『我らチームサンタクロース』
【キャスト】
〇松川 柳(♂)
マツカワ ヤナギ。32歳、オッサンタ。妻子有……には見えないノリの軽さ。
〇中居 拓海(♂)
ナカイ タクミ。28歳、トナカイ。見た目は優しそうだが、結構性格はキツイ。
〇三島 雪菜(♀)
ミシマ ユキナ。22歳、JK風サンタ。おじさんたちの話を上手く避ける。
〇ジャック・クロード(♂)
ジャック・クロード。40歳、ミリタリー系サンタ。ゴツイ。
〇サンタクロース(♂)
サンタクロース。80歳程度。元祖サンタ。最近ボケてきた。
〇松川 舞(♀)
マツカワ マイ。8歳。ママ大好き、パパは二番目。
〇松川 梢(♀)
マツカワ コズエ。31歳。娘大好き、パパは二番目。
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【配役】
(♂)柳
(♂)拓海
(♀)雪菜 + 梢
(♂)ジャック + 男①
(♀)舞 + 女①
(♂)サンタクロース +男② + 警官
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【シーン①】
(場面説明・とある室内にて、日本サンタクロース協会の集会が開かれている)
サンタクロース:全世界の皆さん、明日は待ちに待ったクリスマス・イヴです! 皆さんの一年間の努力が明日!
報われることになります! ひいては子供たちの笑顔のため! ひいては老若男女問わず、全人類の笑顔のため!
私たち全国サンタクロース協会はクリスマスのために準備をしてきたのです!
拓海:なんか、校長先生の話を思い出しましたよ。
柳:それ俺も思った。懐かしいなー。
サンタクロース:全世界のサンタクロースの皆さんも家族、恋人、友達、愛する人のため、クリスマス・イヴを過ごして欲しい!
皆さんの笑顔で溢れるクリスマス。それこそ我々が理想に描いた聖夜です!
さぁ、皆さん、想像してみてください。プレゼントを心待ちにしている子供たち!
プレゼントを喜ぶ子供を見て幸せに思うご両親! なんて素敵な世界でしょう。
ひいては子供たちの笑顔のため! ひいては老若男女問わず――
柳:おい、それさっきも聞いたぞ。
拓海:あの爺さん、もう歳だからなぁ……。ちょっとボケて来てるのかも。
サンタクロース:さて、明日は我らが全世界サンタクロース協会で一番忙しい日となります。
明日の為にしっかり鋭気を養って下さい!
(間・5秒)
柳:あー、肩凝ったぜー。
雪菜:おっつかれー。柳のおじさん。今日は一段と老けた顔してるわねー。
ただでさえ老けてるのに、さらに皺を増やす気?
柳:ん? お、雪菜か。違う違う、柳おじさんじゃなくて、お兄さん。
柳お兄ちゃんでもいいぜ。ほら、呼んでみ。柳お兄ちゃん。
雪菜:呼んであげてもいいけど、高いわよ。
柳:金取るのかよ。そっちのお店じゃあるまいし。
拓海:どちらにしろ、若い女の子相手に、お兄ちゃんと呼べなんて、奥さん聞いたら悲しみますよ。
柳:おーう、トナカイ。
拓海:中井です。
柳:同じようなもんだろ。
拓海:はぁ……。分かりました。さっきのことは奥さんにしっかりと伝えておきますね。
柳:お、おい! ちょっと待てって! てか、妻と娘が一番だっての。
あぁ、そうだ! お前ら聞いてくれよー、最近娘の舞がなー――
雪菜:まーた始まった。親父のノロケ話。
拓海:そう言えば、明日僕たちの住む地域を担当するサンタって僕と柳さんと?
雪菜:アタシ。あと一人は?
ジャック:Hello
雪菜:が、外国人!?
拓海:しかも凄い筋肉。
柳:あ、えーと……、ニーハオ? ニーハイ? ん、チューハイだったか……? どっちだっけ?
