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もしニコ生等で行う場合、イラストレーター麻理様の素敵なイラストを

ぜひサムネにご利用くださいませ(*´ω`*)

【孤児を眠らすは小さな灯】

 

【舞台背景】
人間が世界に住みついて数千年。人間はヒエラルキーの頂点に達し、ついには人間同士で争い始めた。
しかし、それはもう昔のことになりつつあった。

今、世界は「ライン」という怪物による侵略によって人間は種族の危機に迫られていた。
ラインはかつて、人間が神話・伝説の類の生物と呼んでいた者が多く、

その強大な力で人間の前に現れては殺戮、捕食をしていた。
そんな世界の中、ある国家の一夜による滅亡によって世界各国に多くの難民が流れこんでいった。

 

 

【登場キャラクター】
◎シェリル・メレディス(♀) 18歳
   今作舞台「ゴアス帝国」の隣国ランディールの滅亡によって生まれた難民。
   両親は死に、金も知り合いもいないシェリルは一人、スリや窃盗を繰り返すことで生き延びる。
   本来は明るい元気娘だったが、長年難民暮らしを強いられ心が荒んでしまっている。
   フランチェスカ家に居候している内にもとの明るい性格を取り戻していく。
   独特な喋り方(えせ関西弁)は彼女特有。別にランディール王国がこのような喋り方をしているわけではない。
   


◎ココレット・フランチェスカ(♀)18歳
   愛称はココ。貴族フランチェスカ家の娘。余った金で孤児院を営んでいる。
   貴族フランチェスカの存亡よりも子供たちのことを優先する。
   孤児院では子供のお守り、世話をメインにしている。
   基本的には物静かで母性溢れる性格……と言えば聞こえはいいが、
   同年代の子と関わる機会がないため、必然的にそのような性格になってしまった。
   シェリルと出会ったことにより、年相応の楽しみを得た。

 

 

◎ニコルディア・フランチェスカ(♂) 24歳
   愛称はニコ。貴族フランチェスカ家の息子。妹のココレットと違い、やや理性的。
   我欲の事しか考えない他貴族との関わりを嫌悪しているため、孤児院の運営の方が重要視している。
   影で軍人になろうとする妹の身を案じている。 

 

 

◎エストリア・シーラー(♀) 9歳
   数年前に孤児院に保護された少女で孤児院の中でも最年長。
   元ランディール王国民。国が滅んだ時はまだ言葉もしゃべれない赤ん坊であったため、
   王国にいた記憶はなく、父と母の顔も名前も知らない。
   口も悪けりゃ、態度もでかい。

 

 

◎ギルティア・ヴェルガー(♂)30歳
   自称ラインを討伐する組織に所属していると言う、怪しい男。
   見た目は完全に賊であるが……。
   本作では触れられていないが元はゴアス帝国の海域を荒らしまわっていた海賊。
   海に現れたラインと国の警備隊に壊滅されたのをきっかけに謎の組織に入ることとなった。
   ノリの軽い性格でテキトーに生きている。

 

 

◎サネル・ランバート(♂)35歳
   ゴアス帝国の南部司令官。大柄で筋肉質でいかにも武人タイプだが、頭もきれる。
   後にゴアス帝国の全軍を指揮する最高司令官に昇格する。

 

 

◎ナレーション(不問)

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 

【配役】(※どの様な被り役があるか参考程度に)

 

(♀)シェリル
(♀)ココレット + 乞食 + 子供
(♀)エストリア
(♂)ニコルディア + 男 + 子供 + ゴロツキ + 医者 
(♂)ギルティア + 男 + 子供 + 兵士
(♂)サネル + 乞食 + 子供 + おじさん + 貴族 + 謎の男 + 兵士
(不問)ナレーション


※この脚本は最低7名で演じることができるようにしています。
 おじさん(サ)の様に、エキストラは括弧内を演じてる役者が兼役することになります。
 この場合でしたらサネル役の人がおじさん役の演じてもらうことになります。
 エキストラを個別の役として振り分けても大丈夫です。

 

☆被り役が凄い多いですが、1シーンに1~3セリフくらいです。(例外有

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【シーン1:難民少女の不覚】

 

 

   (大陸一の軍事力を誇るゴアス帝国。その中にある、とある街。露天商が立ち並び賑わってるその端で、
    行き場を失った浮浪者たちがちらほらと見受けられる)


乞食(サ):あー……(浮浪者みたいに)

 

 

乞食(コ):お願いです。何か、何か恵んでください! 何でもいいから、お願いします!

 

 

男(ギ):全く、どこもかしこも浮浪者ばかりだな。

 

 

男(ニ):難民を受け入れるなんて、正気の沙汰じゃねぇよな。
     おかげで国中がこんな奴らで一杯になってやがる。

 

 

乞食(サ):あー……。

 

 

男(ギ):どけっ、道を開けろ! お前らにやる物なんてこれっぽっちも無ぇんだよ!

 

 

乞食(コ):そ、そんな……。

 

 

男(ニ):あーあ、道を通るのですら苦労するぜ。

 

 

   (SE:体がぶつかる音)

 

 

男(ギ):いてっ! なんだよ、気を付けろ!

 

 

男(ニ):俺じゃねえよ!

 

 

男(ギ):あ? そうなのか、すまん。……あぁ!?
     無ぇ! 俺の財布が無ぇぞ!?

 

 

男(ニ):なんだって? あぁ!? 俺のもない!
     お、おい! あのガキじゃねぇか?

 

 

男(ギ):何だって? くそっ! 待ちやがれ!

 

 

   (SE:人ごみの音FO。逃げる足音FI)

 

 

シェリル:はぁっ……はぁっ……。

 

 

男(ギ):路地裏に逃げ込みやがって。おい、どこだぁ! 糞ガキィィ!

 

 

シェリル:へへっ、誰が捕まるか! バーカ!

 

 

   (暫く男たちを撒いて逃げるシェリルだが、やげて行き止まりに立ち止る)

 

 

シェリル:げっ、行き止まり!?

 

 

男(ギ):へへへ、おいつめたぜぇ?

 

 

シェリル:こんなはした金盗られたくらいでウチを追ってくるなんて、
     オッサンたちも小さいなぁ。

 

 

男(ギ):はっ、口だけは達者だな、お嬢ちゃん。
     痛い目に合う準備はできたのかな?
     それとも――

 

 

   (シェリル、男に金的)

 

 

男(ギ):ぴぎぇっ!?(SE:倒れる音)

 

 

シェリル:準備なんてしてへんよ。ウチ痛いの嫌やし。
     あ、この時計高こう売れそうやな。これも貰ってくで、じゃあなーオッサン。

 

 

男(ギ):て、テメェ……ッ!

 

 

   (シェリルが逃げ出そうとする瞬間、目の前にもう一人の男が立ちふさがる)

 

 

男(ニ):どこへ行こうというのかな?

 

 

シェリル:ッ!

 

 

   (有無も言わさずに男はシェリルを殴り飛ばす)

 

 

シェリル:ぐっ、ゴホッ!

 

 

男(ニ):おい、立てるか。

 

 

男(ギ):あぁ……。このガキ、好き勝手しやがって。
     さぁて、今度こそ、覚悟はできてんだろうな?

 

 

   (男、殴る)

 

 

シェリル:がっ……あ゛……。

 

 

男(ニ):はは、強くやりすぎだろ。俺たちの財布を盗ったとはいえ、女だぜ?

 

 

男(ギ):見たところどうせ例の国の難民だろうよ。痛めつけておいたほうが身のためだろ。
     他の奴らが同じことしないようにな。

 

 

男(ニ):言われてみるとそうだな。

 

 

シェリル:ぐっ……下衆が……

 

 

男(ギ):あ、なんか言ったかぁ!?

 

 

  (男たちがひたすら殴る。SEそのままFO)
  (時間は経ち、雨FI)

 

 

男(ギ):へへっ、流石にもう動かねえか。
     もっと綺麗だったらペットにしてもよかったんだがなぁ。

 

 

男(ニ):おい、雨だぞ。

 

 

男(ギ):そうだな。(シェリルの懐を漁る)
     お、あったあった。てか他の財布まであるぜ。

 

 

男(ニ):なんてガキだよ……。

 

 

男(ギ):慰謝料として貰っていくか。さーてと、
     金も戻ってきたし、ストレス解消もできたし、
     どうだ、一杯酒でも飲みにいかねえか?

 

 

男(ニ):いいねぇ、はっはっはっは!(笑い声FO)

 

 

   (暫く間、ただ雨の音だけが響く)
   (やがて路地裏にボロ雑巾のように倒れているシェリルは目が覚める)

 

 

シェリル:痛てて……。くっそ……女の子に手をあげるなんて最低やろ……。
     散々殴られたし、今まで盗んだ分も取られたし……もう最悪や。

 

 

   (雨強くなる)

 

 

シェリル:雨、強なってきたな……。なんや、シャワーみたい。あぁ、シャワーか……。
     どれくらい浴びてないやろか……。
     何してんのかな、ウチ……。こんなところで……。

 

 

   (誰かが近づく足音FI、雨の音FO)
    (場面転換、フランチェスカ邸)

 

 

ニコ:ココ、僕は反対だ。

 

 

ココ:でも兄さん、放っておけません!

 

 

ニコ:ただでさえ子供たちが多いんだ。世話をする金もないのは君も分かってるだろう?

 

 

ココ:じゃあ放っておけって言うんですか!?

 

 

ニコ:そうは言わない! ……優しい君のことだ、放っておけないのも分かる。
   だけど、僕らの家のことも考えてほしい。

 

 

ココ:兄さん……。 

 

 

ニコ:取りあえず、この孤児院で怪我が治るまで面倒は見よう。
   僕だって彼女の容体は心配だ。

 

 

ココ:ありがとう、兄さん。


 

 

―――――――
【シーン2:フランチェスカ家のココとニコ】

 

 

シェリル:く、うぅ……。ここは……?
     柔らかい枕にあったかい布団……
     もしかして天国かなぁ……?

 

 

ナレ:体が痛むシェリルは首だけ動かし、周囲を確認する。
   どうやら自分はどこかの家にいるらしい。
   部屋は広く、綺麗に整理されており、家財も充実しているところから、監獄に放り込まれたわけでもない。
   では、何故自分はこんなところにいる? まだぼんやりとした意識の中でシェリルは一人思考していると、
   突然木製のドアが開いた。(SE:ドアが開く音)

 

 

ココ:あら、目が覚めたようですね。

 

 

   (シェリル、勢いよく起き上がる)

 

 

シェリル:わっ、だ、誰や!? いっ、痛たた……。

 

 

ココ:怪我をしてるんですから、無理をしないでください。
   あと、私たちはあなたに危害は加えるつもりはありませんから安心していいですよ。

 

 

シェリル:……。

 

 

ココ:でもまあ、警戒するのも無理もないですね。うーん、それじゃあ、軽く自己紹介でもしましょうか。
   私はココレット・フランチェスカ。気軽にココとでも呼んでください。
   そしてこの場所ですが、私たちフランチェスカ家の屋敷であり、孤児院でもあります。

 

 

シェリル:孤児院……?

 

 

ココ:はい。隣の国、ランディール王国が滅んだことによって多くの難民がこの国に流れ込んできました。
   その中には、親を失った子供たちもいます。そんな子供たちを私たちが保護しているんです。

 

 

シェリル:ふーん……。

 

 

ココ:せっかくだから貴女のことも教えてくれませんか?

 

 

シェリル:……ウチは……シェリル。
     アンタが言ってた通り、ランディールの難民や。

 

 

ココ:そうですか。よろしくお願いしますね、シェリル。

 

 

シェリル:……なんで路地裏にいたのか聞かんでええの?

 

 

ニコ:君がそんなところにいたのは大方予想はつく。だから聞くのは無粋だろう?

 

 

シェリル:……誰やあんた?

 

 

ニコ:ココの兄さ。ニコルディア……長いからニコでいいよ。よろしくシェリル。

 

 

シェリル:予想がつくならウチをこんなところに泊めてもええの?
     この家の物盗って逃げるかも知れへんで?

 

 

ココ:そうですね、それは困ります。子供たちの玩具や服もありますし……。

 

 

シェリル:別にそんなもん欲しくないけど……。とにかく危険やから追い出したほうが――

 

 

ココ:でもシェリルはそんな人じゃないでしょう?
   本当に危険だったら私に対して名乗りはしませんよ。

 

 

ニコ:元が素直な証拠さ。勿論、君がしてきたことは褒められたものではないけどね。

 

 

シェリル:ぐっ……。

 

 

ニコ:目が覚めたとはいえ、今は夜中だ。長話もきついだろう。今日はゆっくり休むといい。
   さぁ、ココ。

 

 

ココ:はい。では、おやすみなさい、シェリル。

 

 

シェリル:……お、おやすみ。

 

 

   (SE:部屋の扉がしまる+虫の声)

 

 

シェリル:まともな会話したのいつぶりやろか……。
     (間)あかんあかん! 油断すんなやシェリル!
     ……今頃ウチを捕まえる算段でも立ててるんや、きっと。
     

 

   (SE:扉がノック→開く)

 

 

シェリル:な、なんや……。

 

 

ココ:シェリル、もしかしたらお腹空いてませんか?
   晩御飯の残りのシチューなんですが、食べますか?

