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声劇台本 ハイイロノホシ

 

―――――

【世界】
人口膨張、科学技術の躍進。それは人間社会を発展させ、快適な生活をもたらしていた。
しかしそれは地球の汚染を代償としていた。
そして2XXX年。地球から灰のような謎の汚染物質が降り注いだ。吸い込んだ人間は瞬く間に苦しみ、死に至った。
一週間も立たぬうちに人類の半数以上が命を失っていた。
世界は「人類地球脱出計画」を余儀なく実行することになり、地球から脱出し、新たな惑星に移住した。
幸い科学技術だけは進歩しており、新たな惑星で超巨大スペースステーションの中で生活している。
しかし、その惑星は人類が生活するには不十分で外には酸素は無く、宇宙服を着る必要があった。

 

〇スペースステーション「奇跡の庭」
 生き残った人類が住んでいる。人数が一万人程。
 ベースステーション内部にスポーツエリア、工業エリア、農業エリア、そして居住エリアがあり、生活を支えている。
 しかし、貯えはあるが、長く持たないのが現実。

 

〇仕事
 工業・農業に加え、体力のある成人はローテションで地球探索が含まれる。

 

――――

【登場人物】

〇ヨシキ・タジマ
 年齢29歳、男性。生きがいとも言える妻が目の前で死んでしまうのを目撃して以来、地球滅亡の日がトラウマとなり、
 夜も寝れない状態。

 

〇ジョナサン・グローブ
 年齢31歳。地球滅亡時、自分以外の家族、友人全てを亡くした。しかし、そんな苦境から立ち上がり、
 これから先の未来をしっかり見据え、生きぬくために努力している。

 

〇クリスティアナ・レトウィン
 年齢9歳。地球が滅んだ時に両親は灰を吸って死亡。

 一人になっていたところ、たまたま居合わせた大人に保護され、地球を脱出。
 その大人とははぐれ、ベースステーションで泣いていたところヨシキと出会う。面倒見がいいヨシキに懐く。

 

――――

 

   *********


ヨシキM:本で読んだことがある。地獄とは、自らが犯した罪を償うために送られる死後の世界である、と。
    地獄は苦痛をもって罪を償うものだとしたら、今、私の目の前に広がる世界は一体何なのだろうか。
    突然降ってきた灰のようなもの。次々と悶え苦しみながら死んでいく人たち。
    私の目の前にある地獄は、ただただ理不尽に苦痛をもたらすものだった。


   **********


ヨシキ:うわぁっ!?  はぁっ……、はぁっ……。ゆ、夢か……。
    またあの日の……。く、うぅっ! (嘔吐)
    げほっ、げほっ……。はぁっ……はぁっ……。


ヨシキM:私は粘ついた口の中を貴重な水で潤し、嫌な汗でびしょ濡れになった服を着替える。

    もはや日常となってしまったこの一連の行動。
    嫌悪感を通り越し、ただ飽きれるばかりである。
    このまま自分の部屋に閉じこもっていても気が狂いそうなので、私は気分転換に施設を散策することにした……。
         

  (間)


ヨシキ:はぁ……。


ジョナサン:おう、ヨシキじゃないか。窓から何か見えるのか?


ヨシキ:ジョナサン……。いいや、何も。何も見えないから……絶望してた。


ジョナサン:はっはっは、そりゃそうだろうよ。どうせ落ち込むんだから外の景色を見ないことをお勧めするぜ。
     お前さんはネガティブなんだからよ。


ヨシキ:そうだな、そうするよ。


ジョナサン:ほらよ、缶コーヒー。


ヨシキ:ありがとう。


ジョナサン:しっかしまあ、ずっとこの施設にいたら息が詰まっちまうな! 外の空気が吸いたいぜ。


ヨシキ:なら外を散歩すればいいじゃないか。


ジョナサン:おいおい、何が悲しくて宇宙服を着て何もない場所を散歩するんだよ。
     俺はお日様の下で、緑が生い茂った土地を散歩したいんだよ!


ヨシキ:贅沢だな、ジョナサン。散歩ならスポーツエリアの人工芝で我慢しなよ。


ジョナサン:厳しいねぇ……。なあ、ヨシキ。


ヨシキ:なんだい?


ジョナサン:子供の頃、宇宙に行きたいと思ったことはあるか?


