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『Links』 ―第7話 とある青年の過去―

 

【登場人物】

 

○リィ・ティアス(♀)
 ジェナ・リースト共和国に住む17歳の女の子。両親は幼い頃にラインに殺され、その後兄のセイルは失踪。
 それ以降悲しみに暮れながらもなんとか立ち直ることができた強い心を持つ。両親の遺産で今も一人で暮らしている。
 性格はしっかりしており、学園内でも優秀な生徒として評価されているが、少し口が悪い。

 

○レイジス・アルヴィエル(♂)
 リィと同じく同国に住む17歳の青年。明るく元気な男。リィとは学園で知り合った仲。
 よく一緒にいるためにリィとその友人アリスに振り回される苦労人。ひょんなことでリィと共に旅に出ることになる。

 

〇ゼノン・ランディール(♂)
 ゴアス帝国南部司令官のココレットの手伝いで旧ランディール王国でラインの研究活動をしていた男。20代前半。
 小さい頃から傭兵で暮らしていたため、腕っぷしは強く、性格、口調も荒い。

 

〇エストリア・シーラー(♀)
 かつてココレットが経営していた孤児院の子供。11歳。現在は当てもなく世界中を旅をしている。
 元気で活発、お転婆な女の子。銃を用いて魔鉱石のエネルギーを放出してラインと戦う。
 
○ココレット・フランチェスカ(♀)
 ゴアス帝国の南部司令官。20代。かつては孤児院を経営しており、行き場を無くした孤児を引き取っては世話をしていた。
 そのためか、母性的なところがあり、口調も司令官らしからぬ柔らかさがある。

 

〇アラン・シーラー(♂)
 組織「壊れた時計」2時の男。外見年齢は28歳程度。
 冷酷、無情のように見える彼だが、かつては亡きランディール王国の宰相を務め、王の片腕として働いていた。
 

――――――――――――――――
【用語】

ライン:つまるところ怪物。モンスター。おとぎ話、伝説と呼ばれた生物のことを指す。
    現在、そのラインが世界各国に出没し、人間に害を与えている。
    イントネーションはフルーツの「パイン」と同じ。

 

魔鉱石:特殊なエネルギーを含んだ鉱物。この世界では照明器具の光や暖房器具の熱などを作るために、この石を埋め込み、
    その力を媒介としている。
    また、魔鉱石の純度によっては強大な力を含んでいるが、扱うには体にとてつもなく負荷がかかる。

――――――――――――――――

【役配分】

 

●被り無
(♀)リィ
(♂)レイジス
(♂)ゼノン
(♀)エストリア
(♀)ココレット
(♂)アラン
(♂)兵士

♂4 ♀3 計7人


●被り有
(♀)リィ
(♂)レイジス
(♂)ゼノン
(♀)エストリア
(♀)ココレット
(♂)アラン + 兵士

♂3 ♀3 計6人
―――――――――――――――――

≪シーン1:再び南部へ≫
     
≪場面説明:ラインと人間が共生する島から戻り、旅の疲れと戦いの傷を癒すために、

       暫くゴアス帝国で情報収集をすることにしたリィたち一行。
       リィの友人であり、またラインでもあるアリスは、ライン側の情報を仕入れると言ってリィたちと別れ、別行動をする。
       残ったリィ、レイジス、ゼノンは組織「壊れた時計」やラインについての情報を得るためにゴアス南部へと足を運んだ。≫

 


ゼノン:ゴアス南部に来るのも久しぶりだな。

 


リィ:あたしは、魔鉱石の扱い方の練習をしに来て以来かな。そう言えば、レイは初めてよね。

 


レイジス:うん。やっぱり海沿いってこともあって潮風が気持ちいいな。
     同じ港町って言ってもオルテア小国とは雰囲気が違うし飽きないよ。

 


ゼノン:はっはっは、そりゃ国が違えば街並みも違うさ。……ふう。(溜息)

 


レイジス:どうしたんだよ。眉間に皺なんて寄せてさ。

 


ゼノン:いや……まさかお前らと一緒に、ラインと人間が住める世界を作るために、

    命を賭けて戦うことになるとは思ってもみなかったぜ。

 

 

リィ:ふふ、後悔してる、ゼノン?


