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『Links』 ―第12話 運命に翻弄されし少女の結論―

 

【登場人物】

 

○リィ・ティアス(♀)
 ジェナ・リースト共和国に住む17歳の女の子。両親は幼い頃にラインに殺され、その後兄のセイルは失踪。
 それ以降悲しみに暮れながらもなんとか立ち直ることができた強い心を持つ。両親の遺産で今も一人で暮らしている。
 性格はしっかりしており、学園内でも優秀な生徒として評価されているが、少し口が悪い。

 

○レイジス・アルヴィエル / サタン(♂)
 リィと同じく同国に住む17歳の青年。明るく元気な男。リィとは学園で知り合った仲。
 よく一緒にいるためにリィとその友人アリスに振り回される苦労人。ひょんなことでリィと共に旅に出ることになる。

 

〇エストリア・シーラー(♀)
 かつてココレットが経営していた孤児院の子供。11歳。現在は当てもなく世界中を旅をしている。
 元気で活発、お転婆な女の子。銃を用いて魔鉱石のエネルギーを放出してラインと戦う。
 
○セイル・ティアス(♂)
 ラインを倒すことを目的とする組織「壊れた時計」、12時の男。見た目は20代前半。
 そしてリィの兄でもある。彼女を巻き込まないために黙って失踪し、「壊れた時計」に所属して両親暗殺の真相を探る。

 

〇サネル・ランバート(♂)
 ゴアス帝国軍総司令官。リィの両親の親友であり、彼女の両親が死んだ際に、困ったことがあれば頼るようにいった。
 喋り方は荒々しいが、面倒見がいい。

 

――――――――――――――――
【用語】

 

ライン:つまるところ怪物。モンスター。おとぎ話、伝説と呼ばれた生物のことを指す。
    現在、そのラインが世界各国に出没し、人間に害を与えている。
    イントネーションはフルーツの「パイン」と同じ。

 

魔鉱石:特殊なエネルギーを含んだ鉱物。この世界では照明器具の光や暖房器具の熱などを作るために、この石を埋め込み、
    その力を媒介としている。
    また、魔鉱石の純度によっては強大な力を含んでいるが、扱うには体にとてつもなく負荷がかかる。

 

――――――――――――――――

【役配分】
 

●被り無
(♀)リィ
(♂)レイジス
(♀)エストリア
(♂)サネル
(♂)セイル
(♂)サタン
(♀)看護婦
(♂)刺客

♂6 ♀3 計9人

 

●被り有
(♀)リィ
(♂)レイジス
(♀)エストリア +看護婦
(♂)サネル + 刺客
(♂)セイル + サタン

♂3 ♀2 計5人

 

―――――――――――――――――

【シーン1 レイジスの意識の海の中】


レイジス:暗い……どこだ……ここは?


 

サタン:これは驚いた。まさか意識があるとは。

 


レイジス:お前は……一体……? それにその姿。

 


サタン:私? 私の名前はレイジス・アルヴィエル。サタン……。名前くらいは聞いたことがあるだろう?
    それが私の、お前の本当の姿だよ。


 

レイジス:俺の……? 違う! 俺は人間だ!

 


サタン:オズィギスと名乗るバフォメットから聞いただろう? お前は人工的に作られた――

 


レイジス:やめろ!

 


サタン:別に口に出さなくても事実は変わらぬ。人工的に生み出された故に、一つの肉体に二つの魂が宿ってしまった。
    それがお前であり、私だ。


 

レイジス:そんなの、知らねーよ、返せよ……俺の体。返してくれよ!!!

 


サタン:返せ? 確かにお前の肉体ではあるが、私の肉体でもある。まぁ、今の肉体の主導権は私にあるがな。

 


レイジス:なんだよ、訳がわかんねぇよ……。

 


サタン:以前お前はエレアードという壊れた時計と戦い、そして敗れたな。
    ……おかしいと思わなかったか? あの狂気に満ちた小僧がお前たちを逃すなぞ。


 

レイジス:何が……言いたいんだよ。

 


サタン:あの小僧を殺したのは私だ。

 


レイジス:……一つ聞きたい。

 


サタン:私が答えられるものであればな。

 


レイジス:あんたが……リィの両親を殺したのか?

 


サタン:リィ? あぁ、あの少女のことか。懐かしいな、よく覚えているぞ。
    私が初めてこの体を使った時だった。


 

     (レイジス、涙を目に浮かばせながらサタンに掴みかかる)

 


レイジス:なんでだよ! なんで……罪もない人を……!


