『酒と煙草と海賊の歌』part1
【メインキャスト】
(♂)ギルティア・ヴェルガー(20代後半)
海賊。海賊となる前は盗人。快楽主義で自分が楽しければそれで良いという男。
攫った女に舞や歌を要求し、楽しかったら丁重にもてなして返すことを海賊らしからぬ行動する。
柄は悪い割に小柄。海賊の頭目ではあるが戦闘技術は国の兵を圧倒するほど。
基本的にはノリが軽く、バカ騒ぎが大好きな男。
※シーン1は18歳程度なので、特に演じ方を変えなくても大丈夫です。
(♀)ラズベル・オルティース(24歳)
ギルティアとは別の海賊の女性。姉御系キャラ。光物に徹底的に弱く、ギルティアが盗んできたピアスがお気に入り。
過去に何度かギルティアの船に忍び込む内に、謎の仲間意識が芽生え、頻繁に出入りするようになった。
(不問)プーニ・モリス(12歳)
ギルティアの手下の少年。「~ッス」という特徴的な喋り方をする。
もともとは孤児で、冒険がてらに船に潜入したところ、ギルティアたちに見つかり、そのまま懐いてしまった。
のんびり屋だが努力家。マスコット的な感じだったが、ちょっと主人公風味が出てしまった。
ラズベルに対してはもはや仲間のような感覚で話す。
※ショタのため不問
(♂)ザイドン・コックス(35歳)
元腕利きの航海士。ギルティアが小さい頃からの付き合いで、とある事件をきっかけに海賊に誘われ、
仕事を投げ出して仲間になる。
体格は良く、強面で顎鬚が目立つ。そのせいか周りからは一目置かれている。ラズベルが苦手。
立派な体躯とパワーファイターなためか、噛ませ犬臭が漂うかわいそうなキャラかもしれない。
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【役表】
(♂)ギルティア
(♀)ラズベル + 海賊頭領
(不問)プーニ + 航海士 + 住民A
(♂)ザイドン + 住民B
(♂)警備兵A + 海賊A
(♂) 警備兵B + 海賊B
(♂4 ♀1 不問1 計6)
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【シーン1:羨望】
(ここは大国ゴアスという国の中にあるとある街。かつて栄華を極めた国家の滅亡により多くの難民が流入してきた。
その結果、人口は膨れ上がり、住む家や食料、そして仕事が不足、職にありつけない者が増えた。
無職となり行き場を失った者たちや難民によって、街の治安は悪くなっている)
(location:貧困街)
ギルティア:(ゴミ漁り中)……あー、食えるものが無いな。
ちくしょう、余った飯くらい捨てておけってんだ。
それでも店やってんのかよ!
はー、怒るだけでも腹が減るぜ。――ん?
住民A:いってぇ! 何ぶつかってんだオラァ!
住民B:ぶつかってねぇよ! 変な言いがかりつけんじゃねえ!
あぁ!? 俺の財布が無ぇ!? テメッすりやがったな!?
住民A:ちっ、バレちまったか……。こうなったら――
住民B:おい! 待て!
ギルティア:また喧嘩かよ。毎日毎日飽きないのかねぇ……。
住民A:どけぇ、クソガキ!!!
ギルティア:うぉっ!? いててて……少しは手加減しろよ。
全く、人をゴミみたいに扱いやがって。……ちくしょう。
住民A:くそっ! 放しやがれ!
住民B:テメェこそ俺の財布を返しやがれ!
ギルティアM:つまらない世界だって思ってた。
歩く人は皆死んだ魚のような目をしていて、周りにいる人は皆敵みたいに警戒していて……。
誰かが言葉を発する時は、大体暴力沙汰。
本当に……下らない。面白くなかった。
住民A:か、海賊だぁああああああ!
ギルティア:……ん?
住民B:皆、家に隠れろおおおお!
ギルティア:隠れる家もねぇ俺はどうすればいいのかねぇ。あ、これ食えそう。
――うえ、まっず! 食えたもんじゃねぇ!
海賊A:いやっはぁあああああ! てめぇら、遊びに来てやったぜぇえええ!?
海賊B:持ってるもん出してもらうぜ!? 肉! 魚! 酒! 酒の肴に女の舞だ!
美人は連れていけ!
海賊A:いえっさー!!!