 

ゼノン:兵士でもないのにスゲェ数のラインと戦うわ、「壊れた時計」っていう変な力を持った組織とも戦うわで、
    死にそうになってるからなぁ。……でも。


 

レイジス:でも?

 


ゼノン:後悔はしてない。真実を知らねぇままでいるなんて、俺は嫌だからな。

 


リィ:そっか。よかった。


 

ゼノン:何より俺よか若いお前らが気張ってんだ。俺だけ逃げるわけにはいかねぇだろ。


 

レイジス:なんだよ、格好つけてよ。


 

ゼノン:たまには恰好つけさせろって。


 

レイジス:へへへ。


 

リィ:もうすぐ南部軍の基地だね。ココさん、元気にしてるといいな。

 


ゼノン:南部を離れて一か月も経ってないだろ。心配性だな、リィちゃんは。

 


リィ:でも、いつラインが襲ってくるか分からない世の中だし。

 


ゼノン:ゴアス南部は海に面してるから、他の地域と比べてラインが侵入してくる頻度は少ないんだ。

 


レイジス:へぇ、そうだったんだ。

 


ゼノン:そーゆーこと。しっかり社会の勉強するんだな、学生さん。――あ、しまった。

 


リィ:どうしたの?

 


ゼノン:先生に差し入れ買ってくるの忘れてたわ。

 


レイジス:差し入れ?

 


ゼノン:あぁ、俺は長い間、ココレット先生のところで世話になっていたからな。
    せっかく旅に出てるんだから何かしら土産を送りたいわけよ。

 


リィ:それだったら、あたしたちも着いて行くわよ。

 


ゼノン:いや、いいよ。お前らは先に行ってろ。先生に色々状況説明しなきゃなんねえだろ。お前らはそっち頼むわ。

 


リィ:……そっか。分かった。先に行ってるわね。

 


ゼノン:おーう。


 

     ≪間≫

 


リィM:南部軍事基地に到着し、あたしたちは司令官執務室の扉をノックする。すると「どうぞ」と落ち着いた声が返ってきた。
    中に入ると南部軍司令官のココレットさんは何か書類を書いていたらしく、ペンを置いてあたしたちを笑顔で歓迎してくれた。

 


ココレット:お久しぶりです皆さん。サネル総司令官から聞きましたよ。
      ラインや「壊れた時計」との戦闘、お疲れ様でした。無事に帰ってきてくれて嬉しいですよ。


 

リィ:ありがとうございます。ココさんも無事で良かったです。


 

ココレット:ふふ。ご心配ありがとうございます。でも、私も軍人です。皆さんが心配せずとも戦いの心得くらいありますよ。
      ……それはそうとして、旅の成果は得られましたか?

 


リィ:はい。ラインについても、「壊れた時計」についても収穫がありました。
   それに兄のセイルとは……つい先日、ゴアスに戻ってきた時に会えました。


 

ココレット:この国でですか? それでお兄さんは……。

 


リィ:はい。セイルは「壊れた時計」の一員でした。


 

ココレット:……やはりそうでしたか。リィさん、大丈夫ですか?

 


リィ:えぇ、大丈夫です。彼は暫く戻ってこれないと言っていましたが……。
   それでも生きてることが分かっただけでも安心しました。


 

ココレット:そうですか。……旅は、どうするおつもりですか? お兄さんを探す旅だったんですよね?

 


リィ:はい。セイルとは会えましたけど、旅は続けようと思います。


 

ココレット:……何か考えがあるみたいですね。無理にとは聞きませんが、

      一人で抱えきれなくなったら私で良ければ話を聞きますよ。

 


リィ:はい! 今はまだ話せませんが……必ず。


 

     ≪間。突然、南部兵士が慌てて司令官室に入ってくる(SE:足音FI+扉を開ける音)≫

 


兵士:し、司令官!


 

ココレット:何事ですか。

 


兵士:ラインが南部領域内に侵入してきました!


 

ココレット:なんですって!? 警備は一体何を!? ――いえ、まずは状況報告をお願いします。

 


兵士:はっ! ラインの数は二十体前後。現在、南部国境門付近で我ら南部兵と交戦中です。

 


ココレット:なるほど……困りましたね。

 


リィ:どうかしたんですか?

