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『Links』 ―第11話 亡国王子の結論―

 

【登場人物】

 

○ゼノン・ランディール(♂)
 ゴアス帝国南部司令官のココレットの手伝いで旧ランディール王国でラインの研究活動をしていた男。20代前半。
 小さい頃から傭兵で暮らしていたため、腕っぷしは強く、性格、口調も荒い。

 

○アラン・シーラー(♂)
 組織「壊れた時計」2時の男。外見年齢は28歳程度。
 冷酷、無情のように見える彼だが、かつては亡きランディール王国の宰相を務め、王の片腕として働いていた。

 

〇ラッセル・ベルスタッド(♂)
 組織「壊れた時計」10時の男。かつてはランディール王立楽団に所属していた音楽家。
 性格は温厚で、組織員としては珍しく、好戦的ではないタイプの青年。穏やかに話す。

 

〇メリア(♀)
 上半身が人間の女、下半身は蛇のライン「メリュジーヌ」。見た目年齢は20代後半。
 バフォメットのオズィギス、吸血鬼のヴェルギオスらと共に人間を滅ぼす計画を立てている。
 話し方はお嬢様口調(ですわ系)落ち着いた雰囲気だが、怒ると怖い。

 

――――――――――――――――
【用語】

ライン:つまるところ怪物。モンスター。おとぎ話、伝説と呼ばれた生物のことを指す。
    現在、そのラインが世界各国に出没し、人間に害を与えている。
    イントネーションはフルーツの「パイン」と同じ。

 

魔鉱石:特殊なエネルギーを含んだ鉱物。この世界では照明器具の光や暖房器具の熱などを作るために、この石を埋め込み、
    その力を媒介としている。
    また、魔鉱石の純度によっては強大な力を含んでいるが、扱うには体にとてつもなく負荷がかかる。

 

――――――――――――――――

 

【役配分】

(♂)ゼノン
(♂)アラン + 店主
(♂)ラッセル
(♀)メリア

計 ♂3 ♀1

 

―――――――――――――――――


 ≪場面説明:ゴアスの街。怪我から復帰したゼノンは、露店で賑わうゴアスの街で煙草を探している。≫

 


ゼノンM:……レイジスが消えたらしい。
     怪我から復帰した俺は、リィちゃんたちが入院しているという、ゴアス北部の診療所に見舞いに行った。
     しかし、当の彼女はまるで魂が抜けたかのように放心状態で、話せるような状態じゃなかった。
     詳しい話はその場にいた彼女の兄セイルから聞いた。
     レイジスの正体、そして彼がリィちゃんの両親を殺したということ。
     さらには、両親の友人だと思っていたオズィギスという男がラインで、両親暗殺に関わっていたこと。
     俺が負傷して治療に専念していた間に、色々と状況が変化していたようだ。

 


店主:おい、にーちゃん。

 


ゼノン:はー、それにしても、これからどうするんだろうな。レイジスを捜し出すのはいいが、
    どうも戦力不足だな。……特に俺が。アリスはラインだし、
    リィちゃんは魔鉱石の扱いが抜群に上手いし……、さらにはレイジスまで人間じゃねえときた。
    人間の俺にゃあ限界なのかねぇ?
     

 

店主:おーい、生きてるかー?

 


ゼノン:ん? あぁ、すまねぇ。

 


店主:んで、煙草。これでいいのか? これなら銀貨一枚だ。

 


ゼノン:ほらよ、銀貨一枚。(SE:貨幣)

 


店主:毎度どうも。今後もご贔屓にな!

 


     (間。突如吹いてくる風、それによって店の商品がいくつか飛ばされる 《SE:風+軽い物が飛ばさる音》)

 


店主:――ってうぉっ!? す、すげぇ風だ! あぁ、商品が!


 

ラッセル:おっとっと。大丈夫かい? はい、大事な商品。

 


店主:あ、あぁ。すまねえな、ノッポのにーさん。全く、嫌な風だ。

 


ラッセル:いや、いいよ。そうだ、煙草、僕も一つお願いしてもいいかな。

 


店主:あんた見かけによらず煙草吸ったりすんのか。なんていうか、意外だねぇ。

 


ラッセル:いや、僕じゃなくて仕事仲間が吸うんだ。いつも頑張ってるから、たまには労ってあげないとってね。

 


店主:そっかそっか。あんた、いい奴だな。んじゃ、銀貨一枚だ。


 

ラッセル:はい。(SE:貨幣)

 


ゼノン:あ……。

 


ラッセル:ん? どうしたんだい? 