ギルティア:……ふぁあ、眠い。そういや今日は食えるもん探してずっと歩き回っていたなぁ。
海賊A:おいコラ餓鬼。
ギルティア:んだよ。
海賊A:俺たちが誰か分かった上で欠伸ぶっこいてんのか。
ギルティア:知ってるよ、海賊サマだろ。難民の俺にゃぁ、あんたらに差し出すモンはねぇよ。
女でもないから踊りなんて出来ねぇ。んじゃ、お休み。ふぁああ。
海賊A:ふざけたガキだ……。いいだろう、運動がてら遊んでやろうか、あぁ!?
海賊頭領:なぁに、小僧相手にムキになってんだ。
海賊A:ボス!
海賊頭領:こんなゴロツキに凄まれてマイペース貫くったぁ、大したガキじゃねぇの。
俺は好きだぜ?
ギルティア:そりゃドーモ。
海賊B:ボス! あっちの屋敷、金銀財宝が眠ってますぜ!
海賊頭領:必要ねぇ。そんなのより酒と肉だ。
海賊B:おっす!
ギルティア:……なんで取らねえんだよ。あんたら、海賊だろ?
海賊頭領:お? 見りゃ分かんだろうが。海で生きる俺たちが金を持っても意味ないだろ。
ただ積み荷が重くなって、置き場に困るだけだ。
それならまだ衣服の方が大事だ。
ギルティア:……わけわかんねぇ。
海賊頭領:好きなだけ食べて! 好きなだけ飲んで! 美人なねーちゃんに女に酒を注いでもらう!
船の上では毎日ドンチャン騒ぎだ。楽しいぞー?
ギルティア:よく捕まらねえな。
海賊頭領:腕っぷしには自信があるんでな。いつもいつも街の警備隊と喧嘩するんだわ。
まあ負ける気もねぇし、宴会前の腹空かしの運動ってか? あっはっは!
ギルティア:……ふぅん。
海賊頭領:気に入った! 小僧、俺らと一緒に来い!
海賊A:ボス!?
ギルティア:嫌だ。
海賊A:てめぇ、ボスが言ってんだぞ!?
海賊頭領:まぁ、待て。理由を聞かせろよ。これで何もないなら、流石の俺も怒るぜ?
ギルティア:俺の意思だ。それ以上でも以下でもねぇ。自分がしたいことは自分で決める。
海賊頭領:……このガキ。
(頭領とギルティア、暫くにらみ合う)
ギルティア:……。
海賊頭領:……。
ギルティア:なるなら俺の意思で、海賊のボスになってやるよ。
海賊頭領:……ぶふっ! はっはっはっは! 本当に面白いガキだな!
ますます連れて帰りてぇぞ!
ギルティア:だから仲間になんて――
海賊頭領:分かってるって。海賊のボス、なれるもんならなってみろ。
海賊A:ボス、そろそろ時間が……。
海賊頭領:分かってる。よぉしテメェら! ずらかるぞ!!! 帰って宴会だぁああああああああ!
海賊B:酒だ! 女だー!
海賊頭領:小僧、名前は? せめて名前くらい名乗れ。
ギルティア:……ギルティア。
海賊頭領:へっ。じゃあなギルティア! 次会う時は船の上だ!
俺をがっかりさせんじゃねぇぞ! はーっはっはっは!
ギルティアM:楽しそうだった。街では人と人とがいがみ合い、いつでも声を荒げて争っていた。
そんな下らない世界を見てきた俺にとっては、
好き勝手生きて笑っている海賊たちの生きざまに少しだけ憧れを抱いていた。
(間・5秒)
ギルティア:それにしても、腹減ったなぁ……。
あいつらに着いて行けばウメェもん食わしてくれたのかねぇ……。
だー! 考えても駄目だ! 腹が減るから寝る!
(間・5秒)
(ザイドン、仕事から終り帰宅中)
ザイドン:ふー、疲れた。帰って酒でもかっくらいたいところだが、仕事をせんとな……。
まずは航路を設計して……海図を――ん?
なんだこれは……。子供か?