 


ココレット:実は最近、頻繁にラインが侵入してくる東部地域に兵を派遣しておりましてね。あまり戦力に余裕がないのが現状です。
      短期間とはいえ、まさか兵がいない時に攻めてくるとは……。

      まさかラインは南部が兵を派遣することを知って襲ってきたのでしょうか……。

 

 

兵士:司令官、いかがいたしましょうか。

 


ココレット:取りあえず近場の詰所と……そうですね、念のために西部軍にも援軍の要請をお願いします。
      後、私も前線に向かって指揮を執りましょう。

 


兵士:分かりました! では――

 


    ≪兵士、執務室から出ていく(SE:足音FO)≫


 

レイジス:ココレットさん、俺たちも手伝います!

 


ココレット:子供のあなたたちに頼むのは心苦しいですが、今ではあなたたちもラインと戦える貴重な戦力。
      そして今は少しでも人手が欲しいところ。ご協力をお願いしてもいいですか?

 


リィ:任せてください! ココさんにはお世話になってますから、恩返しをさせてください!

 


ココレット:……すみません、ご迷惑をおかけします。

 


     ≪間≫

 


リィM:ココレットさんと共に、あたしたちは急いで基地から出た。
    しかし、それを待っていたかのように、ラインが数匹、飛び出してきてあたしたちに襲い掛かってくる。

 


ココレット:くっ! こんなところにもラインが!?

 


レイジス:まさか、司令官のココレットさんが出て来ると分かって!?

 


リィ:ココさん! この場所はあたしたちに任せてください。ココさんは早く皆さんのところへ!
   あたしたちも終わり次第向かいます!

 


ココレット:……分かりました。この場はお願いします!

 


レイジス:了解っす!

 


     ≪間≫


 

リィ:これくらいなら簡単に退治できそうね。

 


レイジス:だな。さてと、一丁頑張りますか! リィ、援護頼んだ!

 


リィ:任せて!

 


レイジス:いっくぜぇええええああ!!!

 

 

    ≪レイジス、ラインの群れに斬り込む(SE:獣の声+斬撃音)≫

 

 

リィM:旅で戦闘経験を積み重ねてきたおかげか、難なくラインたちを撃退する。
    しかし、追い払えば追い払う程、ラインは仲間を呼んでこちらに対抗してくる。

 


レイジス:あーもう! 次から次から現れやがって! キリがないっての!

 


     ≪間≫

 


リィM:ちょうどその時だった。あたしたちの間を縫って、一人の男が前に出てきた。
    男は見慣れた服を着ていて、その手には一本の槍が握りしめられている。


 

アラン:退いてろ。

 


リィ:……え? あ、あんた、一体どこから……?


 

アラン:……ふっ!(SE:槍を振る)

 


    ≪アランは槍を一閃する。周りにいたラインは弾き飛ばされ、動かなくなる。≫

 


リィ:う、嘘……? あの数のラインを一瞬で……。


 

アラン:他愛の無い。


 

レイジス:あー! あんたはあの村を襲った「壊れた時計」!


 

アラン:誰かと思えばあの時の子供か。なんだ、この間の復讐でもするつもりか?
    俺としては戦うつもりは無いが、お前たちが戦うつもりなら全力で相手をしてやろう。

 


リィ:……なるほどね。じゃあ、こっちが手を出さなければ、あんたは攻撃してこないのね。


 

アラン:そうだな。俺の任務の邪魔をしない限り、わざわざ人間と戦う理由など無いからな。


 

リィ:そ。分かったわ。レイ、行こう。


 

レイジス:リィ!? 戦わないのかよ!? こいつは――


 

リィ:この男の強さを見たでしょ? それに、あの村で戦ったときも一瞬で負けちゃったじゃない。
   悔しいけど、今のあたしたちじゃ到底太刀打ちできない。
   相手が戦う意思がないなら、今は……抑えよう。


 

レイジス:くっ……分かったよ。


 

リィ:それで、あんたたち「壊れた時計」が来てるってことは強いラインがいるのね。

 


アラン:答える義理はない。じゃあな――

 


リィ:ちょ、待ちなさいよ!

 


ゼノン:なんだなんだ、俺がいない間になんか凄いことになってんじゃねえか。

 


レイジス:ゼノン……。

 


アラン:……ほう、お前は。


 

ゼノン:誰だそいつ――って、テメェはッ! まさか、アランか!!!

 


     ≪ゼノン、アランの胸倉を掴む(SE:布擦れ)≫

 


リィ:ゼ、ゼノン!!!?