ジャック:あぁ、無理しなくていい。日本語も話せる。
初めましてだな、米国サンタクロース協会から派遣されたジャック・クロードだ、よろしく。
柳:な、なんだよ。日本語話せるなら最初からそうしてくれよ……。
恥かいちまったじゃねぇか……。
雪菜:時間の問題だと思うけど……。
柳:まぁなんだ、明日はよろしくな、ジャック。俺は松川柳だ。
雪菜:アタシは三島雪菜。
拓海:僕は中井拓海。ところでジャック、サンタとは思えない程、凄い筋肉ですね。
ジャック:ここに来る前は紛争が起きている国でサンタクロースをしていた。
目が合えばすぐに殺し合いになる世界だったからな。嫌でも力はつく。
拓海:そうなのか……。すごいな、こんな逞しいサンタクロース、僕は見たことないよ。
柳:逞しすぎて子供たち逃げていきそうだがな。てかそんな場所にサンタクロース協会あったんだな。
俺はそっちに驚きだよ。
ジャック:サンタクロースを信じる子供がいれば、世界の果てでも現れる。それがサンタクロースという仕事だ。
拓海:プロだ。
雪菜:プロね。それと比べてこのおっさんは。
柳:なんだなんだ? 皆揃って俺を見て。
ジャック:ふ、面白いな、日本人は。何はともあれ、明日はよろしくな。
拓海:後姿が完全に歴戦の猛者だ。あれがサンタコスチュームを着るのか……。
柳:テロリストと間違えられそうだけどな。
(間・5秒)
雪菜:日本人は面白いって……まさかアタシも一緒にされた?
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【シーン②】
(場面転換・松川家。帰宅する柳)
柳:ふー、ただいまー。
梢:あら、お帰りなさい。
舞:パパだー! 突撃ー!
柳:うひー、パパやられたぁああ! よっこいしょっと。ただいま、舞ちゃん。良い子にして待ってたかー?
舞:うん! 良い子にしてた!
柳:そうかそうか! ――ん? あれ? 服になんか付いてる。これは……
舞:舞ね! ママと一緒にクリスマスツリー作ってたの!
柳:そうかそうか!すごいなぁ、舞は! そうかー、もうクリスマスか。早いもんだな。んで、欲しいものは決まったのか?
舞:うん!
柳:なんだなんだ? パパに教えてくれよ。
舞:ひみつ! えへー。
柳:なぁんだ、秘密なら仕方がないなぁ。えへー。
梢:あなた、顔が緩んでるわよ。さ、舞も寝る時間よ。
舞:はーい!
(間・5秒)
梢:いよいよ、明日ね。
柳:あぁ。
梢:緊張する?
柳:少しだけ、な。なんせ子供たちの笑顔が掛かってるんだ。責任重大だ。
梢:ふふ、そうね。
柳:それじゃあ俺も、明日のために早めに寝るとするかねぇ。
梢:えぇ、分かったわ。明日、頑張ってね。
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【シーン3】
(全員サンタ服に着替え、指定された場所に集まる)
柳:ふわぁ……。
拓海:なんて顔をしているんですか、柳さん。
柳:ん? おぉ、トナカイか。くぁあ……眠いぜぇ……。良い子は寝る時間だってのによぉ。
雪菜:おっさんが何言ってんのよ。
ジャック:眠そうな顔でプレゼントを届けられても、子供は喜ばんぞ。
柳:おー、雪菜にジャックも来たか。予想通り、サンタの服、パツンパツンだな。
ジャック:あぁ。今度注文する時は一回り大きいのを頼むとするか。
柳:さーて、人が揃ったことだし、お仕事開始と行きますかねぇ。
ジャック:どういうルートを通るつもりだ?
柳:俺とトナカイは外回り、雪菜とジャックは内回りでプレゼントを配っていく。
これでどうだ。
ジャック:了解。
拓海:分かりました。それじゃあ配り終えたら中央広場に集合ってことでどうですか?
雪菜:そうね。それじゃあ夜は短いし、アタシたちは行くね。
また後でねお二人さん。行きましょ、ジャック。
ジャック:あぁ、よろしく頼む。
(間・5秒)
柳:よーし、じゃあ俺たちも行くぞー!