 

 

シェリル:あ、食べる! い、いや!いやいやいや! 違う、今のなし!
     (咳払い)そんなにお腹空いてへんかいらへん。

 

 

   (都合よくお腹がなる音)

 

 

ココ:ふふ、やっぱり。遠慮はしなくていいんですよ。じゃあ、一応机に置いておきますね。
   では今度こそ、おやすみなさい。

 

 

   (SE:扉が閉まる音)

 

 

シェリル:くそぅ、腹の虫め!
     ……気ぃつけろー。毒か何か入ってんのや! 絶対そうや!

 

 

ナレ:シチューは美味しそうな湯気を立てている。

 

 

シェリル:…………絶対に。

 

 

ナレ:彼女の決意に対抗するように、シチューは食べて欲しそうに湯気を立てている。

 

 

シェリル:……ズズッ
     ……美味しい……。

 

 

   (しばらくシチューを啜るシェリル。やがてすすり泣き始める)

 

 

シェリル:ひっく……くそっ……おいしい……うぅ……
     あったかい……ひっく…… 

 

 

   (シチューを啜る音FO)
   (シェリルがいる部屋の扉の向うで、ニコとココが立っている)

 

 

ココ:喜んでもらってよかったですね、兄さん。

 

 

ニコ:そうだね。……でも、彼女は難民の一人で犯罪者だ。それを忘れてはいけない。
   くれぐれも油断しないようにね。

 

 

ココ:……はい。

 

 

ニコ:分かってるならいい。さ、明日も忙しい。
   今日はおやすみ、ココ。

 

 

ココ:おやすみなさい、兄さん。  

―――――――――
【シーン3 絆す者絆される者】

 

 

子供(サ):わーい

 

 

子供(ギ):待て待てー!

 

 

ナレ:ゴアス帝国内に存在する数ある貴族の一つ、フランチェスカ家。
   かつては力を持っていたフランチェスカ家は一世代前から急速に力を失っていった。
   今では複数持っていた屋敷は帝国南部の一軒のみ。外観も内装も派手さは無く、、
   さらに屋敷一階では貴族とは無縁そうな見た目の子供たちが遊びまわっている。

 

 

   (シェリル、2階から降りてくる)

 

 

シェリル:子供……本当に孤児院やってたんや。

 

 

ココ:あら、おはようございます。シェリー。

 

 

シェリル:……おはよ。てかシェリーって何?

 

 

ココ:愛称があったほうが親しみやすくないですか?

 

 

シェリル:親しむも何もウチは数日でいなくなるのに……

 

 

ココ:寂しいことを言いますねぇ。

 

 

ニコ:おはよう、シェリル。物を盗って逃げてなくて何よりだよ。

 

 

シェリル:そりゃぁ、あんなに良くしてもらったら……その……。

 

 

ニコ:ははは、やっぱり根は良い子だね。

 

 

シェリル:む、むう……。

 

 

ココ:ところでシェリー、怪我の方は大丈夫ですか?

 

 

シェリル:う、うん。まぁ、ぼちぼちかな。少し痣になってるところはあるけど、
     日常生活には問題ないわ。

 

 

ココ:それはよかったです。

 

 

子供(ギ):あーエストが僕のおもちゃとったー!

 

 

エストリア:何よ! アンタが独り占めするのが悪いのよ!

 

 

ココ:あらあら。

 

 

子供(ギ):待ってー! エストー!

 

 

シェリル:……あの子は?

 

 

ニコ:エストリア・シーラー。この孤児院で最年長の9歳。
   やんちゃ盛りで僕たちも手を焼いている。

 

 

シェリル:ふぅん。

 

 

ナレ:たまたまシェリルの目の前を走り抜けたエストリア。
   しかし、いつの間にか自分の手元から玩具が無くなっていることに気づく。

 

 

エストリア:あれ!? 玩具が無い!? なんで!?

 

 

シェリル:ふふん、ほーら。

 

 

子供(ギ):ありがとう、おねえちゃん!

 

 

エストリア:あー!!!

 

 

ココ:凄いですね。スリの技術ですか?

 

 

シェリル:んー。

 

 

エストリア:すごいすごい! どうやったの!?

 

 

ニコ:はいはい、そこまで。シェリル、子供を驚かすパフォーマンスとしては面白いけど、
   あまりその技は人に見せないように。

 

 

シェリル:はいよー。

 

 

ニコ:せっかくだ、シェリル。妹の買い物についていってくれないかな。

 

 

シェリル:……なんでウチが――

 

 

ココ:いいですね! 私、シェリーと色々お話したいです!

 

 

シェリル:ちょっと話を――

 

 

ココ:そうと決まれば、身だしなみを整えましょう! 服は私のを貸しますから。

 

 

シェリル:え? ちょっと! 待って! 
     話を聞いてぇえぇええ!!!

 

 

   (間)

 

 

エストリア:何あれ?

 

 

ニコ:ココも同年代で話せる子ができて嬉しいんだよ、きっと。

 

 

エストリア:ふぅん。

 

 

ニコ:これで考えを改めてくれたらいいんだけど……。

 

 

エストリア:……ん?

 

 

   (場面転換)
 

 

ナレ:人ごみで賑わうゴアス帝国の街。ゴアスの街は活気があり、

   多くの露天商の主人たちが客を呼び込むため声を荒げている。
   しかし流石大陸一の軍事大国。上質な武器防具をはじめ、季節ものの果物や、

   食材も豊富に並べている店も見受けられる。

 

 

ココ:シェリー、その帽子似合ってますけど、深く被りすぎじゃないですか?

 

 

シェリル:……なぁ、ココ。お願いやから引き返そ?

 

ココ:え? どうしてですか?

 

 

シェリル:だって、ウチ、今までこの場所で散々スリとか盗みしてきたんやから、こんな堂々と街中歩くなんて……。

 

 

ココ:変な事気にしますね、シェリーは。もう、盗みはもうしないんでしょう?

 

 

シェリル:せやけど……。

 

 

ココ:ほらほら、お店に着きますよ。――おじさん、こんにちは。

 

 

おじさん(サ):おぉ、ココレットちゃん。今日も来てくれたのかい?

 

 

ココ:はい、おじさんのお店で買った野菜は、子供たちも喜んで食べてくれるので。

 

 

おじさん(サ):子供たちも分かってるねぇ。まあ、それはそうと横のお嬢さんはお友達かい?

 

 

シェリル:え……。あ……。

 

 

ココ:はい! シェリルって言うんです。ほら、シェリー。

 

 

シェリル:よ、よろしく……。

 

 

おじさん(サ):おいおい、帽子で隠してりゃ顔が分からんだろう……よっと!(帽子とる)

 

 

シェリル:あっ!?

 

 

おじさん(サ):なんだなんだ、てっきり顔に大きな傷があるとでも思ったが、可愛い顔してんじゃないの。

 

 

シェリル:ひ、酷いなぁ、おっちゃん。

 

 

おじさん(サ):はっはっは、悪い悪い。

 

 

シェリル:……ぷっ、はは、あはは。

 

 

ココ:ほら、シェリー、やっぱり気にし過ぎだったでしょう?

 

 

シェリル:……うん。

 

 

おじさん(サ):何がなんだか知らんが、よかったな、うん。
        さてと、ココレットちゃん。野菜、袋に詰めてやったぜ。
        ちょっと重いが、大丈夫か?

 

 

ココ:ありがとうございます。うんしょっと……。

 

 

シェリル:か、片方持つわ。

 

 

おじさん(サ):そうだシェリルちゃん! これはオマケだ。(おじさん、桃を投げる)

 

 

シェリル:うわっと! ふわ、美味しそうな桃。

 

 

おじさん(サ):採れたて新鮮な桃だ。さっきは手荒いことをしちまったからな。お詫びだよお詫び。
        あと、これからうちの店をよろしくってことでな!

 

 

シェリル:あ、ありがとな、おっちゃん。

 

 

おじさん(サ):可愛い女の子が毎日商品買いに来てくれるんだ。少しはサービスしないとな。
        がっはっは。

 

 

   (場面転換、大きな紙袋を抱えながら帰路につく)

 

 

ココ:あのおじさん、面白い人だってでしょう?

 

 

シェリル:……なんか申し訳ないわ。こんなに良くしてもらって。
     店のおっちゃんだけやない、ココたちにも……。

 

 

ココ:ふふ、気にしなくていいんですよ。私も好きでやったことですから。

 

 

シェリル:……なぁ、ココ。一つ、聞いてもええ?

 

 

ココ:なんですか?

 

 

シェリル:あの時、倒れてたのがウチじゃなくても、同じようなことをしてたん?

 

 

ココ:……介抱まではしてたと思います。
   でも、ここまでしてるのは、多分、シェリーだったからです。

 

 

シェリル:そっか……。

 

 

ココ:怪我が治ったらどうするんですか?

 

 

シェリル:せやなぁ、またスリや泥棒生活に戻るのはココたちに申し訳ないし、
     頑張って仕事見つけるかなぁ……。
     でも、身元も分からんウチが働ける場所なんてないし……。

 

 

ココ:もしよかったら、孤児院で働きませんか?

 

 

シェリル:え?

 

 

ココ:もともと働き手はいないんです。世話をしているのはニコ兄さんと私だけ。
   二人じゃ、何十人もいる子供たちの世話なんて到底できません。

 

 

シェリル:一人増えてもあんま変わるとは思えへんけど……。

 

 

ココ:それでもいないよりはマシです。
   あとお給料ですが、申し訳ないですが、多くの子供たちを養ってる身なので、
   給料を払える余裕はありません。でもシェリーが満足できる衣食住はこちらで保障します。

 

 

シェリル:それだけしてくれるなら十分やわ。ただでさえお金もらうなんて申し訳ないし……。
     こんなウチでよければ働かせてもらうわ。

 

 

ココ:ありがとうございます!

 

 

シェリル:あー、なんかウジウジしてた自分が恥ずかしなってきたわ!
     ほんま、ありがとな、ココ! ウチ頑張るで!

 

 

ココ:はい! あ、そうだシェリー。(ココ、自分のリボンを解き、シェリルの髪に着ける)

 

 

シェリル:わっ!? これは……リボン?

 

 

ココ:長い髪をそのまま下ろしてるの可愛いですけど、まとめるのも素敵ですよ。

 

 

シェリル:へへ、そうかな。でも、ホントにええの? これココの大事のもんやろ?

 

 

ココ:私は髪が短いから一つでいいんです。

 

 

シェリル:そっか。ならありがたく受け取るわ。……お揃いやね。

 

 

ココ:お揃いですね、ふふふ。

 

 

   (SE:カラスの声)

 

 

ココ:もう夕方ですか。子供たちもお腹を空かせて待ってますし、帰りましょうか。私たちの家に。

 

 

シェリル:うん!

 

 

ココ:ちなみにシェリー、お料理はできますか?

 

 

シェリル:え? ……アハハ、ハ

 

 

ココ:……ふふ、分かりました。ありがとうございます。

 

 

ナレ:帰宅したシェリルたちは夕飯を済ませ、一段落ついた後に二人で話していた事をニコルディアに切り出した。

 

 

ニコ:……なんだって?

 

 

ココ:ですので、シェリルを雇います。

 

 

ニコ:人手が増えるのは嬉しいけど、生憎人を雇うほどお金に余裕はないんだ。

 

 

シェリル:それなんやけど、給料なんていらんよ、ニコ。

 

 

ニコ:……と言うと?

 

 

シェリル:給料の代わりに少しの食事と寝るスペースさえ貸してくれるだけでええの。
     ウチ、頑張って働くから。

 

 

ココ:兄さん、お願いします!

 

 

ニコ:……はぁ、そうだね。それくらいなら大丈夫かもしれない。
   ……分かった。シェリルを雇おう。

 

 

シェリル:やったぁ! これからよろしくな、ニコ、ココ!

 

 

ニコ:まあ今日は夜も遅いから、もうお休み。部屋はたくさん余ってるから好きな部屋を使うといい。
   ただしばらく使われていないから埃まみれになってる。明日時間があるときにでも掃除しておいてほしい。
   だから……そうだな、今日までは妹と一緒に寝てくれ。いいね、ココ。

 

 

ココ:はい。

 

 

   (場面転換)

 

 

ココ:シェリー、ベッド使っていいですよ。私は毛布でも敷いて寝ますから。

 

 

シェリル:いや、ええよ。ウチが毛布で寝るわ。……まだ寒いやろ。風邪でも引いたら子供たちの世話もできひんよ。

 

 

ココ:やっぱり優しいですね、シェリーは。

 

 

シェリル:へへ、せやろ? ウチは優しいねん。

     それにウチは今まで外で野宿してたから平気やからなー、毛布があるだけでも幸せや。

 

 

ココ:……そんな悲しいこと言わないでください。シェリーはこの家の一員、家族なんですから。

 

 

シェリル:はは、そんな大げさな。

 

 

ココ:……シェリーは、家族はいますか?

