィ:水で……炎を……消さなきゃ……。
ヴェクタ:おやおや、生身の体でそんなに魔鉱石を酷使すると……。
リィ:うっく……。
ヴェクタ:ひひひひひひひひ! もう立ってるのが限界なんじゃないんですか?
私はあまり女性に手を挙げたくはないのですが、私たちの仕事を邪魔をするのであれば仕方がありません。
幸い、ここは人知れぬ孤島。死んでいただきましょう。
リィ:くっ……。体が……動かない……!
レイジス:ま、まだだ!
ヴェクタ:なんと、まだ生きていましたか! だが――この壁で!
レイジス:あぁあああああああ!
(ヴェクタ防壁を作るが、それを破ってレイジスの一撃がヴェクタに当たる)
ヴェクタ:そそ、そんな! 私の壁が!? うぐぅぉお!? ば、馬鹿なぁあああ!!!!
レイジス:はぁ……はぁ……。村の皆も……リィも……俺が守る……!
ヴェクタ:くぅ……。まさかこんな小僧どもに……。
リィ:さ……観念しなさい……よ。
ヴェクタ:死にぞこないめ……。まだだ……まだ負けてはいませんよ!
アラン:そこまでだ、ヴェクタ。
ヴェクタ:ア、アラン!? 何故あなたが!?
アラン:ギルティアが傷を負って帰還しきてな。
まさかと思ってきたが、お前まで苦戦しているとは……。
ヴェクタ:ぐぬ……。
アラン:ヴェクタ、結界を外せ。
ヴェクタ:……分かりました。消えよ、結界……。
アラン:……さて。
レイジス:な、なんだよ、やる気か!?
アラン:安心しろ。直ぐに終わる。
レイジス:っ!? 消えた!? ――ぐぁっ! そ、そんな……。(レイジス倒れる)
リィ:レイ!?
アラン:一瞬の油断が隙を生み出す。
リィ:ぁっ……。(リィ倒れる)
イシュア:リィさん! レイジスさん!
アラン:驚いている場合ではないだろう。次はお前らがこうなる。
イシュア:くっ……こうなったら!
村長:イシュア、ここから逃げなさい。
イシュア:お父さん!
村長:人間の子供たちが彼らと戦ったのに、村の長である私が戦わないでどうする。
イシュア:でも……お体が……。
村長:どうせ、病で長くはない体だ。せめてこの村のためにこの命を使わせてほしい。
イシュア:……。
村長:イシュア、生まれてきてくれてありがとう。お前は……私たちの誇りだ。
イシュア:ま、待ってください! ……いえ、ありがとうございます、お父さん。
……行ってきます。
村長:あぁ、行っておいで。
アラン:別れの言葉は済ませたか。
村長:あぁ。待ってくれてありがとう。
さて、私の……ラインの本気、しかと目に焼き付けるがいい!!!
はぁああああああああああああああああああああああ!
アラン:……このラインは。
ヴェクタ:竜の首に蝙蝠の翼、そして鷲の足を持つ翼竜、ワイバーンですな。
村長:うおおおおぉおおぉお!
ヴェクタ:アラン!
アラン:心配ない。
村長:真正面から私の爪を受けるか! 面白い!
アラン:……っ。
村長:そのまま押しつぶしてくれるようっ!
ヴェクタ:大丈夫ですか!?
アラン:誰にものを言っている。
村長:馬鹿な……、受け切っただと……? だが、この村は命を懸けてでも守る!
アラン:そうか……ならばその掛けた命、無駄となるな。
村長:何っ!?
アラン:名も知らぬ村の長よ、さらばだ。
村長:ぬぅうううぅおおおおお!
(村長、アランに斬り殺される。間)
アラン:呆気ないものだな。
ヴェクタ:……申し訳ありません。
アラン:油断しすぎだ。いくらお前が戦闘に向かないとはいえ、子供二人相手に苦戦するとは……。
これを油断と言わないで何と言う。
ヴェクタ:……以後気を付けます。
アラン;そうしてくれ。……ここにはもう人はいないようだな。残っているラインが見かければ殲滅し、帰還するぞ。
ヴェクタ:はっ……。
――――――――――――――――
<シーン6 出発>
リィM:あたしが目が覚めた時、村の人たちは少なくなっていて、代わりにいなくなった人数分、土の山が増えていた。
動かなくなった人やライン。残された人たちによって運ばれ、丁寧に穴に埋められ……そしてまた新しい山ができる。
村の人たちのすすり泣く声が木霊する。
今やっとこの時、あたしは戦いに身を置く事がどういうことかを知った。
レイジス:……リィ。
リィ:……なに?