 

アラン:これは、久しぶりに見る顔だ。いきなり掴みかかるとは、随分な挨拶だな。


 

ゼノン:どの面下げて俺の前に現れた! この裏切り者がッ!


 

リィ:え、何!? この男と知り合いなの、ゼノン? それに、裏切り者って……。


 

アラン:お前たちはこの男が、ゼノンが何者かも知らず、一緒に旅をしていたのか?

 


レイジス:ゼノンがどんな奴でも、俺たちの仲間だ!


 

アラン:くはははは! こんな子供に甘やかされるとはな、ゼノン。
    いや、ゼノン・ランディール様とでも言った方がいいか?


 

レイジス:ゼノン――(リィのセリフと続けるように)

 


リィ:ランディール? ランディールって……まさか。

 


アラン:そうだ。ランディール王家、ゼノン第二王子。お前たちが共に旅をしていた男は、
    今は亡きランディール王国の国王レヴィン・ランディールの弟君だ。

 


レイジス:ゼノンが王子様だったなんて……。

 


リィ:本当なの?

 


ゼノン:……あぁ。まぁ滅んじまった国だ。王族の血なんて、もはや関係ないがな。

 


リィ:それで、この男は……?

 


ゼノン:……アラン・シーラー。ランディール王国の宰相で、兄貴の右腕であり、親友だった。
    それなのにこいつは……こいつはッ!


 

アラン:……。

 


ゼノン:こいつは国が滅んだ時、兄貴を見殺しにして逃げたんだ。
    自分の命のために国を……兄貴を……国王を捨てた裏切り者だ!!!


 

アラン:……ならばどうする? 俺を殺すか?


 

ゼノン:テメェを殺したところで全てが戻るわけじゃねえが……。
    このまま放っておいたら兄貴に申し訳が立たねえんだよ!

 


アラン:ふん、戦うつもりなど無かったのだがな。いいだろう、掛かってくるがいい。

 


ゼノン:うぉおおぁあああああ!

 


     ≪ゼノンは抜剣し、アランに斬りかかる。しかし、いとも簡単にその攻撃を防がれる(SE:剣を振る+鍔迫り合い)≫

 


アラン:ふっ、なんだその攻撃は! 遅い、遅すぎるぞ!


 

     (SE:剣弾き)

 


ゼノン:くっ……。


 

アラン:よくその強さで生き抜いてきたな! お前の兄はもっと強かったぞ!

 


ゼノン:黙れえぇええええええ!


 

リィ:ゼノン!

 


ゼノン:リィちゃん、手ぇ出すんじゃねえ! こいつは……俺が殺す!

 


アラン:その言葉、俺に攻撃を当ててから言ってみるんだな! ――はぁああッ!(SE:剣弾き+剣が地面に落ちる音)

 


レイジス:あっ、剣が!

 


ゼノン:くっ! ぅおっらぁあああ!

 


     ≪ゼノン、捨て身で殴りかかる。その拳は見事にアランの頬を捕える(SE:殴打)≫


 

アラン:ぐぅっ! ……捨て身で殴ってきたか。面白い!

 


     ≪アラン、拳で対抗(SE:殴打、重い一撃)≫

 


ゼノン:ぐぉっ!?


 

アラン:こちらも拳で相手をしてやろう。言っておくが、身体能力で我ら「壊れた時計」に勝とうと思うなッ!(SE:殴打)

 


ゼノン:ぐっ……一撃が……重い!

 


アラン:そんなに死にたいのであれば、兄の下に送ってやろう。――さらばだ、ゼノン王子。

 


レイジス:ゼノン!!! くそっ! させるか!

 


     ≪アランがゼノンに止めを刺す直前、レイジスが割って入り剣を向ける。
      そして遠巻きに、いつでも魔法を放てるようにリィが手をかざしている。≫


 

アラン:……なんのつもりだ? 俺と戦うのか? ラインが住む村で俺に負けたことを忘れたわけではないのだろう?

 


リィ:だからといってゼノンを見殺しになんてできないわ。アランって言ったっけ。あんたがゼノンを殺すつもりなら、
   あたしたちは死ぬ気であんたを止めて見せる。

 


アラン:魔鉱石の指輪。……そうか。お前がセイルの妹のリィか。少年の方はヴェクタを倒したレイジスだな。


 

レイジス:俺たちの名前まで……。


 

アラン:仮にも「壊れた時計」の一員を撃退しているんだ。

    マークされない訳がないだろう。まあ、あいつらが油断しきっていたところもあったがな。

 


レイジス:……くっ!