 

 

シェリル:いない。お父さんもお母さんも、妹も逃げる時に皆死んでしもうたわ。

 

 

ココ:……すみません。

 

 

シェリル:ええよ。全然気にしてない。……ココは?

 

 

ココ:……母は私が生まれた時に、父は3年前に病気で亡くなりました。
   今は兄さんがこの家を切り盛りしています。

 

 

シェリル:ヒャー、こんなデカイ家を切り盛りするなんて想像つかんわ。

 

 

ココ:まぁ、使用人も今はいませんし、ただ家が大きいだけですよ。

 

 

シェリル:使用人? まるで貴族みたい。

 

 

ココ:……シェリーには言ってませんでしたが、フランチェスカ家はゴアス帝国の数ある貴族の内の一つなんです。
   まぁ、貴族の中でも力は弱い方ですけどね。

 

 

シェリル:……。

 

 

ココ:がっかりしました?

 

 

シェリル:いいや、何にも。貴族って太った臭いオッサンがふんぞり返ってるイメージやったから……
     ちょっと嬉しかった。

 

 

ココ:ふふ、ありがとうございます。……ねぇ、シェリー。

 

 

シェリル:ん?

 

 

ココ:一緒にベットで寝ませんか?

 

 

シェリル:……うん。(SE毛布かぶる)
     ふわぁ、暖かい。人のぬくもりってこんなに心地いいんやなぁ……。

 

 

ココ:今までずっと独りでしたもんね。
   ……さっき、シェリーは家族なんて言い方は大げさって言ってましたけど、
   私たちも、子供たちも親がいません。だからこそ私たちは……血は繋がってませんけど、
   家族のように暮らしてるんです。貴女もその一人ですよ、シェリー。

 

 

シェリル:……。

 

 

ココ:あれ? シェリー?

 

 

シェリル:……くーくー。

 

 

ココ:あれ、寝ちゃってましたか。
   (欠伸)私も寝ますかね。おやすみなさい、シェリー。  

 

 

   (暫く間)

 

 

シェリル:ありがとう、ココ。

 

 

 

―――――
【シーン4:難民仲間】

 

 

シェリル:ふわぁ……、あれ? ココ? ……どこいったんやろか?

 

 

   (SE:扉ノック→開く)

 

 

ニコ:おはよう、シェリル。ココは皆の朝ごはんを作ってるよ。

 

 

シェリル:こんな朝早くから……。

 

 

ニコ:大変だろう? 僕はココの手伝いをしてくるから、
   シェリルは身支度を整えた後に皆の衣服の洗濯をしてもらおうかな。
   子供たちが起きてくる前に、ね。

 

 

シェリル:分かった。任せときー。

 

 

ニコ:洗濯物の場所は一階に置いてるから、庭に持っていって洗ってくれ。

 

 

ナレ:シェリルは顔を洗い、用意されていた服に着替えると、山積みになっていた洗濯物を庭に持っていく。
   フランチェス家の庭を初めて見るが、他の民家と比べると圧倒的に広い。
   昨日ココレットがフランチェスカ家は貴族と言っていたが、なるほど嘘ではないようだ。

 

 

シェリル:それにしても……すごい量やな。
     これを今まで二人でやってたなんて、すごいなぁ、あの二人。
     ま、愚痴っててもしゃーない。よぉし、皆まとめて洗ってやるで!

 

 

   (SE:洗濯。暫くして時計の音FI)

 

 

シェリル:お……終わらへん……!
     肩も腰も痛いし、完全になめとったわ……うぐぅ。

 

 

エストリア:あ、シェリー。

 

 

シェリル:ん? えーと……エストリア……だっけ?

 

 

エストリア:エストでいいよ。

 

 

シェリル:さよか。おはようエスト、早いなぁ。

 

 

エストリア:うん、なんか眠れなくてさ。シェリー、洗濯してるの?

 

 

シェリル:それが思った以上に手ごわくてなぁ。

 

 

エストリア:あたしも手伝う!

 

 

シェリル:エスト……なんていい子なんや。

 

 

エストリア:取りあえず手を動かしてよ。

 

 

シェリル:あ、うん。

 

 

   (SE:洗濯)

 

 

シェリル:なあ、エスト。

 

 

エストリア:なぁに?

 

 

シェリル:エストはいつからここにいるん?

 

 

エストリア:分かんない。

 

 

シェリル:分からない?

 

 

エストリア:うん。気づいたらこの家にいたよ。
      だからなんでお父さんもお母さんもいないのかも分からないんだ。

 

 

シェリル:そっか、ごめん、変なこと聞いて。

 

 

エストリア:全然。お父さんとお母さんの代わりにココとニコがいるもん。
      寂しくなんかないよ。

 

 

シェリル:二人が聞いたら喜ぶやろなぁ。

 

 

エストリア:でも昔、ココからランディール王国から連れてこられたって聞いたことあったなぁ。

 

 

シェリル:ランディール……。

 

 

エストリア:どうしたの?

 

 

シェリル:いや、ウチもランディール王国に住んでたからちょっとビックリしてた。

 

 

エストリア:そうなんだ! じゃあシェリーとあたしは仲間だね!

 

 

シェリル:あはは、そうやね。

 

 

エストリア:シェリーは何でここに来たの?

 

 

シェリル:ウチは――

 

 

ココ:シェリー、おはようございます。朝ご飯できましたよ。
   ……ってエストも一緒だったんですね。

 

 

シェリル:朝ごはん! もーウチお腹ペコペコやぁ。

 

 

エストリア:あー! ちょっとシェリー! 話そらした―!

 

 

ココ:ふふ、子供たちとも仲良くやってるみたいですね。

 

 

シェリル:精神年齢が一緒やからね!

 

 

ココ:朝ごはん、シェリーにとっては量も味も物足りないかもしれませんが、
   子供たちと一緒に食べるご飯は何倍も美味しいですよ。

 

 

シェリル:ううん。そんなことないよ、きっと。それじゃあ――

 

 

役者全員:いただきまーす!

 

 

シェリル:んー! 美味しい! ココは料理が上手なんやなぁ。

 

 

ココ:本当ですか? お世辞でも嬉しいです。

 

 

シェリル:お世辞なんかやない。今までウチが独りで食べてきたモンより何百倍も美味しい。

 

 

ココ:えへへ、それでこそ頑張って作った甲斐がありました。

 

 

シェリル:これだけ美味しいご飯を食べれたら力湧いてきたわ。
     お仕事頑張るでー!

 

 

ココ:頼りにしてますよ、シェリー。
 

――――
【シーン5 子供たちのために】

 

子供(ギ):シェリー! 遊んでー!

 

 

子供(サ):シェリルー僕も僕もー。

 

 

エストリア:ちょ、ちょっと待ちなさいよ! シェリーはあたしと遊ぶんだから―!

 

 

シェリル:待って……ほんま、ちょっと待って……。
     少し……休ませてぇ……。

 

 

エストリア:いい年してだらしないわねー。

 

 

シェリル:9歳の子にだらしないって言われるなんて……屈辱やわ……、ぐへー。

 

 

ココ:ふふ、シェリーは子供たちに懐かれてますね。

 

 

シェリル:あーココー、子供たちの相手ってこんなに大変なんやなぁー。

 

 

ココ:ご苦労様、それじゃあ少し休憩しましょうか。少しですがクッキーをつくってますから食べてください。

 

 

シェリル:クッキー! やったー!

 

 

エストリア:あー! 独り占め禁止ー!

 

 

シェリル:はいはい、エストにもあげるから。ほら、あーん。

 

 

エストリア:あーん。

 

 

シェリル:と見せかけていただきます!(食べる)うぅむ、美味しい!

 

 

エストリア:うわぁぁぁん! シェリィイィイイ!

 

 

シェリル:あっはっは。

 

 

エストリア:うわあぁあぁぁん! シェリーの馬鹿、鬼、悪魔ー!

 

 

シェリル:いやー、あっはは、ごめん、つい楽しくて。

 

 

エストリア:悪女! ごくつぶし! ないちち!

 

 

シェリル:ハッハッハ、何処デソンナ言葉ヲ覚エタノカナ? オ嬢チャン。(エストリアの頬をつねる)

 

 

エストリア:うぎゅぎゅー。

 

 

ココ:あはは、シェリーあんまりエストをいじめないでくださいね?

 

 

シェリル:冗談やってー。ごめんな、エストー。

 

 

エストリア:うぅ、今のは本気だったくせに……。

 

 

子供(ニ):ココー、この文字なんて読むのー?

 

 

ココ:はいはい。これはね「花」って読むの。

 

 

子供(ニ):へー、おはなってこう書くんだー。

 

 

シェリル:むぐむぐ……。これは、何してるん?

 

 

ココ:読み書きの勉強ですよ。読み書きはこれから生きていく上で、必要になりますからね。
   他にも簡単な数字の計算なども教えてますよ。

 

 

シェリル:はー、何でもしてるんやなぁ。

 

 

ココ:子供たちが大きくなって、この孤児院を旅立つ時かくるまで、ある程度必要な知識を身に着けてほしいから……。

 

 

シェリル:ココはすごいなぁ……。ウチなんか自分のことで精一杯やわ。
     誰かの未来のために何かするなんて考えられへんわ。

 

 

エストリア:ね、ね、シェリー。このクッキー美味しいね。

 

 

シェリル:あ、うん。そうやな。……って大分減ってるやんか!

 

 

エストリア:シェリーも少し分けてあげるから。ほら、あーん。

 

 

シェリル:あーん。

 

 

エストリア:えへ、仕返し! もぐ。

 

 

シェリル:こ、こんのガキー! 捕まえてお仕置きやー!

 

 

エストリア:鬼ごっこしてくれるの? みんなー! シェリーが鬼だよー! にっげろー!

 

 

   (子供たちの笑い声、シェリルの声を背景に)
 

 

ココ:自分のことで精一杯、か……。シェリーはそれでいいんですよ。
   普段のあなたが皆を明るく、元気にしてくれる。
   あなたは気づいていないですが、

   あなたが……シェリーがいるだけで子供たちの未来のためになってるんですよ。

 

 

  (場面転換、夜)

 

 

ニコ:ただいま。

 

 

ココ:お帰りなさい、兄さん。貴族会議どうでした?

 

 

ニコ:相変わらず、つまらない会議だったよ。

 

 

ココ:……そうですか。

 

 

ニコ:……一見、国の政策について議論してるように見えるけど、彼らの目には自分の家の繁栄と利益しか映ってない。
   全く、自己中心的な意見ばかりだったよ。誰も国のことを考えていない。
   父さんが貴族社会に嫌気がさしてたのが分かるよ。

 

 

ココ:……すみません、兄さんばかり負担をかけてしまって。

 

 

ニコ:いや、気にしなくていいよ。それに二人で決めたことじゃないか。

 

 

ココ:だけど……。

 

 

ニコ:その代わりに子供たちの世話は君とシェリルに任せっきりだ。
   子供たちにもあまり構ってやれなくて申し訳ないと思ってるよ。
   まあ、暫くゆっくりできるから、久々に子供たちと遊んであげれるかな。

 

 

ココ:それはよかった。あの子たちも喜ぶと思います。

 

 

 

――――
【シーン6 貴族】

 

 

ナレ:フランチェスカ家の昼下がり、昼食を済ませた子供たちにとっては遊ぶ時間である。
   屋内で本を読む子供もいれば、庭で走り回っている子供もいる。

   いつもはココレットやシェリルが子供たちの世話をしているが、
   今日は珍しく、ニコルディアが庭で子供たちと遊んでいた。

 

 

子供(コ):ニコーあそぼーよー。

 

 

ニコ:はいはい。急かしても僕は逃げないよ。さ、何して遊ぼうか?

 

 

子供(コ):肩車!

 

 

ニコ:またかい? 前も、この前もしたけど……君も好きだね。

 

 

子供(コ):だって楽しいんだもん。さ、早く早く。

 

 

ニコ:はいはい。さ、乗って。

 

 

子供(コ):わーい!

 

 

シェリル:ありゃ、珍しい。

 

 

エストリア:あ、シェリー。

 

 

シェリル:やっほー、エスト。……ニコが子供たちと遊んでるのって珍しいな。

 

 

エストリア:うん。いつも部屋に籠ってるから中々遊んでくれないからね。
      でもたまにこうやって遊んでくれるんだよ。

 

 

シェリル:ふーん。肩車、面白そうやね。

 

 

エストリア:そう?

 

 

シェリル:エストはそんなに好きじゃないん?

 

 

エストリア:うん。飽きちゃった。

 

 

シェリル:あ、もう散々してもらったんだ。

 

 

エストリア:あたし、小さいときからずっとここにいたからね!

 

 

シェリル:そういえばエストは子供たちの中で一番最初にこの家に来たんだっけ?

