top of page

『魔王㈱』


☆登場人物☆

 

〇魔王(♂)
  魔王。事務作業が得意。威厳はとうの昔にシュレッダーにかけた。
  最近の主食は栄養ドリンク。

 

〇牛頭鬼(♂)
  総務担当。事務作業が得意。馬頭鬼とは昔からの仲。
  最近息子から貰ったネクタイがお気に入り。

 

○馬頭鬼(不問)
  経理担当。事務作業が得意。牛頭鬼とは昔からの仲。
  牛肉を食べてると同僚を思い出す。

―――――――――――――――――


【役配分】

(♂)魔王
(♂)牛頭鬼
(不問)馬頭鬼

♂2 不問1 合計3名

 

―――――――――――――――――

 

   (魔王城の王の間。見た目は完璧オフィス。机の上には山積みの書類)

 


魔王:あーつらい。仕事ほんと嫌。

 


牛頭鬼:我慢して下さいよ魔王様。

 


魔王:早く勇者来て頂戴よ。このままだと魔王過労死しちゃうよ。

 


牛頭鬼:大丈夫ですって。はい、伝説の秘薬。

 


魔王:ほらまた栄養ドリンクだよ。こうも毎日買ってたらそろそろ魔王城付近にある街のアイテム屋から、
   栄養ドリンク無くなるんじゃないの?

 


牛頭鬼:無くならないように脅してるんで大丈夫です。この前も頭を下げて脅してきました。

 


魔王:それじゃあ脅しじゃなくてお願いだよ。
   頭下げながら脅されたら店の人も困惑しちゃうでしょ。てか在庫切れたら魔王軍崩壊するんじゃない?

 


馬頭鬼:あっはっはっは。

 


魔王:いや、笑ってる場合じゃないよ。近所のアイテム屋に魔王軍の命運握られちゃってるじゃないか。

 


馬頭鬼:あ、魔王様。この書類に判子お願いします。

 


魔王:はいはい。ん? これ請求書じゃないか。君たちまた壊したの?

 


馬頭鬼:正確には魔王四天王が。

 


牛頭鬼:派手好きだからなぁ、あの人たち。散々暴れまわったらしいな。

 


馬頭鬼:こっちは経理で大変だと言うのに。何が悲しくて魔王軍の事務をしなきゃならないんだ。


 

魔王:あ、それ魔王である僕の前で言っちゃう? あ、メズさん判子押したよ。

 


馬頭鬼:ありがとうございます。

 


魔王:今度から慎まやかに勇者一行と戦うようにって注意しておいてね。

 


馬頭鬼:慎まやかに……。

 


牛頭鬼:それ戦う気ないでしょ、絶対。

 


魔王:まあまあ、魔王四天王ってくらいだからどうにかしてくれるでしょ。

 


牛頭鬼:それにしても魔王四天王とか……本当に大層な名前だよな。


 

魔王:でも四天王設置の稟議書って、ゴズさんが作ったんじゃなかったっけ。

 


牛頭鬼:実はあれ、部下のスケルトンの発案なんです。
    あいつ、「魔王四天王」とかあったらカッコいいですよね! って言ってたから……。
    まぁ、採用されるとは思ってなかったけど。

 


馬頭鬼:しかも役職手当付いてるし。

 


魔王:まあ強いならいいんじゃないかな。……あー、お腹空いた。

 


馬頭鬼:何か出前でも頼みます?

 


魔王:出前も良いけどたまには贅沢したいよね。ステーキとか。

 


馬頭鬼:……ほう。

 


牛頭鬼:……まじか。

 


魔王:ほら、霜降りのお肉、食べたいじゃない? あれ、どうしたの?


 

馬頭鬼:ちなみに魔王様、牛肉と馬肉、どちらがお好みで?

 


魔王:いや、ステーキって言ったら牛肉でしょ。

 


馬頭鬼:だってさ、ゴズ。

 


牛頭鬼:分かった。ちょっと退職届書いてくる。

 


魔王:えええええ!? ちょっと待って! あ、あぁ! そう言うことか! 君らを食べるつもりはないよ!?

 


牛頭鬼:魔王様のお口に合うか分かりませんが……

 


魔王:ちょちょちょ、ちょっと待って! 服を脱がないで!

 


牛頭鬼:メズ。総務の仕事も頼んだ。

 


馬頭鬼:魔王様! 仲間を食べるだなんて、あんまりです!