 


ゼノン:あんた、その服――


 

ラッセル:あ――ちょ、ちょっと待っ……うわっ!


 

店主:なんだったんだ、あいつら。


 

     (間。ゼノンはラッセルの腕を引っ張り、人気のない路地裏に連れて行く。《SE:衣服が擦れる音》)

 


ラッセル:いてて、いきなり酷いじゃないか。こんなところまで連れてきて……。
     僕は路地裏に用はないんだけど……。

 


ゼノン:「壊れた時計」……。何故こんなところにいる!(SE:抜剣)

 


ラッセル:わわっ、ま、待って! 僕は戦う意思はないよ!

 


ゼノン:そんなこと信用できるか!

 


ラッセル:はは……、参ったな。そうだ! 同郷のよしみってことで、なんとかならないかい?


 

ゼノン:同郷の……? まさかお前……。


 

ラッセル:あぁ。僕は君の国、ランディール王国出身だよ。そう言えば自己紹介がまだだったね。
     僕はラッセル。「壊れた時計」の10時、ラッセル・ベルスタッド。よろしく、王子様。

 


ゼノン:ラッセル? どこかで聞いたことがあるな。

 


ラッセル:僕はかつて、君のお父さんが国民の癒しを与えるためにと設立した、ランディール王立楽団の一員だったんだ。


 

ゼノン:ランディール王立楽団……。道理で記憶にあるわけだ。小さい頃兄貴と城を抜け出して聴きに行った覚えがある。


 

ラッセル:直接面識はないし、君も小さかったから覚えてないものかと思っていたよ。


 

ゼノン:……当時戦争やらなんやらで気が沈んでいた国民を元気付けたのはお前たちの演奏だった。
    その様子が印象的だったからな。……それに俺も音楽は嫌いじゃない。

 


ラッセル:そう言ってくれると音楽家として光栄だよ。

 


ゼノン:……だが、なんで「壊れた時計」に?

 


ラッセル:うーん、あまり自分たちの事を話すのは控えるように言われてるんだけど……。

 


ゼノン:別に支障があるならいいが……。

 


ラッセル:……大切な人たちを守るために力が必要だったんだ。

 


ゼノン:大切な人……?

 


ラッセル:そう、大切な、大切な音楽仲間。ラインに襲われて窮地に陥っていた僕たちの前に、「壊れた時計」の一人が現れたんだ。
     仲間を救う力を与える代わりに、「壊れた時計」の一員になれってね。……もちろん、断わる理由なんてなかった。

 


ゼノン:……お前みたいな奴もいるんだな。「壊れた時計」の奴らはてっきり、戦闘バカの集まりかと思ってたぜ。


 

ラッセル:「壊れた時計」はラインを倒すことを第一に考えた組織だ。強い意思と力を持っていれば、人格なんて関係なかった。
     だから組織には、僕やセイルみたいな普通の人もいれば、ギルティアみたいに元が犯罪者だった人もいる。
     でも、そのほとんどがラインから大切なものを奪われ、心の時が止まった人たちばかりなんだよ。


 

ゼノン:そうか……だから「壊れた時計」か。

 


ラッセル:……実はそれだけじゃないんだ。

 


ゼノン:……?

 


ラッセル:僕たち「壊れた時計」は、強靭な肉体と、
     人間離れした能力を得る代わりに、組織への絶対服従と……肉体の時間をも止まるんだ。

 


ゼノン:肉体の時間?

 


ラッセル:アランと会って気づかなかったかい? 彼は人間であれば四十近い年齢のはずだよ。

 


ゼノン:……まさか。

 


ラッセル:僕たちは、ラインによって心の時が止まり、力の代償として身体の時が止まる。故に「壊れた時計」。

 


ゼノン:……そうだったのか。

 


ラッセル:そう言えば、アランから君と接触したと聞いたよ。どうやら戦ったそうじゃないか。

 


ゼノン:……歯が立たなかったけどな。

 


ラッセル:まあまあ、そう言わずに。
     ……故郷と守るべき王を見捨て逃げ去った男、アラン。確かに王の弟である君にとっては彼を許せないだろうね。

 


ゼノン:何が言いたい。

 


