top of page

『Links』  ― 第2話 友が遺したもの・フルver,―

 

【登場人物】

 

○リィ・ティアス(♀)
 ジェナ・リースト共和国に住む17歳の女の子。両親は幼い頃にラインに殺され、その後兄のセイルは失踪。
 それ以降悲しみに暮れながらも、なんとか立ち直ることができた強い精神力を持つ。今は両親の遺産で一人で暮らしている。
 性格はしっかりしており、学園内でも優秀な生徒として評価されているが、ただ口は悪い。

 

○レイジス・アルヴィエル(♂)
 リィと同じく同国に住む17歳の少年。明るく元気で誰とでも仲良くできる性格。リィとは学園で知り合った仲で、
 彼女の友人アリスと二人に振り回される苦労人。ひょんなことからリィと共に旅に出ることになる。

 

〇ゼノン・ランディール(♂)
 ゴアス帝国南部司令官のココレットの手伝いで旧ランディール王国でラインの研究活動をしていた若者。
 小さい頃から傭兵で暮らしていたため、腕っぷしは強く、性格、口調も荒い。

 

〇サネル・ランバート(♂)
 ゴアス帝国の最高司令官。40代。東西南北の司令官を統括している男。リィの両親の友人で、
 彼女には困った時には自分を頼るように言っている面倒見がいい男。

 

〇ココレット・フランチェスカ(♀)
 ゴアス帝国の南部司令官。20代中盤。かつては孤児院を経営しており、行き場を無くした孤児を引き取っては世話をしていた。
 そのためか、母性的なところがあり、口調も司令官らしからぬ柔らかさがある。

 

〇ギルティア・ヴェルガー(♂)
 謎の組織の一人。見た目は30代前半だが、あまり落ち着きは無い。喧嘩っ早い性格で面倒臭がり屋。

 

〇シェリル・メレディス(♀)
 謎の組織の一人。見た目は10代後半。他のメンバーと比べて感情をよく表す、変わった喋り方(エセ関西弁)をする元気娘。
 戦闘集団にも関わらず、そうは思えない言動、行動をする。

 

○アリス・ポルテ(♀)
 学園の生徒。リィの親友で基本的に彼女と一緒にいる。言葉遣いは丁寧で、傍目から見たら明朗闊達な少女。

 

〇ブロウ(♂)
 鬼のライン。見た目は20代後半から30代前半。筋骨隆々、高身長。豪快で戦闘好き。
 旧ランディール領で謎の組織の一員ギルティアと戦闘を行う。

 

――――――――――――――――
【役表】

 

(♀)リィ
(♂)レイジス
(♂)ゼノン
(♂)サネル
(♀)ココレット
(♂)ギルティア
(♀)シェリル + アリス

(♂)ブロウ

 

計8人
 

――――――――――――――――
【用語】

 

ライン:つまるところ怪物。モンスター。おとぎ話、伝説と呼ばれた生物のことを指す。
    現在、そのラインが世界各国に出没し、人間に害を与えている。
    イントネーションはフルーツの「パイン」と同じ。

 

―――――――――――――――――

<シーン1: ゴアス帝国>


リィM:大陸西部にある巨大国家、ゴアス帝国。あたしたちが住むジェナ・リースト共和国と違って、
    軍需産業が発達し、また、兵役や徴兵制があるため、他国と比べて軍事力に秀でている。
    大規模のライン相手にまともに対抗できるのは、おそらくこの国くらいだろう。
    あたしとレイジスはゴアス帝国に着くと早速、帝国軍の総司令官をしているサネルさんに会いに城へ向かった。

 


  (ゴアス城城内。リィは司令官執務室のドアをノックする)

 


サネル:おう、入れ。

 


リィ:失礼します。サネルおじさん、お久しぶりです!

 


サネル:お? おぉ! リィか。久しぶりじゃねえか。随分と大きくなったなぁ。昔会った時はあんなガキンチョだったのに、
    今や立派なレディって感じじゃないか!

 


リィ:ふふ、ありがとうございます。

 


サネル:セイルもいなくなって大変だっただろう?

 


リィ:……はい。

 


サネル:それでさっきから気になってたんだが、隣の子は……あれか? 恋人か?
    いやぁーリィが立派に育ってくれておじさんも嬉しいぜ。

 


リィ:いえ、それはただの護衛係です。


 

レイジス:なんだろ、そこまできっぱり言われると切ないよ……。
     えっと……サネルさん。俺はレイジスって言います。
     さっきリィも言ってましたけど、護衛という形で一緒に旅をさせてもらってます。


 

サネル:ふむ、護衛……か。今時授業でも戦闘訓練をするとは聞いているが、
    軍人でもない人間にラインの護衛をさせるのは酷じゃないか?

 


レイジス:いえ、護衛は自分から言ったので……。

     ただ、ここに来る途中、ラインに襲われて……。
     小さいラインはなんとか追い払えたんですけど、すっごい大きいやつが出てきて――

 


リィ:そうなんです! そこで変な力を持った男が現れて助けてもらったんです!

 


サネル:変な力……? なんだそれは?

 


リィ:あたしも見てびっくりしたんですけど……そいつ、風を操ってラインを倒したんです。
   後、セイルのことも何か知っているようでした……。

 


サネル:なるほどな。それにしても不思議な力を使う人間か……。


 

レイジス:何か、心当たりでもあるんですか?


 

サネル:これは聞いた話なんだが、過去に数回、軍の部隊が大量のラインによって壊滅させられそうになった時があってな。
    全滅しかけたその時、突然どこからともなく現れた男が、一人で大量のラインを倒したって噂を聞いたことがある。
    見たやつらは昔死んだゴアスの軍人に似ていたって言ってたが、

    それを体験していない軍人は幻だっつって笑い飛ばしたよ。勿論俺も、な。

 


レイジス:幻だったら、その倒したラインはどうなったんですか?


