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或る兵士たちの風景

 

兵士A(♂)
 :20代。妻と子あり。もともと徴兵されて兵士として参加。妻と子のために戦い守るために戦場へ赴く。

 

兵士B(♂)
 :40代。独り身。ベテラン兵士、国のために働き、国のために死ぬ人間。愛国心はあるが狂信的なものではない。

 

ナレーション(?)

―――――――――

 

ナレ:この街の殲滅戦は終わった。他の地域ではまだ戦いが行われているのだろう。
   しかしこの街は硝煙の匂いと焼け焦げた街と人間の匂いが充満するなか、静寂に包まれていた。
   負傷した兵士たちは――各々体を引き摺りながら、無くなってしまった体の一部を嘆きながら、
   もはや動かなくなった仲間を連れて帰還している。


兵士B「何をしている、戦いは終わったんだ。早く帰って次の指示を待て」

 

兵士A「……はい」(敵か味方かわからない人だったものを気にかけながら)

 

兵士B「そいつはもう死んだんだ」

 

兵士A「はい、分かってます。……この人は……兵士になりたくてなったんですかね?」

 

兵士B「知らん。俺たちには関係ない話だ。知ったところで殺すことに影響してしまうからな」

 

兵士A「この人、指輪をしているんです。……多分、俺と同じで無理やり兵士にさせられて。それでもって家族を守るために戦ってたんだと思います」

 

兵士B「……」

 

兵士A「この戦争に勝たないと俺たちを始め、皆殺されてしまう。だから戦うんです。

   ……死にたくないから、家族を失いたくないから」

 

兵士B「……(ため息)」

 

兵士A「先輩は……家族はいますか?」

 

兵士B「そんなのはおらん。今まで国のために戦ってきたんだ」

 

兵士A「この国は……好きですか? 守りたいですか?」

 

兵士B「当たり前だ。俺はこの国の人間だからな。……お前もな」

 

兵士A「……はい」

 

兵士B「分かったか。じゃぁ……」

 

兵士A「戦争は終わらないんですか?」

 

兵士B「どちらが降参するか死に絶えるかせんとな。人を殺せばその友が、

   家族が恨み、そいつの国も殺したやつを恨む。こんだけの人を殺せば余計にだ」

 

兵士A「俺が死んだら……先輩はどうしますか?」

 

兵士B「少しだが俺が殺す人間が増えるだけだ。そして戦争が長引く」

 

兵士A「……俺は先輩が死んだら……」

 

兵士B「復讐するのか?」

 

兵士A「……わかりません。多分怖くて、隅っこで震えているかも……」

 

兵士B「そうか」

 

兵士A「戦争は……嫌いです。終わらせたいです」

 

兵士B「ならたくさん殺せ。それで戦争は終わる」

 

兵士A「そうじゃないんです! もっと……もっと平和に解決できないんですか!?」

 

兵士B「俺たち兵士には……何もできんよ」

 

兵士A「……」

 

兵士B「疲れた。さっさと帰るぞ」

 

  (間)

 

兵士B「何を立ち止まっている!」

 

兵士A「俺は……」

 

兵士B「うん?」

 

兵士A「俺はあなたみたいに冷徹に人は殺せません。銃だって扱いきれません」

 

兵士B「……」

 

兵士A「だから俺は、違う方法で平和をつくりたいんです」

 

兵士B「……言ってみろ」

 

兵士A「政治家になります」

 

兵士B「お前がか? ふん」

 

兵士A「でもただの兵士には何もできない。だから俺は偉くなってこの国を守りたい。戦争なんてしないで」

 

兵士B「くだらん。いくぞ」

 

兵士A「ま、まってください」

 

    (間)

 

兵士B「……お前が」

 

兵士A「え?」

 

兵士B「お前がもし政治家になっても戦争が起きれば俺を使え。役に立ってやるよ」

 

兵士A「ふ(微笑)、ありがとうございます。でも……使いません」

 

兵士B「……そうか」

 

兵士A「絶対に平和にしてみますんで」

 

兵士B「そうか(含み笑い)」

 

兵士A「……はい!」

 

兵士B「期待しててやる」

 

ナレ:その後、彼が政治家なり、平和をもたらしたのかは分からない。
   もしかしたら次の戦闘で、希望を胸にしたまま、銃で心臓を撃ち抜かれているかもしれない。
   もしかしたらその夢を実現させ、誰しもが望んでいた世界を作り出しているのかもしれない。
   答えは誰も知らないだろう、おそらく神すらも。
   ただ一つ分かっているのは、彼らには次の戦いが待っているということだけだ。

 

                                    FIN
 

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