(間・5秒)
拓海:――って言った傍から。
柳:はぁっ……ひぃっ……。ちょ、ちょっと……休憩しようぜ。
拓海:全く、この日の為に体力つけてくるって言ってたのは何処の誰ですか。
柳:そ、そんなこと言ったってなぁ……。
拓海:夜は待ってくれないですよ。勿論、子供たちも。
柳:わ、分かってるって。……頼む後で追いつくから、先に行っててくれ。
拓海:……分かりました。直ぐに来なかったらこの情けない姿を、舞ちゃんに言いますからね。
柳:勘弁してくれよ。
拓海:それじゃ。僕は時間が惜しいので。
(間・5秒)
柳:全く、愛想の無いサンタだなー、あいつ。
あー、駄目だ。喉か湧いた! 水! 自販機自販機! お、あったあった。
えーっとどれにしようかな……って悩んでる場合じゃねえ! あぁ、もう! 取りあえずスポーツドリンクでいいや!
(水分補給)――ぶはぁ! はー生き返るわ! (頬を叩いて活を入れる)
うっし、短いけど休憩終了!トナカイなんかに負けてられねぇー!
柳:お、この路地裏通って近道するか。
(柳、路地裏で行為中の男女に遭遇する。)
男①:ふふ、ほら、俺からのプレゼントだ。
女:もう、エッチなんだから……。
柳:いよっと!(柳、飛び出してくる)
女:きゃっ!?
男①:うわっ!?
柳:え? ……あー……。なんだ……その……メリークリスマス……?
女:ちょ、ちょっと! 早くどこかに行ってよ!
柳:そ、そうだよな。クリスマスだもんな。うんうん、そうだ。
男①:てかなんだよふざけた格好しやがって!
柳:ふ、ふざけた格好って! これでもサンタクロースだぜ!?
男①:そ、そんなのどうでもいいから!
女:早く消えて! あーもう! 最悪!
柳:あ、あ、そうだ。プレゼントやる!
男①:なんでサンタからゴムを貰わなきゃならねえんだよ! てかそもそもなんで持ってんだよ!
柳:んじゃあな! 後はご自由にー! メリークリスマース!!!(逃げるように去る)
(間・5秒)
男①:行ったか。クソッ! いいところで邪魔しやがって!
女:ホントなんなのよ、あのサンタ親父! あーあ、もう冷めちゃった。あたし帰る!
男①:あ、おい待てよ! おーい!
(間・5秒)
柳:ひえー、邪魔しちまったなぁ……。まさかこんな寒空の下で……ねぇ。
若いってのはお盛んだねぇ。
げっ、思った以上に時間食っちまったな。急いであいつを追わないと!
男②:ど、どけぇ!
柳:いって!? なんだなんだ!?
拓海:柳さん!
柳:おぉ、トナカイ。戻ってきてくれたのか。なんていい奴なんだー。
拓海:柳さん! あの男! あの男を追って下さい!
柳:さっきぶつかった奴か。一体どうしたんだよ。
拓海:あの男……ひったくりです! プレゼントを買いに行く人を狙って……。
柳:なんだって!? こりゃノンビリしてる場合じゃねえ!
くぉらぁあああああ! まぁちやがれええええ!
男②:はっ……はっ……。へへっ、撒いたか?
柳:うおおぉおおおおおお!
男②:げっ、さっきの親父!? くそっ!
柳:はっ……はっ……。
男②:はっ……はっ……。
柳:はひぃ……はひぃ……。うっぷ、やべっ、スポーツドリンクが逆流してきた……。
くっそ、負けるかってんだぁああ!
男②:くそ、しつこい野郎だ。こうなったら……。
柳:お、やっと諦めたか。手間かけさせやが――
男②:へへっ、こっちだって捕まる訳にはいかねぇんだよぉ!(ナイフを取り出し、柳に向かって振るう)
柳:うおっ!? あぶねぇ! こいつ、ナイフ持ってたのかよ!