 

サネル:俺にも分からねえよ。でもただの人間が一人で大量のラインを倒すなんて不可能だろ?
    幻覚を見せるラインがいたら話は別だがな。

 


レイジス:確かに……。

 


サネル:でもさっきのお前らの話を聞くと、まんざら嘘でもなさそうだな。
    これは結構重要な話かもしれん。詳しく話を聞く必要があるな……。
    そういえばリィとレイジスはこれからどうするんだ? 俺に会う以外は特に何も考えていないんだろ?

 

 

リィ:い、いえ! そんなことは……ない……こともない……んですけど(ごにょごにょ)

 


サネル:がっはっは! もっと俺を頼ってくれていいんだぜ。

    ふむ、そうだな……それじゃ数日の間だが、ここに留まるといい。

    もしかしたらお前らにとっても何か必要な情報が手に入るかもしれないしな。

 


リィ:いいんですか?

 


サネル:あぁ、大切なダチの娘が困ってるなら、助けんわけにはいかんだろ?
    ここから出てすぐ横に外来用の部屋がいくつかある。そこを適当に使え。分からなかったら城の誰かに聞きな。
    俺の名前出せばある程度のことはなんとかなる。

 


リィ:ありがとうございます!

 


サネル:さ、長旅で疲れただろ? 今日はゆっくり休みな、飯は適当に誰か使って持ってこさせてやる。

 


リィ:はい、では失礼します。


 

レイジス:あー……リィ、先に行ってて。

 


リィ:え? ……うん、わかった。先に行ってるね?

 


  (リィ、執務室から出る。暫し間)

 


サネル:どうした、残って――って大体理由は分かるんだがな。

 


レイジス:……はい。サネルさん、俺に戦い方を教えてくれませんか?


 

サネル:そう言うと思ったぜ。だが、無駄に命を捨てるもんじゃないと思うぞ? ラインはお前らも知ってるように、
    人間じゃ太刀打ちできねぇ奴だっている。俺たち軍人だって手こずるんだ。
    それに友人とはいえ、赤の他人に命を掛けるつもりなのか?

 


レイジス:それは……サネルさんの言う通りだと思います。でも手伝ってやりたいんです。
     それに、リィがどうとかじゃなくて、俺自身が何か戦わなくちゃならない気がするんです。

 


サネル:……お前さんが引き下がらないなら別に俺は止めはせん。ただ厳しいことを言うが死ぬのは自己責任だからな。
    それでもいいなら明日早朝にこの部屋に来い。一週間だけお前さんのトレーニングに付き合ってやる。
    いい訓練場所に連れて行ってやるよ。

 


レイジス:あ、ありがとうございます!


 

サネル:じゃあ明日の早朝にな。すまんな、俺もこの国の軍のトップをしてるから色々仕事があったりするんだ。
    今日はしっかり休んどけよ。


 

レイジス:はい! じゃあ……失礼します。

 


    (レイジス、部屋を出る)

 


リィ:おかえり、長かったわね。

 


レイジス:リィ!? 待っててくれたんだ?

 


リィ:まぁ、特にすることなかったしね。何話してたの?


 

レイジス:ん? あぁ、サネルさんにラインと戦える力をつけるために特訓をお願いしたんだ。


 

リィ:……そう。

 


レイジス:どうしたんだよ?

 


リィ:いや、なんか申し訳ないなって……。無理矢理連れてきて、危険な目に合わせて。

 


レイジス:どうしたんだよ、リィらしくない。……別にいいよ、そんなこと。
     そもそも強くならないとジェナ国でラインに襲われて殺されてるかもしれないしさ。
     自分で命を守るにも、いい機会だと思うんだ。


 

リィ:……うん。


 

レイジス:だから俺はサネルさんが言ってたように、情報が入るまでの一週間トレーニングに勤しむよ。

 


リィ:うん。

 


レイジス:じゃあ俺は明日早いからもう寝ようかな。

 


リィ:おやすみ、トレーニング頑張ってね。

 


レイジス:ありがとう。それじゃあ、おやすみ。

 


  (部屋の扉が閉まる。間・5秒)


 

リィ:……あたしも、頑張らなくちゃ。

 

 

レイジスM:翌朝、サネルさんによって連れていかれたのはゴアス軍専用の訓練所ではなかった。
      そこは瓦礫と、なんとも言えない臭いに満ちた場所。
      かつて十数年前にラインによって滅ぼされた王国、ランディール王国の跡地だった。

 


サネル:ここがお前のトレーニング場所だ。

 


レイジス:ここって……。


 

サネル:そう、ランディール王国。とは言っても滅んでからラインの巣窟になって以来、誰も住んでないし瓦礫だらけだがな。
    お前は今日からまるまる一週間、ここで過ごしてもらう。これがトレーニング内容だ。死にたくなければ強くなれ、レイジス。


 

レイジス:なるほど――って、えぇ!? そんな無茶な!

 

 

サネル:無茶じゃねえよ。なぁに安心しろ。この周辺にいるラインはそんなに強くない。
    帝国の兵士の訓練場所としても活用してるほどだからな。
    よっこいしょっと……。あ、これ一週間分の生活物資な。

 


レイジス:……はあ。

 


サネル:若干無茶を言ってるのは分かる。でも、俺は認めてるんだぜ。
    いくら授業でライン相手に戦闘訓練をしてるとはいえ、本物のラインを追い払えるなんてそうそうできねえ。
    ……それを信じてここに連れてきた。

 


レイジス:サネルさん……。


 

サネル:昨日は厳しく言った手前なんだがよ、お前さんにはセンスがあるんだろう。すぐに強くなる。
    その力でリィを、お前自身を守ってやってくれ。

 


レイジス:は、はい!