 


アラン:……そろそろ任務に戻らねばな。

 


リィ:逃げる気!?

 


アラン:お前らに構っている程、暇ではないんでな。……そうだ、セイルの妹よ。

 


リィ:な、何よ……。

 


アラン:一つ忠告しておく。何をしているか大体予想は着くが、ただの人間が首を突っ込むといつか痛い目を見るぞ。

 


リィ:よ、余計なお世話よ!

 


アラン:そうか。あまりセイルを悲しませるなよ。

 


リィ;セイルは関係ないでしょ!

 


アラン:ふっ、そうだな。だが、これでお前の心は揺れる……。ではさらばだ。   

 


     ≪一瞬にして姿を消すアラン(SE:ワープ音)≫

 


リィ:き、消えた……。なんなの、あいつ。


 

ゼノン:うぅ……。


 

レイジス:ゼノン!


 

ゼノン:くっ……余計なことしやがって……。

 


レイジス:と、取りあえず、治療だ! ゼノンをここから一番近い診療所に!

 

 

 

――――――――――――――――――

 ≪シーン2:旅をする少女エストリア≫

 


リィM:あたしたちはゼノンを近くの診療所に連れて行った後、ココレットさん達の応援に急いだ。
    しかし、向かっている途中に、ちょうど帰還しているココレットさんたちと出会った。
    話を聞くと、どうやらそちらの方はなんとかなったようだ。
    あたしたちは、ゼノンのことも説明するためにも、一緒に基地に戻ることにした。

 


     ≪ゴアス南部軍基地、司令官執務室に移動する一行。≫

 


ココレット:そうですか、そんなことが……。

 


リィ:ココさんは知っていたんですか? ゼノンが……その……ランディール王国の王子様だってことを……。

 


ココレット:いえ、私が知っている彼は、傭兵の彼ですから。

 


リィ:そうですか……。

 


ココレット:今まで口に出さなかったということは彼自身、何か思うところがあるのでしょう。
      あまり話題に出して、刺激しないであげてください。

 


リィ:はい。

 


ココレット:そう言えば、レイジスさんは?

 


リィ:ゼノンの様子を看に行ってます。多分、そろそろ戻ってくるかと思うんですけど――


 

     ≪扉の向こうで、レイジスと見慣れない少女が言い争いながら近づいてくる。≫

 


エストリア:いーやー! はーなーしーてー!

 


レイジス:あ痛ててててて! 引っ掻くなっての!

 


リィ:噂をすれば……帰ってきましたね。でも誰だろ、一緒にいる女の子。

 


エストリア:放して! ほんっとにお願いだから! このままじゃ、あたし怒られるんだから! それでもいいの!?

 


レイジス:いや、いっそ謝って怒られた方がいいって!

 


エストリア:いーやー! かーえーるー!

 


リィ:……何? 誘拐?


 

ココレット:あの声はもしかして……エスト!?


 

レイジス:あ、ココさん! なんかこの女の子がどうやらココさんの知り合いみたいで……。


 

ココレット:エスト……。


 

エストリア:あ、やば……。や、やっほーココー。元気ー?

 


ココレット:何が元気ー? ですか。はぁ……。取りあえず二人とも、部屋に入ってください。
      大声で騒いでたら、休んでる兵士たちも驚いちゃいますから。


 

レイジス:は、はい。

 


     ≪間。(SE:お茶を入れる音)≫

 


ココレット:取りあえず、レイジスさん。この子を連れてきてくださってありがとうございました。

 


レイジス:俺は別にいいんですけど……この子は?

 


ココレット:この子はエストリア・シーラー。リィさんには以前に説明しましたよね。

      私は南部司令官をする前は孤児院を経営していたと……。

 


リィ:はい。と言うことはまさか……。

 


ココレット:はい、この子は私たちの孤児院で育った子です。

 


リィ:そうなんですね。よろしく、エストリアちゃん。あたしはリィ。隣の男はレイジスよ。


 

エストリア:よろしく! あと、エストでいいよ。おねーちゃん。

 


リィ:うん、わかった。よろしくねエスト。……でも、なんでレイがエストを?