ギルティア:ぐー、ぐー。
ザイドン:難民の孤児か。……まあ今のご時世、当たり前と言えば当たり前か。
……可哀想だが、一々構ってるほど、こちらも余裕がないんでな。
ギルティア:ぐー、ぐー、……はら……へったぁ……。
ザイドン:(間)はぁ……仕方がない。
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【シーン2:ザイドンの小屋】
(location:航海士ザイドンの小屋――おせじにも綺麗とはいえない。家主ザイドンは椅子に座って海図を作成している)
ギルティア:ん……。ここは……?
ザイドン:目が覚めたか。
ギルティア:おっさん、誰?
ザイドン:命の恩人におっさんとは随分な物言いだな。
……ザイドンだ。お前が腹空かして死にそうだったところを運んでやったんだぞ。
ギルティア:し、死にそうじゃねえよ! ピンピンしてら!
ザイドン:……まぁ元気そうで何よりだ。
ギルティア:助けなんていら(腹が減る音)……ねぇ……よぉ……。
ザイドン:……スープでも作ってやる。
(間・5秒。ザイドンが作った陶器の器が木の机に置かれる)
ギルティア:ずずず……。うへ、しょっぺぇ。
ザイドン:うるせえ。作ってやっただけでもありがたく思え。
(間・3秒。しばらく食器がぶつかる音とスープを啜る音だけが響く。)
ザイドン:……お前、家は?
ギルティア:そんなモン無えよ。路上で暮らしてたら分かるだろ。
ザイドン:そうか。
ギルティア:おっさん一人で暮らしてんの?
ザイドン:あぁ。
ギルティア:一人にしては広い家だな。
ザイドン:……今日は泊まらせてやるが、ここに住まわせるほど俺も余裕がなくてな。
明日、多少飯くらいは持たせてやる。
ギルティア:……。
(間・5秒。翌朝)
ギルティア:ありがとよ、おっさん。
ザイドン:……そういえば、お前、名前を聞いてなかったな。
ギルティア:あーそういえばそうだったな。俺はギルティア。またな、ザイドンのおっさん!
ザイドン:あぁ、またな。(間・3秒)
……て言ってもまたなんて無いだろうがな。さて、仕事だ仕事。
(間・5秒)
ザイドンM:あの時は本当にもう会うことは無いと思っていた。
家族と別れ、家が広くなったから……、気まぐれだった。
その時の気まぐれで世話をしただけだ。
だが、その気まぐれが俺の人生を変えた――。
――――――――――――――
【シーン3:時は移ろい】
(location:10年後の港町。――ザイドンを中心に職人たちが話し合っている。)
航海士:ザイドンさん。この航路でいきましょう。
ザイドン:そうだな。……ふー、取りあえず打ち合わせは以上だ。後は明日の航海に備えておけ。
航海士:はい! ザイドンさん……お疲れですね。
ザイドン:もう何十年も航海士をしてるからな。
航海士:今では国一番の航海士ですからね!
ザイドン:お前らは早く実力を着けて、俺を引退させてくれ。
航海士:またまたー、引退する気なんて無いくせに!
ザイドン:ふっ、そうだな。だが、人生何が起こるか分からんからな。
ましてや海の仕事だ。遭難・難破・沈没、事故のフルコースだ。
航海士:うへぇ。
ザイドン:ほら、無駄話もここまでだ。日も暮れてきてるし早く帰ってやれ。嫁さん、待ってんだろ?
航海士:はい! 失礼します!
(航海士去る。そのすれ違いにギルティアが走ってくる)
ザイドン:はぁ、やれやれ。俺も帰って久しぶりに酒でも飲むかな。
ギルティア:よおーっすザイドン。仕事捗っているかー?
ザイドン:ギルティア……。全く、仕事もしないでどこほっつき歩いてんだ、お前は。
ギルティア:まあまあ、そう言うなって。それより見てくれよ。えっと、どこにやったかな――
警備兵A:(食い気味で))あの男……どこに行きやがった! 捜せ! なんとしても捜し出すんだ!
ザイドン:……なんだ 随分と騒がしいな。
ギルティア:やっべ、もう来やがった。じゃあなザイドン! 今晩お前ん家で待ってるぜー!(走り去る)
ザイドン:はぁ、相変わらず台風みたいなやつだ……。
警備兵B:おい、そこのお前! さっき身長が低くて目つきの悪い男と話してたな。どこに行ったか教えるんだ!
ザイドン:さてな。俺はただ友人と話してただけだ。そいつがどうかしたのか?