ヨシキ:……あぁ、ある。


ジョナサン:俺もだ。宇宙ってのは広大で、周りの輝く星が綺麗で……
     そんでもって綺麗な景色を眺めながら優雅に宇宙遊泳ーなんて夢見てたぜ。


ヨシキ:人間誰しも、一度は宇宙を夢見る。そう言う私も小学生の頃同じようなことを夢見てたよ。


ジョナサン:だけど、いざ宇宙に来てみると大したことねえな。誰だよ、宇宙に行くと希望が膨らむなんて言ったやつは。


ヨシキ:……。


クリスティアナ:ヨシキー!


ジョナサン:おぉ? なんだなんだ。


ヨシキ:おっと。……クリス、そんなに走ったら危ないよ。


クリスティアナ:だって退屈だったんだもん。ね、おんぶおんぶ。


ヨシキ:しょうがないな……。ほら、乗って。


クリスティアナ:やったー!


ジョナサン:なんだい、この娘っ子は?


ヨシキ:えーと……この子はクリスティアナ。このスペースステーション「奇跡の庭」で一人で泣いてるところを保護したんだけど……。
    それをきっかけに懐かれちゃったみたいなんだ。


ジョナサン:ふーん。……よろしくな、クリス。


クリスティアナ:おじさんだぁれ?


ジョナサン:まだそんな年じゃねえんだけどな。おじさんはジョナサン・グローブ。ヨシキのお友達だ。


クリスティアナ:それだったらクリスとも、お友達ね! よろしく、ジョナサン!


ジョナサン:あぁ、よろしくな。


ヨシキ:二人とも仲良くなるの早いね。


ジョナサン:人の良さが滲み出てるんだよ。はっはっはっは!


クリスティアナ:(ヨシキの匂いを嗅ぐ)あぁ! ヨシキ! また煙草吸ったわね!
       煙草は止めるって言ってたじゃない!


ヨシキ:いやぁ……ははは……。


クリスティアナ:ははは、じゃない! 命短くなっちゃうよ!? 死んじゃってもいいの!?


ヨシキ:ごめんごめん、もう吸わないから……。


クリスティアナ:その言い訳何度も聞いたわよ!
       うぅ……ヨシキが死んじゃうぅううう、うえぇえええん。ジョナサァアアアアアン!


ジョナサン:ほぉら、よしよし。まぁあれだ、クリス。俺がキツく叱っといてやるからよ、今回は許してやれってくれよ。


クリスティアナ:うぅ……うん……。


ヨシキ:ごめん。……丁度いい時間だね。そうだクリス、晩御飯はもう食べたかい?


クリス:まだ……ヨシキ……待ってた……ひっく。


ヨシキ:そっか……、待っててくれてありがとう。ジョナサン、君も一緒にどうだ?


ジョナサン:俺もお呼ばれしてもらってもいいのか?


ヨシキ:君が良ければ。


ジョナサン:大歓迎だぜ。飯を一緒に食う相手なんて、とうの昔に死んじまったからなぁ。はっはっは!


ヨシキ:ジョナサンッ!


ジョナサン:あ……すまねえ。


ヨシキ:言っていいことと悪いことがある。


クリスティアナ:ヨシキ! ヨシキ! プリン食べたい!


ヨシキ:はいはい。


ジョナサン:聞こえてなくてよかったよ。


ヨシキ:そうだね。……ジョナサン。奇跡の庭にいる殆どの人が大切な人を失ってるんだ。
   私も、君もね。だから皆、死ぬという言葉に敏感になってる。そこは気を配ってやってほしい。


ジョナサン:すまん、俺が無神経だった。


ヨシキ:いや、私も声を荒げてしまってすまなかった。さ、気分を変えて食事にしようか。


ジョナサン:あぁ。

 

   **********(暫く間)

 

ヨシキ:はぁ……。


ジョナサン:まぁた溜息ついてよ、幸せが逃げるぞー。んで、あの子は寝たのか?


ヨシキ:あぁ、今はぐっすりと寝てる。


ジョナサン:そっか。それじゃあ心置きなく吸えるな。……お前も一本吸うか?


ヨシキ:またクリスに怒られるよ。


ジョナサン:もう服に匂い染みついてんだろ? なら一本も二本も変わらねえだろ。


ヨシキ:そういえばそうだな……。一本もらおうかな。


  (間) 


ジョナサン:……明日はお前と一緒に地球調査だな。


ヨシキ:……え?