 

サネル:ありがとよ、レイジス。……と言うことで俺は最高司令官という立場があるから今から帝国に戻らなきゃならん。


 

レイジス:……え? 一週間俺一人なんですか?

 


サネル:まあ心配するな。時間があれば様子を見に来てやるからよ。
    それにもしかしたら……あいつに会えるかもな。


 

レイジス:……?

 


サネル:まあ、そういうことだ。健闘を祈るぜ。

 


レイジスM:そう言ってサネルさんはゴアス帝国に帰って行った。本当に、俺一人を瓦礫しかない場所に残して。

 


  (レイジスという獲物を見つけ、近づいてくる獣型のライン)


 

レイジス:……って、言った傍からラインかよ。

 


   (ライン、咆哮する)

 


レイジス:倒せなくはないんだろうけどさ……。流石に怪我するんじゃないか、これ?


 

   (ライン、さらに吠える)

 


レイジス:うへぇ、そんなに吠えるなよ。……なるほど、こんなんで死ぬようじゃ人を守れないってことかよ。
     ……やってやろうじゃんか!

 

 

 

―――――――――――――――――

<シーン2:組織の動き>


 

  (誰も知られない巨大屋敷の中、一人の男が誰かを探している)

 


ギルティア:あんの野郎……一体どこへ行きやがった……。おーい! シェリルー!


 

  (間)

 


ギルティア:おーい……はぁ。
      全く、人手が足りないからって伝令を俺に任せるんじゃねえよ、かったりぃ。
      そもそも命令下される時になんでその場にいないんだよ。
      おーい、どこだー?

 


シェリル:そんなに大声上げんでも、ちゃんと聞こえとるわ(飯食いながら)


 

ギルティア:……何してんだお前。

 


シェリル:ご飯食うてる。さっきまで別の命令で走り回ってたからお腹ぺこぺこやねん。


 

ギルティア:あぁ、だからいなかったのか。てか、のんびりお食事タイムとは呑気だな。

 


シェリル:サンドイッチ、いる?

 


ギルティア:……食う。


 

   (暫く間。お食事タイム)

 


シェリル:それでギルティア。ウチに何か用があったんやないん?


 

ギルティア:あ、そうだ。飯食ってる場合じゃねえわ。仕事だ仕事!

 


シェリル:仕事かー、場所は?


 

ギルティア:旧ランディール王国。討伐対象のラインは、王都があった場所らしい。


 

シェリル:なんでそないなところに。人が住んでへんからってランディールの廃墟をアジトにでもしてんのやろか。

 


ギルティア:かもしれねぇな。ほら、面倒くせぇが、さっさと準備していくぞ。

 


シェリル:ほーい。二人で任務ってのも最近多なってきたなぁ。


 

ギルティア:そうだな、それほどラインも増えてきたんだろうよ。あー面倒くせぇなぁ、お前がいるからサボれねえじゃねえか。

 


シェリル:あははは、せやでー。二人で熱々のデートと行こか。

 


ギルティア:ちっ……。


 

シェリル:ぶー、そんな盛大な舌打ちせんでもええやんか……。
     あ、歩くの早いって! 待って待って、一緒に行こうやー!

 

 

 

―――――――――――――――――

<シーン3:リィの特訓>


  (部屋ノック)


サネル:おう、入れ。


 

リィ:……サネルおじさん。

 


サネル:おぉ、どうした?


 

リィ:あたしもラインと戦えるようになりたいです。


 

サネル:……なぜ? レイジスを護衛に任せてるんだろ? お前は戦う必要はないだろうが?

 


リィ:あたしは本気でセイルを探したい。セイルはあたしのたった一人の家族だから……。
   だから旅の途中、自分の身は自分で守れるようにしたいんです。それにレイにばっかり負担をかけちゃ申し訳ないし……。


 

サネル:なるほどな。お前が言いたい事は分かった。
    だが……それがたとえ、お前の両親が望んでいないことでも、お前は戦う力を求めるのか?


 

リィ:え?

 


サネル:今のご時世だ。お前の両親は常々お前やセイルが戦いに巻き込まれることを懸念していた。
    セイルがこうなってしまった以上、お前まで自ら戦いの場に行くことを望んじゃあいないはずだ。

 


リィ:でも――


 

サネル:もう一度聞くぞ。両親の望みを振り切ってまで、お前は戦うのか?

 


リィ:……。


 

サネル:黙ってちゃ分からんぞ。


 

リィ:あたしは……戦いたい。セイルが何を企んでるか分からないけど、少なくともあいつと話をするまでは、
   旅を止めないつもりです。ラインと戦って傷ついても、あいつを――セイルを探す。


 

サネル:そうか……。(溜息) なら俺はせめてダチの娘が傷つかないように支援せんといかんだろうなぁ。
    ……よっこらせっと。


 

   (そういうとサネルはおもむろに机の引き出しから一つの指輪を取り出す)

 


リィ:これは……指輪?


 

サネル:魔鉱石は知っているな?

 

 

リィ:え? は、はい。……え、と……魔鉱石は文字通り魔法みたいに火や水を創りだすことができる石のことですよね。
  貴重な資源なので、魔鉱石が埋まっている鉱山は国の管理下にあるんでしたっけ?