 

 

エストリア:うん。あんまり覚えてないけど、ここにいる皆よりも、ずっと前からいるよ。

 

 

シェリル:……。

 

 

エストリア:……本当は自分の名前なんて分からない。
      でも、これがあたしを証明してくれてるんだ。

 

 

シェリル:……これは?

 

 

ナレ:エストリアはいつも首に掛けていたリングをシェリルに渡した。よく見てみるとリングの裏面に
   彼女の名前が彫られている。

 

 

エストリア:ここに連れてこられたときに手に握りしめていたって、ココが言ってた。
      きっとお母さんたちがくれたものなんだと思う。
      ……そう信じてる。

 

 

シェリル:……そっか。羨ましいなぁ。

 

 

エストリア:シェリーは?

 

 

シェリル:……前にさ、ここに来た理由話したやろ?
     ウチ、ここに来る前ってスリとか犯罪犯して生活しててん。

 

 

エストリア:……。

 

 

シェリル:その生活が長かったからな。あぁ、もちろん親戚も、友達もいない。
     形見なんて尚更やなぁ……。

 

 

エストリア:なんか……その、ごめんね?

 

 

シェリル:ええよええよ。この家にきたおかげでシェリルって人間がいるーって感じるからな。

 

 

ニコ:自分自身の証明か……。難しいことを話してるね。

 

 

シェリル:あれ、ニコ。肩車もうええの?

 

 

ニコ:存分に楽しんでくれたみたいさ。今は他の子たちと追いかけっこをしてるよ。
   まあ、僕が疲れたってのもあるんだけどね。

 

 

シェリル:なんや、ウチもしてもらおうかと思ったんやけどなぁ。

 

 

ニコ:……頑張って鍛えておくよ。

 

 

シェリル:それ失礼。

 

 

ニコ:あはは。
   ……さっきの話なんだけど、自分が何者か証明するものは確かに大事だね。
   でもシェリル、それが無くても別に構わないんじゃないかな。少なくとも僕はそう思う。
   形に残らなくても、皆が君がいるということ、ここにいてもいいことを認めている。

 

 

シェリル:慰めてくれてんの、ニコ?

 

 

ニコ:君だけじゃない。子供たちにも言えることさ。

 

 

シェリル:なんや、素直やないなぁ。んふふ、ありがと。

 

 

エストリア:ひゃー熱い熱い。

 

 

 

―――――――
【シーン7 私を救ってくれたのは】

 

 

ニコ:さてと、子供たちは皆寝かしつけたし、一段落だね。
   今日も一日お疲れ様、ココ、シェリル

 

 

シェリル:ホンマ疲れたわー!

 

 

ココ:エストからずっと追っかけまわされてましたからね。
   まあ好かれてる証拠ですよ。

 

 

シェリル:そりゃ光栄なことですなー。

 

 

三人:あはははは。
 

 

シェリル:あれ、ニコ。何書いてんの?

 

 

ニコ:あぁ、これかい? 帳簿……簡単に言えば家計簿、かな。ただですらお金に余裕が無いからね。
   お金の出入りはしっかり管理しないと。

 

 

シェリル:でも、ニコたちって貴族なんやろ?

 

 

ココ:お父さんがいた頃は名のある貴族でした。……今はそんなに力は持ってないんですけどね。

 

 

ニコ:父さんも、僕たちも貴族として生きるより、

   未来を生きる子供たちのため孤児院を経営する方に力を入れていた。
   その結果、貴族としての力は弱まり、今じゃご覧の通り。
   父さんの遺産でここ数年は生活できるけど、やはり節約しないと持たない現実さ。

 

 

シェリル:そうやったんや。ごめん、ウチ――

 

 

ニコ:それ以上言うのは無し。シェリル、僕やココ、それに子供たちは、
   君が来たことによって心の支えになってるんだよ。だからそんな事は言わないでほしい。

 

 

シェリル:うん……。なんや、照れるなぁ。そうやったらウチ、遠慮せんで?

 

 

ココ:うふふ。

 

 

シェリル:どうしたん、ココ。やけに嬉しそうやな。

 

 

ココ:はい。兄さんもシェリーの事を認めてるんだなーって思いまして。

 

 

ニコ:確かに最初はあまり受け入れてはいなかった。
   だが、僕だって人間だ。情も湧くし、人を見る目だって肥えてるつもりさ。

 

 

シェリル:ほほう? お兄さんや、つまるところ、なんだね? ん?

 

 

ニコ:ここぞとばかりに……。
   今では信用に値する大切な家族ってことだよ。これで満足かい? シェリル。

 

 

シェリル:うん。うん! 満足、もう大満足や!

 

 

ココ:よかったですね! シェリー!

 

 

   (SE:突如響き渡る扉のノック)

 

 

ニコ:こんな時間に客? 誰だろ……?

 

 

貴族(サ):どうもフランチェスカ殿。

 

 

ニコ:あなたは……どうも。

 

 

貴族(サ):いやはや、お父上の頃は煌びやかな豪邸であったのに、
      随分と慎まやかになられたものだ。

 

 

シェリル:なんや、あの太ったオッサン。人ん家にずかずか入ってきて……

 

 

ココ:貴族の方ですよ。この国の貴族は貴族同士コミュニティを持っているんですが、
   実際は互いを潰しあおうと探り合っているんです。
   今回もその視察と言ったところでしょう。

 

 

ニコ:挨拶はそれくらいにして、今日はどうされたんですか?

 

 

貴族(サ):あぁ、そうですな。この度はあなた方フランチェスカ家に朗報をお持ち致しました次第でございます。

 

 

ニコ:……内容は?

 

 

貴族(サ):見たところフランチェスカ家は没落し、かつての威光を維持できないとお見受けしております。
      財政面においても、お父上の遺産を考慮しても10年は持たないでしょう。

 

 

ニコ:何が言いたいんです?

 

 

貴族(サ):まあまあ、そんな邪見に扱わないでください。
      そこで提案です。私たちの家に帰属してはいかがかな。この先の生活も保障しますし、
      何よりこのままフランチェスカ家を風化させるよりはお父上に対する面目が立ちましょう。

 

 

ニコ:僕たちは貴族の関係に興味はない。勿論父の面目もね。
   貴族としての生き方より、子供たちの明日の食事の方が重要なので。
   ……お帰り願います。

 

 

貴族(サ):子供たち? ふん、まだそんな生きる価値も無いゴミ共を飼っているのか。

 

 

シェリル:ちょっとオッサン! その言い方はないやろ!

 

 

ココ:あ、シェリー!

 

 

貴族(サ):なんだコイツは? ここの使用人か? いや、使用人を雇う金も無いだろう。
      だとするとお前も孤児か。全く躾がなっていない。
      大体この国もおかしなことをするものだ。ランディールの難民なぞ、受け入れなければよいものを。
      おかげで路上には物乞いと犯罪者で溢れかえってるではないか。
      適当に国外に放り出して捨て置けばいいのだ。

 

 

シェリル:何も……。

 

 

貴族(サ):うん?

 

 

シェリル:何も知らんくせに知ったような口を叩くなや!

 

 

   (シェリル、男を殴り飛ばす)

 

 

ココ:ちょ、ちょっとシェリー!?

 

 

シェリル:ウチらだって好きで孤児院に来たわけやないんや!
     生きるために捨てられた残飯食って! 盗みまでして! 捕まって酷いことされても!!!
     いつかマシな日が来ると信じてここまで生きてきたんや!

 

 

ニコ:シェリル……。

 

 

シェリル:子供たちだってそうや! 目の前で両親が殺された子だっている!
     まだ何もできない年で独りになってしもうたんや!
     あんたらには分からんやろ! 底辺の世界で生きてる人をゴミ扱いするあんたらにはなぁ!

 

 

貴族(サ):……ふ、ふん。

 

 

シェリル:少なくとも……ニコとココは……フランチェスカはウチらを受け入れてくれた。

 

 

貴族(サ):なんだお涙頂戴の安芝居か。くだらん!
      私に手を挙げた代償は高くつくぞ!

 

 

  (男、荒々しく出ていく)

 

 

ココ:行ったようですね。大丈夫ですか、シェリー。

 

 

シェリル:ウチらだって……ホントは普通に生きたかったんや。

 

 

ニコ:今はそっとしてあげよう。ココ、シェリルを部屋に連れて行ってあげて。

 

 

ココ:う、うん。

 

 

   (暫く間)

 

 

ニコ:まずいな。状況がどうであれ、貴族に手を挙げてしまった。
   何か大事が起きなければいいが……。

―――――
【シーン8 響く言葉】

 

 

ニコ:ココ、シェリルを見なかったかい?

 

 

ココ:え? いえ、見てませんが……。

 

 

ニコ:そうか。ちょっと買い物を頼もうと思ったんだが……。散歩かな?

 

 

ココ:こんな雨の中? ……まさか。

 

 

ニコ:どうしたんだい?

 

 

ココ:兄さん、ちょっと出かけてきます!

 

 

ニコ:あ、あぁ……

 

 

   (場面転換。ゴアスの街。傘も差さずに一人で歩いているシェリル)

 

 

シェリル:……はぁ。

 

 

貴族(サ)なんだコイツは? ここの使用人か? いや、使用人を雇う金も無いだろう。
     だとするとお前も孤児か。全く躾がなっていない。(回想声)

 

 

シェリル:違う! (SE:周りの人ざわざわ) あ、すみません……。

 

 

   (再び歩き出すシェリル)

 

 

乞食(サ):おい。……おい、そこの姉ちゃん。

 

 

シェリル:……?

 

 

乞食(サ):あんたぁ……覚えてるぜぇ……? 街でスリやってた奴だろ?

 

 

シェリル:……ウチはあんたの事なんか知らん。

 

 

乞食(サ):まあ俺の事を知ってるか知ってないかなんてどうでもいいんだぁ。
      へっへっへ……いいご身分だなぁ……。
      貴族に拾われてさぞかしいい暮らしをさせてもらってんだろうなぁ……。

 

 

シェリル:ち、違う……。う、ウチは……。(後ずさり)

 

 

乞食(サ):なんだ? 逃げるのかぁ? へへっ、逃げたってあんたが難民出身で、
      犯罪者だってことは消えない……。

 

 

シェリル:……あ、あぁ……。

 

 

乞食(サ):貴族と一緒にいて同じ貴族にでもなったつもりだろうが、
      お前は貴族に飼われているだけだ。お前が拾われたのは愛や慈悲なんてものじゃない。
      弱者に手を差し伸べて優越感に浸ってるだけだ。

 

 

シェリル:うわあぁあああああ!(逃げる)

 

 

乞食(サ):ひひ……ひひひ! ひーっひっひっひ!

 

 

  (何も考えず一目散に逃げる。)

 

 

シェリル:はぁ……はぁ……、うっ、ごほっ、ごほっ!
     ウチは……ウチは!!!

 

 

シェリルM:ウチ? そのウチは……何者?

 

 

シェリル:それにフランチェスカ家はそんな人たちやない……!

 

 

シェリルM:本当に? じゃあ証拠は?

 

 

シェリル:ココたちは仲間って……家族って言ってくれた。

 

 

シェリルM:そんなの口だけ。人間そんなに信用できるものじゃない。
      いつ裏切られるか分からない。それはこの路地裏で生きてきた時に嫌という程味わったはず

 

 

シェリル:……はぁ。

 

 

ナレ:シェリルは頭の中でぐるぐると考えているうちにたどり着いたのは彼女を変えた、

   初めて出会ったあの路地裏だった。

 

 

シェリル:……あ。なんでこんなところに。はは……なんで。
     流れ者にはお似合いってことか。所詮は難民……。ココたちは貴族……。
     その間には越えられない壁がある……。

 

 

   (SE:暫く間。雨の音だけが響く)

 

 

シェリル:うっ、ひっく……。(すすり泣き)

 

 

  (SE:また暫く間。足音が近づいてくる)

 

 

ココ:……こんなところにいたんですね。傘もささずに……びしょ濡れじゃないですか。

 

 

シェリル:……ココ。

 

 

   (SE:近づいてくる足音)

 

 

シェリル:ち、近づかんといて!

 

 

   (ココレット、シェリルを抱きしめる)

 

 

ココ:ごめんなさい、シェリー。あなたがこんなにも苦しんでいたのに気付いてあげられなくて……。

 

 

シェリル:……っ!

 

 

ココ:誰がどう言おうとあなたも、子供たちも私たちの大切な家族です。
   この言葉に嘘はありません。それに言葉に出さなくても……ほら。

 

 

   (ニコ登場)

 

 

ニコ:シェリル、君は前にいってたじゃないか。フランチェスカ家にいることが自分自身を証明してくれるってね。
   もう忘れてしまったのかい?

 

 

エストリア:誰に何を言われたか知らないけど、シェリーらしくないよ!
      ほら、帰ろ? 

 

 

子供(ギ):シェリー姉ちゃん、もう遊んでくれないの?

 

 

シェリル:ニコ、エスト……皆。どうして……?

 

 

ココ:どうして? 当たり前のことを訊きますね?