 

ココレット:説明してもらえますか?


 

エストリア:駄目!


 

レイジス:わかりました。

 


エストリア:なんで!


 

ココレット:エスト、静かにしなさい。

 


エストリア:うぐぐ……。

 


レイジス:俺はゼノンが寝たのを見届けた後、診療所から出て、のんびりとココレットさんのところに向かってたんです。

 

 

     ≪回想。少々長い間≫


     ≪診療所を出たレイジスは、ゴアスの街を歩く。(SE:町の騒めき+歩行)≫


 

レイジス:あー、色々ありすぎて頭が追いつかない。話を整理しよう。
     元ランディール王国の宰相のアランに、ランディール王国の王子だったゼノン、ねぇ。
     まさかゼノンがそんなスゴイ奴だったとは……。世の中わっかんねーなぁ。
     もしかして他の「壊れた時計」の奴らも凄い奴らだったりすんのかなー……。


     (遠くの方で誰かが言い争ってる声が聞こえる。)

 


兵士:こらっ! 大人しくしないか!

 


レイジス:……ん? なんだ?

 


エストリア:だーかーらー! あたしは何も怪しくないってば!

 


兵士:怪しくないなら、そんなもの必要ないだろう。

 


エストリア:これはラインと戦うために必要なの!

 


兵士:お前みたいなガキンチョがラインと戦えるわきゃないだろうが! それに戦うとしてもこれは関係ないだろう!?

 


エストリア:戦えるもん!


 

兵士:取りあえず親に聞いてやる。家はどこだ!

 


エストリア:……え、家は……えーと……。あ、ココ! あたし、ココの――司令官の知り合いなの!

 


レイジス:ココレットさんの……?

 


兵士:司令官のぉ? へっ、もっとマシな嘘を吐くんだな。

 


エストリア:この頑固頭!

 


レイジス:あの……。

 


兵士:ん? どうした、少年。あれ、あんたは司令官んとこの……。

 


レイジス:はい。司令官のココレットさんにお世話になってるレイジスって言います。
     俺、今からココレットさんの所に行こうと思うんで、よかったら連れて行きましょうか?

 


エストリア:え? いや、連れて行くのはちょっと……。
      ね、ほら! ココの知り合いってことで解放してくれないかなーってさ、あはは。

 


兵士:なーんか、どんどん怪しくなってくるな。少年、やっぱり司令官のとこに連れてってくれるか?

 


エストリア:いや、ちょっと……。

 


レイジス:任せてください。ほら、ココレットさんの所に行こうか。

 


エストリア:あたし、用事が……。

 


レイジス:何かまずいことでもしたのか?


 

エストリア:……怒られる。


 

レイジス:それだったら尚更行かなきゃならないだろ。さ、行って謝ろう。

 


エストリア:やだやだやだ! ちょっと! 待ってぇぇえぇ……。

 

 

     ≪回想終了。少々長い間≫


 

レイジス:――と、言う訳なんだ。

 


エストリア:うぐぐ、裏切り者ぉぉぉ……。

 


ココレット:なるほど、状況は分かりました。さてエスト。

 


エストリア:ちょっと用事がぁ……。

 


ココレット:逃がしません。

 


エストリア:えぅぅ……。


ココレット:全く、あなたって子は、連絡も寄越さずにどこに行ってたんですか。


 

エストリア:いやー、忙しくて……。

 


ココレット:手紙くらいなら直ぐに書けるでしょう!
      それに、定期的に連絡をくれることを条件にあなたの旅を許したはずです。

 


エストリア:ご、ごめんなさい。

 


ココレット:謝るくらいなら手紙を送ればいいのに……。

 


リィ:ふふ、ココさん、まるでお母さんみたいですね。

 


エストリア:笑い事じゃないよぅ……。


 

レイジス:そう言えば、結局兵士のおっさんと何を言い争ってたんだ?


 

エストリア:魔鉱石が必要で、たくさん買おうとしたらあの頑固頭に止められたの。それで言い合いに。


 

レイジス:魔鉱石? 