 

サタン:ラインが人間を狩るなど、虎が兎を狩るほどに自然なことだろう?

 


レイジス:ふざけんな! お前のせいで! お前のせいでリィが……

 


サタン:それは友情か? それとも情愛か? どちらにしろ下らん感情だ。

 


レイジス:俺は……あんたを許さない……! 許さないからな!

 


サタン:自分自身を許さぬか。面白いな、お前は。

 


レイジス:……俺……あいつになんて言えば……。……謝らなきゃ。


 

サタン:つまらん。ここで一生、感傷に浸っているが良い。

 


    (暫し間)

 


レイジス:返してくれ……。あいつの……幸せ……。

 

 

 

―――――――――――――――――

【シーン2 残された者】

 

 

セイル:……リィ、今日も見舞いに来たよ。

 


  (間。セイルは見舞いに来るも、リィは虚ろな瞳でぼんやりとどこかを見ていた。)

 


セイル:すまないな。お前の側にいてやりたいが、任務があってな。
    ……勝手にいなくなった奴が言う言葉じゃないな。すまん。


 

看護婦:あ、あなたは……。

 


セイル:え? あ、あぁ、この子の親族の者です。

 


看護婦:そうでしたか。この子のお見舞いに親御さんらしい方が来なかったので……。すみません、てっきり。

 


セイル:いえ。ところで……彼女の様子はどうですか?

 


看護婦:それが……ずっと放心状態で……、食事を与えても吐き戻してしまいます。

 


セイル:……そう、だろうな。

 


看護婦:身体の傷は大分良くなりましたが……、心の方は……。

 


セイル:ありがとう……ございます。

 


看護婦;何かあったらお気軽に呼んでくださいね。では――

 


     (間)

 


セイル:……俺が間違っていたのか? いや、間違っていたんだろうな。
    リィ。俺は、父さんと母さんが殺された事件の真相を知りたくて壊れた「時計の一員」になった。
    ……でも、実はもう一つ理由があったんだ。

 


セイル:父さんと母さんがいなくなって、お前まで失いたくなかったから……
    せめて大事な妹だけはラインの手から守りたかったんだ。だけど、それが逆にお前を苦しめてしまった。


 

     (間)

 


セイル:なあ、リィ。元気になってこの馬鹿な兄を殴ってくれ……。


 

     (病室に、サネルとエストリアが入ってくる)

 


サネル:おう、失礼するぜ。

 


エストリア:おねーちゃん、お見舞いに来たよ……。

 


セイル:サネルさん……。

 


サネル:お、おお!? セイルじゃねえか!?

 


セイル:……お久しぶりです。


 

サネル:おほん、浮かれてる場合じゃなかったな。……話は聞いてる。お前さん、「壊れた時計」の一員なんだってな。

 


セイル:……はい。

 


サネル:お前は唯一の家族を残して何してたんだ?

 


セイル:……返す言葉もありません。

 


エストリア:家族? てことは、おねーちゃんのおにーさん?

 


サネル:まあ、今更ぐだぐだ言っても何も変わりはせんだろう。
    ……レイジスがラインなんだってな。それでもって――


 

セイル:この先は言ってはダメです。リィに……聞こえてしまいます。


 

サネル:……そうだな。悪かった。だが、今になってあいつが言ってたことに納得したよ。


 

セイル:レイジスが言っていたこと?


 

サネル:あぁ。あいつと初めて会った時、俺に戦い方を教えてくれって頭を下げてきたんだ。


 

セイル:……。


 

サネル:勿論理由は聞いたさ。仲が良いとは言え、ただの友達を守るために命をかけるなんて、
    言っちゃ悪いが、自分に酔ってるとしか思えないからな。

 


セイル:それで彼はなんと……。

 


サネル:面白いことによ、あいつ自身もよく分かってなかったんだよ。
    ただ自分は戦わなくちゃいけない気がする。そう言ってたんだ。

 


セイル:まさか……彼は……。

 


サネル:確実な事は言えんが、心の奥底で、もう一人のレイジスが犯した罪を見てたんじゃないかな。
    だから知らないうちにリィを守ることに固執していた。

 


セイル:レイジスが学園に入学してからリィばかりに絡んでいたのも……?

 


サネル:……かもしれないな。

 


セイル:レイジス、お前……。


 

サネル:そろそろ、仕事に戻らんとな。


 

セイル:そう、ですか。


 

サネル:お前には山ほどいいたいことがあるが、説教はまた今度だ。それまで死ぬんじゃないぞ。


 

セイル:はい。


 

     (サネル去る。残されたエストリアは、虚ろな瞳でどこかを見ているリィを心配そうに見つめる。)

 


エストリア:おねーちゃん……。


 

セイル:君は?