   それはシェリーがフランチェスカの孤児院にとってかけがえのない存在だからですよ。
   だから自然と皆があなたの周りに集まるんですよ。

 

 

シェリル:ひっく、なぁんや、少しでも皆を疑ってしもうた自分が恥ずかしいわ。……ごめん。

 

 

ココ:申し訳ないと思うなら、こんなところにいないで帰りましょう? 私たちの家に、ね。

 

 

シェリル:……うん。

 

 

   (SE:雨FO→朝、鳥の鳴き声CI)

 

 

シェリル:ふぁ……。(身支度)ちょっと目が腫れてるかな。
     昨日はよう泣いたからなぁ。でも気分すっきりや!

 

 

   (SE:扉勢いよく開く)

 

 

シェリル:おっはよーう!

 

 

ココ:あら、シェリー、すっかり元気ですね。
   やっぱりシェリーは元気な笑顔が似合いますよ。

 

 

シェリル:へへ、嬉しいこと言ってくれるなぁ。
     

 

エストリア:昨日はあんなにベソかいてたのにねー。

 

 

シェリル:うぐ……。う、ウチだって乙女や。そりゃ泣いたりするわ。

 

 

ニコ:……乙女。

 

 

シェリル:なんで繰り返してん、ニコ。

 

 

ニコ:いや、別に何でもない。

 

 

エストリア:ね、ね。

 

 

ココ:どうしました? エスト。

 

 

エストリア:皆で遊ぼうよ。シェリーも、ココも、ニコも! 皆で!

 

 

ニコ:僕はすることがあるから――

 

 

ココ:たまには皆で遊ぶのもいいんじゃないですか、兄さん。

 

 

シェリル:ニコー、空気読みぃや。ほーら、いったいった!(背中を押す)

 

 

ニコ:おわっ! し、仕方ないな。

 

 

シェリル:ココも! ほら。

 

 

ココ:はい! ふふふ。

 

 

シェリル:えへへ。

 

 

 

―――――
【シーン9 兄弟喧嘩】

 

ニコ:何度も言わせないでくれ! 僕は反対だからな!

 

 

ココ:兄さん!

 

 

   (階段から降りてくるシェリル。すれ違いざまにシェリルとぶつかるニコ)

 

 

シェリル:うわっ、なになに? どうしてんニコ?

 

 

ニコ:すまない、シェリル。一人にさせてくれ。

 

 

シェリル:……はあ。

 

 

   (間)

 

 

ココ:……兄さん。

 

 

シェリル:なぁ、ココ。何が起きてんの?

 

 

ココ:……いえ、これは私たち兄妹の話です。

 

 

シェリル:ふぅん。身内の話ねぇ。
     そんな兄妹同士の個人的な話……それも喧嘩なんてこんなところですなや。
     子供たち怖がって泣いてるやないの。

 

 

ココ:あ……。

 

 

シェリル:取りあえずココ、自分の部屋行って落ち着きぃ。

 

 

ココ:は、はい。

 

 

エストリア:ありがと、シェリー。

 

 

シェリル:ん。……なぁエスト。ココとニコってよく喧嘩すんの?

 

 

エストリア:普段は仲良いんだけど、たまにあんな風に喧嘩してる。

 

 

シェリル:そうなんや。ありがとな。
     せや、エスト。他の子供たち、お願いしてもええ?
     

 

エストリア:へへっ、任せてよ。

 

 

   (シェリル、木製の階段を上り、ココの部屋に入る)

 

 

シェリル:やっほー、ココ。失礼するでー。はい、お水。

 

 

ココ:……ありがとうございます。(水を飲む)

 

 

シェリル:落ち着いた?

 

 

ココ:はい。あんな話、子供たちの前でする話ではありませんでした。

 

 

シェリル:そんなに酷い内容なん?

 

 

ココ:いえ、正確には私の将来の話なんですが……。

 

 

シェリル:ココの将来? そういや聞いたことなかったな。
     何かなりたいもんでもあるんか?

 

 

ココ:はい。実は私、この国の軍人になろうと思ってるんです。

 

 

シェリル:軍人!? ココっぽくないというかなんて言うか……。
     にしても何でまた。

 

 

ココ:シェリー……。あなたの国が滅びた原因は知っていますよね。

 

 

シェリル:ライン……。おとぎ話とか伝説で出てくる怪物……。

 

 

ココ:そう。私はラインを危険視していますが、この国では気にも留められていません。
   シェリーの国、ランディールが滅んだのだってラインが滅ぼしたなんて信じられていないほどです。

 

 

シェリル:そうなんや。

 

 

ココ:それなのに、他国と戦争をし、領地と財産を奪い取るしか考えていないこの国を……
   私は変えたいのです。勿論そんなに簡単なことではありませんが……。

 

 

シェリル:ニコは何て言ってるん?

 

 

ココ:孤児院の経営のこととか、フランチェスカ家の存続とか……
   後は現実的に女が軍人になるのは難しいとか言ってました。

 

 

シェリル:まあそうやろな。……でもニコとしては妹を危険な目に合わせるのが一番嫌なんやろ。

 

 

ココ:……。

 

 

シェリル:諦めるって道は?

 

 

ココ:……(首を横に振る)

 

 

シェリル:そっか。わかった。

 

 

ココ:どこいくのですか?

 

 

シェリル:ニコと話してくる。

 

 

ココ:え、ちょっと――

 

 

   (場面転換:ニコルディアの部屋)

 

 

ニコ:……はぁ。

 

 

   (勢いよく部屋の扉が開く)

 

 

シェリル:シェリルちゃん、登場!

 

 

ニコ:……シェリルか。何しに来たんだい?

 

 

シェリル:ニコと話しに。

 

 

ニコ:特に話すことなんて……。

 

 

シェリル:まあまあ。……よいしょっと。(ニコの隣に座る)
     なあ、ニコは夢とかあるん?

 

 

ニコ:何かと思えばそんなこと……。
   ……そんなこと考えたことなかったな。
   今まで孤児院と家を存続させるために必死だったから。
   強いて言うなら、子供たちが成長してこの家を旅立つのを見ること、かな。

 

 

シェリル:素敵な夢やね。兄妹二人で見れるといいなぁ。

 

 

ニコ:……シェリルもね。

 

 

シェリル:ウチ、そんな何年もおれへんよ。

 

 

ニコ:いてくれないのかい?

 

 

シェリル:……えへへ、嬉しいこと言ってくれるなぁ。

 

 

ニコ:じゃあシェリルは?

 

 

シェリル:ウチの夢はつまらんよー。

 

 

ニコ:聞かせてくれるかい?

 

 

シェリル:暖かいご飯とふかふかのベッド、楽しい家庭。そんだけ。

 

 

ニコ:それって……。

 

 

シェリル:うん。ウチの夢、もう叶ってんねん。ニコとココが叶えてくれたんや。

 

 

ニコ:……。

 

 

シェリル:ウチの夢も、ニコの夢も、全部平和があってのことやない?
     ココは平和のために軍人になってウチらの夢を繋げてくれてんのやと思うねん。

 

 

ニコ:つまるところココの夢を認めろってことかい?

 

 

シェリル:駄目?

 

 

ニコ:……いや。なんていうか、その……。
   ……うん、僕も意固地になってたみたいだ。
   ありがとう、シェリル。ココに謝ってくるよ。

 

 

シェリル:ほんま?

 

 

ニコ:本当さ。……まだ完全に認めることは難しいけど、少しずつ、話していこうと思う。

 

 

シェリル:そっか。うん、いいと思う。
     応援してるでー!

 

 

―――――――――――
【シーン10 裏側①】

 

   (国も場所も分からぬとある場所。)

 

 

謎の男(サ):戦争? 陛下は何を考えているのだ!

 

 

ギルティア:まあまあ、落ち着けよダンナ。
      もうあの国はアンタの国じゃないんだぜ?

 

 

謎の男(サ):これが落ち着いていられるか。今は人間同士争っている場合ではないのだ!
     くっ、私がいればこんなことにはさせなかったのに……

 

 

ギルティア:はぁ、愛国心ってやつかねぇ。

 

 

謎の男(サ):賊上がりの貴様には分からんだろう。

 

 

ギルティア:あぁ、分かんねえな。てか俺はダンナと口喧嘩しにきた訳じゃねぇのよ。
      今日の任務だ。(任務内容が掛かれた紙を渡す)

 

 

謎の男(サ):複数の地域にラインが出現しているのか……。
     やはり戦争なぞしてる場合ではないな。
     私は……やはりゴアス帝国ではないのか。

 

 

ギルティア:帝国の担当は俺だ。ついでに新しい仲間を見つけてこいってよ。

 

 

謎の男(サ):そうか……。国を……頼んだぞ。

 

 

ギルティア:はいよ、ヘマしてダンナにどやされたくないんでね。
      ダンナこそ、国のこと考えすぎて下手こくなよー。

 

 

謎の男(サ):かつてゴアスの戦神と呼ばれたこの私、見くびってもらっては困るな。

 

 

ギルティア:そりゃ頼もしいこって。
 

―――――――――――
【シーン11 しぇりとにこ】

 

 

ナレ:いつもと同じように夕飯の買い出しを任されたシェリル。しかし、今日は珍しくニコと一緒だ。
   二人は大きな紙袋を抱えながら、屋敷までの帰り道を並んで歩いている。

 

 

シェリル:へっへっへー。

 

 

ニコ:どうしたんだい? シェリル。

 

 

シェリル:いや、ニコとこうやって買い出し行くの初めてやから嬉しいねん。

 

 

ニコ:それは光栄だね。まあこんな大荷物、いつもシェリルとココに任せるわけにはいかないからね。

 

 

シェリル:見た目と違って男らしいねんな、ニコって。

 

 

ニコ:これは手厳しいな。そんなに情けなく見えるかい?

 

 

シェリル:どっちかというとニコは力仕事より書類書いてるのが似合うからなぁ。

 

 

ニコ:まあ間違っていないけどね。僕だって男だ、力だってあるさ……多少ね。

 

 

シェリル:ははは、ニコは正直やなぁ。そんなところがまたいいんやけどね。

 

 

ニコ:正直といえば君も人の事を言えないだろう? よくスリ続けれたものだよ。

 

 

シェリル:なにをー!

 

 

ニコ:あははは。……うん?

 

 

シェリル:なんや、あれ?

 

 

   (二人は視界の先が騒がしいのに気付く)

 

 

ニコ:取りあえず見に行ってみよう。

 

 

シェリル:うん。

 

 

   (たどり着いた先には、人ごみの中心に少年が新聞を配っていた)

 

 

子供(コ):号外ー! 号外ー!

 

 

ニコ:なるほど、そういうことか。一枚もらえるかい?

 

 

子供(コ):はい、どうぞ。

 

 

シェリル:なあニコ。ウチにも見せて!……なになに。ゴアス帝国、戦争準備? 相手は西の大国……。
     なんやって!?

 

 

ニコ:これは一大事だな。早く家に帰ってココに知らせてあげよう。

 

 

   (シェリルたち、帰宅。暫く間。)

 

 

シェリル:ココ! 一大事や!

 

 

ココ:……シェリー……。兄さんが……

 

 

ニコ:え、僕?

 

 

シェリル:ニコ? ニコがどうしてん?

 

 

ココ:これ……。今日届いたの。

 

 

ニコ:なんだいこの紙? ……これは!?
   

 

シェリル:ちょっとニコ! どうしたん!? 顔色悪いで!?

 

 

ニコ:ちょ、徴兵令が出た。対象は15歳から25歳の男。……僕も徴兵の対象だ。

 

 

シェリル:そんな。

 

 

貴族(サ):どうも、失礼しますぞ。

 

 

シェリル:あんた……!

 

 

貴族(サ):やあお嬢さん、この間は素敵なパンチ、ありがとう。
      それより徴兵令が出たそうですな。

 

 

ニコ:……まさか、お前が。

 

 

貴族(サ):はっはっは、何のことですかな? まあどうであれ、これは国の決定だ。
      拒否すれば国に対する反逆者として扱われることになる。

 

 

ニコ:くっ……!

 

 

ココ:あのっ!

 

 

貴族(サ):あなたは、ニコルディア君の妹君、ココレット嬢ですね。
      何かご意見でもおありかな?

 

 

ココ:兄は亡き父の代わりにこの家を切り盛りしてきました。
   その兄が兵士となっていなくなるのは困ります!

 

 

貴族(サ):貴女の言い分はわかります。しかし、これは国の決定なのですよ。
      どうしようもありません。
      そうですね、私がフランチェスカ家の面倒を見れば解決しますが。

 

 

ココ:それは……。

 

 

シェリル:あんたまだそんなことを!

 

 

ニコ:二人とも、もういい。

 

 

貴族(サ):おや、覚悟を決められましたかな?