ラッセル:君は小さい頃から、君のお兄さんと、そしてお兄さんの従者だったアランと一緒に過ごしてきたそうじゃないか。

 


ゼノン:……そうだな。

 


ラッセル:どこでそんな情報を得たか知らないけど、彼が本当にそんなことをする奴に思えるかい?
     もっとも、頑固な彼が、本当のことなど言いはしないのだろうけど。
     僕はそれを伝えたかったんだ。恨まれるだけじゃ、彼が忍びないからね。

 


ゼノン:……何か知ってるなら、教えてくれ。

 


ラッセル:ランディール王国が、ラインの侵略によって陥落寸前だったころ、まだ幼い君はラインに襲われて気を失った。
     そのラインは凶暴で、王である君のお兄さんは勇敢にも立ち向かったが、力は及ばず、死に瀕することとなる。
     致命傷の彼は生き永らえる事は出来ないと悟り、親友に気を失った君を託した。
     「大切な弟を、どうか安全なところに」、と。


 

ゼノン:嘘だ、あいつは自分の命が惜しくて逃げたんじゃ――


 

ラッセル:それだったら君は今、生きていない。


 

ゼノン:俺は逃げている兵士に発見され、城を脱出したと聞いた……。


 

ラッセル:国は既にラインで一杯だ。普通の人間が……しかも、子供を抱えながら脱出なんてできると思うかい?


 

ゼノン:……っ。

 


ラッセル:もちろん、彼も同じだった。気を失った君を抱え、ただひたすら立ちはだかるラインを相手にした。
     やがて体力も尽き果て、それでもなお立ち塞がるラインに絶望していた彼に、一人の男が現れた。

 


ゼノン:「壊れた時計」、か。


 

ラッセル:そう。アランは組織の一員となり、その命が果てるまで、ラインと戦うことを誓った。
     そうまでしても彼には守らなければならないものがあった。


 

ゼノン:それは……。

 


ラッセル:親友の弟を安全なところに連れて行くこと。亡き親友の約束を守るために。
     ただそれだけのために、彼は自分の全てを組織に捧げた。

 


ゼノン:あの野郎……。

 


ラッセル:これが真実だよ。……彼からは本当の事を教えるなって口止めされてるんだけどね。


 

ゼノン:……俺は。

 


アラン:ラッセル! こんなところにいたのか。


 

ラッセル:やあ、アラン。


 

ゼノン:……あ。


 

アラン:……なぜこいつがいる。


 

ラッセル:ごめん、本当の事、彼に教えたよ。


 

アラン:……余計なことを。


 

ゼノン:あ、アラン!

 


アラン:同情はいらんぞ。

 


ゼノン:何故……黙っていた。

 


アラン:……復讐心を持てば、お前は俺を殺すため懸命に生きようとするだろう。
    王は弟のお前が生き延びることを望んでいたからな。

 


ラッセル:そうか、君だったんだね。全てを捨てて逃げたって嘘の情報を流したのは。


 

アラン:嘘じゃないさ。逃げたことは変わりはない。結局俺は国を……あいつを守れなかった。

 


ラッセル:アラン、自分を責めちゃいけない。

 


アラン:余計なお世話だ。それより行くぞ、強いラインが現れた。

 


ラッセル:そうか。分かった行こう。

 


ゼノン:お、俺も行く!


 

アラン:いらん。邪魔になるだけだ。


 

ゼノン:……くっ!


 

     ≪場面転換:ゴアスの街にて。そこには下半身が蛇の女が立っていた。
           付近の家は損壊し、彼女の周りには地に伏したゴアス兵たちがいる。≫


 

メリア:武器を用いてもこの程度……。人間の兵士というものはなんて脆弱なのでしょう。
    やはり警戒しすぎなのかもしれませんわね。

 


アラン:そこまでだ。

 


メリア:あら、私に何の御用でしょうか? ――なんて、今更そのような茶番は必要ないですわね。
    ごきげんよう、「壊れた時計」の皆様方。

 


アラン:人間の上半身に蛇の下半身……。なるほど、メリュジーヌか……。


 

メリア:流石は亡国の宰相。私たちラインに対する造詣も深いのですね。お見事ですわ。
    そう、私はメリュジーヌのメリアと申します。以後、お見知りおきを。

 


アラン:心配するな。名乗らなくても次はない。

 


メリア:あら、冷たい。そんなに冷たくされたら、私、悲しいですわ!