男②:走ってバテたおっさんにはこいつで十分だ。さぁ、覚悟しやがれ!
柳:くっ! 俺だって! 伊達に! 年食って! ないんだ――よ!
男②:おぐっ! くそ、舐めやがって!
柳:それはこっちのセリフだ! おっさんをなめんじゃ――ねぇ!(背負い投げ)
男②:う、うおおぉおおお!? げふぅ!
柳:へへん、これでも柔道黒帯だぜ! うっぷ、うぉぇ……。
男②:うぉ、ちょっと待て待て、何吐いてんだよ! 止めろ! あぁぁあああぁぁぁぁ……。(萎んでいく声)
拓海:はぁっ……はぁっ……、捕まえたんですね。
柳:おう。お前がこいつを追いかけまわして疲れさせたおかげだよ。
拓海:それはよかった。それにしても、犯人、全く抵抗してないですね。
柳;あぁ、とっておきの一撃(投げ)を喰らわせてやったからな
男②:いや、とっておきの一撃(ゲロ)を喰らっちまったからな。
……正直死にたい。(悲惨そうな声で)
拓海:何にせよ、後はこいつを警察に届けて終わりだな。
(間・5秒)
柳:はぁ、すっかり遅くなっちまったな。
拓海:そうですね。
柳:雪菜たち、先に配り終えたのかな。
雪菜:そうよ! 全く、遅いと思ったらこんなところにいたのね。
柳:げっ、雪菜。いや、違うんだ!
ジャック:分かってる。強盗を捕まえたんだろ。お前たちを責める理由はない。
拓海:柳さんよりジャックが強盗相手した方が良かったんじゃないですか?
柳:ジャックが来るまで待てねぇっての。
雪菜:まぁ、何はともあれ、二人とも無事でよかった。
柳:でも全然プレゼント配れてないんだ。
ジャック:おいおい、なんで俺たちがここに来たと思ってるんだ?
拓海:それって――
雪菜:あんたたちが余りにも遅いから、手伝ってあげるわ。
柳:雪菜ぁ……。
雪菜:その代わり! 仕事終わったら美味しいものでもご馳走してもらうからね!
柳:うへぇ、手厳しい。
ジャック:急ぐぞ。夜が明けるまでにプレゼントを配り終えなければならん。
柳:へへっ、そうだな。そんじゃあいっちょ、プレゼントを配りに行きますか!
拓海:全ては子供たちのために!
雪菜:それに最高のクリスマスにするためにね!
ジャック:それじゃあ――柳。
柳:あぁ。俺たちはサンタクロース! いざ行かんプレゼントを届けに子供たちの下へ!
メリークリスマス!
(間・5秒後1拍する(カットの意))
警官:いや、カットじゃないよ。あーちょっと。ちょっといい?
柳:え、何?
警官:君たちだろ、さっきからわいわい騒いでるの。
拓海:あ、いえ、僕たちは――
警官:いくらクリスマスだからってこんなに馬鹿騒ぎされたら困るんだよねぇ。
ジャック:そういう訳では……。
警官:取りあえず、君たち、身分証明書。あと職業は?
雪菜:職業は……えと……その……。
柳:サンタクロースだ。
警官:は?
柳:は?
警官:……よく聞こえなかったみたいだ。んで、職業は?
柳:サンタクロース。
警官:……ちょっと署まで行って話をしようか。
柳:な、なんでだよ!?
警官:君たちもサンタクロースかい?
拓海:いいえ、俺は会社員。
雪菜:キャビンアテンダント。
ジャック:そして自衛隊員だ。騒いでしまって申し訳ない。
柳:くそっ! なんという連携! なんという手のひら返し!
拓海:柳おじさん、メリークリスマス。
柳:お、おい! 待てって! おーい! 薄情ものおぉおおお!
警官:君はこっちだ。何、不審者というプレゼントを交番に持っていくだけさ。
なんたって今日は――クリスマスなんだからね。
柳:誰がそんな上手い事言えって言ったよ!
あーちょっと待って! 話聞け! あーれー!
END