警備兵B:お前には関係ない。おい、本当に知らないのか!? 隠しているとお前も同罪で捕まえるぞ!
ザイドン:世間話をするだけで罪になるのか。この国も随分と暮らしにくくなったんだな。
俺を捕えるの構わんが、そうすると国の航海計画が台無しになってお前も罪に問われるんじゃないか?
警備兵B:くっ、えぇい、もういい! いくぞ!
警備兵A:は!(複数走り去る音)
ザイドン:……さて、帰るか。
(location:夜、航海士ザイドンの小屋)
ギルティア:よう、遅かったじゃねえか。
ザイドン:おい、当たり前のように人の家で寛ぐな。
……いや、それより、今日は派手にやらかしたそうだな。
ギルティア:そう! そうなんだよ! おかげでいいモン手に入れたぜ。
ザイドン:これは……ピアスか?
ギルティア:この国のお偉いさんの所から盗んだものなんだが、今じゃ滅んじまった国の王家のピアスらしい。
いかしたデザインで結構気に入ってんだ。
ザイドン:それを俺に報告しにきたと。
ギルティア:いい仕事したからよ、祝いの酒でも振る舞ってくれるんじゃねえかって期待して待ってたぜ。
ザイドン:……明日国の航海計画に携わる俺の身にもなれ。
ギルティア:あーじゃあ、それの成功を祈って、な?
ザイドン:おい、おまけみたいに扱うな。
(ドアを強引に叩かれる音)
警備兵A:おい、いたぞ!
ギルティア:げっ……。
警備兵B;やっぱりお前が匿っていたか。おい、二人をひっ捕らえろ。
警備兵A:はっ。
ザイドン:やれやれ……。お前のせいだぞ。
ギルティア:あ、意外と冷静なのな。
ザイドン:馬鹿言え、自慢の酒が押収されると考えると気が気でならん。
ギルティア:……やっぱ冷静じゃないの。
(location:牢獄)
警備兵A:おら、とっとと入れ!
ギルティア:うぉあ!?
警備兵A:処分が決まるまで大人しくしていろよ。
(間・3秒)
ザイドン:……航海計画もこれで終わりか。
ギルティア:そんな面白くねぇ仕事辞めちまえよ。
ザイドン;俺は海が好きなんだ。面白くないなんてお前の価値観で決めるな。
ギルティア:そんなに海が好きなら海賊にでもなっとけよ。……ん? 海賊?
そうか、海賊か……。
ザイドン:何を馬鹿なことを……ってどうした?
ギルティア:海賊も……ありなんじゃないか?
ザイドン:……あぁ?
ギルティア:ザイドン、耳かせ。
ザイドン:なんだ。
ギルティア:(ごにょごにょ)
(翌日。チュンチュン+牢獄が開く音)
警備兵A:お早う。……いや、お休みのほうが適当かね。
ザイドン:警備兵は……五人か……。
ギルティア:遅かったじゃねえか。その言い方的に、どうやら処刑されるみたいだな。
警備兵A:ふん、覚悟ができてるみたいだな。
ギルティア:あぁ、こっちはいつでも準備はできてるぜ。
ザイドン:こっちもだ。
警備兵A:変に潔いな。まあ、いい。さぁ、出ろ。
おい、処刑場までしょっ引け。
警備兵B:はっ!
ギルティア:いくぜ、ザイドン。
ザイドン:あぁ。
ギルティア:せーの!
(兵士をなぐり飛ばす)
警備兵B:うごぁああ!?
警備兵A:き。貴様ら抵抗する気か! なんならこっちも容赦せんぞ! (兵士たち抜剣)
ギルティア:五人くらいなら素手なんとか――
ザイドン:なるわけないだろ! いいか、適当にあしらって浜辺まで走るぞ!
ギルティア:ちっ、仕方ねえな! どきやがれぇええ!
警備兵A:くっ! 何をしている! 早く捕えろ!
警備兵B:駄目です! こいつら手ごわいです!
警備兵A:何故この人数で捕まえられん!? 相手は丸腰だぞ!
(走る音+徐々に波の音)
ギルティア:こちとら伊達に盗賊やってねえんだ。腕に自信がないわけねえだろ?
ザイドン:……俺はただの船乗りだがな。
警備兵A:えぇい、くそ! 私が相手だ! はぁああああ!
ギルティア:あーらよっと!