 

エストリア:エストリア・シーラー。少しの間だけど、おねーちゃんたちと一緒に旅したんだ。


 

セイル:エストリア……シーラー……?


 

エストリア:……どうしたの?


 

セイル:い、いや、何もない。


 

エストリア:ねぇ、おねーちゃんのおにーさん。


 

セイル:なんだ。


 

エストリア:おねーちゃん、元気になるかな?


 

セイル:分からな――いや、元気になるさ、絶対。


 

エストリア:……あのね。


 

セイル:どうした。


 

エストリア:あたしね、強気なおねーちゃんが大好きなんだ。


 

セイル:そうか。それは妹も喜ぶだろう。


 

エストリア:あたしの国って、あたしが赤ちゃんだった頃に滅んじゃったらしくて、
      気付いた時からずっとゴアスの孤児院にいたんだ。
      孤児院の人たちは皆いい人ばっかりだったよ。
      それでも、本当のお父さんとお母さんがいないって思うと……寂しかった。

 


セイル:……。

 


エストリア:お父さんもお母さんもいないのは、おねーちゃんも一緒なはずなのに、
      あたしより元気でさ、凄い羨ましかった。あんな風になりたいって思ってたんだ。

 


セイル ……。

 


エストリア:えへへ、みんなにはナイショだよ。弱気なところ見せたくないし。恥ずかしいし。

 


セイル:恥ずかしいことじゃないさ。

 


エストリア:ありがと。……早く元気になってよ、おねーちゃん。

 


刺客:それは無理な話だな。


 

     (突如窓から現れる人間に化けたラインの刺客)


 

エストリア:だ、誰よアンタ!?


 

刺客:名乗るまでもない。お前たちが噂の子供たちだな。何やら色々嗅ぎまわっているらしいな。
   人数が足りない気がするが、まあいい。「壊れた時計」までいるのは予想外だが、大人しく死んでもらおう。


 

エストリア:ちょっと! 部屋の中で暴れないでよ!


 

セイル:くそっ、こんな時に……! オズィギスの刺客か!


 

刺客:答える義理などにない。そら、手土産だ。


 

      (刺客が腕を広げると、粉のようなものが舞う)


 

セイル:な、なんだこれは……!? ごほっ、ごほっ!


 

エストリア:く、うぅ、体が痺れて……動けないよ。


 

刺客:麻痺毒だ。ラインが肉弾戦しかできないと思うなよ。


 

エストリア:じゅ、銃の引き金を引くくらいなら……できるんだから!


 

刺客:それは怖いな。だが――これではどうだ。


 

      (刺客、リィを人質に取る)


 

セイル:リィ!? き、貴様ぁ!


 

エストリア:卑怯者ー! 人質なんてずるいぞー!

 


刺客:麻痺して照準が定められない中、銃など撃てばこの少女に当たってしまうぞ。

 


セイル:……何が目的だ。

 


刺客:折角有利な立場にいるのだ。貴様らからはたっぷりと情報を吐いてもらうぞ。
   そうだな、まずは「壊れた時計」、貴様らの本拠地は何処だ?

 


セイル:くっ……。

 


刺客:ふはは、答えねばこの娘の命が消えることになろうぞ!

 


     (間。リィの心の中、弱気と強気の演技を使い分けて)

 


リィ:あたしは……一体……何を……?
   何も……考えられない……。
   考えたくない……。
   もう傷つくのは……嫌……怖い……。


 

リィM:怖いよ。怖くないわけがない。


 

リィ:レイもオズィギスおじさんも、アリスも……皆、皆嘘つきだ……。

 


リィM:それは違う。少なくともレイとアリスは違うわ。
    二人は後悔してたから、一緒にいてくれたんじゃないの?

 


リィ:嫌だ、誰も信じられない……。


 

リィM:きっとレイだって、本心は違うはず。根拠なんて何もないけど、
    あたしはずっとレイを見てきたんだ。あいつがそんなことするわけがない!

 


リィ:でも……でも……!

 


リィM:パパとママのことは悔しいけど……このままだったら、全てを失っちゃうわよ?


 

リィ:全て……?

 


リィM:たった一人の家族と大切な友達……いいの?

 


リィ:そんなの……嫌だ……。

 


リィM:なら、シャキッとしなさい! 

 


     (間)

 


レイジス:リィ……皆……ごめん。

 


リィ:っ!? 今……レイの声が……。どこにいるの!?