ジョナサン:ん? 通達来ていないのか? 俺の通達には調査隊の一人にお前の名前が書いてたが……。ほら、見てみろ。


ヨシキ:うーん……今日は仕事が休みだったからずっと寝てたしな。
   えーとどれどれ……あ、本当だ。地球調査か……嫌だな。


ジョナサン:そうか?


ヨシキ:ジョナサン、君は何も感じないのか?


ジョナサン:……まあ確かに居心地は悪いな。


ヨシキ:それだけなのか? 灰に埋まった町、取り残された人……。
   太陽の光だってまともに入らない……。
   あそこは……地獄だ。あそこに私の妻と息子が埋まってると思うと……。


ジョナサン:……。


ヨシキ:ジョナサン……。妻はね、9か月だったんだ。


ジョナサン:9か月? ……あぁ……なるほど。


ヨシキ:あと少しで、息子に会えたんだ。それなのに……それなのに!


ジョナサン:お、おい、ヨシキ……!


ヨシキ:あ……あぁ、そうだ……。息子はまだお腹の中だ! もしかしたらまだ生きてるかもしれない!


ジョナサン:な、何言ってんだ?


ヨシキ:ジョナサン! 明日の調査で妻の遺体を探すの手伝ってくれないか!? 早くしないと――


ジョナサン:ヨシキ!!!! (平手打ち)


ヨシキ:……ぁ


ジョナサン:現実を見ろ! なぁ、何年前の話をしているんだ……。
     こう言うのは酷だろうが、お前の嫁さんはあの灰を吸って死んだんだ。
     お腹の子が生きてると思うか!?


ヨシキ:……私は。


ジョナサン:お前は俺に何も感じないのかって聞いたよな。そうだよ。何も感じないんだよ。
     感じなくなってしまったんだよ。俺だって親も兄弟も、妻も子供もあの灰に殺されちまった!
     お前みたいにしょぼくれた時もあった! だがな、ずっとそのままじゃいけねぇんだよ!
     見てみろ、何十億といた人間が今やこれっぽっちなんだ!
     割り切って、今を一生懸命生きるしかないだろうが!


ヨシキ:……すまない、どうかしてた。


ジョナサン:……お前は悪くない。全て……あの灰のせいだ。


ヨシキ:……あぁ。


ジョナサン:あぁ! それに、あれだ! きついだろうけど俺もいるし、クリスだっているだろ!
     あいつはお前を頼ってるが、時にはお前も誰かに頼ってもいいだぜ?
     何だったら愚痴だって吐いていいんだ! そうでもしないとこれから先やっていけねぇしな。


ヨシキ:クリス……。


ジョナサン:あの子は一人ぼっちだったところをお前が手を差し伸べてやったんだろ?
     でも同時にお前にも手を差し伸べてくれたんじゃないのか?


ヨシキ:……あぁ、そうだな。


ジョナサン:そういうことだ。以上、人生の先輩の小言でした。明日はよろしくな、ヨシキ。


ヨシキ:よろしく。……あ、ジョナサン!


ジョナサン:なんだ?


ヨシキ:……ありがとう。


ジョナサン:礼なんてむず痒いから止めろって。感謝してるなら、明日の仕事終わった後に飯おごれよな。


ヨシキ:分かった。


ジョナサン:へへへ。じゃあ俺は寝るぜ。夜更かしすんなよー?


  **********


ヨシキ:ふう……、明日は地球探索か……。


クリスティアナ:ふわぁぁ……おかえり、ヨシキ。


ヨシキ:クリス!? なんで私の部屋に?


クリスティアナ:なんだか眠れなくて……。ヨシキの部屋で寝させてもらおうかと思ったんだけど……いなかったから待ってた。


ヨシキ:……仕方ないね。クリスはベッドを使っていいよ。


クリスティアナ:ヨシキも一緒に寝ようよ。


ヨシキ;いいよ、私は床で寝る。


クリスティアナ:寂し-よー! ねー、ヨシキー!


ヨシキ:……やれやれ。今夜だけだよ。次からはちゃんと自分の部屋で寝ること。いいね?


クリスティアナ:うん! ……えへへ、ヨシキ、お父さんみたい。


ヨシキ:っ! や、やめてくれ……。


クリスティアナ:……ヨシキ?