 


魔王:取り敢えずメズさんが仕事量増えるのが嫌だってことは分かった。


 

馬頭鬼:そりゃあ、もう。

 


魔王:取り敢えずゴズさん、服着て! ……はぁ、もうこんな事にエネルギーを費やしたくないよ。

 


牛頭鬼:冗談はさておき、いつも通り魔王城付近の街に買い出しに誰か向かわせますわ。

 


魔王:僕たち本当にあの街にお世話になりっぱなしだよね。
   一応魔王に脅かされる絶望に満ちた街なはずなんだけど。

 


馬頭鬼:私たちが買い出しやらなんやらしてるから、いつの間にか裕福な街になってます。

 


魔王:そ、そうなんだ。……これを機に栄養ドリンク大量入荷してくれないかな。

 


牛頭鬼:脅してきましょうか? 全力で土下座してきますよ。

 


魔王:そろそろ魔王軍の威厳が無くなりそうだから止めて欲しいかな。

 


    (間・5秒)

 


牛頭鬼:くっはぁああ! 休憩休憩!

 


馬頭鬼:あー、肩が痛い。

 


牛頭鬼:俺もだよ。あーあ、昔は前線でバンバン戦ってたんだがなぁ。

 


馬頭鬼:私とゴズ、牛頭鬼と馬頭鬼。だいたい二人一組で一緒に戦ってたなぁ。

 


牛頭鬼:最初は雑魚敵から、いつの間にかボスに。そして最後は――

 


馬頭鬼:魔王城という名の本社勤務。

 


牛頭鬼:ボスキャラって中間管理職だったのか?

 


馬頭鬼:さぁ……。はははは。

 


魔王:……ねぇ、ゴズさんメズさん。

 


牛頭鬼:どうしたんすか。


 

魔王:気付いたんだけど僕、戦うより事務作業の方が得意かもしれない。


 

馬頭鬼:魔王有るまじき言葉ですね。


 

魔王:今なら闇魔術より書類書く方が上手く出来る自信があるよ。


 

牛頭鬼:戦闘はどうするんすか。勇者たちが来たら戦えるんですか?


 

魔王:そこは四天王が足止めしてくれると信じてるよ。


 

馬頭鬼:駄目だったら?


 

魔王:そこはゴズさんとメズさんの出番だよ。


 

馬頭鬼:ふ……ふふふ。


 

牛頭鬼:はーっはっはっは!


 

魔王:ど、どうしたの。急に悪役みたいな笑い方しちゃって。


 

牛頭鬼:くっくっく、何を隠そう我ら牛頭鬼と馬頭鬼も――

 


馬頭鬼:事務作業のし過ぎで戦い方を忘れているのです。

 


魔王:えー!!! それはまずいよ!

 


馬頭鬼:魔王様も人の事言えないでしょうが。闇魔術、全部忘れたんですか?

 


魔王:い、いや……少しは覚えてる……はず。

 


牛頭鬼:なんかやってみてくださいよ。

 


魔王:え、えーと……。サム・アベレジ・エングラフ……数多なる数式よ! 闇の力より我が手に宿れ!
   闇魔術・パワーポイントエクセルぅううう!


 

牛頭鬼:……お、おう。


 

馬頭鬼:なんとも計算処理が出来そうな技ですね。


 

牛頭鬼:これなら行ける!


 

馬頭鬼:行けないよ! ……はぁ、完全に事務に染まってますね。


 

魔王:あれ、違った?


 

牛頭鬼:しかも自覚が無い!


 

魔王:ま、まあ勇者たちが来るまでリハビリしておくよ。


 

馬頭鬼: はぁ……魔王軍の将来が心配です。

 

 

―――――――――――――――

 


馬頭鬼:魔王様! 大変です!!!


 

魔王:あ、おはようメズさん。早朝出勤? タイムカード押した?

 


馬頭鬼:あ、はい、ちゃんと押してます。
    いや! いやいやいや! 違うんです! 来たんです!

 


魔王:来たって何が。

 


牛頭鬼:勇者が来たんすよ。

 


魔王:えぇえええええ!? そそそそ、それで今どこに?

 


牛頭鬼:彼らは魔王城付近の街まで来ています。

 


魔王:そうか……ついに来たか……。

 


馬頭鬼:あれ? 思ってた反応じゃなない。

 


魔王:ちっちっち! メズさん、僕を今までの僕と思ってると痛い目見るよ。
   あれから僕は鍛錬に鍛錬を重ねた……。

 


牛頭鬼:おぉ!