 


     (蛇の尻尾で倒壊した瓦礫を弾き、アランたちに向けて飛ばす)

 


ラッセル:アラン! 危ない! 土よ、僕たちを守れ!(咄嗟に土の壁を作りメリアの攻撃を防ぐ)

 


メリア:土の壁で飛ばした瓦礫を防ぎましたか。なるほど、そちらの殿方は土を操る力を持っておいでなのですね。
    ただ、土の壁ごときで私の攻撃を防げると思いまして!?(尻尾で土の壁を破壊)


 

ラッセル:くっ! ……だろうね。僕も鉄壁だとは思っていないさ。君の攻撃を一時的に防げばそれでいい。

 


メリア:あら? もう一人の殿方は? ――ッ!? 


 

     (メリアの背後からアランが飛びかかり、槍を振るう。しかし、蛇独特の素早い動きで躱される)

 


アラン:避けたか……。気配は消していたつもりだったんだがな。

 


メリア:くっ! ……貴方、いつの間に私の背後に!?

 


アラン:さて、いつだろうな。

 


メリア:ですが、そんなに不用意に近づくと、どうなるか分かっておいでですか?
    おほほほほほ!(尻尾を大きく震わす)


 

アラン:くっ! 蛇の尻尾……なるほど、想像以上に厄介だな。

 


ラッセル:アラン! 下がって! たあぁああああ!

 


メリア:だから不用意に近づくなと、何度言ったら――っ!?

 


     (向かってくるラッセルを尻尾で払おうするが、ラッセルは咄嗟に土の足場を作り、跳躍してメリアに斬りかかる。)

 


ラッセル:君は少し、行動が直線的すぎる。

 


メリア:そんな! 土の足場で私の攻撃を……!


 

ラッセル:さぁ! これで終わりだよ! やあぁああ!(SE:斬撃)

 


メリア:くぁっ! ……きぃいいいい! 傷を、傷をつけましたわね!!? 

 


ラッセル:……仕留めるつもりだったんだけどね。あのギリギリの状況で避けようとするとは、流石蛇。すばしっこいね。

 


メリア:ふふ、お褒めに預かり――光栄ですわ!

 


ラッセル:また瓦礫を飛ばすか! こんなの土の壁で――(土の壁を作る)

 


メリア:ほほほほほ! 貴方も人の事を言えないほど行動が読めやすくてよ! ほぉおら、捕まえたぁ……。

 


     (蛇のしっぽで土の壁ごと、ラッセルを捕える)


 

ラッセル:しまった! ぐ、うぁああああ!(SE:締め付け)


 

メリア:蛇の力を侮ったあなたの負けですわ。このまま縊り殺して差し上げましょう。


 

アラン:させるか!


 

メリア:ッ!? また死角から!? くそっ!(しっぽで防ぐ。ラッセル解放)


 

ラッセル:ごほっ、ごほっ! すまない、助かったよ。


 

アラン:油断するな。


 

メリア:全く、貴方は隙を突くことだけは上手いのですね。でも、大体見当はつきました。
    貴方の力、影を操るものでしょう? どこからか影の中に忍び込み、私の影から現れた。
    こうでもしない限り、容易に私に近づくことなんて簡単ではないはずでもの。


 

アラン:……。

 


メリア:一瞬、表情が動きましたね、おほほほ、分かりやすいお方ですこと。


 

アラン:……ぺらぺらとよく口が回る奴だ。


 

メリア:さて、これ以上面白いものは見せてもらえなさそうですし、終わらせるとしましょうか。


 

アラン:何を勝った気でいる。


 

メリア:あら、勝算はあるのですか? いや、あるはずもないでしょう! これはきっと――ッ!?
    これは……投げナイフ? 一体どこから?


 

ゼノン:うぉらああああ!(メリアに組みかかる)

 


メリア:きゃぁっ!? は、離しなさい!

 


ゼノン:離してやるよ。こいつをくれた後になぁ!(一太刀入れる)

 


メリア:くぁああああああ!!! 人間風情がよくもこの私に傷を! 傷を! 傷をおおおおおお!


 

     (メリア、ゼノンを弾き飛ばす)

 


ゼノン:ぐぉっ!? へ、へへ……人間なめんじゃねえぞ!


 

メリア:この糞餓鬼が……。殺す! きぇええあああああああ!