レイジス:怖い?
リィ:……ちょっと。……レイは?
レイジス:……俺も少し。
リィ:そっか。
レイジス:旅、止めたい?
リィ:止めたくない……って言うと嘘になるけど。
セイルがいつ死ぬか分からない状況にいるのを見過ごせないよ。
それに……。
レイジス:それに?
リィ:セイルだけじゃない。アリスもゼノンもあたしとは違う世界にいた。
あたしが旅を止めて、平和に暮らしてるどこかで、二人が知らない場所で戦って死んでるかもしれない……。
そんなこと、考えたくない。だから旅を続ける。
レイジス:……そっか、そうだよな。セイルさんだけじゃない。アリスもゼノンも……皆仲間だもんな。
俺たちも強くならなきゃ……。
ゼノン:嬉しいこと言ってくれるねぇ。
リィ:ゼノン! 目が覚めたのね!
ゼノン:ボロボロだがな。あと、こいつもいるぜ。
アリス:レディをコイツ扱いとは……本当に酷いです。
ゼノン:なーにがレディだ。
レイジス:アリスも……よかった。
リィ:全く、二人とも心配させて! 森の中で二人が倒れてた時は驚いたわよ。
アリスは村長さんの家からいなくなるし……。
アリス:あはは……すみません。でもゼノンさんが心配だったんですよ。
ゼノン:村人に襲われるわ、ギルティアっていう壊れた時計とサシで戦うことになるわ……大変だったんだよ、こっちも。
リィ:ゼノンも壊れた時計と戦ってたのね。
アリス:あと一歩でやれそうなところを私が颯爽と現れて救い出したんです。
ゼノン:へっ、ぬるっと現れたくせによく言うぜ。
まあ助けられたことは確かだしな、ありがとよアリス。
アリス:えへへ、どういたしまして。……ってなんでそんなに上からなんですか?
レイジス:まぁまぁ。でも二人が無事で何よりだよ。それでリィ、これからどうするのさ?
リィ:そうね……。壊れた時計やラインの情報は無いし、取りあえず一度帝国に戻ろうかと思う。
もしかしたらサネルおじさんが何か情報を掴んでるかもしれない……。
ゼノン:取りあえず、傷を癒すために暫くは情報収集だな。
リィ:うん。……あ、そうだ。出発する前に一度イシュアさんに挨拶してきていいかな……。
レイジス:ん? あぁ……。
ゼノン:じゃあ俺たちは準備して待ってるぜ。
リィ:うん、お願いね。
(間)
(墓地に佇むイシュア。そこにリィが現れる。)
イシュア:お父さん……。
リィ:イシュアさん……。やっぱりここにいたんですね。
イシュア:あら、リィさん。どうかしたんですか?
リィ:……ごめんなさい、村長さんを助けられなくて……。
イシュア:父が決めたことですから……。あなたたちのせいではないです。
リィ:……もっとあたしたちに力があれば……。
イシュア:リィさん、自分を責めてはいけません。自分を責める前に為すべきことを為しましょう。
リィ:強いですね、イシュアさんは。
イシュア:強がっているだけですよ。でも、泣いている訳にはいきません。
私は、この村を再建する仕事が残っています。いつか大陸でラインと人間が共に暮らせる時が来るまで、
この村をラインと人間の拠り所としていくんです。
リィ:……。
イシュア:あなたはたちはまだ子供です。その歳でこのような場面に立ち会うのはつらいでしょう。
リィ:つらいですけど、目を背けるわけにはいけません……。
いなくなってしまった人たちのことも、自分たちの力不足も、全て噛みしめて前に進みます。
イシュア:そうですか。……リィさん。
リィ:はい。
イシュア:あなたには多くの仲間がいます。この村の人たちは皆さんを受け入れるのにまだ時間が掛かりますが、
少なくとも私はあなたを信頼できる仲間だと思っています。
リィ:イシュアさん……。
イシュア:もし力になれることがあれば言ってください。可能な限り手伝いますよ。
リィ:あ、ありがとうございます!
イシュア:ところで、これからどうするつもりですか?
リィ:一度帝国に戻ろうかと思います。何か情報が入ってるかもしれませんし……。
イシュア:そうですか。
リィ:短い間でしたけど、ありがとうございました。
イシュア:こちらこそ。また会えることを信じています。
リィ:はい! また会いましょう。
to be continued...