 

馬頭鬼:ほ、本当ですか!?

 


魔王:空いている時間を見つけては訓練し、書類を作り、整理し、判子を押す毎日。


 

馬頭鬼:思った以上に訓練してなかった!

 


魔王:血の滲むような努力によってとうとう僕は本来の魔王の力を取り戻したんだ。
   ……す ぅーはぁー、すぅーはぁー、ダークインフェルノ!

 


牛頭鬼:おおおお! こ、これは凄い……!

 


馬頭鬼:やったじゃないですか魔王様! これだったら勇者もイチコロですよ!

 


魔王:ふふん。パソコンカタカタしてる時に適当に思いついたのは、皆にはナイショだよ。

 


馬頭鬼:もはや訓練の意味が無かった!


 

牛頭鬼:訓練のお陰と言うよりは事務のお陰だな。まぁ、結果オーライだけど。

 


魔王:さて、ゴズさん、メズさん。勇者クンたちを歓迎しようじゃないか。

 


牛頭+馬頭:はい!

 


魔王:ふっふっふ、魔王軍、いざ出陣!

 


   (間・5秒。大分日にちが経過)

 


馬頭鬼:ふぁぁ……(あくび)

 


牛頭鬼:くっちゃくっちゃ。あ、ガムの味切れてきた……。

 


魔王:……。

 


馬頭鬼:……魔王様?


 

魔王:なぜ……何故来ない? もう一週間だよ? なにこれイジメ?
   魔王とあろうものがイジメにあってるの?


 

馬頭鬼:落ち着いて下さい魔王様。

 


牛頭鬼:でもおかしいっすよね。魔王城の中で迷うならまだしも、
    まだ到着すらして いないなんて。
    魔王城付近の街からだと2時間も掛からないはずなのに。


 

魔王:ぐぬぬ……。


 

馬頭鬼:誰かに様子を見に行かせますか?

 


魔王:うん、お願い。

 


   (間・5秒)

 


牛頭鬼:そうか、そういう事だったのか。

 


馬頭鬼:まさか……勇者たちが……。あの街を拠点にレベル上げをしているとは……。

 


牛頭鬼:あそこ、人事部が経験値多いモンスターを配置させたって言ってたしなぁ。

 


魔王:ちょ、ちょっと待って! これは……まずいよ。

 


牛頭鬼:……うん? でもいくら強くなっても今の魔王様の強さだったら問題無いでしょうよ?


 

魔王:それはそうなんだけど……


 

馬頭鬼:けど?


 

魔王:あの街に勇者が留まっていたら……栄養ドリンクが買えないじゃないか。
   買い出しもどうするんだ……。


 

牛頭+馬頭:あ……。


 

   (間・5秒。案の定ボコボコにやられた魔王軍。)

 


魔王:あーあ、やっぱりこうなっちゃったかぁ。

 


牛頭鬼:手も足も出なかったですね、魔王様。

 


魔王:あれは無理だよ。こっちの攻撃食らわないし、向こうの攻撃はカンストだし。


 

馬頭鬼:勇者の方が魔王でしたね。


 

魔王:はは、メズさん上手い上手い。


 

牛頭鬼:城の財宝取られましたね。


 

馬頭鬼:まぁ、財宝って言っても事務用の機械とか道具だけど。


 

魔王:勇者クン、ガッカリしてたね。僕にとっては財宝なんだけど。


 

牛頭鬼:そう思うの魔王様だけですって。


 

馬頭鬼:それにしても魔王がやられたから世界平和になりますね。私たちどうなるんですか。


 

魔王:どうなるんだろうねぇ。僕にも分からないよ。まぁ、平和になっても使えるスキルは僕たち持ってるんじゃないかな。


 

牛頭鬼:……事務処理能力。

 


魔王:あ、ちなみに魔王軍勇者に滅ぼされちゃったから今月の給料は無しね。

 


牛頭+馬頭:お疲れ様でした。

 


魔王:そんなきっぱり言う必要ないじゃないの。寂しいなぁ。忠誠心の欠片もない。

 


牛頭鬼:我らの忠誠心は――

 


馬頭鬼:お給料で決まります。

 


魔王:世知辛いねぇ。

 

 


END 

bottom of page