 


ラッセル:怒りで視野が狭まっているよ。

 


メリア:ぐはっ!?

 


アラン:どうした、さっきの勝ち誇った顔を見せてみろ。

 


メリア:くぅう、敵が「壊れた時計」だけだと侮っていましたわ!

 


アラン:次は言い訳か? さぁ、覚悟しろ。

 


メリア:私はここで死ねない。私たちの悲願の前に死ぬわけにはいかないのです!
    ……悔しいですが、ここは一端引かせてもらいましょう。

 


ラッセル:待て!

 


アラン:止めておけ。……あの速さだ、簡単には追いつけん。


 

ラッセル:仕方がない、か。

 


ゼノン:いててて、最後の最後で吹っ飛ばしやがって……。


 

ラッセル:ありがとう、ゼノン君。助かったよ。


 

アラン:何故来た? ……来るなと言ったはずだが。

 


ラッセル:まあまあ、おかげでなんとかなったんだし、責める必要はないだろう?


 

ゼノン:お前に勝手に死なれちゃ困るんだよ。

 


アラン:何だと。


 

ゼノン:俺は……力が欲しい。

 


アラン:何故?

 


ゼノン:大切な仲間を助けるためだ。

 


アラン:……あの少年のことか。彼の正体を今更知らないわけではなかろう?


 

ゼノン:あぁ。それでも仲間なんだよ。……レイジスだけじゃねえ。リィちゃんも、アリスも……みんな仲間なんだ。
    だが今の俺じゃ……人間じゃ限界があるんだ。どうしても足を引っ張っちまう。

 


アラン:アリスという少女はランディール王国を襲ったラインの一人だと知っているのか。

 


ゼノン:全て知ってるよ。でも、あいつも今は後悔しているんだ。

 


アラン:悔めば許されるのか? お前にとっての祖国はそんなものだったのか?

 


ゼノン:違う! ……あいつのした事は決して許されるものじゃないのは分かってる。
    あいつは多くのランディール国民を殺したさ。

 


アラン:それなら――


 

ゼノン:じゃあ俺たちは? 俺たちはラインを殺していないのか? 違うはずだ。
    実際に俺だって多くのラインを殺した。向こうにも家族がいるかもしれないのにな。

 


アラン:……。

 


ゼノン:どちらが正義でどちらが悪とか、そんな簡単な問題じゃない。
    人間とライン、知恵も心も、感情だってある二つの種族の戦争なんだ。だから止めなきゃなんねぇ。

 


ラッセル:ゼノン君……。

 


ゼノン:確かに国のことは悔しいよ。だけど、ずっと引き摺っていられないんだよ。
    なぁ、アラン。お前もいい加減祖国の想いに取り憑かれてんじゃねえよ!

 


アラン:………ふふ、ははははは!

 


ゼノン:何がおかしい!

 


アラン:いや、その心の強さにお前の兄の面影を感じた。……やはり、あいつの弟なんだな。

 


ゼノン:兄貴の……。

 


アラン:まあ、兄と違ってお前は少々粗暴だがな。

 


ゼノン:うるせえよ。


 

アラン:……まあいい。そこまで言うのなら、お前に「壊れた時計」の力を与えてやろう。


 

ゼノン:いいのか?


 

アラン:それは俺の言葉だ。俺たちと同等の力を手に入れる代わりに、お前の命は俺が握ることになる。
    それでもいいのか?

 


ゼノン:大丈夫だ。

 


アラン:……臆さないんだな。

 


ゼノン:怖気づいてるほど暇じゃなくてな。詳しい話は後で聞く。……頼む。

 


アラン:後悔は聞かんからな。では――いくぞ。(SE:魔法的な音)

 


ゼノン:くっ! うぉおおおおおおああああ!!!(SE:覚醒)

 


     (間。)

 


アラン:さて……気分はどうだ?

 


ゼノン:気持ち悪いな。気持ち悪いくらいに、体が軽い。

 


アラン:ようこそ、人外の境地へ。

 


ゼノン:へっ、嬉しくない歓迎だな。……ってなんだこりゃ!? これは……結晶か。

 


アラン:あんまり雑に扱うなよ。

 


ゼノン:なんだよこれ。

 


アラン:お前の魂を結晶化したものだ。

 


ゼノン:……は?