 

サネル:そう。流石は優等生ってか? 魔鉱石を加工した商品は今じゃ日常生活の必須アイテムとして売買されている。
    暖房器具とか、お前らが乗ってきたバイクがその例だな。85点。

 

 

リィ:その魔鉱石がどうかしたんですか?

 

 

サネル:あぁ、この指輪は魔鉱石で作られている。しかも遥かに高い純度の魔鉱石で、な。

    これが何かって思うだろうが、直接みた方がいいだろうな。
 


リィM:サネルおじさんは指輪を嵌め、人差し指を立てる。すると指の先からボッと音を立てて小さな炎が生まれた。

 


リィ:……すごい。

 


サネル:魔鉱石の類は純度が高ければ高い程強い力を持つ。しかし、それに比例して人体、環境にも強い影響を及ぼす。
    ……この石は致死性はないが、やはり危険だ。だがその分ラインとも渡り合える力が使えるだろう。

 


リィ:ッ!?

 


サネル:レイジスも一週間いない。だからリィ、お前もこの一週間でこれを扱えるようになるんだ。


 

リィ:は、はい!

 


サネル:俺も訓練に付き合ってやりたいが……なんせ、立場上仕事を怠るわけにもいかんのでなぁ。

 


  (突如、部屋のドアはノックされる)

 


ココレット:サネル総司令官。ゴアス帝国南部司令官、ココレット・フランチェスカ、只今参上致しました。

 


サネル:おぉ、ココか。入ってくれ。


 

ココレット:報告の件で参りました。北部ではラインと交戦する兵士以外の人間は見受けられていないようです。
      また、ラインに関する報告ですが――


 

サネル:あー、後で聞く。それよりココ、少し頼みたいことがあってな。

 

 

ココレット:頼みですか? 私にできることであれば、ですが。

 


サネル:この子に魔鉱石の扱い方を教えてやってほしい。

 


リィ:よ、よろしくお願いします。

 

 

ココレット:魔鉱石!? こんな幼い子に何を……。

 


サネル:まあ、死んじまったダチの娘で、ちょいと色々あってな。

 


ココレット:だからといって――

 


サネル:危険なのは分かってる。でもな、そのリスクを知った上でこの子は言ってるんだ。分かってくれねえか。


 

ココレット:でも……。

 


サネル:たのむ。

 


ココレット:……分かりました。仕方がないですね。


 

サネル:すまねえな。色々迷惑をかける。じゃあこの子――リィは南部で預かってもらっていいか?

 


ココレット:分かりました。よろしくお願いしますね、リィさん。あぁ、そういえば自己紹介がまだでしたね。
      私はココレット・フランチェスカ。ゴアス帝国南部の司令官を任されています。


 

リィ;よろしくお願いします。

 


ココレット:まあそんなに気構えなくていいですよ。私のこともココって簡単に呼んでもらっても結構ですよ。


 

リィ:はい、ココさん!

 


ココレット:そうと決まれば、南部に行って魔鉱石を扱えるように練習しましょうか。
      総司令官、ラインの報告の件はいかがしますか?


 

サネル:そうだな。緊急でなければ報告書だけ貰っておこうか。

 


ココレット:分かりました。

 


サネル:あぁ、そうだココ。あいつは今日もランディール王国にいるのか?

 


ココレット:あいつ? あぁ、彼のことですね。はい、今日も研究のため、サンプル採取に向かっていますよ。

 


サネル:そうか、ありがとう。

 

 

―――――――――――――――――

<シーン3 ランディール跡地>


レイジスM:俺が旧ランディール王国に連れてこられてから4日が経ち、トレーニング期間の半分が過ぎた。
      訓練は順調で、サネルさんの言う通り、

      この辺りにいるラインたちはそんなに強くはなく、俺の実力でも退治することができた。

 


  (咆哮し襲ってくるライン)


 

レイジス:よっと! やぁっ!


 

  (攻撃を躱し、剣を振ってラインを追い払う)

 


レイジス:ふーっ……。この辺りにはもうラインはいないかな。
     戦いにも少し慣れてきたし、今日はちょっとランディール王国を探検してみようかな。(歩き始める)
     ……しっかし、一日中ラインを探し歩くってのは無茶だよなぁ、ホント。

 


  (レイジスは瓦礫が崩れる音を聞く)

 


レイジス:っ!? 瓦礫の向こうに……何か……いる?

 


  (レイジス、剣を構えながら恐る恐る瓦礫のに近寄る)

 


レイジス:……ラインか!? (レイジス、ゼノン互いに剣を向ける)

 


ゼノン:――って人間? ……なんだ、ラインじゃねぇのか、紛らわしい。こんなところで何してんだ?

 


レイジス:俺は……えーと……ラインと戦う訓練を――。

 


ゼノン:ふーん。兵士志望かなんかか?

 


レイジス:いや、旅に必要な力くらいは自分で付けようって感じで……。

 


ゼノン:はっ、物好きなもんだ。……じゃあな、死なねえように頑張れよー。

 


レイジス:ま、待ってくれよ! アンタはこんなところで何してるのさ? いや、そもそもあんた、誰?

 


ゼノン:はぁ……。俺はゼノン。普段は傭兵稼業で食ってるが、

    今はラインの研究をしてるゴアスの南部司令官のところの研究の手伝いをしてる。
    ここにいるのも研究の手伝い、ラインの血液採取だ。


 

レイジス:……血液採取って、危ないんじゃ……?

 


ゼノン:相当な。でも俺は腕には自信はある。何よりラインの研究を少しでも進めないと人間がラインに対抗できねえしな。
    まあ長話もなんだ、俺も忙しいし、あんたも訓練もあるんだろ? じゃあな。

 


レイジス:い、いや、ちょっと待って!