警備兵A:うぐっ!
ザイドン:ふんッ!(殴り)
警備兵B:げふぅっ!
ギルティア:よぉっし! 敵さんの援護が来る前にずらかるぜ!
ザイドン:あぁ!
(location:浜辺。――二人が逃げた先には一隻の中型船が停泊している)
ギルティア:よっしゃ! 案の定船があるぜ!(乗船)
航海士:ひっ! なんだお前ら。
ザイドン:悪いな、少し眠ってろ。(鳩尾に一発)
航海士:ぶへっ!
ギルティア:よぉしザイドン船長! 船を出せぇ!
ザイドン:任せておけ!
警備兵B:隊長! あいつら、船を奪いました!
警備兵A:くっ、どこまでも抵抗するかぁ! 他の船は!?
警備兵B:ありません! あの一隻だけです!
警備兵A:くっそぉおおおおお!
(location:海。船の上)
ギルティア:かー! 見ろよザイドン、船に食料、武器まで積まれてる! 大量だぜ大量!
ザイドン:これだけあれば、当分は生活に困らんな。
ギルティア:そうだな。……だが、これから俺らが海賊として生きていくなら、団員が欲しいところだな。
いくら俺らが腕っぷしが強くても、この人数じゃぁ数で押されりゃ負けちまう。
どうにかして増やさないとな……。
ザイドン:ふむ……。
ギルティア;ザイドン任せた。俺は寝る!
ザイドン:なっ……面倒事を俺に押し付けるな!
―――――――――――――
【シーン4:女海賊ラズベル】
(location:夜。船の上)
航海士:ザイドンさん、この荷物はどこに置きましょう?
ザイドン:そうだな、結構頻繁に使うから甲板にまとめて置いておいてくれ。
航海士:はい!
ザイドン:……それよりよかったのか? 俺とギルティアは海賊に……犯罪者になったんだ。俺たちと一緒に行くなら、
同罪でお前たちもお尋ね者になるんだぞ?
航海士:いいんですいいんです。俺、ザイドンさんに憧れて航海士になったんですから。
それがたとえ犯罪者でもいいんです。
ザイドン:……そうか、すまないな。さ、明日も早い。今日はゆっくり休んでくれ。
航海士:はい!
(間・5秒。航海士船内へ)
ザイドン:(煙草)ふー……。次は倉庫も片付けないとな。後は――ん?
(船の物をいろいろ盗んで出てきたラズベル)
ラズベル:こーれだけあれば十分よねぇ。小さい船の割には結構いいものあったわ。
私好みの物が無かったのは残念だけど。あとはここの倉庫を調べるだけね。
ザイドン:どこ来てどうやって忍び込んだか知らんが、人の船にケチをつけるとはいい度胸だな。
ラズベル:あら、渋いオジサン。あなたの船?
ザイドン:俺「たち」の船だ。とりあえず、盗んだものを置いていけ。
そうすれば、手荒なことはせん。
ラズベル:こんな若い子に手を挙げるの? 野蛮な人。
ザイドン:ふっ、海の男は大体そんなもんだ。
ラズベル:あっそ。んじゃ、私も手加減なしってことで。(サーベルを構える)
ザイドン:力比べか。面白い!
(剣をぶつけ合うザイドンとラズベル。しかし数回の打ち合いの末、ラズベルの剣を弾き飛ばす)
ザイドン:勝負ありだな。
ラズベル:そう――ね!(隠していた催眠ガス発射)
ザイドン:ぬぅっ!? これは……催眠ガス……か? く、ぅ……。
ラズベル:油断しすぎ。力じゃ勝てないから他で勝負するんでしょうが。
ザイドン:卑怯……者……め!(倒れる)
ラズベル:どうとでも。だけど勝負は私の勝ちだから。じゃあね脳筋男。あーっはっはっは。
……はぁ、さてと、続き続き。
(location:船室。ラズベル、ギルティアが寝てる部屋に侵入)
ラズベル:……こんなところにも人がいたのね。あれ、このピアスって……。
ギルティア:ぐーぐー。
ラズベル:ランディール王家のピアス、まさかあんたが先に盗んでたとはねぇ。
まあ、おかけ様で危険をおかして盗む手間が省けたわ。
(ラズベル、サーベルを抜く)
ラズベル:間抜けな顔。ずっと夢の中にいなさい。
(剣を突き立てるが、殺気を感じ、目を覚ましたギルティアは避ける。短剣はベッドに突き刺さる)
ギルティア:っ!?