ヨシキ:……え、 あ、あぁ。
   ……はは、それじゃあクリスのお父さんが可哀想だろう?
   ほら、もう夜も遅いから早く寝なさい。あぁ、後、私とジョナサンは明日地球探索に行ってくるから、いい子にしてるんだよ。


クリスティアナ:帰ってきたらクリスと遊んでくれるならいい子にしてるー。


ヨシキ:はいはい、分かったよ。それじゃあおやすみ。


クリスティアナ:おやすみなさーい。


  (間) 


ヨシキ:……私は。


    *******


ヨシキM:翌日、朝早くから地球探索チームは集合し、探索ルートや滞在時間、その他諸々について念入りに打ち合わせをした。

    移動時間を含め、地球に到達するのは昼過ぎ。そして、何かしらトラブルがあった場合、
    フォローができるようにするため、二人一組で探索することが決まった。
    幸運なことに、私の相方はジョナサンだった。


ジョナサン:さーて、地球についたぞー。よっこらせっと!


ヨシキ:……。


ジョナサン:ヨシキ……。気が乗らないのは分かる。でもな、これも俺たちが生き残るためだ。
     もしかしたら地球に戻れる手がかりを得られるかもしれないんだ。


ヨシキ:分かってる。……行こう。


ジョナサン:あぁ。


  (間)


ヨシキ:うわっ!?


ジョナサン:大丈夫か?


ヨシキ:あ、あぁ。足を引っかけただけだ。


ジョナサン:気を付けろよ。色んなもんが埋まってたりするからな。


ヨシキ:色んな物……?


ジョナサン:言わせるつもりか?


ヨシキ:あ……、すまない。


ジョナサン:分かったなら行くぞ。
     ん……? おいヨシキ、あの建物、窓が開いてないか?


ヨシキ:お、おい! ジョナサン! まさか――


ジョナサン:入る! 建物なんか締め切ってるか、灰のせいで開かなくなってるのが殆どだろ?
     入れるなんて滅多にない機会だ。ほら、行くぞ。

 

ヨシキ:……やれやれ。


ジョナサン:おー! スペースステーション以外の建物に入ったのは何年振りだろうな、おい。


ヨシキ:……灰で何の建物か分からなかったけど、ここは百貨店だったのか……。


ジョナサン:みたいだな。おい、見てみろ。外の死体は灰を被ってて分からなかったが、
     この死体、何年も経ってんのにまだ体に肉がついてるな……。大気中の汚染物質が保存料になってんのかな……


ヨシキ:……あ。


ジョナサン:どうした、何か見つけたか?


ヨシキM:私の視線の先には、三つの死体があった。まるで両親が子供を庇うように、抱き合って動かなくなっている。
     死後の世界でも3人一緒であれば、この家族もきっと安心するだろう。


ジョナサン:おい、俺たちはこうならないようにするぞ。


ヨシキ:……でも、家族皆で逝けるなんて……少し羨ましい。


ジョナサン:馬鹿言うなよ。命あっての物種だろ。


ヨシキ:……そうだな。


  *******


ジョナサン:さて、今回の調査はこんなもんだろ。
      酸素ボンベも残り少ないし、とっとと戻ろうぜ。


ヨシキ:あぁ……そうだな。


  (間)


ジョナサン:よーし、後は宇宙船に乗り込んで今日の仕事は終りだ。
     よっこらっせっと。ほら、引き上げるぞ、手ぇ伸ばせ。


ヨシキ:……。


ジョナサン:おい、何してんだ! 早く帰るぞ。


ヨシキ:……。


ジョナサン:お、おい、ちょっと待て! おいおいおいおい! 何ヘルメット取ってんだよ!?
     お前死んじまうぞ!


ヨシキ:ジョナサン……。お別れだ。


ジョナサン:な、何言ってんだよ!


ヨシキ:さっきの家族のように一緒に死ぬことは叶わなかったが……
   私は、自分が生まれたこの星で、妻と息子……多くの思い出が詰まったこの星とともに眠ろうと思う。


ジョナサン:馬鹿なこと言うんじゃねえ! 今ならまだ治療しても間に合うかもしれない! ヘルメット被ってこっちに来い!


ヨシキ:そうだジョナサン……君はクリスが僕を頼っていると言ったね?
   クリスの存在は……私にとっては苦痛でしかなかった。心の重荷でしかなかった。
   息子が無事生まれたらこんな感じなのだろうか? ずっとそう考えてしまう。
   苦しくて苦しくて堪らなかった。……う、ごほっ、ごほっ!


ジョナサン:……今まで……ずっとそう思ってたのか。


ヨシキ:……あぁ。


ジョナサン:……馬鹿野郎……!