 

 

ニコ:あぁ。ココ、シェリル、この家を頼む。

 

 

貴族(サ):はっはっは、貴族から反逆者が出なくて私は嬉しいですよ。
      なぁに、おそらく一・二年で解放されるでしょう。
      ……それまで生きていればの話ですが。

 

 

ニコ:今日はわざわざ情報を知らせてくれてありがとう。
   僕は準備があるのでこれで。

 

 

貴族(サ):お役に立ててなによりです。では――

 

 

ニコ:僕は君の思い通りにはならない。

 

 

貴族(サ):そうですか、では頑張って生き残ってください。くくく。

 

 

   (扉が閉まると無音が響く)

 

 

ニコ:そういう事だ。僕は国のために戦ってくるよ。

 

 

シェリル:あいつの言いなりになるんか、ニコ……?

 

 

ニコ:国の命令なら従わざるを得ないよ。
   徴兵を拒めば、この家、子供たちやシェリルたちも危険が及ぶ。
   ……分かってくれ。

 

 

ココ:兄さん……。

 

 

シェリル:出発はいつやの?

 

 

ニコ:三日後。三日後にゴアス城城門前に集合になってる。

 

 

シェリル:そか……。寂しくなるな。

 

 

ナレ:ニコルディアはその三日間、ココに自分がいない間のフランチェスカ家のことを打ち合わせ、
   今まで以上に子供たちと触れ合った。そして出発の日の早朝――

 

 

ニコ:行ってきます、皆。

 

 

シェリル:やっぱりこっそり出発するんやね。

 

 

ニコ:皆の顔を見たら泣いてしまいそうだからね。

 

 

シェリル:涙みせたくないから一人で行くんか。ずるいわ。ホンマずるい。

 

 

ニコ:……シェリル。

 

 

シェリル:ウチらは涙を見せてもええからニコを送りたかったのに……。

 

 

ニコ:ごめん。(シェリルに背を向け、歩いていく)

 

 

シェリル:ニコ!

 

 

ニコ:シェリル。よく聞いてほしい。多分……僕はもうここには帰ってこれないと思う。
   だからこそ、少しでも皆の心を縛らせたくないんだ。
   だからシェリル、さようなら。

 

 

   (ニコ、去る。一人残されたシェリルはつぶやく)

 

 

シェリル:ニコのバカ。ウチらだって覚悟はしてんねん。
     それでも笑って送ってあげたかったんや……

 

 


――――――
【シーン12:裏側②】

 

 

ギルティア:あーあー、ラインがこの国を襲いに来るまで何しろってんだ。
      腹も減ったし眠いし……。
      全く、ここに来るぎりぎりまで任務ぶっ込むんだから俺らのボスも人使いが荒いぜ。

 

 

おじさん(サ):そこの兄ちゃん。眼帯の兄ちゃん!

 

 

ギルティア:あ? 俺?

 

 

おじさん(サ):そうそう、品物、見ていかないかい?

 

 

ギルティア:そうだなぁ、ちょうど腹減ってたし、見せてもらおうか。

 

 

おじさん(サ):なんだ、腹減ってんのか。うちの野菜はうめぇぞ。なんだって貴族様御用達だからな。

 

 

ギルティア:俺、肉の方が好きなんだがなぁ。まあいいや、金もそんなに持ってないし、適当に袋に詰めてくれや。

 

 

おじさん(サ):はいよ。

 

 

ギルティア:……なあ、おっさん。ここらで大きい家とか無いか?
      あとできれば行き方も教えてくれ。

 

 

おじさん(サ):大きい家? そうだな、一番近い家だったらフランチェスカ家だな、貴族の。
        そのまま街道をまっすぐ進めば他の家より大きい屋敷が見えてくるから、
        それを頼りに進めばいいよ。

 

 

ギルティア:ありがとよ。あと、これ代金な。

 

 

おじさん(サ):はいはい。今後もよしなにー。

 

 

ギルティア:貴族フランチェスカ、ねぇ。いかにも貴族ーって感じな名前だな。
      いいねぇ、貴族みたいな派手な生活したいぜ。
      ……てかこの野菜うめぇわ。うん、マジうまい。

 

 

   (しばらく、歩行音)

 

 

ギルティア:さーて、ついた。んじゃ勝手に忍び込んで仮眠でも取らせてもらいましょーか。
      ……って、なんだここ。確かに屋敷だけど、ボロッボロじゃねえか。
      まあいいや、邪魔するぜー。

 

 

 

―――――
【シーン13:来訪者】

 

 

ココ:兄さんへ。体調はいかがですか。怪我はしていないですか。
   私たちは元気にやってます。
   兄さんがいなくなってから早半年、色々変わったことがあります。
   子供たちが積極的に家事を手伝ってくれるようになりました。
   包丁は危ないので、まだ持たせられないですが。
   そうそう、包丁と言えば、シェリーが頑張って料理を覚えたんですよ。
   「ニコがいない分ウチらが頑張らな」っていって今まで以上に元気に頑張ってくれてます。
   だから、早く兄さんも帰ってきてください。

 

 

シェリル:ココー、洗濯終わったでー。

 

 

ココ:ありがとうございます。疲れたでしょう? 少し休んでください。

 

 

シェリル:ん。そうさせてもらおかな。……ニコに手紙書いてたん?

 

 

ココ:はい。返事が返ってくるのは遅いですが、なんとか生き残ってるみたいです。

 

 

シェリル:さよか、それだけでも安心するわ。
     はよ帰ってこれるとええな。

 

 

ココ:そうですね……。

 

 

エストリア:大変大変大変!

 

 

   (そういいながら慌ただしく部屋に入ってくるエストリア)

 

 

シェリル:どないしてん、エスト。

 

 

エストリア:とにかく大変なの! ココ、シェリー! とにかく来て!

 

 

シェリル:ここって……倉庫やな。なんや、虫でも湧いたんか?

 

 

エストリア:あれ……。

 

 

ナレ:エストリアが指差した先には、洗濯済の布団や衣服の山。よくよく見てみるとその中から人間の足が見える。
   誰かが寝ているようだ。

 

 

ギルティア:ぐごー……。

 

 

シェリル:あー! せっかく洗濯したのに!

 

 

エストリア:そうじゃないよ! 知らない人がいるの!

 

 

ココ:……ここらじゃ見かけない服を着てますね。
   エスト、危ないから下がってなさい。

 

 

エストリア:う、うん……。

 

 

ギルティア:ふわぁ、うるせぇな。せっかく人が気持ちよく寝てんのに……って誰だオメェら?

 

 

シェリル:それはこっちのセリフや、おっさん! せっかく洗った服をめちゃくちゃにしよって!

 

 

ギルティア:お、おっさん!? こう見えても30の男に向かっておっさん呼ばわりだと!?

 

 

シェリル:十分おっさんやんか。

 

 

ココ:ところでおじさん、ここの国の人ではないんですか?
   この国の人だったら徴兵されてるはずですし。

 

 

ギルティア:おいおい、せめて名前で呼んでくれよ。俺にゃぁギルティアって名前があるんだ。
      あと、そこの嬢ちゃんが言った通り俺はこの国の人間じゃない。

 

 

シェリル:じゃあなんでこんなのところに……。

 

 

ギルティア:それは――

 

 

   (突如、外から悲鳴が聞こえる)

 

 

シェリル:な、なんや!? 悲鳴!?

 

 

ギルティア:あー、説明する必要が省けたな。
      おじさん、ちょっと仕事してくるわ。

 

 

ココ:あ! ちょっと、ギルティアさん!

 

 

ナレ:シェリルたちが外に出てみると、いかにも獰猛そうな獣の怪物が今まさに街の住民を襲おうとしていた。

 

 

ココ:これは……。

 

 

シェリル:ライン……!

 

 

ギルティア:下がってな、嬢ちゃんたち。

 

 

ナレ:咆哮し、襲い掛かってくるラインに、ギルティアはナイフを操って斬り伏せる。


ギルティア:へっ! 大したことねえな!
      ……とまあ、こんな感じで俺らはラインを倒す仕事をしてんだ。
      正義のヒーローってやつだな。

 

 

シェリル:すごいな、おっさん! 見直したで! ほんま正義のヒーローに見えてきたわ。

 

 

ギルティア:だからおっさんって……。まあいいや、これで洗濯物のことはチャラだな。

 

 

シェリル:む。しゃーないなぁ……。全部洗いなおしてくれたら許したるわ。

 

 

ギルティア:マジかよ……容赦ねえな。

 

 

ナレ:皆が安心したのも束の間、ラインの咆哮が木霊する。振り返ると、ココレットの後ろからラインが迫ってきている。

 

 

ココ:え……?

 

 

ギルティア:ちっ! まだいたか! 嬢ちゃん!

 

 

シェリル:危ない、ココ!

 

 

ナレ:一瞬のうちにギルティアのナイフを奪い、ラインの喉元につきたてる。
   ラインは断末魔を上げ、地面に崩れ落ちる。しばらく体をうねらせていたが、やがて動かなくなった。

 

 

シェリル:大丈夫か、ココ?

 

 

ココ:あ、ありがとう、シェリー……。

 

 

ギルティア:変なしゃべり方の嬢ちゃん、やるじゃねえか。
      ラインを倒したのもスゲエが、俺の武器一瞬にしてスリやがったな。
      大した技術だ。

 

 

シェリル:褒められても嬉しないわ。

 

 

ギルティア:素直に褒めてんだがなぁ。まあいいや、やっぱり増えてきたな。

 

 

シェリル:ラインのこと?

 

 

ギルティア:そうそう。俺がこの国に来たのも、大量のラインがこの国に現れるって話を聞いたからなんだ。

 

 

ココ:大量のライン!?  皇帝陛下にお伝えしないと!

 

 

ギルティア:そりゃ無理だろ。なんせ皇帝サマは戦争に夢中だからな。
      それに伊達に大陸一の軍事力を誇ってない。
      ラインくらいなら簡単に倒せるとでも思ってんだろうよ。

 

 

ココ:じゃあどうしたら……。

 

 

ギルティア:だからこうやって裏で俺たちが動いてんの。

 

 

シェリル:でも人ひとりで大量のラインをどうこうできんやろ。

 

 

ギルティア:まあそりゃそうだ。普通の人間ならな。

 

 

ココ:……?

 

 

ギルティア:おっと、喋り過ぎるのは俺の悪い癖だ。んじゃ、俺は失礼するぜ。

 

 

シェリル:……なんや、台風みたいなやつやなぁ。

 

 

ココ:それにしても、やっぱりラインのことは放っておけないですね。
   兄さんにも手紙で注意を促しておきますね、

 

 

シェリル:ん、それがええ。……ニコ、元気にしてるんかな。
 

――――
【シーン14:変動】

 

   (ゴアス帝国と西の大国の国境線。兵士詰所)

 

 

ニコ:……いつまで続くんだ、こんな戦争。

 

 

兵士(ギ):なんだ、ニコ。今更そんなこと言ってんのか。
      そんなこと考えてちゃ剣筋が鈍るぜ。
      俺たちは余計なことを考えずただ目の前の敵を倒せばいいんだ。
      そうすれば家に帰ることができる。

 

 

ニコ:……今は人間同士争ってる場合じゃないのに。
   他国と協力してラインの脅威に対抗しなければ……。

 

 

兵士(ギ):ライン!? あんな畜生共、放っておけばいいだろ?

 

 

ニコ:君はラインの恐ろしさを知らないのか!?
   ランディール王国がラインによって滅ぼされたのも。

 

 

兵士(ギ):別に知らないわけじゃない。だが、ラインに滅ぼされたってのは噂だろ?
      誰もその場を見たわけじゃないんだ。
      他にもクーデターで滅んだって噂も聞いてるぜ。

 

 

ニコ:……何で誰も難民の言葉を信じてくれないんだ……。

 

 

兵士(ギ):ん? どうした?

 

 

ニコ:いや、何も……。

 

 

兵士(サ):敵の動きが変わった。戦闘準備にかかれ!

 

 

兵士(ギ):だとよ。ニコ、お前さんも早く家に帰りたいんだろ?
      取りあえず今は戦うぞ。

 

 

ニコ:……あぁ。

 

 

   (敵の数は今までの小戦闘の比ではなかった。どうやら西の大国は本気で殲滅する気らしい)
  ゴアス帝国軍は苦戦を強いられていた)

 

 

兵士(サ):くそっ! 思った以上に手ごわい。増援を要請しろ!

 

 

兵士(ギ):はっ!

 

 

ニコ:西の大国も何を考えているんだ……? 今の状況が分からないのか……?

 

 

兵士(ギ):司令官! 側方より何か迫ってきています!

 

 

兵士(サ):こちらの援軍か? いや、早すぎる……。となると敵の増援か!
      えぇい、敵の軍事力を侮っていたわ。

 

 

ニコ:いや、違う! あれは……ラインだ!

 

 

   (ラインは敵国の兵士たちに襲い掛かる。予期せぬ襲来に敵国兵士は叫び声を上げながら、
    隊列を乱し、散り散りに逃げ惑っている)

 

 

兵士(ギ):ラインがこっちにも向かってきています!

 

 

兵士(サ):くっ、ただでさえ消耗しておるのに! 全軍! 突撃せよぉ!