 


ゼノン:なんだよ、俺は忙しいんだ。

 


レイジス:俺にも手伝わせてくれないか?

 


ゼノン:なんで素人のお前が。


 

レイジス:いや、深い意味はなくて……その一人じゃ心細くて……。
     ゼノン……さん、腕が立つみたいだし、参考になるかなーなんて、はは。

 


ゼノン:あー、わかったわかった。ったく、仕方ねえなぁ。少しの間だけだぜ?
    あと、ゼノンでいい。あんた、敬語とか苦手そうだしな。


 

レイジス:あ、ありがとう!


 

ゼノン:んで、あんた、名前は。

 


レイジス:れ、レイジスだ。


 

ゼノン:よろしくな、レイジス。

 

 

―――――――――――――――――

【シーン4 リィの特訓】

 

リィM:ゴアス帝国南部、南部軍詰所にてあたしは、南部司令官のココレットさんから魔鉱石の扱い方の指導を受けることになった。
    魔鉱石の指輪は炎や電気を呼び起こすことが可能なため、石壁で囲まれた訓練所で修行を行う。

 


ココレット:魔鉱石を上手く扱うには、圧倒的な集中力とイメージをする力です。
      自分が出そうとしている技……そうですね、魔法とでも言いましょうか。
      その魔法を出す際、イメージが出来ていれば、その分魔法の威力もしっかりされますし、
      体力の消耗も最低限で済みます。


 

リィ:……イメージ……。


 

ココレット:そうです。試しに炎を出してみましょうか。リィさん、手の平に炎を作ってみてください。


 

リィ:手のひらに炎、炎……。 (小さな炎)

 


ココレット:そう、その調子。でも、これは小手調べ。言わば練習です。
      では、今からこれより大きな炎をこの壁に向かって放ってみてください。


 

リィ:大きい炎……。はぁっ!

 


リィM:先ほどより大きな炎が巻き起こる。

    しかし、あたし自身が思い描いていた火力ではなく、さらには想像以上にあたしの体力を蝕む。

 


リィ:うっ……頭が……痛い。


 

ココレット:気を付けて下さい。集中とイメージが出来ていなければこうなります。
      下手すれば命に関わることにもなります。

 


リィ:……命に……。      

 


ココレット:止めるなら今のうちです。あなたにどんな目的があるか知りませんが、
      命をかけるほどではないはずです。

 


リィ:……続けます。あたしは、兄を探すためにも強くならなきゃならないんです。

 


ココレット:兄を……。

 


リィ:やぁああああ!(高火力の炎)

 


ココレット:……うん、いい火力ですね。合格です。

 


リィ:くっ、うぅ……。(片膝をつく)

 


ココレット:たった3回の魔法ですらこれだけ体力を消耗するんです。
      取りあえず最初はこんなものでしょう。少し休憩してから、再開するとしましょうか。

 


   (間。南部司令官執務室に戻り、ココレットはお茶を入れリィに渡す。)


 

ココレット:安いお茶ですが、どうぞ。


 

リィ:ありがとうございます。

 

 

ココレット:リィさん、もしよかったら教えてくれませんか? どうしてここまでして戦う力を身に着けたいのか。

 

 

リィ:……。

 

 

ココレット:あぁ、無理に言わなくてもいいですよ。少し気になっただけですので。

 

 

リィ:……いなくなった兄を探しているんです。
 

 

ココレット:お兄さんを?


 

リィ:……はい。

 


ココレット:お兄さんは行先をご両親には伝えていないのですか?

 


リィ:パパとママ……、いえ、両親はあたしが小さい頃にラインに殺されました。
   その後兄と一緒に暮らしてきたんですが……何も告げず急に……。

 


ココレット:そうですか……。失礼なことを聞いてしまいましたね、申し訳ありません。
      ……お兄さんがどこにいるか見当は?

 


リィ:いえ……。ただ、生きていることは確かなんです。つい最近の新聞の記事に兄が写っていたので。(新聞の切れ端を見せる)

 


ココレット:これは……。珍しい服装ですね。

 


リィ:ゴアス帝国に来る前に同じ服を来た男と会いました。彼らはラインと戦ってると言ってたので、ラインが出るところに行けば、
   もしかしたら兄と会えることができるんじゃないかって……。


 

ココレット:……確かに、その方法でしたらお兄さんに会えるかもしれません。ただ、その道はとても険しく、危険なものです。
      理解していますか?


 

リィ:はい。


 

ココレット:そこまで覚悟しているなら私は止めません。私ができることであれば、惜しまず協力しましょう。


 

リィ:あ、ありがとうございます! あ……ココさん、一つ聞いてもいいですか?


 

ココレット:なんでしょう?


 

リィ:ココさんはどうして司令官になったんですか?


 

ココレット:……女の私が軍の司令官になることに疑問を持った人は多くいました。
      それでも私は司令官になって、人間がラインに脅かされないような世界を作りたかった。


 

リィ:……。


 

ココレット:私もリィさんと同じで兄がいました。司令官になる前は兄と二人で孤児院を経営していました。
      兄と共にランディール王国の滅亡によって行き場を失った子供たちを引き取ってはお世話をしていたんです。
      でも、ある時、兄は徴兵によって隣国との戦争に赴いたところ、突如現れたラインによって殺されてしまいました。

 


リィ:……すみません。


 

ココレット:別に構いませんよ。だからこそ、リィさんがお兄さんを探す気持ちが分かるんです。
      でも、無理してあなたが倒れてしまったら、それこそお兄さんが悲しんでしまいます。
      これだけは覚えていてください。


 

リィ:はい。


 

ココレット:さて、長く話してしまいましたね。さぁ、練習を再開しましょうか。

 

 

 

―――――――――――――――――
<シーン5:探索するレイジスとゼノン現れる謎のライン>

 


ゼノン:……ここは王都付近だな。


 

レイジス:なんでそんなことが分かるのさ?