 


アラン:聞こえなかったか? これは――

 


ゼノン:二度も言うんじゃねえよ。

 


アラン:……これを契約者の俺が所持することで、お前のその肉体は強化される。だが、逆にこれが壊れるとお前は消滅する。
    つまるところ、生かすも殺すも、契約者の俺次第ということだ。

 


ゼノン:マジかよ。

 


アラン:それだけじゃない。ラッセルから聞いただろうが、その身体は老いることはない。
    だからといって、不老不死ではないからそこは履き違えるな。肉体強化されたその身体は、
    自然治癒に長けているが、人間と同じで、生命維持が不可能な程に損傷すれば勿論死ぬ。


 

ゼノン:……なるほどな。他には。

 


アラン:契約者の俺が死んだ時だが、これに関してはどうなるかは分からない。

    普通の人間に戻るか、それとも消滅するか。以上だ。

 


ゼノン:結構不便だな。

 


アラン:完全なものなどないさ。そんなものがあればそっちに縋(すが)っている。
    俺たち「壊れた時計」は契約者に逆らえないが、お前の契約者は俺だ。
    だから今まで通り行動してもらって構わない。

 


ゼノン:分かった。……なあ、アラン。


 

アラン:なんだ。

 


ゼノン:やっぱ、お前の魂も……。

 


アラン:そうだ。俺たち十二人、全員の魂はある男によって管理されている。いわば命を握られているということだな。


 

ゼノン:……すまん。


 

アラン:何故謝る。俺は自分の意志で組織の一員になったんだ。お前は関係ない。


 

ゼノン:兄貴の約束のためか。


 

アラン:……あぁ。


 

ゼノン:そうか。


 

アラン:さあ、お前はここで油売っている暇はないのだろう。


 

ゼノン:そうだな。――おい、アラン。


 

アラン:しつこいぞ。


 

ゼノン:なんだ……その……ありがとう。


 

アラン:……ふん。


 

ゼノン:死ぬんじゃねえぞ。


 

アラン:お前の命をあずかってるんだ。勝手には死ねんさ。……まあ、一言言わせてもらうならば、余計なお世話だ。


 

ゼノン:へっ! それじゃ、俺は行くぜ。じゃあな、アラン!


 

     (間。一人になったアランは空を見上げながらつぶやく)

 


アラン:見ていたか? あれがお前の弟だ。口は悪いが立派になっただろう? 
    そう言えば、お前は死ぬまでラインが人間と同じような生物だと考えていたな。
    そして俺に平和的に解決してほしいとも頼んだ。……どうやら俺がしなくても、お前の弟がしてくれそうだよ。


 

     (間。近づいてくるラッセル。《SE:瓦礫足音FI》)


 

ラッセル:彼との話は済んだかい?

 


アラン:ラッセル……。途中から姿が見えないから戻ったのかと思っていたが。

 


ラッセル:あぁ。せっかくのまともな再会に僕が水を差したら悪いかと思ってね。
     ラインが残っていないか見回っていたよ。

 


アラン:そうか。(煙草を取り出すが中身は空)
    ……む、しまった。切らしてたか。

 


ラッセル:はい、煙草。

 


アラン:……いつも止めろと言っていたくせに、どんな風の吹き回しだ。


 

ラッセル:君はいつも頑張ってるからね。それに、最近つらそうに見えたし。
     ……でもまあ、今の君を見る限り、余計なお世話だったみたいだね。

 


アラン:……おい、潰れてるじゃないか。

 


ラッセル:あ。そっか。ポケットに入れたまま戦ってたから……。

 


アラン:……仕方ない。(火を点ける)

 


ラッセル:あ、それでも吸うんだね。

 


アラン:……先に戻ってもらっても良かったんだがな。


 

ラッセル:仲間を置いて先に帰る程、薄情じゃないさ。

 


アラン:仲間、か。

 


ラッセル:ラインに対する復讐のために集まったメンバーがほとんどだけど、
     それでも僕にとっては仲間だと思ってるよ。

 


アラン:……そうか。

 


ラッセル:随分と機嫌が良さそうだね。

 


アラン:そう見えるか?

 


ラッセル:うん。君の機嫌がいいところなんて初めて見た気がする。
     そうだね、憑き物が落ちたって感じ。君は一人で抱えすぎていたんだよ、きっと。さぁ、帰ろう。


 

アラン:そうだな。帰るとするか。……我らの主の下へ。

 

 

 

 

to be continued....

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