ラズベル:……運の良い男。いや、むしろ悪いのかしら。お・は・よ。おにーさん。
ギルティア:……誰だテメェ。
ラズベル:そうねぇ、同業者……とでも言えば分かりやすいかしら。
ギルティア:へぇ、そうかい。まあどっちにしろ人のもんを奪いにくるとはいい度胸じゃねえか。(短剣を抜く)
俺は女だからって手加減しねえぞ。
ラズベル:あら、女だから手加減して負けてくれると思ったのに。
ギルティア:言ってろ! うぉおりゃあ!
ラズベル:おっと、危ない危ない。私は手荒な事は嫌いなのに……。
はぁあああああ!
ギルティア:うおっ!? ……へへっ、驚いたぜ。やるじゃねえか。そこらの男よりよっぽど強いぜ。
ラズベル:ふふ、お褒めに預かり光栄――ね!(剣を一閃)
ギルティア:おっとあぶねえ! 楽しくなってきやがった!
ラズベル:っ!
(暫く戦う)
ギルティア:……そういや、他に大男がいなかったか?
ラズベル:会ったわよ。私の相手ではなかったけどね。
ギルティア:ザイドンを倒したのか。力で倒せるようには見えねえが……。
小細工……だろうな。なら注意が必要だな。
ラズベル:……大した観察眼――ね!
ギルティア:うおっ!? まだ動けるか……。
俺はバテてきたってぇのに……。
ラズベル:油断させるつもりならもっとマシな嘘を吐きなさいよ。
バレバレだっての。
ギルティア:へへっ、そりゃぁ、す・み・ま・せ・ん・で・し・たぁ!(攻撃)
ラズベル:くっ! ほら、やっぱり。……埒があかないわね。
ギルティア:そうだな。そもそもあんた、何が狙いだ?
ラズベル:直球な質問ね。……そのピアスただ一つよ。
ギルティア:ほーう、こいつを狙うたぁ、いい目してんじゃねえか。だがこいつは苦労して拝借したもんだ。
俺も気に入ってんだ。欲しけりゃ殺してでも奪ってみるんだな!
ラズベル:なら、そうさせてもらおうかしら!
(剣を交えるさなか、急に積み荷の木箱がガタガタ動く)
ギルティア:ッ!?
ラズベル:……どうしたの?
ギルティア:どうしたって……今、荷物が動いただろ。お前の仲間じゃねえのか?
ラズベル:おかしいわね。あいつらには船にいるように言いつけてるはずなんだけど……
(再び積み荷が動く)
プーニ:ぷはぁ! ……あれ? おにーさんたち誰?
ギルティア:……ガキがなんでこんなところにいる。
ラズベル:知らないわよ。あんたが攫ってきたんじゃないの?
ギルティア:んなわけあるか。……おいガキ。こんなところに何をしてやがる。
プーニ:海賊ごっこ!
ギルティア:……海賊の船に忍び込んで海賊ごっこたぁ、神経の図太いガキなこった。お前名前は?
プーニ:プーニ! おいらプーニ!
ラズベル:見たところ孤児かしら。多分スリか盗みかして食いつないできたんでしょうね。(ラズベル出ていこうとする)
ギルティア:だろうな……って、おい! どこいくんだよっ!
ラズベル:なんか飽きたわ。また今度それを盗みに来させてもらうから。
あんたはその子をどうにかしなさい。
ギルティア:はぁ!?
ラズベル:あぁ、そういえば名乗ってなかったわね。私はラズベル。覚えておいて、オニーサン。(ラズベル退場)
ギルティア:……はぁ。ラズベルにプーニねぇ。面倒なもんが増えたな。
――って、おい。それ宝石なんだぞ。
プーニ:この石ぴかぴかしてる! すごい!
ギルティア:すごいですね、だろ。
プーニ:すごいすね!
ギルティア:……はぁ、もういいや。おい、プーニ。帰る家はねえのか。
プーニ:うん、ない!
ギルティア:ないですよ!
プーニ:ないすよ!
ギルティア:……はぁ。俺たちと来るか?
プーニ:いくすー!
(part2に続く)