 

ゼノン:んーなんとなく。強いて言うなら家の建ち方だな。あそこにある瓦礫、大分古びているが他と比べて質が良いだろ?
    昔はあそこに王宮が建ってたんだろうな。んでもって王宮を囲むように民家が建っていたんだろう。


 

レイジス:なるほど、俺には瓦礫の質感とか分からないなぁ。


 

ゼノン:はっはっは、そりゃそうだろうよ。俺はここで仕事して長いからなぁ。目が肥えてるんだよ、目が。


 

レイジス:流石だなーセンパイはー。


 

ゼノン:はっはっは、なんだその言い方はー、もっと敬えー。


 

レイジス:ははー!


 

ゼノン:あはは、はは――ん?


 

レイジス:どうかしたのか?


 

ゼノン:しっ! 耳を澄ませてみろ。何か聞こえないか?


 

レイジス:……これは……誰かが争ってる音?


 

ゼノン:みたいだな。こんなところで人がいるのはおかしいな。同業者か、物珍しさに忍び込んできた馬鹿か……
    それとも……。

 


レイジス:それとも?

 


ゼノン:今だ見つかってないランディール王国の財宝狙いの大馬鹿野郎。

    まっ、危険と報酬が釣り合わないだろうからそれはないだろうがな。
    取りあえず、争ってるってことはラインかなんかに襲われてるってことだ。行くぞ、レイジス!

 


レイジス:あぁ!


 

レイジスM:戦ってる音を頼りに向かった先にいたのは、男が二人、剣を交えていた。
      一人は怪しい衣服を身にまとった男。ゴアスに来る前に合ったエレアードや、
      新聞に写っていたセイルさんが着ていた服と似ている。
      もう一人は筋骨隆々な大男。ただ一つ気になるのは額から鋭い角が一本生えていることだ。
      それはまるで、おとぎ話に出てくる鬼のようだった。

 


ギルティア:ちっ!


 

ブロウ:おいおい、こんなもんかよ!? ギルティアさんよぉ!? 喧嘩吹っかけてきた割には弱いじゃねえか!
    とんだ肩すかしを食らったぜ。


 

ギルティア:好き放題言いやがって……誰が弱いって?


 

レイジスM:ギルティアと呼ばれた眼帯の男は短刀を振るった。
      瞬間、彼の武器から一閃、水が迸り、鬼のような男に襲いにかかる。
      エレアードが風を操ったの同じように、このギルティアという男は水を操るのだろうか。


 

ブロウ:くぅ、痛ぇ。やればできるじゃねえの。他に隠し玉は無いのか?


 

ギルティア:おいおい、頑丈な体だなぁ、羨ましいぜ。


 

ブロウ:ラインは頑丈なんだよ。んで、あんのか? ねえのか、どっちだ。


 

ギルティア:無いわけねぇだろ!

 


ブロウ:そうこなくっちゃなぁ! さぁ、来い!


 

シェリル:はいはーい、そこまでや。


 

ギルティア:シェリル!?


 

   (突如現れた男に、警戒して距離を開けるブロウ)

 


ブロウ:新手か……。


 

シェリル:お楽しみのところ悪いねんけど、無駄な戦闘で時間を費やすわけにはいかんのや。


 

ブロウ:無駄だと? 無駄かどうかは――


 

   (ブロウが前に出ようとした瞬間、彼の足もとに短刀が刺さる。)

 


ブロウ:ッ!? てめぇ、いつナイフを投げやがった……!

 


シェリル:さあ、行くで、ギルティア。

 


ギルティア:ちっ、仕方ねぇなあ。……と言うわけだ、ブロウさんよ。勝負はお預けだ。またやりあおうや。


 

  (去る。暫く間)

 


ブロウ:くそっ! くそっ、くそっ、くそぉ! つまらねえ終わらせ方しやがって!

 

    
ゼノン:おい、レイジス、気づかれないうちに行くぞ。


 

レイジス:いいのか?

 


ゼノン:あんな戦いに巻き込まれたら命がいくつあっても足りないだろ……。全く、なんだあいつら。


 

レイジス:分からない。でも前にあの男と同じ服を着た奴にあったことがある。
     その時も変な力を使ってラインを倒してた。


 

ゼノン:じゃあ、あの角生えたやつは?


 

レイジス:俺に聞くなよ。でもさっきの奴らラインって言ってた……。
     そもそもラインって喋るのか……?

 


ゼノン:知るかよ。取りあえず俺たちが話しても埒があかねえ。俺は戻って報告する。レイジス、お前はどうする?


 

レイジス:ちょうど一週間目だし、俺も戻るよ。


 

ゼノン:よし、そうと決まれば――

 


ブロウ:よぉ、ガキ共。どこ行こうってんだ?


 

レイジス:なっ……!?


 

ゼノン:ばれてたのか!?


 

ブロウ:俺は鼻が利くからな。「壊れた時計」どもと戦ってた時から気づいていたぜー。まあ小物だから放っておいたんだがな。

 


レイジス:壊れた時計?


 

ブロウ:さっきの奴らだよ。なんだ、知らねえのか。
    まあそんなことはどうでもいい。俺は今機嫌が悪いんだ、少しくらい楽しませてくれるんだろ?
    野郎ども! このガキ共と遊んでやれ!