 

 

ニコ:あぁ……。

 

 

ナレ:勇猛果敢に雄たけびを上げながらラインと敵国兵士たちを斬り捨てていくゴアス帝国軍。
   しかし、最初から勝敗は分かっていた。見る見るうちに兵士たちは獣に蹂躙されていく。
   帰るべき家があるのに、待っている人がいるのに無残な死を遂げていく同胞を、
   ニコルディアはただただ見つめていた。

 

 

ニコ:こんなことのために僕たちは……。
   他に方法があったはずなのに……。

 

 

   (ニコの前にラインが立ちふさがる)

 

 

ニコ:ごめん、ココ、シェリル。僕はやっぱり……帰れそうにないや。

 

 

   (SE:獣に襲われる音。そのままSE、ME→FO)

 

ナレ:ラインの襲撃によって前線が壊滅したことは瞬く間に国内に報じられた。
   これをきっかけにゴアス帝国と西の大国との戦争は休戦となったが、
   帝国軍の戦力は大幅に低下した。

 

 

   【場面転換:墓地】

 

 

シェリル:ニコ……。おはよ。今日も来たで。
     はい、お土産。

 

 

   (シェリルは花束を墓前に捧げ、屈みこむ)

 

 

シェリル:ココな。あれからずっと元気ないねん。
     子供たちも心配してる。
     おかげでウチは大忙しや。
     皆を寂しがらせんようにスマイルスマイルーってな。

 

 

   (暫く間。SE:風が吹き抜ける音)

 

 

シェリル:……はぁ。悲しむ余裕すらくれんのやもん。
     ホントはウチだってすっごい寂しいんよ?
     ニコの顔も見たいし、声だって聞きたい。

 

 

シェリル:なぁ、ニコ。あんた、本当は死んでないんやないの?
     いつかふらっと帰ってきそうな気がすんねん。
     ……手紙一枚でニコが死んだなんて信じたくない。
     いくらラインが危険やからって遺体くらい回収させてくれてもいいやろ。
     そのほうがまだ、諦めがつくわ。

 

 

シェリル:んじゃね、ニコ。ココたちも心配やし、ウチ帰るわ。
     また会いに来るからなー。

 

 

 

―――――――
【シーン15:家出】

 

エストリア:ココ……。

 

 

ココ:あらエスト。眠れないんですか?

 

 

エストリア:……ココ、軍人さんになるの?

 

 

ココ:え? と、突然どうしたんですか?

 

 

エストリア:ずっと前から気になってて……。

 

 

ココ:あ……。

 

 

エストリア:ニコもいなくなって……ココまで。あたしたちを捨てるの?

 

 

ココ:ふふ、捨てませんよ。

 

 

エストリア:そうなの?

 

 

ココ:えぇ。あなたちが大きくなって旅立つまで、一緒にいますよ。

 

 

エストリア:……それって軍人さんになるのは絶対ってこと?

 

 

ココ:……さぁ、もう夜は遅いですから寝ましょうか。おやすみなさい、エストリア。

 

 

エストリア:……ココ!

 

 

   (翌日)

   (SE:皿が割れる音)

 

 

ココ:エスト!

 

 

エストリア:なんで分かってくれないの!?
      あたしは……あたしたちはただ皆で一緒に暮らしたいだけなのに!
 

 

ココ:……。

 

 

エストリア:ココの馬鹿!(エストリア、走る)

 

 

ココ:エスト! 待ちなさい!

 

 

ナレ:ココレットはゴアスの町中を探し回った。民家の中、表通り、そして裏通り。
   住処を失った物乞いや浮浪者が多い裏通りは、かつて兄ニコルディアからも近づかないように言われていた。
   しかしそれでも、エストリアがいるかもしれないと思うと、足を踏み入れていた。

 

 

ココ:ここにもいない。一体どこにいったの……エスト。

 

 

ゴロツキ(ニ):よぉ、おねーちゃん

 

 

ココ:……何か?

 

 

ゴロツキ:つれない反応だねぇ。なぁ、可哀想な俺に何か恵んでよ。

 

 

ココ:生憎私たちも生活に困ってます。失礼します。

 

 

ゴロツキ(ニ):おっとぉ。(ゴロツキ、ココレットを壁側に追いやる)

 

 

ココ:きゃっ!? 

 

 

ゴロツキ:知ってるんだぜぇ? あんた、フランチェスカの人間だろ?
     話聞くとフランチェスカ家ってのは結構な貴族様なんだろ?

 

 

ココ:離して! 離してください!

 

 

ゴロツキ(ニ):乱暴はしねぇよ。ただ、持ってる金を少し分けてもらうだけでいいんだ。
        身寄りのないガキ共を養ってるんだろ? 俺たちみたいなはぐれ者よりは持ってるに決まってる。

 

 

ココ:嫌……。誰か……シェリー……。

 

 

   (突如、ゴロツキが倒れる。その後ろには大柄の男が立っていた。どうやら殴り倒したらしい)

 

 

サネル:大の男が女の子に恐喝とは情けないと思わないのかねぇ。

 

 

ゴロツキ(ニ):くっ……痛ぇ……。誰だぁてめぇ? 

 

 

サネル:誰かって? 世間知らずな野郎だな。
    まあゴロツキに名乗るほど俺の名前は安くねぇんだ。

 

 

ゴロツキ(ニ):けっ、舐めやがって! うおりゃぁ!(攻撃)

 

 

サネル:ほっ!(回避) ふん!(攻撃)

 

 

ゴロツキ(ニ):ぎゃっ! くっ、くそ! 覚えてやがれ!

 

 

サネル:捨て台詞まで小物だな。さーて、大丈夫か?

 

 

ココ:ありがとうございます。でも、あなたは……?

 

 

サネル:や、失礼。偶然通りかかったんだが、何やら穏やかじゃなかったんでな。

 

 

ココ:はぁ。

 

 

サネル:まぁ、ここはゴロツキが多い。場所を移すか。

 

 

   (場面転換、公園)

 

 

サネル:――それで、そのエストリアって子供が家出して探すため走り回っていたのか。

 

 

ココ:……はい。

 

 

サネル:なんか喧嘩でもしたのか?

 

 

ココ:エストは……エストリアは私が軍人になることを反対していて……。
   それで今朝、家出を……。

 

 

サネル:ほう? 女が軍人になるのも珍しいな。でもなんでまた。

 

 

ココ:……私たちが真に戦うべき相手と戦うためです。

 

 

サネル:……ラインか。

 

 

ココ:はい。今回の戦争でも人間同士の戦いばかりに目を向け、ラインを過小評価した結果、
   たくさんの人たちが命を散らしました。

 

 

サネル:……。

 

 

ココ:私の兄は今回の戦争に駆り出され、無念の死を遂げました。
   私の親友、そして子供たちは祖国や親、数えきれないほどの多くの物を失いました。
   そんな人を、悲しみを、私は増やしたくない……

 

 

サネル:ふむ。別に君がしなくても、他の誰かがやるだろう?

 

 

ココ:誰かがやる……昔はずっとそう思っていました。

   でも、そう信じていた結果、あの戦争の大参事が起きたんです。

 

 

サネル:軍人になって、ラインと戦うのか?
    女のお前さんが。

 

 

ココ:……。

 

 

サネル:あぁ、失礼。別に女だからって差別をするつもりじゃないが、ちょっと難しいんじゃないか?

 

 

ココ:兵士では上に意見を通すことも難しいですし、
   確かに貴方の言うように女の私には力がありません。

 

 

サネル:じゃあ――

 

 

ココ:司令官になります。

 

 

サネル:へぇ、司令官か。確かに司令官だったらできなくはないか。
    過去にも女の司令官は在任していたし……。
    ……だが、口に出すのは簡単だが、その地位に就くのは難しいぜ?
    君が考えている何倍もな。

 

 

ココ:はい、覚悟しているつもりです。

 

 

サネル:まあ、あんたの目は本気みたいだ。なれるなれないは置いておいて、
    挑戦してみるといいんじゃないか?

 

 

ココ:……はい!

 

 

サネル:んじゃあな、あんたの覚悟が本当で、どうしても越えられない壁があったら俺に相談しな。
    少しばかり力になるぜ。

 

 

ココ:あ、ありがとうございます。

 

 

サネル:そういえば、名乗ってなかったな。
    俺はサネル。この地域――ゴアス帝国南部地域を担当してる司令官だ。

 

 

ココ:え!?

 

 

サネル:じゃあな、機会があったらまた会おう、未来の司令官様。
    子供、見つかるといいな。

 

 

   (場面転換、フランチェスカ家)

 

 

ココ:結局……見つからなかった……。
   エスト、お願いだから無事でいて……。

 

 

シェリル:あー、ココ! どこにいってたんや、心配してたで?

 

 

ココ:シェリー……。すみません、エストが……。

 

 

シェリル:エスト? エストなら戻ってきてるで?
     今は疲れて部屋で寝てるけど。

 

 

ココ:え!? どうして?

 

 

シェリル:いやな、なんか変なカッコのにーちゃんがエストを背負って連れ戻しに来てくれてん。
     ……そういや、ギルティアのおっさんと同じような服やったなぁ。

 

 

ココ:そうですか……。本当によかった。

 

 

シェリル:まぁ、エストもいずれ分かってくれる時があるやろ。
     さ、ココも走り回って疲れたやろ。お風呂でも入ってゆっくり休みー。
     

 

―――――
【シーン16:転換点】

 

シェリル:おっちゃん、これちょうだい!

 

 

おじさん(サ):はいよ、いつもありがとな。
        それにしてもシェリルの嬢ちゃん、相変わらず元気がいいな。

 

 

シェリル:へへ、元気だけがウチの取り柄やからなー。

 

 

おじさん(サ):そんな、あんたにおまけしてやろう。

 

 

シェリル:うわぁ、美味そうなリンゴ! ありがと、おっちゃん! 大好き!

 

 

おじさん(サ):いいってことよ。どうせ、人も来ないから腐らせるのがオチだからな。
        物売って生活する俺らにとっちゃ、たまったもんじゃねえよ。
        くっそーラインめ。

 

 

シェリル:賑やかやったこの街も静かになってしもうたなぁ

 

 

おじさん(サ):全くだよ。ここで店開いてるのも俺と向かい側の武器屋のジジイくらいだからな。

 

 

シェリル:……。

 

 

おじさん(サ):まあ、話はこれくらいにしておくか。最近じゃぁ、ラインに襲われる事件も少なくないからな。
        子供たちも腹空かせて待ってるだろう?

 

 

シェリル:せやな。おっちゃんも気をつけてなー。

 

 

おじさん(サ):はいよー。

 

 

   (帰宅途中、雨が降り出す)
     

 

シェリル:雨か……。なんやろ、すごい……嫌な雨。

 

 

女性(コ):キャー!

 

 

   (突如女性の叫び声が聞こえるとともにラインがシェリルの目の前に飛び出してきた)

 

 

シェリル:ライン!? くっそ! こんな時に!

 

 

ナレ:獣のラインがシェリルに飛びかかろうとした瞬間、ラインは違う方向に飛んでいった。
   いや、それが吹き飛んでいったと表現した方が正確だった。

 

 

シェリル:……え?

 

 

ナレ:何が起きたか分からず茫然としていると、目の前から見知った男が歩いてきた。
   ……ギルティアだ。彼は今までの様にヘラヘラとしていなかった。眉間にしわを寄せ、
   さらには両手にはナイフを握りしめていた。

 

 

シェリル:……ギルティア?

 

 

ギルティア:……変なしゃべり方の嬢ちゃん。あんた、まだいたのか。
      逃げろって言ったじゃねえか。

 

 

シェリル:……子供たちを、皆を放っておいてウチだけ逃げれるわけないやろ。

 

 

ギルティア;今、何が起こってるか理解してねぇようだな。

 

 

シェリル:ラインが襲ってきたんやろ?

 

 

ギルティア;そうだな。前にも言ったようにラインの総攻撃が始まったんだ。
      今、文字通りゴアス帝国は戦力をかき集めて戦っている。

 

 

シェリル:……。

 

 

ギルティア:そんな中、あんたは何してんだ?
      逃げるのは冗談にしても、孤児院に戻らなくていいのか?

 

 

シェリル:……まさか!?

 

 

ナレ:シェリルは駆け出した。自分の家に。親友と大切な家族たちのもとへ。
   正直彼女は国がラインに襲われたとしても、孤児院だけは無事だと思っていた……。
   今となっては人気が全く無くなってしまった路地を彼女は走る』

 

 

シェリル:お願いや! ココ! エスト! 皆! 
     お願いやから無事でいて!

 

 

ナレ:自分が知らない間に周囲は目を覆いたくなる光景に変わっていった。つい先刻まではいつもと同じ風景だったのに。
   家は倒壊、炎上し、住民は瓦礫の下、逃げる者はラインの餌食、まさに地獄絵図の光景であった。

 

 

シェリル:そ、そんな……こんなのって!

 

 

ギルティア:こいつぁ派手に燃え上っちまってやがる。

 

 

ナレ:フランチェスカ邸は派手に炎に包まれていた。中から人の声も、
   ラインの雄たけびすら聞こえない。その無音がさらにシェリルの不安を掻き立てる』

 

 

シェリル:くっ!(建物の中に入ろうとする)

 

 

ギルティア:おい、やめろ! 自殺する気か嬢ちゃん!?