 


レイジス:ごめん……本当に、ごめん……。

 


リィ:(大きく深呼吸)あー……。
   全く……男の子が情けない声出してんじゃないわよ。
   ふふ……あたしがへこんでる時間なんて無いじゃない……。
   そうよ、これ以上失う訳にはいかないのよ!
   待ってて、レイ。何が起きてるか分かんないけどさ、あんたを助けて見せるから!


 

     (間)

 


刺客:さぁ、早く答えないと、この娘が死んでしまうぞ!

 


セイル:くそっ……。

 


リィ:く、うぅ……。あんた……たち……。


 

刺客:何っ!?


 

エストリア:おねーちゃん! 意識が!


 

リィ:勝手に……、なに勝手に話を進めてんのよ!!!(魔鉱石の指輪の力で、爆炎の起こす)


 

刺客:うごぁあああぁ!!?


 

リィ:……く、まだ頭が痛い……。


 

刺客:この……小娘が!


 

セイル:させるか!(SE:斬撃)


 

刺客:ぬぅお!?


 

エストリア:ふふん、三対一だよ! たーっぷりお返しさせてもらうからね!


 

セイル:体の痺れも取れてきたし形勢逆転、だな。


 

刺客:くそっ、ここまでか。


 

セイル:今度はそっちの情報も教えてもらおうか。


 

刺客:このままでオズィギス殿に合わせる顔がない!

 


セイル:……貴様、まさか!


 

刺客:こちらの不利になるのであれば、この命惜しくもない! ……さらばだ!

 


セイル:窓から身を投げたか……。

 


エストリア:おねーちゃん!

 


リィ:エスト……。ごめんね、心配かけちゃったね。


 

エストリア:ううん。えへへ、おかえり。

 


リィ:うん、ただいま。

 


セイル:大丈夫なのか。


 

リィ:……なんとかね。セイル……ずっと傍にいてくれたんだ?


 

セイル:あんな状態の妹を放っておくほど冷酷じゃないさ。


 

リィ:ありがとね、本当に。


 

セイル:……すまん、リィ。俺のせいで――


 

リィ:うぅん。どうせいつかは知らなきゃならなかったことだし……。
   こんな言葉で片付けるのは嫌だけど、仕方がないよ。

 


セイル:でも、よく立ち直ってくれた。

 


リィ:声がね、聞こえたんだ。

 


エストリア:声?


 

リィ:うん。レイの声。泣きそうな声で、ごめんってずっと言ってた。


 

セイル:そうか……。やはり……。


 

リィ:何か知ってるの?


 

セイル:父さんと母さんを殺したのはレイジスとオズィギスは言っていたが、正確には違う。
    お前たちが一緒に過ごしてきたレイジスではなく、彼の中に潜んでいた、言わばラインのレイジスだ。


 

エストリア:ラインの?


 

セイル:あぁ。非道な人体実験の結果、彼の中には二つの魂が介在しているんだ。


 

リィ:……そっか、それだけ分かれば十分だわ。


 

セイル:いいのか?


 

リィ:大切な仲間だもん、助けなきゃ。


 

セイル:もう心配いらないな。俺もそろそろ組織のところに戻らないとな。


 

リィ:ごめんね、長い間組織から離れさせちゃって……。


 

セイル:妹のためだ、問題ないさ。


 

エストリア:いいおにーさんだね。


 

リィ:……そうね。


 

セイル:今のレイジスは危険だ。おそらくすぐに情報が入るだろう。
    助けるとは言っても、あまり無茶はするなよ。

 


リィ:分かってるわよ、そっちもね。

 


セイル:あぁ。……じゃあな。

 


     (セイル消える)

 


エストリア:行っちゃったね。

 


リィ:うん。

 


エストリア:レイジスを助けるの、あたしも手伝っていい?

 


リィ:……エストは残った方がいいわ。ラインの姿のレイジスは……凄く強かった。

 


エストリア:でもあたしも皆の仲間だよ!

 


リィ:でも……

 


エストリア:おねーちゃん一人で行かせる方がよっぽど危ないよ。
      だから皆で行こ?

 


リィ:皆……、あ。

 


エストリア:どうしたの?

 


リィ:あたし、アリスに酷いこと言っちゃった……。
   謝らないと……。

 


エストリア:それじゃあ帰ってきたら皆で反省だね!

 


リィ:……ふふ、そうね。エストのおかげでなんだか元気が出たわ。ありがとう、エスト。

 


エストリア:へへん、どういたしまして。

 

 


to be continued.... 

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