 


  (ブロウの一声でラインがぞろぞろと集まってくる)

 


レイジス:うわ……なんて数だ。


 

 

ブロウ:さぁて、人間様の強さを見せてくれよ。そして俺を楽しませてくれ!(指を鳴らす)


 

ゼノン:……どうやらこいつらをどうにかしないと生きて帰れないらしいな。


 

レイジス:勘弁してくれよ。


 

ゼノン:泣き言言うなって、奴さん待っちゃくれないぜ。……来るぞ!


 

―――――――――――――――――

<シーン6 リィの成長>


リィ:やぁああ!(電気ビリビリ)……ふー。

 


ココレット:お見事、大分慣れてきましたね。

 


リィ:弱い魔法だったらある程度使いこなせるようになりました。
   ……でも、少し威力の強い魔法となると、まだ1、2発が限界です。


 

ココレット:そのようですね。でも、この短期間でこんなに上達すれば十分です。
      後は何度も使うことによって体を慣らし、打つ魔法をより緻密にイメージできるようにすることが今後の課題ですね。


 

リィ:分かりました!


 

ココレット:では、もう少し訓練を――(扉ノックする音)
      あら、誰でしょう……。(扉を開ける)
      どうかされましたか? はい。はい。はい。……え? 分かりました。追って指示を出します。(扉が閉まる音)


 

リィ:どうしたんですか?


 

ココレット:旧ランディール領にて、凶悪なラインが暴れていると情報が入りました。


 

リィ:え!? あそこにはレイが……。


 

ココレット:お友達ですか?


 

リィ:はい……。助けに行かないと。


 

ココレット:私も行きましょう。ランディールに調査をしに行ってるあの子も心配です。


 

リィ:あの子……?


 

ココレット:話は向かいながらしましょう。詰所の倉庫に私のバイクがあります。

      私は皆に指示を出してからそちらに向かいますので、
      リィさんは準備して待っていてください。

 

 

リィ:は、はい!

 

 

 

―――――――――――――――――
<シーン7:壊れた組織、戦闘後>

 


  (平野を歩くギルティアとシェリル)

 


ギルティア:おい、シェリル……少し待ってくれ。


 

シェリル:ん? 別にええけど。(ギルティア倒れる)――ってちょっと! 大丈夫か!?


 

ギルティア:あーいたたたた。あのラインめ、一撃が重いんだよ、ちくしょう。体中が軋んでやがる。


 

シェリル:ごめんな、はよ応援に向かえば良かったわ。


 

ギルティア:本当だよ。……でも、二人でも苦戦する相手だろうな。なんせ相手は怪力で有名な鬼だ。


 

シェリル:てかラインって人の言葉喋るんやな。ちょっと驚いたわ。


 

ギルティア:俺もだよ。そんでもって他のラインより圧倒的に強い。こりゃ報告もんだな。


 

シェリル:せやな。取りあえず立てるか? なんならウチが負ぶってやってもええで。

 


ギルティア:はぁー、お前がもっといい女だったら喜んで負ぶってもらったんだがな。


 

シェリル:なにをー! ウチええ女やで!


 

ギルティア:そうだないい女だな。まあ冗談はこれくらいにして行くぞ。
      早くベッドでゆっくりしたいぜ。

 
 

シェリル:はいよー。

 

 

 

―――――――――――――――――

<シーン8:VSブロウ>


  (戦闘音+獣の声が響く)


ブロウ:はぁー、全く、そもそも俺たちラインに刃向うってのが無謀な話だ。
    俺たちはお前ら人間より、力も強ええし大きさも違うからな。
    デケェラインだったらそこらの家より大きい奴だっていやがる。
    そんな奴と戦うとなると、お前らは虫みてぇなもんだな、一瞬でペチャンコ、お陀仏だ。
    人間ってのはどいつもこいつも――

 


ゼノン:はぁっ……はぁっ……。ゴチャゴチャ言ってねえで、ちゃんとこっち見ろや。(疲れた感じで)

 


レイジス:はぁっ……はぁっ……。意外と何とかなるもんだな。俺もうヘトヘトだけど。


 

ゼノン:これだけの相手に生き残れたんだ。大した成長だぜ。


 

ブロウ:なるほどな、ただのガキだと侮ってたぜ。兵士かなんかか?


 

レイジス:ただの学生だ!


 

ブロウ:そーかそーか、最近のガキはある程度ラインと戦える力を持ってるのか。
    それともさっきのは火事場の馬鹿力ってやつか?
    だが、馬鹿力なら――こっちの十八番なんだぜ!?


 

  (ブロウは近くにあった瓦礫の山に向けて拳をぶつける。すると瓦礫の山は大きな音と砂埃を立てて崩れ落ちた)


 

ゼノン:な、なんて力だ……。瓦礫が……砕け散りやがった……。


 

ブロウ:鬼。名前くらい聞いたことあんだろ。それがこのブロウ様だって話だ! それじゃあ行くぜ!?
    

 

   (リィが放つ火炎がレイジスたちとブロウを遮る)

 


レイジス:な、なんだ!?

 


ココレット:そこまでです。

 


リィ:レイ、助けに来たよ!


 

レイジス:リィ!? なんでここに。


 

ゼノン:先生!?

 


ココレット:話は後です。今は目の前の敵に集中してください。

 


レイジス:は、はい!

 


ブロウ:ひい、ふう、みい……四人で俺を倒すつもりか?


 

ココレット:多勢に無勢。それでも戦いますか?

 


ブロウ:俺をなめてんのか? 大人数でも所詮女子供、後れを取る俺じゃねえ。
    ……と言いてぇところだが、さっきから色々茶々入れられてたら興が覚めちまったぜ。帰るわ。

 


レイジス:ま、待て――むぐっ!