 

 

シェリル:ココたちがまだ中にいるかもしれないんや!

 

 

ギルティア:いないかもしれねぇだろ!

 

 

シェリル:それでもいく!

 

 

ギルティア:あぁ待て! くっそ!(慌ててシェリルを追う)

 

 

ナレ:予想してた通り、屋敷の中にも火は回っていた。入れる部屋は少ない。
   しかし、シェリルは燃える扉にも手をかけ、一部屋一部屋自分たちの家族がいないか確かめていく。
   たとえどんなに手が焼けようが、髪が焦げようが彼女は絶対に探し続けた。

 

 

シェリル:熱っ! この部屋にもいない……。ココー! どこやー!?

 

 

ギルティア:まぁーったく、中にラインがいるかもしれねぇのに。
    武器も持たずによくやるぜ。

 

 

シェリル:……ギルティア。

 

 

ギルティア:あの嬢ちゃんがいる場所は検討はついてんのか。

 

 

シェリル:手伝ってくれるんか?

 

 

ギルティア:このまま見殺しにするのも後味悪いだろ。

 

 

シェリル:……うん! ありがと。さ、こっち!

 

 

   (間)

 

 

ギルティア:この先……人の気配がするな。おら、先いけ。

 

 

シェリル:え?

 

 

ギルティア:ここから先はあんたの世界だ。俺が立ち入っていいもんじゃねえ。
      大丈夫だ。その先にラインはいねぇ。あとラインが襲ってきても俺が防いでやるさ。

 

 

シェリル:……ありがとう!

 

 

ギルティア:……行ったか。どんな惨い結果が待っていても、折れるんじゃねえぞ、嬢ちゃん。

 

 

   (SE:扉を開く音)

 

 

シェリル:ココ!

 

 

ココ:シェ……シェリー……。
   来て……くれたんです……ね。

 

 

シェリル;当たり前や! ココ、傷が……。

 

 

ココ:私は大丈夫です……。それよりエストを……。

 

 

シェリル:他の皆は……?

 

 

ココ:……。

 

 

シェリル:……ココ?

 

 

ココ:……分かりません。離れ離れになってしまって。

 

 

シェリル:そっか……。

 

 

   (建物が崩れていく音)

 

 

ギルティア:おい! この家崩れ始めてるぞ!

 

 

シェリル:なんやて!? ココ、逃げよう!

 

 

ココ:……。

 

 

シェリル:……ココ? 嘘。はは、嘘やろ……?
     ちょっと、何寝てんのー。はよ逃げんとホンマ洒落にならんで。
     な、起きてぇや。

 

 

ココ:……。

 

 

シェリル:ココ! お願いやから目ぇ覚まして!

 

 

ギルティア:お、おい……。

 

 

シェリル:あんたが死んだら子供たちはどうするんや!
     軍人なって国変えるんやろ!? それもまだ叶えず死ぬんか!?     

 

 

ギルティア:落ち着け嬢ちゃん。……見せてみろ。
      なるほど……。息はしてるが……あんまよろしくねぇな。

 

 

シェリル:早いところ医者に見せないと!

 

 

ギルティア:俺がこの子を負ぶってやるから嬢ちゃんはそのガキンチョを運んでやれ。
      さ、いくぞ!

 

 

シェリル:うん!

 

 

ナレ:しかし、屋敷から出た二人を待っていたのは、数えきれないほどのライン。

 

ギルティア:はぁ、一難去ってまた一難ねぇ。……って何て数だよ。

 

 

シェリル:……は、はは……。ここまでかぁ……。ごめんな、皆。

 

 

ギルティア:おいおい、何言ってんだ嬢ちゃん。俺を誰だと思ってる?
      この前言っただろ。俺は普通じゃねぇって。

 

 

シェリル:ど、どういうこと……?

 

 

ギルティア:まぁ……見ときなって!

 

 

ナレ:ギルティアが両腕を勢いよく開いた瞬間、彼の周りに巨大な水の柱がどこからともなく湧き上がった。
   そしてゆっくりと手をラインに向けて翳す。水柱はまるで生きているかのごとく、ラインたちに襲い掛かる。

 

 

シェリル:ほわぁー、すっごい! ラインが一瞬にして流れていってもうた……。

 

 

ギルティア:へへっ、もっと褒めてもいいんだぜ?
      ……まっ、安心するのはまだ早いんだがな。

 

 

    (SE:獣の声)

 

 

ギルティア:野郎ども、数で押してきやがったか。こりゃ本気でゴアス帝国を落としに来てんじゃねぇか。

 

 

シェリル:ど、どないすんの?

 

 

ギルティア:おじさん、年だから一人じゃキツイかもなぁ。

 

 

シェリル:……じゃあ。

 

 

ギルティア:じゃあ、嬢ちゃんが戦えばいい。
      自分には戦えないって? そりゃ今の状態じゃ戦えないな。すぐにラインの餌食だ。
      だから俺が持ってるこの力、嬢ちゃんにも分けてやる。

 

 

シェリル:それなら……戦える?

 

 

ギルティア:ただし、代償は大きいぜ?
      人間を超える力を手に入れれるが、
      嬢ちゃんは俺たちの仲間となって死ぬまでラインと戦わなきゃなんねぇ。

 

 

シェリル:死ぬまで……。

 

 

ギルティア:さぁ、悩んでる時間はねぇぞ!
      皆仲良く死ぬか、誰かを守るために自分が犠牲になるか!

 

 

シェリル:あの時、路地裏でココたちに拾ってくれなかったら、今のウチはいなかった……。
     ココに助けてもらってなかったら、ウチはただのコソドロのままつまらん死に方をしてたんやと思う。
     ココも、ニコもエストも……皆がいてくれたから……ウチは――。

 

 

ギルティア:へへ、覚悟は決まってるようだな。

 

 

シェリル:今度は……ウチが皆を守る番や!

 

 

ギルティア:よく言ったぜ、嬢ちゃん! いくぞ!

 

 

シェリル:ああぁあぁあああああ!

 

 

ギルティア:……気分はどうだ?

 

 

シェリル:力が漲ってくる……。今なら、なんだってできる気がする!
     これ借りるで!

 

 

ギルティア:てめ、また俺のナイフ盗りやがって!

 

 

シェリル:そぉら!

 

 

ギルティア:ヒュー、まだ俺みたいに能力は扱えんだろうが、身体能力は絶好調じゃねぇか。
      よぉし! このままあの嬢ちゃんとガキ担いで一気に抜けるぞ!

 

 

シェリル:うん! どっけぇええええ!

 

 

ナレ:シェリルとギルティアは立ちはだかるラインを斬り倒しながら、ゴアスの街を駆け抜ける。
   二人が向かった先はゴアス城がある帝国の中心地。

   国の要点だからこそ、兵士たちによって厳重に警備が施されている。

 

 

ギルティア:ここなら、医者がいるかもしれねぇな。

 

 

シェリル:すみません!

 

 

医者(ニ):なんだ、騒々しい。

 

 

シェリル:こ、この子を看てくれへんか!?

 

 

医者(ニ):こっちもラインに襲われた怪我人を多く抱えてるんだ。
      順番を守ってくれないか……。

 

 

シェリル:でも! この子重傷なんや!

 

 

医者(ニ):……少し、見せなさい。
      ……なるほど、これは危険な状態だ。応急処置をしよう。

 

 

ギルティア:なんだよ、素直じゃねえな。最初からそうしてくれよ。

 

 

医者(ニ):こちらも全員を死なせないようにしているんだ。
      優先事項というものがある。それにあくまでも応急処置だ。
      私が本格的に治療できる時間を稼ぐための延命措置に過ぎない。

 

 

ギルティア:へーへー、そーですか。

 

 

医者(ニ):取りあえず、隣の部屋に寝かせておいてほしい。
      ……もう一人の女の子は幸い気を失っているだけみたいだ。
      少し休ませるだけで直に目が覚めるだろう。

 

 

  (SE:時計の音FI)

 

 

ギルティア:流石に、長いな……。

 

 

シェリル:……うん。

 

 

ギルティア:俺、ちょっくら出かけてくるわ。

 

 

シェリル:どこ行くん?

 

 

ギルティア:一服。おじさん、久しぶりの運動で疲れちゃったの。(去る)

 

 

シェリル:……。

 

 

   (SE:扉が開く音)
    

 

医者(ニ):ふー

 

 

シェリル:治療は!?

 

 

医者(ニ):心配しなくていい。治療は成功だ。ただ、お腹の傷が大きかった。
      服で隠れるとはいえ……傷跡は一生残るだろう。

 

 

シェリル:そっか……。でも、ココを救ってくれてありがとうな。
     ……部屋に入ってもええ?

 

 

医者(ニ):別に構わないが、揺らしたり傷に触れたりしないように。
      私は次の患者の治療に向かうから失礼するよ。(去る)

 

 

   (部屋に入る)

 

 

エストリア:シェリー!

 

 

シェリル:エスト! もう、目が覚めたんか!
     怪我は? どこも痛ないか?

 

 

エストリア:うん、あたしはヘーキ。
      でも、ココが……。

 

 

シェリル;大丈夫。お医者さんに治してもらったからな。
     今は疲れて寝てるだけや。

 

 

エストリア:よかった。……皆は?

 

 

シェリル:うーん……無事に避難したか、一緒に逃げてる大人に保護されたんとちゃうかな。

 

 

エストリア:そうだといいね……。

 

 

シェリル:……ココ。あの時、スリをしてたウチを路地裏から助けてくれてありがとう。
     あんまり態度には出してへんかったけど、ホントに……ホンットに嬉しかったんやで?
     故郷がラインに滅ぼされて、何年も盗みやスリをして生きてきた。
     家もない、家族も友達もいない。服も、まともな食事だってない。
     会話なんて、何年間もまともにしたことなかった。
     ……それを全部、ココたちは叶えてくれたんやで?

 

 

エストリア:……シェリー?

 

 

シェリル:ココ、ニコ、エスト……それに子供たち……
     ウチは皆が大好きやで。
     ココ、軍人になって国を……皆を守ってやってな。
     ウチは少しでもココに負担をかけへんようにラインの数を減らしたるからな。

 

 

エストリア:ねぇ、シェリー! 何を言ってんのよ!

 

 

シェリル:ごめんな、エスト。ウチ、ちょっと仕事ができたから働いてくるわ。
     ココには旅に出たって言っといてほしい。

 

 

エストリア:もう……もどってこないの?

 

 

シェリル:……ごめん。

 

 

ギルティア:もう別れの言葉はすませたか?

 

 

シェリル:……うん。行こう。

 

 

   (その瞬間、ココが寝ているベッドから何かが落ちる)

 

 

ギルティア:おい、何か落ちたぞ。

 

 

シェリル:え……これ、リボン?

 

 

   【回想】

 

 

ココ:長い髪をそのまま下ろしてるの可愛いですけど、まとめるのも素敵ですよ。

 

 

シェリル:へへ、そうかな。でも、ホントにええの? これココの大事のもんやろ?

 

 

ココ:私は髪が短いから一つでいいんです。

 

 

シェリル:そっか。ならありがたく受け取るわ。
     ……お揃いやね。

 

 

ココ:お揃いですね、ふふふ。

 

 

   【回想終了】

 

 

シェリル:ココ……これ、借りてくな。
     これがあれば、ココが傍にいる気がするから……。

 

 

ギルティア:んじゃ、行くか。

 

 

シェリル:ちょっと待って。(リボンをつける)
     ……よし、これでオッケー。

 

 

ギルティア:……似合ってるぜ。んじゃあ行くか、嬢ちゃん。

 

 

シェリル:嬢ちゃんやない。シェリルや、ギルティア。

 

 

ギルティア:あぁ、悪かった。行くぞシェリル。
      これからよろしくな。

 

 

 

――――――
【シーン17: いつかのけしき】

 

ナレ:時は流れてゴアス帝国には新たな風が吹いた。貴族社会は衰退し、政治的権力を持たなくなった。
   今では皇帝と軍のトップ、最高司令官が補佐する形で帝国の政治は成り立っている。
   かつて戦争を繰り返していた最高司令官は帝国を衰退させた罪人としてその地位を追われ、
   代わりに一人の男へと引き継がれることとなった。

 

 

    (最高司令官執務室にて、サネルは書類を片付けている)

 

 

サネル:さて、人間同士の戦争はなくなったものの……
    ラインが頻繁にこのゴアス帝国を襲ってくるようになった。
    今では俺がこの軍をまとめてるんだ……。
    俺がしっかりしなければ……。

 

 

男(ニ):サネルさん。……いや、最高司令官殿。
     南部司令官殿が参られました。

 

 

サネル:分かった。

 

 

   (SE:扉がノックされる音)

 

 

ココ:ゴアス帝国軍南部司令官、ココレット・フランチェスカ、参上致しました。

 

 

 

 

孤児を眠らすは小さな灯 END

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