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『魔王様が封印されちゃった』

脚本:石山瑞角

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【キャスト】

(♂)魔王さま

(不問)ネコマタ + waon
   
(♀)サキュバス

(♂)ミノタウロス + 勇者

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魔王:馬鹿な! この我が! 魔王と呼ばれたこの我が! 脆弱な人間ごときに負けるだとぉおおおお!!!

 

勇者:魔王よ! 二度と悪事を働かせぬよう、この結界に封印してやる!!! はぁあああああああ!!!

 

魔王:やめろ! やめろぉおおおおおおおおおお!!!!

 

ネコマタ:嫌な事件だったにゃ

 

サキュバス:嫌な事件だったわね

 

ミノタウロス:いや、他人事過ぎるだろ。それで、我らが魔王様が封印されて何年経ったんだっけか?

       えーと……100年?

ネコマタ:違うにゃ、200年にゃ。

サキュバス:え、500年じゃなかったっけ?

ミノタウロス:……もしかして誰も覚えてない?

サキュバス:封印されてから大分時間が経ったからね。

ネコマタ:食い扶持稼ぐのに必死だったにゃ。

ミノタウロス:全く情けねぇ連中だ。確か100年だったはず! 多分! 種族の誇りにかけて誓うぜ。

サキュバス:世界が平和になっちゃったからねー。今じゃあたしは立派なオフィスレディ。

ネコマタ:ボクは猫カフェで働いてるにゃ。

ミノタウロス:それ飼われてねぇか?

ネコマタ:ミノさんは?

ミノタウロス:吉野家。

サキュバス:種族の誇りとは。

ミノウタウロス:それで、同窓会ばりに俺たちが集まった理由なんだが。

ネコマタ:姐さんが、封印解除の仕方を会得したのにゃ。

サキュバス:わざわざ有給とってね。

ミノタウロス:こいつ、すっかり社会に馴染んでやがる。

サキュバス:この後同期とエステ行くんだから手早く済ますわよ。

ネコマタ:魔王様がエステに負けたにゃ。

ミノタウロス:それで、一体どんな呪文なんだ。

 

サキュバス:呪文? ふざけた事言ってんじゃないわよ、馬鹿牛。

 

ネコマタ:馬なのか鹿なのか牛なのか訳分からんのにゃ。

 

ミノタウロス:何がふざけた事なんだよ。淫乱女。

 

サキュバス:全世界のサキュバスに謝りなさい。

 

ミノタウロス:すみませんでした。

 

ネコマタ:やめるにゃ! あんまりグタついてると尺が伸びるにゃ!

 

ミノタウロス:おい、尺って言うな。……はぁ、全く。んで、さっさと解除してくれよ。

 

サキュバス:はいはい。えーとどこやったかしら。あ、あったあった。

 

ミノタウロス:……これって。

 

サキュバス:ICカード。

 

ネコマタ:waonだにゃ。

サキュバス:waonはカモフラージュ。このICカードに魔王様の封印を解く魔法を仕込んでるの。

 

ミノタウロス:なんで魔法で封印されてICカードで解けるんだよ。

 

サキュバス:ちゃんとチャージも出来るわよ。残高1000円。

 

ミノタウロス:聞いてねえよ。

 

ネコマタ:姐さんは最低限しかお金をチャージしないタイプにゃのね……堅実だにゃ。

 

サキュバス:まあ魔王様も待ってる事でしょうし、とっとと封印解いちゃいましょうか。これを翳してっと。

 

waon:ワオン♪

 

ミノタウロス:うわ、本当に解除された。

 

魔王:……く……うぅ……。

 

ネコマタ:魔王様だにゃ!

 

サキュバス:魔王さま!

 

ミノタウロス:魔王様!!!

 

魔王:あ……お前たち……。あ……う……。

 

サキュバス:なんだか魔王様の様子がおかしいわ!

 

ネコマタ:みんな! あれを見てみるにゃ!

 

ミノタウロス:あれは……。ゲーム?

 

サキュバス:漫画やアニメ、パソコンまであるわね。

 

ミノタウロス:封印の中身がこんなのだなんて……。

 

サキュバス:ははぁん、なるほど。

 

ミノタウロス:あん?

 

サキュバス:あの時、勇者は二度と悪事を働かせないようにするって言ってたわ。そして封印の中には大量の娯楽物。

 

ミノタウロス:まさか……。

 

サキュバス:そのまさかよ! 何百年も娯楽付けにして魔王様を堕落させるのが目的だったのよ! その証拠に見て!

 

魔王:えと……その……。

 

ネコマタ:人と話さず毎日ネットにアニメ、そしてゲーム三昧……すっかりコミュ障になってるにゃ。

 

魔王:ひぃっ!? び、美女! 美女がいるぅうう!?

 

サキュバス:大変! あたしがあまりにも美人で魔王さまが目を合わられないでいるわ!

 

ミノタウロス:自分で言うのか?

 

ネコマタ:魔王様、長年の引きこもり生活のせいで女性に免疫が無くなっちゃってるにゃ。

 

魔王:あぁ! ぬこ! ぬこ!

 

ネコマタ:ふぎゃ!? なんなのにゃ! なんなのにゃー!

 

ミノタウロス:ふむ、これはまさか……

       魔王様の腹心であるネコマタをそこらにいる野良猫と勘違いしておらるみたいだな。

ネコマタ:ふしゃー! いくら魔王様でもそんな失礼なこと――にゃ、にゃふん

  

魔王:あぁ、可愛い! 可愛いよぬこー!

 

ネコマタ:お、おぉん……この撫で方、この指づかい……これはこれで良し!

 

ミノタウロス:こいつ、完全に飼い猫の目をしている……。

 

ネコマタ:ふぉん……でも、こんなの……おっほぉ……魔王様じゃないにゃ……にゅふん。

 

サキュバス:そうね、早くどうにかしないと……。

 

ミノタウロス:どうにかしないと……。

 

サキュバス:どうにか……する必要ある?

 

全員:え

 

サキュバス:だって、ほら。あたしたちはもう普通に生活してるわけだし、

      わざわざ世界を征服する必要なんてなくない? だから魔王軍をもっかい立ち上げても、ねぇ?

ミノタウロス:……確かに。

サキュバス:てことで、そろそろエステの時間だからあたし帰るわ。

ネコマタ:ボクもバイトの時間だにゃ。

魔王:あぁん、ぬこ! いっちゃ駄目! ぬこぉん!

ミノタウロス:忠誠心の欠片も無い……。

サキュバス:馬鹿ね。忠誠心マックスよ! ウチの会社の社長にだけどね!

ミノタウロス:もはや裏切者じゃねえか!

サキュバス:じゃ~ね~。

ミノタウロス:ついには俺一人。……魔王様!

魔王:え、な、何……?

ミノタウロス:俺は! 俺だけは何があっても魔王様の――(着信音)

       あ、はい、蓑田です。あ、お疲れ様です! え、インフルエンザ!? それは大変ですね……。
       代わり、ですか。分かりました。俺出ますよ。はい、はい、はーい。はい。お疲れ様ですー。

魔王:……それで、何?

ミノタウロス:……えーと。

魔王:うん。

ミノタウロス:し、仕事行ってきます!!! 失礼しました~!!!

魔王:えー……。えぇ……。僕、なんで封印解かれたの? まぁいいや、ネトゲしよ。

END

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