 

エストリア:うん。そろそろエネルギー切れだったから必要だったのよ。
      これを少し削って、こいつに付け替えてっと。

 


     ≪エストリア、腰元に差していた銃を取り出して、何やら細かい作業をしていく≫

 


リィ:あ、これって確か……。


 

レイジス:銃……だっけ。「壊れた時計」のヴェクタって奴が使ってたやつだ。
     俺はこれにやられたんだ……。

 


エストリア:あれ、おねーちゃんたち、これ知ってるんだ。

 


ココレット:銃を知っているなんて珍しいですね。希少な物なはずなのですが……。

 


リィ:「壊れた時計」の一人が、銃を使って戦っていました。
    やっぱりこれも魔鉱石の力を打ち出すんですか?

 


ココレット:えぇ。魔鉱石の力を撃ちだす銃なら、子供のエストにも扱えますからね。
 

      

エストリア:ココー、ちょっと試し打ちしてくるから場所借りていーい?

 


ココレット:……私たちも行きますか。エストが逃げるかもしれませんし。


 

エストリア:もう逃げないってば……。あ、そうだ、二人とも、あたしの腕前見せてあげる!

 


     ≪間≫

 


エストリア:ラッキー! 訓練所、誰もいない! いえーい、あったしの使い放題ー!


 

ココレット:兵士たちは先の戦闘の疲れを癒すために休憩していますからね。

 


エストリア:……よいしょっと、的の距離はこれくらいかな。

 


レイジス:いやいや、これって弓矢でも届かないだろ。

 


エストリア:まあまあ、見てなさいよ――っと!

 


リィM:そう言うとエストリアは銃口を遥か先にある木の的へと向ける。
    彼女は狙いを定め、引き金を引く。瞬間、ドンッと大きな音が鳴り響くと同時に、遠くにある的が弾け飛んだ。
    ……おそらく魔鉱石から作られたエネルギー弾が射出されたのだろうが、

    「壊れた時計」の一人がレイジスを撃った時と同様にそれを目で追うことはできなかった。

 


レイジス:うっへぇ……。改めて見ると、すごい威力だな。


 

リィ:それもそうだけど、あんな遠くの的を撃ち抜くエストも凄いわね。

 


エストリア:えへへ、もっと褒めてもっと褒めて。

 


レイジス:よーし、偉い偉い。

 


エストリア:レイジスはだめー。

 


レイジス:なんでだよ。

 


リィ:エストはこれでラインと戦ってたんだね。

 


エストリア:そうだよ! あたしにかかればラインなんて敵じゃないわ!

 


レイジス:……強いラインに会わなくて良かったな。

 


リィ:そうね。

 


ココレット:リィさんたち、これからどうするんですか? 旅を続けるとは聞きましたが、これから先の行く宛てとかは?

 


リィ:さっきのラインの騒ぎで「壊れた時計」と会いました。その報告も含めて、一度中央に戻ろうかと思います。
   仲間のアリスも何か情報を掴んでるかもしれないので。

 


ココレット:そうですか。ゼノンの事は私に任せてください。あぁ、あと……少し、お願いしてもいいですか?

 


リィ:あたしたちに出来ることであればですが……どうしたんですか?

 


ココレット:旅にこの子も……エストも連れて行ってくれませんか?

 


エストリア:えぇ!?

 


リィ:え? あの……いいんですか?


 

ココレット:リィさんたちが迷惑でなければ、ですが。

 

      
エストリア:ちょっと! あたしの意見はどうなるのよ!


 

ココレット:このまま一人で旅をさせたら連絡も寄越さないですからね。

      それだったらリィさんたちと一緒に行って力を貸してあげなさい。これは罰です。

 


エストリア:わ、分かったわよぅ……。

 


レイジス:それじゃあ、これからよろしくな、エスト。頼りにしてるぜ。

 


エストリア:へへん、このエスト様にまっかせなさい!

 

      
リィ:取りあえず一緒に中央に行きましょうか。これまでの旅のことの説明もしなきゃならないしね。


 

エストリア:うん!


 

ココレット:エスト。


 

エストリア:どうしたの、ココ。

 


ココレット:いってらっしゃい。

 


エストリア:あ……。へへっ、行ってきます!

 


リィM:こうして旅の仲間にエストリアを加え、南部を後にするあたしたち。
    ゼノンがアランと呼ばれる「壊れた時計」のメンバーと戦闘し、負傷したこと、
    そして彼の正体のこと。アリスの方も何かしら情報を掴んでるかもしれない。
    とにかく、あたしたちは再び中央に向かうことにした。

 

 

 

to be continued.... 

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