ヨシキ:そうだ。私は馬鹿だ。どうしようもなく馬鹿で、どうしようもなく弱い。
   だからこの道しか……ごほっ、ごほっ……なかったんだ。
   皆が皆、君みたいに……強くない。


ジョナサン:……俺だって……。


ヨシキ:ごほっ、ごほっ……!
   体が……焼けるようだ。目も霞む……。
   ジョナ……サン……。


ジョナサン:……なんだ。


ヨシキ:声が……出るうちに……。
   こんな……自分勝手な私に……付き合ってくれて……
   ありがとう……、そして……ごめん……。
   クリスにも……伝え……。


ジョナサン:そんなの……自分で伝えろよ!


ヨシキ:ぁ……あ……。


ジョナサン:あぁあああ! くそっ! 世話の焼ける野郎だ!
     そう簡単に死なせるかよ! 引きずってでも連れて帰るからな!
     俺はお前みたいに諦めねえからな! 何を失っても、絶望しても! 絶対生き抜いてやるからな!!!


ジョナサンM:ヨシキを運ぼうと肩を担ごうとした時、彼は既に息絶えていた。
      無念……と言いたいが、この男の表情を見ると無念という言葉とはほど遠いものだった。
      憑き物が落ちたような安らかな顔をしやがって……。
      俺はスペースステーションに帰還し、仕事の報告と、ヨシキが死亡したことを報告した。
      ヨシキは地球探索中に起きた事故によってヘルメットが壊れ、有害物質を吸引し死亡した、と。
      そして友の遺体は……気に食わないが、最期の願いを叶えてやることにした。


クリスティアナ:ジョナサン! おかえり!


ジョナサン:おーう、クリス。いい子にして待ってたか!


クリスティアナ:うん! ね、ね、ヨシキは?


ジョナサン:あぁ、あいつは明日も地球に行くためにお偉いさんとお話してるよ。
     あまりにも仕事ができるってんで、引っ張りだこさ。


クリスティアナ:そっかぁ、つまんないな。


ジョナサン:代わりに俺が遊んでやるぞ、ほら、乗れ。俺の背中は見晴しいいぞー!


クリスティアナ:やだ、ヨシキの背中がいい……。
              

ジョナサン:そっか。あいつが帰ってきたら盛大におんぶしてもらいな。


クリスティアナ:はーい。


   ***********(間)


クリスティアナ:ジョナサーン、ヨシキはー?


ジョナサン;今日も仕事だってよ。


クリスティアナ:夜遅くまで?


ジョナサン:あぁ。残業だ残業。


クリスティアナ:ぶー。


   **********(間)


クリスティアナ:ジョナサン!


ジョナサン:いない。俺も探してるんだけどな……。
     仕事、忙しいのかな。


クリスティアナ:そうかも、ね。

 

   **********


ジョナサンM:最初は毎日のようにヨシキの居場所を聞いてきたクリスだったが、
      一か月、二か月と経つうちに、その頻度が減っていった。
      クリスが来ようが来なかろうが、あっという間に月日が流れていく。
      その間に俺は何も変わらず、生き抜くためにその日その日を過ごしていた。
      ……あれから何年の月日が過ぎたのだろうか。
      ヨシキやクリスの記憶を忘れかけてきた時、突如あいつは俺の前に現れた。


クリスティアナ:ミスタージョナサン?


ジョナサン:ん? ジョナサンは俺だけど……お嬢さんは?


クリスティアナ:やっぱり! 私だよ! クリス! クリスティアナ!


ジョナサン:クリスティアナ……あぁ! クリスか! 久しぶりだな。
     こんなに大きくなって。今はいくつだ?


クリスティアナ:18だよ。


ジョナサン:立派なレディだな。


クリスティアナ:ありがと。……ねぇ、ジョナサン。


ジョナサン:なんだ?


クリスティアナ:私ね、明日初めて地球探索に行くことになったんだ。


ジョナサン:そっか、もうそんな年か。……頑張れよ。


クリスティアナ:うん。


ジョナサン:……それだけか?


クリスティアナ:……うん。頑張ってくる。それじゃ。


ジョナサン:……あぁ。じゃあな。


   **********


クリスティアナ:ここが地球……

      灰で埋まった街、車、人間……。
      ここで私は生まれたのね。
      私たちがこの星で生きてた頃は……どんなのだっけ?
      もう忘れてしまったわ……。
      ……うん? なにこれ……?


        (間)


クリスティアナ:あぁ……。そっか。そういうことか……。
      嘘つきね、皆……。

 

 

END


 

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