 


ゼノン:放っておけ。今のままじゃ到底敵わねえのは分かるだろうが。

 


ブロウ:そう言う事だ。命拾いしたな、小僧。はぁーっはっはっは!(ブロウ去る)

 


ココレット:……行ったようですね。

 


リィ:何なの? さっきの奴。


 

レイジス:ライン、みたい。


 

リィ:ライン!? ラインって人の形してるの!?


 

ゼノン:先生、その事も踏まえて報告すべきことがたくさんあります。


 

ココレット:そのようですね。こんなところで話すより、一度帝国に戻りましょうか。


 

  (間。歩く音だけが響く)


 

ゼノン:待て。人の気配がする。

 


レイジス:えぇ!? まだいんのかよ……。


 

  (ゼノン、剣を構えて、瓦礫の山に近づく)


 

ゼノン:この瓦礫の裏にいるな……。誰だ、出てこい!


 

アリス:わわわ、剣を収めてください! 私は怪しい者じゃ――って、ありゃ?
    リィちゃんとレイジス君じゃないですか。奇遇ですねぇ。


 

リィ:アリス!? どうしてここに!?


 

アリス:いやー、一度ランディール王国の跡地を観光してみたくてですね。
    せっかくの休みなのでボランティアのついでに来てみた訳です。


 

ココレット:お友達ですか?

 


レイジス:はい、俺とリィの同級生のアリスって子です。

 


ココレット:なるほど、そうだったのですね。
      でもここは危険です。観光で来るのは結構ですが、アリスさんもあまり長居はしないほうがいいですよ。


 

アリス:はい、ご心配ありがとうございます! では、リィちゃん、レイジス君、学校で会いましょう。

 


レイジス:アリスって行動力あるよね。

 


リィ:うん。あたしたちも負けちゃいられないね。頑張ってセイルを探そう!

 


レイジス:そうだな!


 

  (暫し間)


 

ゼノン:レイジス。


 

レイジス:どうしたんだよ、ゼノン。


 

ゼノン:あのアリスって子何もんだ?


 

レイジス:……どう言う事?


 

ゼノン:こんな危ない所、下手すりゃ死ぬ可能性だってある場所に、一人で来るのはおかしいだろ。
    いくら観光っつってもそれくらいの常識はあるはずだ。


 

レイジス:まさか、アリスの事疑ってる?

 


ゼノン:……。

 


レイジス:アリスは今まで学園で一緒に過ごしてきたし、特に怪しいところはなかったよ。

 


ゼノン:……そうか。

 


ココレット:皆さん、行きますよー!

 


レイジス:あ、はい! 今行きますー!

 


ゼノン:……俺の疑いすぎか?

 


  (間。ゴアス帝国南部司令官執務室にて)

 


サネル:人の姿をし、俺たち人間の言葉を解するライン……。そしてラインと敵対する組織、「壊れた時計」か……。
    まだ俺たちには分からない事がたくさんあるみたいだな。


 

リィ:もしかして、セイルもその「壊れた時計」の一人なのかな?


 

レイジス:かもしれない。新聞の記事に映っていたセイルさんの服装も、その組織の奴らが着てたものと似てたし……。

 


リィ:……あの馬鹿兄貴、見つけたら問いただしてやる!

 


サネル:取りあえず、この事は後で各地域の司令官を集めて会議するとしよう。
    人語を理解する――つまりただの獣だと思っていたラインに知能があるとすれば、対応も変わるからな。
    ココ、各地域の司令官に召集令を出しておいてくれ。


 

ココレット:分かりました。

 


リィ:ところで、セイルたちに関して何かわかりましたか?


 

サネル:セイルかどうかは分からねえが、怪しい恰好をした男が、ここから北にある「オルテア小国」に向かったって情報があった。
    それが例の組織かどうかは分からないが……。行ってみて確認するのもありじゃないか?

 


リィ:そうですね、行ってみます。

 


サネル:道は分かるのか?

 


リィ:それは……。

 


ココレット:だったら、ゼノン、あなたが道案内をしてあげてはいかがですか?

 


ゼノン:お、俺ですか!?


 

ココレット:あなたは私のところに来る前は各国を転々としていたと言っていましたし。

 


ゼノン:それはそうですが……。ラインの研究が――

 


ココレット:私の手伝いは気にしないでください。それより今、ラインに関して新たな事実が判明したからこそ、
      改めて世界を見て回る必要があると思います。
      ……というのは建前で、若いあなたにはリィさん、レイジス君と一緒に旅をして、

      まだまだ色んな物を見てきてほしいのですよ。

 


ゼノン:……そういうことなら。分かりました、オルテア小国の案内、俺が引き受けます。

 


サネル:すまねぇな。
    さて、リィ、レイジス、ゼノン。今回はお前たちのお陰でラインに関する有力な情報を手に入れることができた。
    お礼としてゴアス帝国の特上のメシをご馳走してやろう。


 

レイジス:メシ! やったぁ! もうまずい非常食は懲り懲りだったんだ!

 


サネル:なんだレイジス、俺が用意してやったものにケチつけんのか?


 

レイジス:あ、いや、そうじゃなくて――

 


サネル:はっはっは、冗談だ。はっはっはっは!

 


リィM:言葉を話すライン。組織「壊れた時計」。
    まだ旅をしてあまり日が経っていないけれど、普通に生活していたら知らないままだっただろう。
    セイルは本当に壊れた時計の一員なのかな? ラインについてどれほどまで知っているんだろう?
    ゴアス帝国の料理を食べながら、あたしはぐるぐるとそんなことを考えていた。


 

 

 

to be continued...

 

bottom of page